そのニゴリに、チャンスはあるか――
「釣れる可能性」の判断基準
里見栄正=解説
釣り場について増水……そのようなシチュエーションでも、意外とチャンスはあるもの。ドライフライでいける状況、あるいは水面勝負は諦めてニンフを結ぶべき場合。逆境の中でもその日の釣りを最大限に楽しむための、里見栄正さんの判断基準を解説。
この記事は2016年8月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
里見 栄正(さとみ・よしまさ)
1955年生まれ。群馬県太田市在住。渓流のドライフライ、ニンフの釣りに精通しており、全国各地でスクールを行ないながら、各メディアでフライフィッシングの魅力を発信している。増水時の釣りの引き出しも多数。
里見 栄正(さとみ・よしまさ)
1955年生まれ。群馬県太田市在住。渓流のドライフライ、ニンフの釣りに精通しており、全国各地でスクールを行ないながら、各メディアでフライフィッシングの魅力を発信している。増水時の釣りの引き出しも多数。
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フライフィッシングにおける「ニゴリの限界」は?
解禁初期の低水温時や、同じく水温の低下をともなう雪代期のニゴリや増水においては、いかに熱望しようと、やはりドライフライの釣りは成立しにくい。特に梅雨時期などは、昨日まではドライフライで絶好調であった流れが、急な増水やニゴリによって状況が一変するということも珍しくない。もちろん平水であってもさまざまな要因で、渓魚の動きが激変することを僕たちフライフィッシャーは知っているし、また経験もしてきている。
それぞれの事柄を細かく検証することは無理としても、雨天や夕立、そして台風と、増水の洗礼を受ける機会はこれからが本番になり、最低限の判断材料は用意しておきたい。今回は、そういった条件下での対応を少し解説してみたいと思う。
まずはドライフライ、ニンフのそれぞれの釣りで、「ニゴリ」による限界はどのあたりかということについて考えてみよう。
数値的な部分に関して明確なものを持ち合わせているわけではないので、多分に感覚的なものになるのだが、いわゆる「ササニゴリ」程度なら、まずは迷うことなくドライフライを結ぶ。
このササニゴリと呼ぶ範疇でさえ、「薄い」から「濃い」まであって、思い浮かべるイメージは人それぞれだと思うが、ここでは、うっすらと底石が確認できる程度までとしよう。

それでも、そんなニゴリでさえ、むしろ活性を高めるケースもあれば、沈黙させる場合もある。そのため、ある程度の時間実際にドライフライをキャストしてようすを見ることで、そのまま継続するか否かを判断する。
さらにニゴリがきつく、たとえばカフェオレ色ほどにもなれば、ドライではほとんど釣りにならないので、ニンフの出番となる。

経験上このような状況でもまれにライズを見かけることもあるのだが、やはり水面の釣りでは圧倒的に効率が悪く、ドライフライをおすすめできるような状況とはいえない。
そして、さらに濃いニゴリ、ブラックチョコレート並みで時に恐怖感を覚えるような流れでも、全く手が出ないかといえば、案外そうでもなかったりする。
相当に確率は落ちるが、目立つであろう黒系の大型ニンフでなんとか魚を得たことはある。僕の場合、たとえばテレビ収録などでは、スケジュールの都合上、こういった泥ニゴリのケースであっても、ロッドを振る以外の選択肢はない。
しかし実際に釣りをしてみると、当初考えていたよりは少ないながらも反応はあるもので、なんとか結果が出ている過去を振り返ると、フライフィッシングの可能性は相当なものだとも思う。
ニゴリの質を見極める
以上のような経験から「本当に渓魚は目がいいのね」ということを強く感じるが、ただニゴリのみを別個に考えるよりも、増水との兼ね合いで流れ全体を意識することが重要だと思う。ポイントによっても大きく違うし、ニゴリの質によっても魚の動きに与える影響が異なってくるからだ。よくあるケースでは、河川工事によるニゴリでは、水量自体は変わらないので、魚の付き場や捕食ポジションにも大きな変化はない。水面に出るか出ないかといった判断だけで、釣り方を変えれば済んでしまうことも少なくない。
また、ごく短時間の夕立などもそれなりにニゴリを流入させるものだが、やはりそれほど極端に水量変化がなければ、ニゴリがきついうちは二ンフ、透明度を取り戻して来たらドライといったような対応でいけるものだ。

工事はともかくとして、夕立のような場合、むしろエサの流下が促されるのか、活性が上がってニンフヘの反応が格段によくなることが多いと感じる。
しかも釣り人の気配が悟られにくくなるので、接近戦では水が澄んでいる状態よりもずっと楽になり、ショートレンジでのルースニングや、アウトリガースタイルでも魚を追い込む恐れはぐんと減る。
ニゴリ時のスタートは「仕方なく」ではあるのだが、あんがい大釣りのチャンスだったりして、数も型も恵まれることがある。
魚が捕食しやすい水面がなければニンフ
エサ釣りと違って、フライ、特にドライフライ派にとっては、あまりの渇水にひと雨ほしいといった状況でない限り、増水はあまり歓迎できるものではないと思う。当然流速も上がり、魚がフライを食いやすい水面も少なくなり、ポイント位置の変化などが起こる。渓相や川床の傾斜によってはあらゆる水面がゴーゴーと流れるだけで、フライが留まる流れが見当たらないようなこともある。こうなってしまうと、渓魚は水面に対して興味を示さなくなる。
また、流れの厚みも増すので、その重圧を突破してまで水面に出る魚も少なくなるだろう。それでも、水中をステージとするニンフィングでは事情が異なり、フライの流下に反応するような魚も少なくない。そういった意味では初期の低水温時や雪代期の釣りに似ていると言えるかもしれない。
もちろんニンフといえども、ただ沈めればいいというものではない。やはりある程度流速の上がった場所では、ニンフの流下スピードが速すぎると追い切れなかったり、最初から見限ってしまったりすることにつながるので、比較的ゆっくりと流れるレーンを見つけてトレースすることが肝要だ。

ちなみに、このような状況下でのドライフライはかなりシビアだ。ニンフで探る場所よりもさらにスローな水面、時にはほとんどフライが流れないようなへチのヘチにフライを漂わせない限り全く反応しないといったケースは、いやというほど経験している。

講習やガイドをしていても感じるのだが、イワナねらいの場合、相当緩い流れを選んでいるとはいっても、さすがにフライが止まって見える水面を釣ろうとする釣り人は少ない。しかし、増水時に食うのはそれよりもはるかにスローな水面であることが多い。
緊急避難的に緩い流れに定位するのか、ただ単に横着なのかは分からないが、かなり離れた定位場所から、ほとんど動かないフライを見つけて、ゆっくりと移動してきて食う。増水の時ほどそんな傾向が強いように感じる。
以上のように、ニゴリと増水を分けて話を進めてきたが、ほとんどは増水していてニゴリも入っている……といった状況になるだろう。どちらか一方でもドライフライの釣りにとっては相当に苦労は多いので、両方ともなると釣りを諦める人がいることも容易に想像はつく。
しかし、せっかく時間とお金をかけて釣り場に来たのだから「こりゃダメだ」という前に、危険を感じないレベルなら、ドライフライは無理でもニンフという選択肢を加えてみることが、結果としてフライフィッシングの引き出しと幅を広げることにもつながると思う。
2018/6/7