エルクヘアの目利き。
カウ・エルクとブル・エルク
村島徳治=解説
獣毛はドライフライを中心としたパターンに欠かせない素材だが、普段のタイイングでも「何となく」使うのは避けたいところ。使用頻度の高いマテリアルこそ明確な目的を持って巻くことで、フライはもっと美しくなる。
この記事は2014年2月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
村島 徳治(むらしま・のりはる)
群馬県前橋市在住。フライショップ「アクロポリス」店主。北関東の渓流をホームグラウンドとし、ドライフライやニンフの釣りで川をめぐる。バンブーロッドにも造詣が深い。
●アクロポリス www.bamboorod.jp/
村島 徳治(むらしま・のりはる)
群馬県前橋市在住。フライショップ「アクロポリス」店主。北関東の渓流をホームグラウンドとし、ドライフライやニンフの釣りで川をめぐる。バンブーロッドにも造詣が深い。
●アクロポリス www.bamboorod.jp/
獣毛の適材適所
エルクヘア、ディアヘアといった獣毛は、ドライフライのマテリアルとしてCDCやシンセティック素材にやや押され気味ではあるが、現在も欠かせない素材であることは、これからも変わらない。これらのマテリアルの最大の特徴は中空構造のファイバーをもつということ。浮力があり、フォルム整えやすく、さらに手軽に誰でも使えるマテリアルの一つでもある。過去の素材ではなく、まだまだ未知数の実力をもつヘア。
逆にこれからも新しい使い方が生み出されていくのではないかと思う。ただ残念なことに、手に入りやすいマテリアルではあるが、良質なものは少なくなってきているので、その中でもより確かなものを選びたい。
適度に脂があるものを
一概にエルクといっても細かく分類すると、その部位や、獲れた季節などで相当の種類になるが、大きく分けると「カウ(メス)」、「ブル(オス)」の2種類がある。「カウ」は一般的にエルクと呼ばれることも多く、エルクヘア・カディスなどに用いられる。オス(ブル)のヘアに比べると、1本1本が短く、テーパーが付いているのが特徴だ。
それに対して「ブル」は、ナチュラルカラーでもクリーム色が強く、毛足も長めなので、カウよりも大きめなフライにも対応できる。ブルのヘアの先端を使って小さめなエルクヘア・カディスを作る人も多いが、これはあくまでも好みで選んで構わない。
基本的にはカウとブルを使い分ける場合、サイズの違いだけを覚えていればよいだろう。

1本1本の毛にテーパーがついている、最もオーソドックスなエルクヘア。ドライフライ全般に使用可能だが、サイズの小さめのパターンに向いている


それよりも、問題は個体差によるヘアの質感だ。カウ、ブルのいずれとも、選ぶ場合には脂が適度に残り、しっとりした質感があるものを選びたい。
乾いてパサ付いた感じのヘアは、スレッドで締め込む際に切れてしまったり、実釣で使っている間にヘアがちぎれてしまったりすることが多い。
またヘアの先端部分が切れていたり、傷んだりしているものにも注意。フライを美しく巻こうとすると、後に切れた1本を抜いたりするなど手間がかかるので、最初のマテリアル選びの段階で、気を遣いたい。
そのままでも問題はないのだが、先端の切れたヘアが混ざっていると、いざフライが完成した時にも結構気になったりする……。

カウ・エルクより毛足が太く、#8ほどのフライのウイングにも対応できる。もちろん先端を使えば小さなフライにも巻ける。カウより荒い質感が特徴


そのほかにも、キンクしていたりせずに、ヘアが真っ直ぐ生えているものが扱いやすい。ヘアが曲がっていると、スタッカーなどで先端を整えたとしても、フックに留めた時には先端がばらばらの方向を向いた状態になってしまう。
また、たとえ曲がりの方向を揃えられたとしても、ウイングの形状自体が曲がったものになってしまう。
それぞれのファイバーができる限りストレートで、先端に向かってきれいにテーパーがついているものを選ぶことが大切。
カラーによっても特性が変わる?
エルクヘアのカラーとして頻繁に使われるものに「ブリーチ」がある。基本的にナチュラルカラーのものと選択基準は同じだが、これはブリーチ(脱色加工)処理されているものであることを考え、ある程度のパサツキに関しては目をつむるが、やはりできる限りしっとりしたものを選ぶのがよい。
あくまでも獣毛であるので、コシの強さは必要になる。ブリーチは視認性に優れるという利点はあるので、特にドライフライには重宝する。最近はクリップルなどのウイングに使う人も多い。
2018/11/23