フリーノットのメリットを知る
名手が使うハリソンズ・ループノット
杉浦雄三/刈田敏三=解説
本流の名手や、マッチング・ザ・ハッチにこだわるエキスパートも取り入れているフリーノット。文字どおりフライの動きの自由度が高まるこのノットだが、どうやら彼らが注目しているメリットは、また別のところにあるようだ。
この記事は、2017年2月号に掲載されたものを再編集しています。
ハリソンズ・ループノットの結び方





本流のトラウトにも、フラットのクロダイにも
<杉浦雄三>
本流ウエットフライの釣りや、浜名湖のクロダイ・サイトフィッシングを得意とする杉浦雄三さん。フライを結ぶ時は、いずれのフィールドでもフリーノット(ハリソンズ・ループノット)を採用している。
フライの動きがより自由になるようにフリーノットを使っているという人は多いが、杉浦さんの場合は、魚の吸い込みやすさ(=フッキングしやすさ)を考えてこの結び方を選んでいる。
本流の場合は、フライをレーンに対して縦に送り込んだり、スイングさせたりして反応を誘うスタイルがメイン。しかし、魚は常にフライのゲイプ側からフライを飲み込むわけではない。むしろスイング時に反応する魚はフライの横側から飛びついてくることも多いはず。
そうして魚がフライを吸い込む時、フリーノットであれば、すぐにフライだけがキュッと向きを変えて魚の口に入るというケースも多くなる。これが通常の結び方だと魚がフライを吸い込む時にティペットごと動くことになり、そのぶん水の抵抗も増える。

そのため、より太い、より張りのあるティペットを使っている時ほど、フリーノットの有効性が増すことになる。
同じく、ボトムを引きずってくるようなリトリーブを行なうフラットのクロダイねらいの釣りでも、前述のようなフライの動きはフッキング率を向上させるという。
キール状態でボトムにあるフライを、クロダイが上(もしくは斜め後方)から吸い込もうもうとする時、フリーノットであれば、ティペットがそのままの状態でフックポイントだけがサッと立ち上がってくれる。
ちなみに杉浦さんの場合、フリーノットの輪は、#8以上のフックであれば楊枝が1本通るほどの大きさに調整。これより小さいと動きが悪くなり、大きいとヘッドのマテリアルが輪に入ってしまうなどのトラブルが起こりやすくなるという。
小型フライはユニノットで対応
一方#8より小さいフライは、通常のフリーノットでは結び目が大きくなってしまうとの理由から、ユニノットで対応している。その場合通常のユニノットをフックアイまで締め込まず、ちょうどフック1本が通るほどの間を空けて、ノットを固定する。もちろん本線を強く引いたり、魚がヒットしたりすれば結び目はアイに締め込まれることになるが、キャスト(特にフライへのテンションが掛かりにくいスペイ系)で極端にテンションが掛からなければ締め込まれてしまうことは少ない。

ちなみに、よりしっかりとユニノットでループの位置を固定したい時には、ノット後本線を絡めたハーフヒッチを2回ほど入れてあげれば、より結び目が動きにくくなる。
フリーノット、ユニノット、いずれの場合もループ位置を調整するためにラインをスライドさせるような動きが多くなるため、結ぶ時は必ず濡れた手で作業するようにしているという。
魚に警戒心を与えないというメリット
<刈田敏三>
『FlyFisher』誌でもおなじみの刈田敏三さんも、フリーノット(こちらもハリソンズ・ループノットを使用)の愛用者。前ページの本流やクロダイの釣りと違って、刈田さんはライズをねらったドライフライの釣りがメインになるが、ここでもフリーノットは活きるという。
そしてそのメリットのひとつが、より自然なドリフトができること。
「実際の虫はナチュラルに流れながらも、風や波の影響でわずかに揺れながら流下しています。ティペットが結ばれたフライでもフリーノットにしておけば、アイまで締め込んだノットよりも、そうした自然に近い動きが表現できるのではないかと思っています」
そう刈田さんは話すが、さらに他のメリットも考えられる。それは刈田さんが浮かべたフライを下から撮影していた時に気づいたという。ドライフライをフリーノットで接続することによって、アイと結び目の間に空間ができ、あたかもティペットがフライの直前で消えているように見えた。
「これは水中からフライを見た時、通常のノットの場合とはかなり印象が違います。もちろんこの結びが魚の反応にどれほど影響を与えるのかは検証できませんが、自分のこだわりとして、こうした状態のほうが、よりプレッシャーの高い魚にも有効であると思っています」
また、魚に警戒心を与えないという意味では、この結び方にはもう一つの働きがある。ドライフライが姿勢よく浮かんだ状態であれば、フリーノットの輪はアイに対して縦(もしくはやや斜め)になる。そのため、構造上自然とループ付近のラインが水面下に入りやすくなる。
結果ループ近くのティペットが水中に入り、離れたところで水面上に浮かぶ。ティペットが水面上にあって光を反射させてしまう場合に比べて、水中にあるほうが魚にその存在を悟られにくいのだ。

もちろん刈田さんも、まずはフライの動きを文字どおりフリーにしようとこのノットを採用したが、その輪がティペットの見え方にも影響を与えることに気づいてからは、すべてのドライフライに使用しているという。
2018/10/9