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ささきつりぐ

4人の名手それぞれのキャスティング方法

東知憲さんと一緒に各地の特徴的な釣り(とキャスティング)をする名手を訪ねた。

東知憲、渋谷直人、筒井裕作、新藤忠伸、山口直哉=解説 編集部=写真 中根淳一=イラスト
flyfisher photo

本人はあまり主張しないだろうが、現在の日本のフライキャスティングにおいて、東知憲さんの功績は非常に大きい。今や多くの人が認知しているFFI(フライフィッシャーズ・インターナショナル)のキャスティングインストラクター・プログラムは、彼が大いに骨を折って我が国に定着させたものだ。

これまでフライキャスティングにはさまざまな「流派」があり、この先生とあの先生の言っている内容が違う、ということがしばしば見受けられた。それを交通整理し、用語の統一から「エッセンス」と「スタイル」の分離作業に至るまで、共通の言葉で内容を伝えることができるようにする試みがこのプログラムの目的のひとつであり、東さんは10年以上にわたり本部主要メンバーとして、内容の検討や試験の開発実施に大きく貢献してきた。この試験はキャスティングの原理の理解や実践はもちろんのこと、教え方や心構えまで試されるという徹底したもので、東さんの頭脳にはキャスティングの力学が、身体には動作が客観性を持って刻み込まれている。

彼ももちろんキャスティングに対して一家言も二家言も持っているが、今回はあえて「聞き役」をお願いした。というのは以下の理由による。

第一に、運動というのは多分に本人の感覚によるところが大きく、他人に言語で説明するのは非常に難しい。同じ動作でも別々の言葉で表現されたなら、第三者は違うものとして受け取る可能性がある。

第二に、人間は自分がやっていることを本当に理解しているか非常に怪しい。脳という臓器は、持ち主の認識とは大きく違い、ほとんどの行動を無意識に決定し、身体に命令を出しているという(自転車に乗ることを思い出してほしい。すべてを言語化できないくらいにたくさんの動作を、無意識にしかも同時にこなしているはずだ)。したがって、いかにキャスティングの名手といえど、やっていることを本人がすべて理解しているとはいえない可能性がある。

編集部は、この2点が先ほどの「この先生とあの先生の言っている内容が違う」問題の大きな原因であり、ここを突破するのは客観性と言語能力なのだと考えた。そして編集部が知る限り知識とテクニックに加えてこれらを備えているのが、東知憲というフライフィッシャーである、という認識だ(本人は絶対に謙遜するだろうが)。

そしてこの客観性を担保するために、東さんが骨格として用意したのが以下に挙げる、ビル&ジェイ・ガンメルによる「フライキャスティングの5つの基本」である。これはまた、FFIが実施する試験の根幹をなしてもいる。

 

 

<1>よいループを作るためには、曲がったロッドティップを直線に近く動かす。水平面と垂直面の両方において、RSP(ロッド・ストレート・ポジション)の間を「ほぼ」直線的に移動するのが理想。

 

<2>キャスティング・アークの大きさとストロークの長さは、ロッドの曲がりによって変化する。ロッドの曲がりは、おもにラインの質量とキャスターからの入力によって生まれる。

 

<3>ロッドのストップ後には、適切な長さのポーズを取る。ラインが長くなるほど、待ちの時間も長くなる。

 

<4>フライロッドはなめらかに加速させる。ティップの最高速は、ストップ直後のRSPにおいて発生するのが理想。

 

<5>パワーをかけているときに、ラインにスラックが入っていてはいけない。たるみがあると、ティップはきれいに直線的に動きにくい。

 

 

以上を4名のフライフィッシャーに投げかけ、彼らの解釈を聞くところから対話はスタートした。そして(驚くには値しないが)一見まったく違ったキャスティングをする彼らは、これらの5原則に厳密に立脚したうえで、自分の釣りに精密に合わせるアレンジ作業を行なっていた。釣り場での経験から得た彼らのエッセンスの詳細を、東さんが見立てた特徴的なトピックに的を絞り読者の皆様と共有したい。

 

 

4名の個性派デモンストレーターたち

編集部が詳しく話を聞きたいと考えたのはここに紹介する4名。それぞれ違うフィールドやこだわりで釣りを楽しんでいる名手たちで、かつすばらしく効率的にキャストしているのも間違いない。

 

 

渋谷直人さん

渓流ドライフライ・フィッシングのエキスパート。キャストの距離はだいたい10ヤードくらいがマックスか。キャスティングは21フィート以上のリーダー・ティペットを、フライの空気抵抗などにもとらわれず、ねらったところにねらった形で落とすために練り上げてきた。ホールは使わない。

渋谷直人さんのキャスティング方法

 

 

筒井裕作さん

日本にわずか8名のみを数える、FFIのマスターインストラクター資格を持つ名手。したがってさまざまな理論にも造詣が深いが、トラウトはもとより世界中を釣り歩く中で遭遇した多様なシチュエーションに磨かれた、実践的な幅広いテクニックを持つ。今回は、海などで大型のフライをトラブルなく投げるためのメソッドをお聞きした。

筒井裕作さんのキャスティング方法

 

 

新藤忠伸さん

奈良県のバンブーロッド・ビルダー、新藤さんには、ずばり、ハイスピード/ハイラインについてお聞きしたかった。教本に書かれている図は、現在主流のグラファイトロッドを使い慣れた身からすると、理解しやすいとはいえず、だからこそ魅力的で探究心がくすぐられるのだが……。

新藤忠伸さんのキャスティング方法

 

 

山口直哉さん

中禅寺湖に通い込む名手。一緒に釣りをしていると、湖に対する詳しさだけでなく、周辺での顔の広さに驚かされる。そんな山口さんには、湖に立ち込んでのシューティングヘッドのキャスティングについて解説していただく。渓流や海とはまた違ったスキルが求められる。

山口直哉さんのキャスティング方法

 

 

編集部=文と写真

 

 

記事を解読するための用語集

世界的に見ると、圧倒的多数のフライフィッシャーは日本の外に存在するので、キャスティングや釣りに関する用語も英語から始まることが多い。それらには、すでにカタカナ日本語としてコミュニティの中で定着したものも、比較的新しく生み出されて耳慣れないものもある。今回の記事はかなりテクニカルに振れてしまったので、これを読み解くために必要と思われ、かつ普遍的と思われるものを選び、解説を加えてみた。ただしこの手の書き物には主観がどうしても入ってくることを了承ください……。(文責:東 知憲)

 

 

アンダーライン(オーバーライン)

ある特定の効果をもくろみ、ロッドに組み合わせるラインを、指定番手よりも下げる(上げる)こと。かつてフライロッドには番手指定がなく、せいぜい重量が表記だったことを考えてみるのも面白い。

 

 

オーバーターン

フライ、ライン先端部、リーダー、フライなどが、質量のせいで返りすぎてしまうこと。スラックを生む。

 

 

オーバーハング

シューティングヘッド末端からロッドティップ間の長さ。

 

 

カウンターフレックス

キャスティング・ストロークの終了後、慣性の作用で、ロッドがループの進行方向に向けて跳ね返ること。「お釣り」という人もいる。

 

 

キャスティング・ストローク

ループを作るためにフライロッドを動かすプロセス。

 

 

キャスティング・アーク

キャスティング・ストローク中に起きるロッドの角度化。「度」で表すことができる。

 

 

ストローク長

キャスティング・ストローク中に起きる、手の動きの距離。「センチメートル」などで表すことができる。

 

 

サムオントップ・グリップ

親指をリール正反対に置き、キャストに最大活用させる握り方。

 

 

シュート

プレゼンテーションにおいて、ロッドハンドで持っているラインを離し、フォルスキャストの長さ以上の距離を飛ばすテクニック。ボトムレグにかかるテンションが小さくなるのでラインのターンオーバーが遅くなり、結果として飛距離が出る。

 

 

ストップ

キャスティング・ストロークにおけるロッドの停止。ロッドに蓄えられた曲がりは、これによってループとなっていく。この現象は一瞬で起こるわけではなく、ロッドティップの加速から減速、完全停止まで、比較的長い時間におこるさまざまな現象の総合であると考えたほうが事実に近い。メル・クリーガーは「ストップこそフライキャスティングでいちばん大事」と言っていた。「ポジティブストップ」という用語の中には、確実に加速段階も含まれている。

 

 

スペイキャスト

水面を使ってロッドティップの下側に「Dループ」を作り、ロールキャスト動作で前に打ち返すタイプのキャスト。オーバーヘッド・キャストより効率的、かつ安全といわれる。

 

 

スラック

キャスト中、ないし釣りにおいて、テンションの掛かっていないライン、リーダー、またはティペットの部分。

 

 

ダウナップ

メル・クリーガーが発案した、ダブルホール動作を端的に表現する言葉。引いて、ただちにラインハンドを戻すこと。初心者にとってはすばらしい格言。上級者を目指す人たちにとっ
ては、振りほどかなければならない手かせ。

 

 

ターンオーバー

ライン、リーダー、ないしティペットが完全に伸びきること。「どこを」ターンオーバーさせるのかは文脈によるので注意したい。

 

 

テイリング

何らかの理由でキャスティング・ストローク中にロッドティップの軌跡が一度沈み込んでまた上がり、その結果としてループのトップレグがボトムレグと交差してしまう現象。交差しないまでも、ループのトップレグにできた凹みはティペットに伝わり、プレゼンテーション精度に影響を与えてしまう。

 

 

テーパーとアクション

スローテーパーといった場合は、測定点の間でシャフトの直径変化が緩やかなこと。スローアクションといった場合は、曲げた状態からの戻りが遅いこと。スローテーパーなロッドはスローアクションのことが多いが、完全にイコールではない。

 

 

テンション

ラインにかかる力。張り。双方向からラインを引き合うことで発生する(たとえばラインの慣性とロッドティップの引っ張り動作による作用)。

 

 

トップレグ(アッパーレグ、フライレグも同じ)

空中にできるループの、上側。

 

 

ドリフト

釣りの場面に関していうときは、フライの流しかた。キャスティングの場面で使われる場合は、ポーズ中に行なうロッドティップの位置調整。「角度」のドリフトと「長さ」のドリフトがあり、普通はその2つが組み合わせて使われる。

 

 

ハイバックキャスト

何らかの理由で、後ろの上空高くに作るバックキャスト。障害物をクリアするために使われることが圧倒的だが、フォワードの角度に気をつけないとテイリングが起きる可能性が高くなる。

 

 

パラボリックアクション

どのような負荷がかかっても放物線状のカーブを描く、ロッドのアクション。しかしリッツも認めているとおり、この用語はペゾン&ミッシェル製ロッドのユニークさをプロモーションするためのキャッチフレーズだったと考えたほうがよいだろう。「ティップが曲がりにくく、バットが比較的曲がりやすい」くらいの理解が適当か。「セミパラボリック」となるともはや厳密な定義は不可能で、「バットがガチガチでなくちょっと曲がる」くらいの使われ方をすることも。

 

 

ピックアップ&レイダウン

水面ないし芝生に置いたラインを、バックキャスト1回の後でプレゼンテーションするキャスト。

 

 

Vグリップ

サムオントップ・グリップを少し内側にねじり、親指と人差し指が作るV字でグリップの上側を押さえる握り方。

 

 

フォルスキャスト

プレゼンテーションの前段階として、空中で前後に作るキャスト。ラインの距離や向きを調整し、形を修正し、フライを乾かし、心の準備をするためなどに使われる。

 

 

プレゼンテーション

ターゲットである魚に向けた最終キャスト。すべてのフライキャスティングはこのプレゼンテーションの形から逆算し、もっとも効果的、効率的なものとして構築されるべき。

 

 

プログレッシブアクション

負荷がかかっていくに従って、先端部から徐々に曲がりこんでいくアクション。しかし、いわゆるプログレッシブとされているロッドでも、実際はそのようなベンディングになっていないケースが多いようだ。「パラボリック」と同様、これもキャッチフレーズと考えておいてよいだろう。「ティップが曲がりやすく、バットが比較的曲がりにくい」アクション。

 

 

ベリー

ループに関していうときは、「ボトムレグ」と同義。ラインの部分に関していうときは、前後テーパーの間の、もっとも太い部分。

 

 

ベルジャンキャスト

オーバルキャスト、テンションキャストなどともいわれることがあるが、すべて同じ。ほぼ水平面のロッド動作で作ったバックキャストを、ポジティブにストップさせることなく滑らかに垂直に近いフォワードにつなげてゆく。広めのループ、遅めのラインスピードが特徴である。重いフライを使っている場合、利き手側から風が吹いている場合などにとくに有効。

 

 

ベンディングカーブ

負荷の掛かったロッドの曲がりかた、その全体的な形。

 

 

ポーズ

キャスティング動作における一瞬の動作停止。もっとも狭い定義では、ロッドのストップ後、ラインが伸びきるまで待つ時間。

 

 

ボトムレグ(ローワーレグ、ロッドレグも同じ)

空中にできるループの、下側。

 

 

ロッドハンド(ラインハンド)

ロッドを握っている(ラインを握っている)側の手。

 

 

あとがき

メル・クリーガーと日本各地を回るクリニックツアーをやっていたとき、彼がかならず言っていたことがある。「シングルハンド・キャスティングの基礎は、ループとロッドの軌跡を同一の平面に収めることだ。たいへん効果的だが、弱点といえる瞬間がある。ループが伸びきり、キャストの向きが変わる一瞬において、投げ手はコントロールを失っている」。彼が実際の釣りでベルジャンキャストを多用していたのは有名だが、お気に入りの釣り場だったアルゼンチンのリオ・グランデなどでは、爆風のなかで重いフライを放り投げなければならないこと、晩年スペイキャスティングに凝っていたことなどを考えれば自然の成り行きとも思える。この「コントロール喪失」発言は、四半世紀ほどずっと頭の片隅にひっかかっていた。

私がフライキャスティングを始めた時代はすでに、そこそこの質の手引き、雑誌や本に掲載されていた。大いに参考にさせてもらったのだが、私が大きく混乱したのは、この釣りの一大特徴である繰り返しモーションに関してのことだった。ある記事では、ポーズの後にキャスト動作を再開するのは「フライラインがターンオーバーしたその瞬間」と書いてあり、ある本ではそのタイミングが「リーダーがターンする直前」となっている。そこに何分の一秒かの差が挟まっているのだ。さまざまなソースから情報を集めても、わからなさは解消しなかった。

ある時期、比重の高いシューティングヘッド(シングルハンドでは38g、ダブルハンドでは120gだ)を使うトーナメントキャスティングを囓るようになると、自分の中ではいちおうの解釈ができた。限られた動作を最大活用するのであれば、ターンを待たなすぎるよりも待ちすぎたほうが結果がよいし、早すぎるタイミングでキャストを開始すると飛距離は如実に落ちた。だから私のクリニックやスクールでも、キャスト切り返しのタイミングはラインが伸びきった後で、待たないよりは待ちすぎたほうがマシですよ、と教えてきた。

しかし数年前から、タイミングに関して再び疑問が湧いてきた。ほんとうに待ちすぎたほうがマシなのか? 逆ではないのだろうか? そのきっかけはツーハンド・インストラクター試験の最初にやらされる課題。「70フィートのラインを出して、狭いループで、水面にフライを接触させることなくフォルスキャストする」というもの。いくらフローティングラインとはいっても、650グレインもあるボディーを空中で前後させるキャストは、どうしてもベリーが垂れてきてリーダーが暴れ、ヤーンが水面に当たる。「これ、50課題以上ある中の1番目だよ! ぜんぜんできないよ!」と悩みながら練習していたら、あるときブルース・ウィリアムズがさくっと教えてくれた。「ヤーンが頭上を通過したくらいの、激早タイミングで切り返してキャストを始めると、うまく行くよ」……やってみたら、本当だった。普通に考えれば常識外れともいえる早いタイミングでポーズを切り上げてみると、飛んでくるリーダーは上下に暴れることもなく、高い位置をキープして動き続ける。ラインとリーダーに、コンスタントなテンションをかけてキャストした結果だ。ガンメル親子による「フライキャスティング5つの基本」の中の1つに、「ロッドのストップ後には、適切な長さのポーズを取る」とあるが、この「適切」という表現こそ、用途に応じて、ないしキャスターの習熟度に合わせて解釈を変えることのできるものなのだ。

今回登場してくれた4人のキャストと、肉声で語った説明を読み返してほしい。

全員が何らかの形で、メル・クリーガーがいうところの「コントロールを失う瞬間」を作らないように努力していることがわかるだろう。渋谷直人さんのプレゼンテーション・キャスト写真を見ると、ループが後方に伸びきる前にロッドは大きく前に出てきているが、彼のストップ後の待ち時間は、ロングリーダーシステムをピンと張って前に出すという目的にかなった「適切な」長さなのだ。彼ら4人のぞれぞれのキャストは、論理的な逆算の結果として構築されたもの。まずは自分が使うフライを理想的に落とす確固としたイメージがあり、それを実現するためのリーダーシステムが、ライン選択があり、そしてキャスティングのテクニックが築き上げられている。有名キャスターが提示してきた既存の型に、自分の釣りとキャスティングを嵌め込んでいったものでは決してない。きわめてロジカル、キャストのためのキャストではなく釣りのためのキャストであるなら、フライとプレゼンテーションを想定し、その始点からすべてを組み上げていくべきなのだ。驚くべき違いと驚くべき共通点の両方が、彼らのキャストには見て取れる。フィールドも指向も、体格も大きく異なる彼らのキャスティングにおいては、「コンスタント・テンション」という考えが1つの大きな柱として立つ。ラインを「感じ続ける」ことは、思ったよりも大事なようだ。

 

 

東 知憲=文と写真

 

 

 

 

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