嶋崎了のタイイング基礎講座01
エルクヘア・カディス編
嶋崎 了=解説きれいなフライを巻くためには
スクールなどで「きれいなフライを巻くコツはなんですか?」とよく聞かれます。
この質問に私は、「きれいなフライを巻くコツは、きれいに巻こうと思うことです」と答えています。
たとえばテイルがまっすぐつかない、とします。ならばまっすぐ取り付けられるまで練習しましょう。
タイイングでもほかのことでも同じですが、上達するには繰り返すしかありません。
まずはていねいに時間をかけて1本を巻くことをおすすめします。
そうして数をこなしていけば、必ずきれいなフライを作ることができます。
この記事では、基本的なパターンを巻くコツを解説しながら1本を完成させていきます。
初心者の方々にわかりやすいように、ある程度言い切るような表現で解説していくので、ご容赦ください。
ではさっそく巻いていきましょう!
エルクヘア・カディスの理由
今回は、エルクヘア・カディスです。
エルクヘア・カディスは1957年にペンシルバニア州において、アル・トロースさんがカディスのイマージングパターンとして考案したフライです。
生まれてから現在に至るまで、人によってさまざまなバランスや素材で作られてきましたが、今回紹介したものが現在ではもっともポピュラーな形状だと思います。
日本のドライフライシーンにおいて、パラシュートフライと並びよく使われているパターンです。
主なマテリアルは3種類を使います。
【マテリアル】
●フック……102Y 9〜17番(スタンダード系フック全般)
●スレッド……ベネッキ・ウルトラファインスレッド各色
●ハックル……コックネック・グリズリー
●ボディー……スーパーファインダビング各色
●ウイング……ナチュラル・ブルエルク
●フック……102Y 9〜17番(スタンダード系フック全般)
●スレッド……ベネッキ・ウルトラファインスレッド各色
●ハックル……コックネック・グリズリー
●ボディー……スーパーファインダビング各色
●ウイング……ナチュラル・ブルエルク
ボディー材 各種のダビング材が使えますが、ドライフライに向いたものを選んでください。繊維が細く、シュッとしたシルエットで、吸水しにくいフライが巻けます。ドライフライ用として売っているものであれば問題ないでしょう。
ラビットファーなど吸水しやすいものや、乾きにくいものは、とりあえず避けたほうが無難です。
ハックル コックネック、サドル、どちらでも構いませんが、フリューが多いファイバーは避けたほうがよいでしょう。ハリがあってしっかりしたものを選択してください。
カラーは好みで構いませんが、基本はその時に出ている虫に合わせたほうがよいと思います。
ウイング エルクヘアは、今回はナチュラル・ブルエルクを使用しています。視認性がよく耐久性もあるからです。
ヘアマテリアルは、個体によって太さに差がありますが、サイズによって使いわけるのがよいでしょう。買う時はヘアがなるべくストレートなもの選ぶことをおすすめします。
エルクヘア・カディスは現在、日本ではドライフライの代名詞といってもよいと思います。このフライでタイイングの基本は学べますし、使い勝手もよいし、しかも釣れます。
実際に巻いてみましょう
これまでスクールの講師を務めてきて、最もよく見られるのはウイングのエルクヘアの量が多すぎるケースと、ウイングを巻き留める時にハックルを巻き込んでしまっているケースです。
ウイングの量に関しては、すっきりと巻くように心がけてください。
マテリアルが多すぎるとボデッと浮いてしまうので、本来のカディスのような浮き方とは違ってしまいます。
では、実際に巻いてみましょう。
1
フックはシャンクを水平にセットします。
バイスの先端にフックをちょこんとセットする方もいらっしゃいますが、バイスが破損する原因にもなりますので、写真のようにしっかりと挟みましょう。
2
下巻きは、テンションをかけてしっかり巻きます。
密にきっちりと巻く必要はありませんが、これから乗るマテリアルが動かないようにするためにしっかり巻きましょう。
3
中心部のフリュー(ふわふわしたうぶ毛)がなるべくない部分を使います。フリューが多いと、吸水しやすく、乾きにくく、沈みやすいフライになってしまいます。
また、ストークはしなやかで切れにくいものを選んでください。油分が抜けて弱くなっている古いハックルは使わないようがよいと思います。せっかく作ったフライが壊れやすくなってしまうからです。
写真の立てている部分は使わないので、むしります。
4
余分なハックルをむしった状態です。
ファイバーの長さはゲイプ幅よりちょっと長いくらいがよいでしょう。
5
シャンクの一番後ろにハックルの裏側を上に向けて取り付けます。
最初からこの状態に取り付けようとするよりも、まず軽く仮留めしてから、ストークを引っ張ってシャンクに沿うようにすると簡単です。
ボディーに段差ができないように、ストークはシャンク全体に巻き留めています。
6
ダビング材は少しずつ縒りつけるのがコツです。足りなければ途中で足せますが、つけすぎたものを取り除くのは難しいのです。引き算ではなく、足し算で考えるのが失敗しない秘訣です。
写真のようにスレッドをシャンクの中央付近に留めておいて、シャンクから1.5cmほど間を持ってダビングを始めます。
そうすると……。
7
スレッドを後ろに巻いていけば、ちょうどダビング材を縒り付けた部分がシャンクの後端にきます。
これがボディーの後ろをシュッと作るコツです。
8
ダビング材を縒りつけたスレッドを、しっかりとテンションをかけて巻いていきます。
緩いと水を吸いやすく、また壊れやすくなりますので、雑巾をほどよく絞った状態、という感覚で巻くのがよいでしょう。使っているうちに緩んできますので、ここではスレッドが切れない程度に、できるだけきつく巻いておきましょう。
今後、何度も出てくると思いますが、テンションをしっかりかけて巻くことはとても重要です。
9
ハックルを前に向けて巻きます。
ハックルは、ストークがダビング材に埋まるくらいしっかりとテンションをかけて巻いてください。
1mmくらいの間隔を開けてアイ側まで巻きましょう。
基本は裏側を前にして巻いていきますが、ハックルの質によっては途中でストークがねじれてしまうものもあります。
でも、それは気にしないで巻いてしまいましょう。無理にねじれないようにすると、かえってハックルがぐちゃぐちゃになってしまいます。
10
エルクヘアを切り出します。
量は少ないほうがよいですが、少なすぎると見えにくいので、自分の使いやすい量を把握しながら調整します。
エルクの量はどれくらいがよいですか、と本当によく質問されます。
写真にあるくらいの量が基本だと思いますが、使い勝手に差が出るので、多め、少なめとさまざまなものを巻いてみて、自分に合ったボリュームを見つけてください。
切り出した状態です。
アンダーファーと余分なヘアを除去し、しっかりとしたものだけを残します。
11
先端を下に向けてヘアスタッカーに入れます。
スタッカーは傾けながら机に軽くトントントンと叩きつけます。
ヘアは若干カーブしているので、傾けることで、カーブの向きも揃えることができます。
パイプ部分は固定して、本体側を抜くように動かすと揃えたヘアがバラバラになりにくいです。
また先端をウイングとして取り付ける方向に向けてからスタッカーの本体を外すと次の工程がスムーズです。
常に次のことを考えながら作業を進めましょう。
12
ウイングを留めます。
1
巻いたハックルを指でしっかりと後方になでつけてアイ周辺をすっきりとさせます。これはウイングを留める時に、ハックルを巻き込まないためです。
2
揃えたエルクヘアの長さを写真くらいの位置に調整して、ハックルを巻き込まないようにしっかりと留めます。
スレッド3回転ほどしっかりかけてウイングを留めたら、その後、アイ側のエルクを立てて前側にも3回転しっかりとスレッドをかけます。
さらにもう一度ウイングを留めた部分に3〜4回転、アイ側にも3回転、テンションをしっかりとエルクヘアを留めます。
13
フィニッシュです。
この場合はハーフヒッチャーを使ってハーフヒッチをします。
1回ごとにぎゅっぎゅっとしっかり締め込みます。
最初にハーフヒッチャーにスレッドを1回転させて結んで仮留め。
次にハーフヒッチャーにスレッドを2回転させてきつく留めます。
もう一度同じく、スレッド2回転でハーフヒッチをして完全に固定します。
14
ウイングのあまりを写真の長さくらい残してカットします。
ウイングを留めた部分とアイにヘッドセメントや瞬間接着剤を滴下して完成です。
おまけ:バーブを簡単に潰す方法
下巻きの前にバイスに挟んでぎゅっと潰します。
簡単にバーブが潰れました。
今回のまとめ
今回はエルクヘア・カディスを巻いてみました。
このフライに限らず、どんなタイイングでも共通することですが、スレッドワークはとても重要です。
スレッドをかけるテンション、角度はそれぞれの工程で違いますので、しっかりとマスターしたいところです。
それぞれの工程の意味を把握して巻くように心がけると、耐久性がある実践向きなフライを巻くことができるようになると思います。
次回はパラシュートフライを取りあげます。
2020/5/12