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超ショートホールで飛ばす

トーナメントキャスティングの現在

岡本堅史=レポート
スロバキアのLucia Gurska選手。オレンジのホールディングラインと黄色のランニングラインの結び目が胸のエンブレムの下にあることから、写真はシュート時に手を離した瞬間だと分かる

純粋に距離を競うキャスティングトーナメントでは、普通の釣り人には聞き慣れないテクニックも存在する。そのひとつが、この「超ショートホール」。なぜ短いホールが、トーナメントの場で行なわれているのか? その理論を、女子の世界チャンピオンであるAlena Klauslerさんに聞いた。
この記事は2015年3月号に掲載されたものを再編集しています。

純粋に飛ばすために

フライキャスティングに限らず、遠くに飛ばす目的でロッドを使う場合は、より重い負術がかけられる長くて硬いロッドが有利といえる。しかし、そのようなロッドを使ったとしても、使い方を間違えると、逆に「飛ばない」結果を生み出しかねない。

遠くに飛ばすためにトーナメントキャスティングで使われ始めたダブルホールというテクニック。今では一般的な技術として、多くのフライフィッシャーたちが、その恩恵をうけている。

トーナメントキャスティングから生まれたテクニックには、まだ広く知られていないものもある。実際の釣りにも使えるものが、まだまだ数多く存在しているのだ。そのひとつとして、今回は超ショートホール・テクニックを紹介したい。

なぜショートホール?

「力いっぱい投げているのに、なぜ飛ばない?」
初心者のころに思いがちなこのフレーズは、フライキャスティングのスキルアップの途中で、何度も頭のなかに浮かんでは消えるものだろう。

その原因のひとつに、「力いっぱい振りすぎ」ている、ということがある。ロッドを曲げることばかりを意識しすぎて、バットからグイッと曲げようとすると、シュート時にホールしているラインをリリースする前にバットが反発してしまう。結果的にパワーロスを招いてしまうのだ。

力いっぱいのフルキャストをしているつもりが、結果的に飛ばない原因となっているのであれば、逆に効率よくロッドを曲げ、ロッドが反発する瞬間に合わせて的確なタイミングでホールをすることが大切だ。それによって必要かつ充分なロッドパワーを使いながら、ラインを弾き飛ばすことができる。

これを実現するテクニックが、超ショートホールなのである。
キャスティングトーナメントのシングルハンド競技で、超ショートストロークを実践するMagdalena Kuzaさん。ホールを終えた左腕の位置に注目

30年前からあった技術

この投げ方は、チェコをはじめとする東欧諸国の、キャスティングトーナメントのなかで広く使われている。8mmカメラの時代の映像をYouTubeでも見ることはできるが、そのなか(30年ほど前)でも、シュート時のホールがかなり短いことが分かる。

現在のような高弾性のロッドがなかった当時においても、ホールの距離が短いのである。シュート直前のバックキャストで後方に送り込んだ右手と、それに付随するように送り込んだ左手。

そしてバックのループが解ける直前に体重を前方に移しながら、右手のストロークを開始する。リストダウンもホールもこのタイミングでは行なわない。

身体全体から生まれるパワーをロッドに伝達しつつ、ストロークがピークを迎える直前、リストダウンを始めるその瞬間に、最後の最後でまだロッドティップを絞り込むかのようにホールを始める。最終的にバット側が反発を始めるリストダウン終了直前に、ホールを終えてラインをリリースするのである。

腕は伸びていても……

下の写真は、2011年に開催されたキャスティング世界選手権で撮影されたもの。多くの選手たちが、シュート時にホールしている腕を後方まで伸ばさずに胸のところでブロックするかのようにして、後方に行くのを止めていることが分かる。
2014年度ICSF世界選手権フライ片手投げ距離種目の金メダリスト(62.42m)、ポーランドのJacek Kuza選手。ロッドを持つ手は最後端までリールとグリップを下げて、ストロークの長さを最大限に活用しつつも、ホールする側はまるで肘鉄を当てるような角度で腕を動かす。そのため、ホールの距離は30cm程度とかなり短くなり、そしてスピードも速くなる

昨年来日した、オーストリアの女子チャンピオンのAlenaさんも、チェコで生まれ育ったこともあって超ショートホールが身についているそうだ。

「シュートの時は、左手(ラインハンド)が顔の前を通ったかな、と思ったところでラインから手を離すくらいでちょうどいい。それくらい短いホールをしているの」

そう自身のスタイルを説明していた。彼女は胸の前でブロックするスタイルを取らず、勢いを止めることなくそのまま左手を後方まで伸ばすタイプのため、一見、超ショートホールとは気づかない。だが、実際に引いている時間は一瞬だそうである。
Alena選手のキャスティング。左の3コマ目の直後にホールが始まり、4コマ目にはラインが手を離れている。ロッド全体のパワーが乗ったラインを弾き飛ばすためには、引きしろの長いホールは必要ない。Alena選手はロッドの曲がりを目視しながら、シュート動作に入っている。ティップが反発するタイミングに合わせて、短く早くホールすることで、空気抵抗の少ない先の尖ったループを出すことができるのだ

トーナメントの技術を釣りにも応用

ロッド全体を使うのではなく、曲げられる部分を効率よく曲げる。その反発を充分に活用してラインを飛ばすこのスタイルは、男子選手はもちろん、女子選手にも身につけている人が多い。

このスタイルは、硬いティップアクションのトーナメントロッドに特化した投げ方ではなく、釣り場でのキャスティングにも応用がきく投げ方なのだ。

自分で曲げられる部分を素直に曲げてやって、最後の最後でちょっとだけホールで欲張って、ロッドをさらに効率よく曲げる。その反発力でラインを飛ばすのだ。そのきっかけを左手のホールで作り、最後の最後に弾き飛ばす。

モノフィラメントのランニングラインを使ったシューティングヘッドでのキャスティングはもちろん、軟らかいロッドを使う渓流のドライフライでも、ロッドの曲がる部分を意識しながら投げることで、超ショートホールの恩恵を受けることができるだろう。

ダブルホールに限らず、キャスティングトーナメントのなかでは、実際の釣りに使えるテクニックがまだまだ存在する。そして、キャスティングを純粋に楽しみながら、自らの技を磨いていける場所、それが、キャスティングスポーツなのである。

2018/6/26

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