南紀の漁港でカマス釣り
本州最南端のライトソルト・フィッシング
鈴木 寿=解説
冬になると毎年足を運ぶのが南紀の釣り場。車を南下させるにつれて、温度メーターは徐々に上がっていく。そんなフィールドでねらうのは漁港の好ターゲット、カマス。
この記事は2017年2月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
鈴木 寿(すずき・ひさし)
愛知県名古屋市でフライショップ「ワチェット」を営む。長良川の本流に始まり、犀川などでガイドやスクールもこなすかたわら、浜名湖へも足繁く通っている。冬の間は温暖な南紀に釣り場を開拓し、カマスやクロダイと遊んでいる。
鈴木 寿(すずき・ひさし)
愛知県名古屋市でフライショップ「ワチェット」を営む。長良川の本流に始まり、犀川などでガイドやスクールもこなすかたわら、浜名湖へも足繁く通っている。冬の間は温暖な南紀に釣り場を開拓し、カマスやクロダイと遊んでいる。
冬は南へ
初冬の声が聞こえて来ると、釣り場の選択肢が狭められてくる。気圧配置が冬型になり、北西風が吹き荒れ始め、釣りには少々辛い日が多くなるからだ。例年そんな時期に飛び込んでくるのが、紀伊半島のカマス釣りの情報。紀伊半島先端に位置する串本は本州でも黒潮に最も接近する土地。名古屋から東名阪自動車道、伊勢自動車道そして紀勢自動車道を乗り継いで南へ向かってひた走ると、外気温を示す温度計はみるみる上昇を始める。
尾鷲あたりに比べて、串本まで走るとさらに5℃ほどプラスされるから、やはり相当に温暖な地なのだろう。さらには紀伊山地が北からの季節風をシャットアウトしてくれるから、真冬であってもポカポカと釣りが楽しめるのが、この地の魅力だ。


ねらうはアラハダ
紀伊半島の海岸線はリアス式で複雑に入り組んでいる。無数に見られる小さな入り江の奥は、たいていが港になっていて、それを守るように防波堤が作られている。私が選ぶカマスのポイントは、外洋に突き出た足場の高い大きなケーソンや巨大なテトラポッドが積まれた防波堤よりも、小さな船溜まりなどのこぢんまりとした突堤になることが多い。
そんな小さな港をのんびりと巡る釣りが、なんとなく好みなのだ。地元の釣り人は何しろカマス釣りが大好きらしく、カマスが釣れている防波堤は空が白む前から賑わう。
冷凍のキビナゴをエサにウキ釣りをする人、大型のサビキ仕掛けを飛ばす人。最近ではやはりお手軽なのか、ルアーでねらう釣り人が圧倒的に多いようだ。
そのなかでフライフィッシャーは見た目にも浮いた存在だが、地元の釣り人はみんな決まってフレンドリー。釣り方で分け隔てることなく、隣に立ったら不思議と以前からの友だちのようになってしまう。
皆がねらいを定めているのは、この地方で「アラハダ」と呼ばれる大型のカマス。アラハダは「アカカマスの大型化したもの」など、諸説あるようである。いずれにしても40㎝以上に育ったカマスで、ウロコが大きく表面(肌)が荒く見えることでその名が付いているのだそうだ。

堤防で釣れる25〜30㎝の平均サイズのカマスに比べるとたっぷりと脂がのっており、塩焼きでも干物でも美味しい。鮮度のよいものならば、もちろんお刺身でもその味はまさに絶品だ。
その味も土地の人を夢中にさせる理由に違いない。
感度のよいラインで
さて、渓流ではあまりお見かけするチャンスの少ない、真っ赤な朝焼けを拝みながらタックルをセットする。9フィート7番のロッドに小さなバッグが1つ。いたってシンプルな装備だ。足場が悪かったり、風の強い状態、もしくはシューティングテーパーを使ったりする時に必需品のラインバスケットだが、穏やかな日であればなくても問題ない。ただひとつ私がこだわっているのは、ラインの種類。なかでも、近年さまざまなラインに採用されているローストレッチ・コアを使ったフルシンキング・ラインが私にとって必須アイテムなのだ。

その日もキャストを開始し、タイプ7のラインでカウント40秒から探ることにした。すると、数投目のリトリーブ開始時に何やらゴソゴソとした違和感があった。
「ん?」と思う間もなくその感覚はなくなったから、リトリーブを続け次のキャストへ。次も40秒ほど沈めてみると、一瞬だがやはり同じ感触が伝わってくる。「海底に藻でもあるんだろうか?」などと思いつつ、回収したフライをチェックして驚いた。
結んでいたのは#6のステンレスフックに巻いた細身のクラウザーミノーだが、そのウイングの半分が何者かにかじられて短くなっている。そればかりか、0Xのティペットまでもがささくれ立って、今にも切れそうになっているではないか。

あの小さな違和感がカマスからのコンタクトだとすれば、通常コアのフライラインでは感知しにくいかもしれない。
フライとティペットを新しいものに替えてもう一度キャスト。思ったとおり同じ泳層でカサカサとした感触が手もとに伝わる。今度は左手でリトリーブを速めるようにアワセを入れてみた。すると、予想以上の重みがラインに乗った! と、同時にするどい突っ込みでロッドが絞り込まれる。
その後グルグルと身をくねらせながら深場から上がってきたのは、まさにアカハダだった。

タナは正確に
その後もしばらくカマスのアタリは続いた。時間によってタナが微妙に変化するので、そのタナを確実にとらえることが最大のポイント。そのため、秒数の分かりやすい時計を用意しておきたい。
カウントにキッチンタイマーを利用して、静かな港にアラームを鳴り響かせている友人もいるほどだ。カマスは群れで移動するためか、魚がいなくなると途端にアタリも途絶えてしまうが、また次の時合がやってくると忙しくなる。

今回もそんなふうにしてロッドを曲げてくれたのは、どれも申し分ないサイズのカマスたちだった。 このように釣れる時はテンポよく楽しめるが、完全に日が昇って水面に強い日差しが射し込む時間帯になると、ピタリと気配がなくなるのもカマス釣りの特徴でもある。
それがよく分からなかった時は、一日中ロッドを振り続けていたのだが、最近はすぐに見切りをつけて次の目的へと移動することにしている。

カマスは例年2月の渓流解禁ごろまで楽しめ、渓流オフシーズンの漁港を巡りながら魚を追いかけてみてはいかがだろうか。
2018/11/9