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ささきつりぐ

山岳エリアの遡上渓魚

北アルプス、犀川・高原川水系

稲田 秀彦=解説

山深いエリアを流れる本流筋、さらに点在するダム周辺の支流は、秋になれば多くの良型がねらいやすくなる。長野県と岐阜県をまたぐ北アルプス南部のフィールドも、そんな条件を満たしたドライフライで楽しめる大マス河川が揃っている。
この記事は2015年11月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
稲田 秀彦(いなだ・ひでひこ)
1972 年生まれ。長野県安曇野市在住。自宅からも近い信州の本流、渓流をホームグラウンドとしている。夏は山岳渓流を楽しみ、秋にはそのまま大ものねらいの釣りにシフトする。

犀川水系。ダム差しの大ヤマメ

長野県を流れる犀川水系にはいくつもの支流があり、流域には大型の魚をストックしているダムも多い。秋になると、そんなダム湖で育った魚たちが上流の川へ移動し始める。

このエリアではイワナ、ヤマメ、ニジマス、ブラウントラウトなどと多様な魚種が上流を目指すが、やはり秋口に釣りたい魚といえばヤマメ。しかも40㎝を超えるような大ヤマメに会いたくなる。

お盆も過ぎ、夏から秋へとシーズンが変わるころ、川は台風などにより増水することが多くなる。それまでの渇水状態で動きの鈍かった魚も、増水で水温が下がることによって遡上へのスイッチが入るものと思う。

それまで日中の気温が30℃以上の夏日から、朝晩の気温がグッと下がり始め、27〜28℃になってくると、川原に吹く風はとても清々しく感じる。

最近は夏場からの渇水が深刻な問題となることもあり、ダム湖の水位が低いままであるために遡上が遅れたり、遡って流れに居付くトラウトが非常に少ないシーズンもあったりする。

だが、基本的には台風などで増水してから、水が引く前のタイミングが釣行時となる。増水後数日から1週間で水量が減り始め、泥ニゴリの流れに徐々に透明度が戻り、平常水位になる直前が最も大もののチャンスがあると感じている。
9月上旬の犀川水系。小雨降るなかでのヤマメ34cm。渓流域でもこんな魚と出会える季節

秋の大ものねらいの釣りを始めたのは十数年前。その時は、増水後の引き際に重点を置いて、移動してきた大型魚が休みそうな、水深がある大場所ばかりをウエットフライでねらっていた。

しかしある時、ドライフライのように水面に浮き、わずかながらナチュラルに流れるウエットフライに反応してきた大ヤマメを見た時、これは水面でも釣りになるのではないかと思った。

それからはウエットフライも準備しつつも、ドライフライの釣りがメインになった。フライパターンは水量によって変わってくるが、#8〜14のパラシュートやエルクヘア・カディス、時にはスティミュレーターと、普段ヤマメ釣りに使うフライに加えて大型のパターン用意している。
雨の後、やや増水気味の梓川本流。ダムから差してきたヤマメ、イワナ、ブラウントラウトがひと雨ごとに上流を目指している

今まで大場所ばかりねらっていたのが、ドライフライの釣りをすることで、比較的小さなスポットからも釣果を得られるようになってきた。見た目にはなんてことのない場所でも、遡上中の魚が休めそうな流れと水深があれば、ていねいに探るようにしている。

ちなみに、私がよく通う犀川水系ではこの時期になると多くの釣り人が訪れるが、秋の釣りは先行者がいても特に気にしていない。逆に、ポイントが空くまでその日の状況の情報交換ができて都合がよいほど。

その理由は、川を移動しているヤマメ(湖沼型のサクラマスといってもよいと思う)は何かのタイミングで捕食するスイッチがONになったりOFFになったりするから。そのタイミングといのはよくは分からないが、1日のうち何度かの時合があると思う。

マヅメ時、堰堤下などもチャンスあり

犀川水系と併せて、北アルプスの逆側、岐阜県の高原川水系もシーズン終盤に盛り上がるフィールドだ。お盆を過ぎるころになると、朝晩の気温が下がり始め、一気に秋が深まってくる。

他の河川より一足先に、9月上旬で禁漁期を迎える高原川だが、やはりその直前の時期にはよい魚と出会うチャンスは多い。

8月の後半から9月上旬には台風や秋雨前線に影響され、まとまった雨により何度か大増水を繰り返す。蒲田川の源流は急勾配の北アルプス。一度の雨で大幅に増水し、泥ニゴリ状態になることも珍しくないが、雨さえ止めば1〜2日で水量も落ち着き、クリアな水色に戻る。

その後3〜4日でドライフライでも釣りになる状態まで回復してくれる。8月までは渇水と高水温の蒲田川も一雨ごとに水温が下がり始め、ヤマメ、イワナが上流へと移動を始める。
台風後の高原川、増水の引き際のタイミングで出た尺超えのヤマメ

お盆のころはまだまだ日中も暑いので、高原川の支流や蒲田川の最上流などの山岳渓流でイワナ釣りを楽しんでいるが、夕方早くに蒲田川へと戻ってくると、また違った趣の釣りを楽しめる。

そして、9月に入れば雨によって増水し、気温・水温が下がり、より大ものをねらえる時期になる。増水後の引き際といった、ベストなタイミングで釣行するのは、なかなか難しいもの。

しかし、蒲田川の秋の釣りも春先と同じで、晴天よりも、どんよりと湿度の高い曇った日や、朝からシトシトと小雨が降っているような日に当たれば、よい魚に遭遇するチャンスは増えるだろう。
今年はお盆明けからの長雨で減水することがなかった蒲田川。秋口に限らず堰堤下には大型の魚が溜まりやすい。ドライだけではなくニンフやウエットフライを使ってみるのもよいだろう

私の場合、早朝の早い時間帯(モーニングライズ)はとても苦手なのであまり経験がないが、友人たちは結構よい釣りをしたと聞いているのでチャレンジしてみる価値はあると思う。

その日の水量やライズの有無によって使うフライは大きく変わってくるが、基本的にはドライフライがメイン。渇水している時には比較的小さめの#14〜16、増水している時は8〜14。テレストリアルを意識したパターンが多く、パラシュートやエルクヘア・カディスを多用している。

とはいえ、ドライフライに限らず、釣行の日が明らかに増水しているようなら、ウエットフライを試してみるものも面白いだろう。その時もタックルはドライフライ用のもので充分。

シルバー・マーチブラウンやブラックナット、オレンジ&パートリッジなど、オーソドックスなウエットフライを数本用意しておくだけも、いざという時に活躍してくれたりする。

ちなみに、蒲田川のような堰堤で区切られているフィールドの場合は、増水の後などはやはりそんな堰堤下に魚が溜まりやすい傾向がある。堰堤の下流側近辺を丹念に探ってみるのも、秋口の大ものを手にするための近道だと思う。

しかし、堰堤周りはイブニングタイムに残しておき、ほかの多くのポイントをゆっくりと時間を掛けて釣り上がれば、日中でも小さなスポットから思わぬサイズが現われる可能性が高い。
イブニング前の時間帯、本命ポイントの少し下の小さなスポットから出てきた35cm。大場所の手前こそていねいに釣りたい

北アルプス周辺の渓流では、秋口の日中、水深のある流れの筋や、巻き返しなどをテンポよく釣り上がるとイワナの大型が釣れることが比較的多い。逆に夕方少し日が傾き始めたころから薄暗くなる前(イブニングの前)には大型のヤマメが釣れることが多いと感じている。

ここで紹介した内容は、もちろん蒲田川だけでなく、山岳渓流を上流部に持つ多くの本流筋のフィールドで参考にできることと思う。

2018/8/24

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