印象派フライ「ファンタジィシリーズ」
魚との意思疎通ができない以上フライはすべからく妄想から生まれる
岡本哲也= 解説 編集部= 文と写真本物の虫のように「ナチュラル」にドリフトしたい
「妄想」。「ファンタジー」という名前ですが。
岡本 そうですね。私の妄想から生まれたので……(笑)。メイフライのバージョンと、テレストリアルを意識したバージョンです。
エルクファンタジィのメイフライバージョン
エルクファンタジィのテレストリアルバージョン
このフライにはどういう妄想が入っているのでしょうか。
岡本 目指すのは、ナチュラルドリフトの最終形なんです。そこには、私たちが操作したくても、操作できない部分が流れの中にはあるじゃないですか。
操作したくてもできない部分ですか……?
岡本 確かにフライが先行して、自然に流れているのを釣り人側から見たら、「あ、あのレーンをきれいにフライが先行して流れているな」と。それがナチュラルドリフトと言えるのだけれども、もう一歩その先、言ってみれば「流れにすべてを任せる。本物の虫のように流れるナチュラルドリフト」というのをしてみたいのですよね。流れの表情に合わせたナチュラルドリフトといいますか。今回巻いた、左右に広がった長いハックルのファイバーが、時に動いてくれる、それに当たった波や水圧で、フライ自体が動いてくれる。それをも含めてナチュラルドリフトと言えるのではないかという発想から、このフライパターンを巻いてみました。
そのナチュラルドリフトというのは、いわゆるデッドドリフトというか、ベターッとしているのではなく、生きている虫が時にパタパタッとかコロコロッとするような?
岡本 そうですね。流れのヨレどおりにフライがヨレてくると。そういうのを目指しました。
そのためにまずは長いハックルが、ウイング?レッグ?になる、ということでしょうか。
岡本 ファイバーが動いてほしいから長くしたのです。ファイバーだけではなくて、ファイバーの力でフライ自体も動かしたいのですよ。
そうすると、ヨレに応じて、パタッ、パタッというぐあいにもなるということですか。
岡本 そうです。よく浮くドライフライが流れてドリフトしていくのとはちょっと違う効果があると思っています。
「ちょっと違う効果」というのは、たとえばどういうところでしょうか。
岡本 深いところから大きい魚がガバッと出てくるとか、ですね。実際にそういうケースは結構あります。俗にいう「食い波」というやつがあるじゃないですか。あれは決してナチュラルドリフトで、泡がバーッと一直線に流れてくるわけではなく、微妙にヨレているのですよ。だからポイントとしてはそのあたりがねらいですね。ゴンゴンの流れ込みがあって、そこから結構強い流れで、まだ白泡がバーッと来ているようなところの筋のすぐ5cm脇、とかいうのは超理想的ですね。流心から発生した波が反転流になる前にヨレがあるでしょう?あそこなんていうのはもう最高です。
逆にいえば、そういう水面でも魚から気付いてもらいやすいみたいなところもあるのでしょうか。
岡本 そうだと思っています。それが長いファイバーの動きなのか、それによって生じたフライ全体の動きなのかは分かりませんが、明らかに関係していると思っています。フライの部分的な話ではなく、全体の動きのほうがアピール力が強いと思っています。
岡本さんはガイドもされているので、自分で使うだけではなく、お客さんにも使っていただいているのでしょうか
岡本 もちろん、何人かに使ってもらってそれなりの結果は出ています。まだ、このフライではそういう場面に出会ったことはないのですが、おそらく風の影響で水面でこれが転がったら、よい反応が得られると思います。もうはるか昔にですが、下流からの吹き上げた風で本物のガガンボでも、コロコロッと上流に転がるやつしか食われないという状況に出会ったことがあります。上流からガガンボが普通に流れても食われないのです。だからフライもそのように動いた時だけ食われるんです。自然が起こすそういう動きのことを、魚はやっぱりよくわかっているんだな、と妙に関心したのを覚えています。私の妄想では、このフライもそういう状況でも効果を発揮するだろう、と自信を持っています。それから、魚の出方が非常に理想的といいますか。ヤマメでもスッとフライが消えるのですよ。もう完全に本物を食うように吸い込みますよ。
ハックルファイバーの量をコントロールするにはこの手法が向いている
このフライ、最初はどのあたりから考え始めたのでしょうか。
岡本 3年くらい、いろいろと試行錯誤をしたのですが、まずはどういうボディー形状と、それにマッチしたどのフックがよいかということでした。で、そのボディーはというと、まずは基本的なナチュラルドリフトで、しっかり水をかんで、その水の流れに乗ってくれるほうがよいと思い、半沈みにしました。そうするとフックは、カーブドシャンク。がまかつのC12を選びました。そのカーブドシャンクのシャンクがしっかりと水面に刺さるようなボディーにして。そして視認性を考えたときに、エルクを立たせるということで、かなり見やすくなっています。魚からはエルクヘア・カディスのように見えてもよいのです。彼らにとって何か食べられそうだと思えるものであれば。
メイフライでもあり、カディスでもあると。
岡本 そうですね。そして、すこぶるいい結果が出ました。
フライのサイズはある程度決まっているのでしょうか。
岡本 メインにしているのは#12ですね。大きいし見やすい。で、私が使っているのは1番という低番手のタックルなのですが、このくらいの巻きぐあいだと何ら支障はないです。空気抵抗はあまりないですから。ちょっと回転するようだったら、ファイバーの本数を少しカットするくらいで、投射性は損なわれないと思います。1番でも問題なく投げられますよ。
リーダーシステムはどれくらいの長さにしていますか。
岡本 全長19フィートくらいで、ティペットは5X。それくらいが基本ですね。フックを#16とかに落とした場合ティペットは、6Xか6.5Xにはしますけれど。
ストークボディーのほうは、メイフライのシーズンで使うのでしょうか?それとも夏の釣り上がりでも普通に使いますか?
岡本 普通に使っちゃいますね。
ストークボディーとピーコックボディーのバージョンがありますが、この使い分けに関してはいかがでしょうか。
岡本 夏を過ぎて、遡上が始まったと思うと、自分はピーコックです。よりボリュームがありますし、自分の中では、アピール力はピーコックに勝るものはないと感じているので。ですから遡上が始まったら、私は断然ピーコックです。
ということは、ピーコックはいわゆるテレストリアルの季節におすすめ、という感じではないのですね。
岡本 そうですね、そういう使い分けは全然ないです。
このフライはハックルをパラシュート状に巻いて、ペタッと前に倒すハックルスタッカーパターンと同じ構造ですが、このようにハックルを取り付けるねらいは何でしょう。
岡本 理想的な本数のファイバーを左右にパッと出すには、このやり方が一番簡単できれいにできると思います。当初は縦巻きにして、上下のファイバーを全部カットしていたのですけれど、カットして捨ててしまう部分のムダがあまりにも多いので。マテリアルも昨今、高くなっていますし、長めでより張りのあるハックルファイバーいうのは今、貴重なのですよ。だからムダ使いをやめようというのもあります。ですから、きれいに巻くためというのと、マテリアルを大切に扱おうという2つの観点から、今回の巻き方にしました。
それから、エクステンドボディーのものもありますよね。
岡本 ピーコックでエクステンドボディーを作ろうと思って、この形態になりました。これを使う時に大事なことは、フライの水分を飛ばす、一投一投の水切りですね。1回目のフォルスキャストで注意して思い切り水を切るという。
ピーコックファンタジィ
それはバックキャストで、ビシッと。
岡本 そうですね。ビシッと。ボディーに水を含みやすいので。
でもこれ、おしりがキュッ立っているのは虫っぽいというか。
岡本 そうです。水面がある種、レンズの役目をするというふうに思うんです。100%ではないですが、魚目線で見たときに想像すると、ヨレている水面を下から、ある角度から見たら、レンズの役目をして、より強調されて見えるのではないかと。ですからブラインドで釣っていても、魚にアピールして深いところからでも出てきてくれるのかな?なんて思ったりもします。特に遡上する渓流魚ははボリュームあるものを好むから、そこはアピールしつつも、余分なものを排除してというのが、このピーコックのエクステンドボディーのパターンです。両方に共通しているのは、長く左右に伸びたハックルファイバーということですね。
タイイング方法は下記の記事をご確認ください
・エルクファンタジィ/メイのタイイング
・エルクファンタジィ/テレのタイイング
・ピーコックファンタジィのタイイング
2025/1/21