LOGIN
フライフィッシングショップ ビギナーズ・マム

優雅なアウトドアウエアを目指して

バイブリーコート:ブランドストーリー

写真と文=編集部
バイブリーコート(Bibury Court)。イングランド・バイブリー村に建てられた館であり、この名をそのまま冠したウエアメーカーは、イギリスのカントリースタイルの伝統を継承しつつ、日本人の体型に合わせ、より精密に、機能的にアレンジされた製品を作り続けている。本国でも高い評価を受けたメイド・イン・ジャパンのウエアに対する思いを、同社を立ち上げた服飾デザイナー、下間由一さんに聞いた。

Bibury Court
https://biburycourt.shopinfo.jp


下間由一(しもま・ゆういち)
バイブリーコート・ディレクター。中学、高校のころからファッションに傾倒し、服飾制作の専門学校を卒業。その後アパレル企業でのデザイナー勤務を経て、2001年バイブリーコートを設立。フライ歴35年(長いだけでヘタッピ~です:本人談)。1965年生まれ。

ブリティッシュスタイルとの邂逅


―― このスタイルとの出会いのきっかけは、やはりフライフィッシングなのでしょうか?

下間 そうですね。20歳を超えて社会人になり、フライフィッシングを少しずつ始めました。そうなると、やはりどうしてもイギリス文化にも興味が湧いてきますよね。

もともとファッションが好きになったのは中学生くらいからですが、その当時はアメリカントラッドというスタイルに完全に傾倒していました。ブリティッシュのスタイルは自分の中でちょっと「オヤジくさいな」という部分があって(笑)、20歳代まではずっとアメトラでした。ボタンダウンシャツを着ながら「ボートハウス」の帽子をかぶって……、という。高校3年生のころだったかな、渋谷にあったケントショップで販売も経験して、そこでトラッドのことをギュッと詰め込まれたんです。そのころ見る雑誌は、『メンズクラブ』だったりとか『ポパイ』だったり。靴も、当時は「クルーズ」でオーダーをしたりしました。

―― 高校生でそこまで!

下間 はい。正直言って生意気でしたよ(笑)。ただ当時はちょうどヤンキーがはやっている時代だったんです。だから、だいたいモテるのはそっち。僕らみたいのはモテない。「なにあれ、オタク?」みたいな(笑)。でもその頃の『メンクラ』と、セレクトショップ通いが、今でも僕の服飾に対する姿勢とか考え方のベースになっていると思います。

高校を卒業してからは、大学には行かないでメンズファッション専門学校という、パターンからデザインからすべて教え込まれるような学校へ行きました。そこは職人になるための学校です。1年生のときから、ノーフォークジャケットをボタンホールから全部作るようなところなので、ちょっときついんですよ(笑)。だから生徒数は少ないのですけれど、そこから出たデザイナーさんとか職人さんはけっこう多いんです。ただ、その下積みがやっぱり現在にも生きていて、スーツでも全部の工程をわかっているので、工場ともちゃんと話ができるようになったと思っています。その後はアパレルの企業に就職してデザイナーとして働いていました。

―― そこでフライフィッシングに出会い、バイブリーコートへとつながるのですか。

下間 決定的だったのは新婚旅行なんです。ちょうど妻がイギリスに留学していたのですよね。で、新婚旅行を兼ねて「ホームステイをしていた先をちょっと回ろうよ」という話になりました。オックスフォードにいたので、その周りでどこか探そうと。

そうしたらちょうどバイブリーという村が見つかって、釣りもできそうだという話を聞きました。オックスフォードからレンタカーを借りて1時間くらい。すごく自然豊かな牧歌的な雰囲気の場所で、そこで泊まったのがバイブリーコートホテルだったんです(編集部註:現在バイブリーコートは私邸になっており、ホテルとしての営業はしていない)。その敷地に川が流れていて、当時は1日、2人だけ、ドライフライオンリーで釣りができたんです。当然ホテルの中なので、もう本当に足場もよくて、革靴で釣りができるのです。妻は釣りをやらないからその間読書をしているという。「ああ、なんか優雅だなあ」と思いました。

そして夕方になると目の前のホテルに戻り、ジャケットに着替え、ビールでも飲みながらメニューを決めて食事をして。終わったら暖炉の前でチョコレートとウイスキー、みたいな。そういう世界を味わったときに、「これってもしかしたら、自分が求めていたものなのかな」と感じたんです。

やっぱり企業に所属していると、やっぱり単純に売れるものを作ったりとか、流行を追いかけたりとか、当然求められます。でも僕はそういったことに悶々としていたんです。そんなタイミングでバイブリーコートでの体験がありました。

そこで味わったカントリースポーツ、フライフィッシングだったり乗馬もやっている方もいらっしゃったし、シューティングという文化もありますし、ガーデニングだったり、そういった伝統的なスタイルをいまだに継続しているのってなんか美しいなと思いました。そして日本に戻ってきてから、「それをテーマにちょっとブランドを起こしたいんだよね」という話を家族にしました。サラリーマンを辞めて独立するには家族のバックアップも必要だったので。それから1年後に家族全員、両親も連れてまたバイブリー村へ行って、「やっぱりいいよね」と。そこから2001年にブランド名もバイブリーコートとしてスタートしました。

―― 自分のこだわりだけで作るブランドですね。

下間 でも、独立したのはよいのですが、お客さんもいないので、自分で営業を回っていたのが1〜2年続きました。最初の1年間はもうほとんど受注もないし、アルバイトしながら、妻の収入に頼ってどうにかやっていました。そして、確か2003年だったと思いますが、千葉の幕張メッセで開催されていた国際フィッシングショーに、小さなスペースで出展してみたんです。ただ、あの会場ってフライフィッシングに興味がある人って少なくて。なおかつ服に興味がある人ってもっと少なくて、ほぼいなかったんですよ。うちの服って安くないので「これ買うんだったら釣りザオを買ったほうがいい」という人が多くて(笑)。

それでもティムコさんだったり、業界の人たちが来てくれて「いいね、おもしろいね」といっていただいて。その時に当時つり人社で編集長だった三浦修さん(編集部註: 2008年、個人事務所設立。現在はライフスタイル分野を中心に、各種編集執筆、イベント企画運営、講演、広告製作など多岐にわたり活躍中)が来てくれて、「これいいじゃない」って取り上げてくれたというか、お付き合いのある方々を紹介してくださったりしたんです。

自分が一番似合うものを


―― バイブリーコートではどのようなコンセプトで製品を作っているのでしょうか。

下間 ご存知だと思いますが、イギリスには伝統的なアウトドアウエアのブランドがいつくかありますよね。そこは目指しました。目指しはしますけれど、そことは絶対に違う路線でいかなければいけないとも思いました。

まず型紙に関しては、うちはテーラードのジャケットもやっていたので、そちらのパターンメイキングのほうから、きっちりと日本人の体型に合ったジャケットを作っていこうと。自分が一番似合うものを作りたかったので、自分のサイズ感で作っています。

デザインについては、街で着てスタイリッシュになれるもの、というのはやっぱり想定していますね。アーバン・カントリースタイルみたいな。多分皆さんもそうなのでしょうけれど、僕も若い頃は釣り一本やりだったので、食事はコンビニですませちゃったりというのを繰り返していたんです。ただ、歳をとってくると、やっぱり釣りは行く前から始まっていて、「じゃ、何を着て行こうかな」って、そういうのも楽しみのひとつではないのかなと思うようになりました。それで現地に行ったときに、ちょっといいレストランに入りたい。バイブリーコートの服はそのまま着ていけるように想定しているんです。だからジャケットに関しては、本当にブリティッシュの、カントリーのおじさんたちみたいに、タッターソールのシャツを着て、ネクタイをしていただいても全然サマになるようにデザインしているつもりです。

かといって長く着ていただけるように、ファッションによりすぎないようにも気をつけています。縫製の品質も含めてですが20年、30年と使えるものを作りたい。ですからうちの商品に関しては、リプルーフ、オイルの入れ直しも受け付けています。

―― 特にジャケットに関して、機能という面ではいかがでしょうか。

下間 生地はオイルドコットンですが、ポケットには止水ファスナーを使ったり、裏地にシンサレートという当時比較的新しかった素材を入れたりしています。イギリスのオイルドコットンのジャケットって、インナーを着ないと寒いんですよね。ですからうちの製品ではシンサレートを入れました。理由は2つあって、1つはオイルの素材にそのまま綿の裏地を着けると、オイルが染みてきちゃうんですよ。だから1枚何かを入れたいなと。もう1つがやはり保温性の点ですね。ただ、シンサレートもすごい種類があって。僕が使っているのは紙みたいに薄いものなんです。だからモコモコしないで暖かい。なおかつ、1枚入っているからオイルが染み出てこない。

あと、うちはアパレルから入っているので、袖の裏地はすべてキュプラという天然素材を使っています。スーツの袖裏に使うものです。やっぱり袖通しがよいように。ナイロンなどと比べてみても全然違いますよ。


  • ブランドのアイコン的アイテム「ワックスドコットンフィールドジャケット」。写真のジャケットは20年間着込んで熟成した下間さんの私物。フィッシングベストの機能的なディテールと英国伝統のワックスドコットンの撥水性。そしてテーラードのようなスタイリッシュなフォルム。機能とエレガンスを兼ね備えたカントリージェントルマンジャケットだ

  • 擦り切れやすい袖口はあらかじめレザーパイピングで補強。アジャストタブで袖口のサイズが調整可能で、雨風の侵入を防ぐ

  • 一部ポケットには防水性に優れた止水ファスナーを使用。クラシカルなローテク素材にハイテク機能を融合したデザイン。

  • 後身頃にはスキットルなどを収納できるポケットが2個! いかにも英国らしいディテールだ。また運動量を確保したサイドベンツ仕様になっている

  • 4オンスの薄手のワックスドコットンを使用した「ウェーディングジャケット」。9個の収納ポケットやロッドホルダーなどの機能も充分に持たせてある。襟は肌触りのよい国産コーデュロイにオリジナルのピンバッチ付き

  • 裏地は半袖でもベタつきを軽減されるメッシュを使用。また、暑いときには内側に内蔵されたストラップにより、ジャケットを半脱ぎ状態でバックパックのように背負えるので春先の釣行にで重宝する

  • 内側のポケットはさりげなく毛バリモチーフのプリント生地を使用している



―― やはりメインの素材はオイルドコットンなのですね。

下間 綿100%で、天然素材というのは、やっぱり古くなったらなったなりの渋みが出てきます。味わい深いのはやっぱり天然素材のよさだなと思っています。ただ、綿ってけっこう裂けやすいんですよね。だからオイルを塗って補強しているという面もあるんです。

僕が使わせてもらっている「ブリティッシュ・ミラレーン」は1880年代の創業のオイルドコットン専門の生地屋さんなんです。オイルドコットンの生地屋さんって僕の知っている限りで、イングランドに2軒。北アイルランドに1軒あるんですよ。それをいろいろなブランドが使っています。

―― 匂いもないですね。
下間 それはオイルの質が変わっていて、今はほとんど無臭です。昔のやつは臭かったですよね。どうやって匂いがなくなったのか一応メーカーにも聞いてみたのですけれど、企業秘密ということでした(笑)。

―― これを日本で縫製すると。

下間 縫製は岡山の児島というところでお願いしています。デニムの産地で有名ですよね。世界で一番とされていて、そこの職人さんに任せています。厚物はやっぱり岡山です。テーラードのジャケットなどは津軽のほうの専門工場に出したりと、ものによって分けていますけれど。ただオイルドコットンが面倒なのは、裁断や縫製の段階ですべてがベトベトになってしまうんですね。だから、いちいちミシンから何から掃除しなければいけない。あと、生地が重たいので工場の方々にはいろいろご迷惑をおかけしています(笑)。


機能だけでなくエレガントな気持ちがほしい


―― 全体的な製品コンセプトとしては、イギリスの伝統と日本の事情やアイデアを融合させるというイメージでしょうか。

下間 そうですね。いろいろこだわって作ってきて、自分でもイギリスっぽいものはできたなとは思ったのですけれど、フィールドジャケットを出して3年くらい経ってからかな、ロンドンにリバティという百貨店があって、そこから「仕入れたい」というお声がかかったんです。「えっ、向こうから?」って(笑)。

僕も直接イギリスに行って、リバティで説明会をしました。全員白人のプロフェッショナル30人くらいを相手に、1日かけて製品の説明をしたんです。そうしたら向こうの人が「これってブリティッシュじゃないよね、メイド・イン・ジャパンだよね」って。

―― それは……、どういうニュアンスだったのですか。

下間 褒められていたんです(笑)。細かい縫製とかディテールの感じとか。個人的には、「イギリスっぽくできたはずだったのに」と思ったのですけれど、本場の人の目線からすると、すごく新鮮だったみたいで。当時うちのジャケットが日本で6万円台で売っていたのかな。それがリバティだと16〜18万円でバッと並ぶんですよ。そしてやっぱり隣では、みなさんご存知の、あのメーカーのジャケットが3万円くらいで売っている(笑)。大丈夫かなあ、と思ったのですが、3年くらい仕入れてくれましたね。

―― 日本ではどういったところで主に販売されているのでしょうか?

下間 セレクトショップが多いですね。直販に関しては今は百貨店でポップアップという形を年に4~5回やっています。実を言うと、今年(2023年)の1月につるやさんのハンドクラフト展にも出展したんですよ。友人が古着を販売する予定で、ブース借りていたんです。開催の3日くらい前に、「一緒に出ない?」と誘われて……、「在庫もないし、きっと売れないよ」とあまり乗り気ではなかったのですが、一応フィールドジャケットを6着持っていったのかな。そうしたらありがたいことに売れたんです、全部(笑)。僕もびっくりしました。百貨店よりずっとスムーズに売れました(笑)。

ただ、今後は釣りだけに特化しないで、ライフスタイルを全般的に、もうちょっと提案していきたいなと思います。釣りのときもそうなのですけれど、本当にTシャツ短パンで行くのと、ちゃんとファッションも考えて行くのだと、楽しみ方が全然違いますからね。普段Tシャツを着ていて町を歩いていると、自分もやはりそういう状態になるんですよ。だけどちゃんとネクタイを締めたり、ガチッとそろえると背筋も伸びるし、スーツを着たときって多分皆さん、歩き方が違うと思いますよ。しゃべり方も変わってくる。人を優雅にするといいますか。ファッションってそういうものなのですよね。

機能だけがあればいいわけではなくて、そこにはちょっと、エレガントな装いと気持ちがほしいと思っています。自分だけが楽しければいいわけではないし、まわりの皆さんが不快にならないような。これは別に流行を追いかけるということではなく、古いものでもしっかりと手入れして着る、といったことでもあるんです。だから、プレスのきいているボトムスを履かなければいけないし、シャツもちゃんとプレスしなくては、という発想が根底にあります。

ただ、イギリス人のオイルドコットン・ジャケットの扱い方というのは、どちらかというと道具なので、もう納屋にポンッて放り投げるいう感じですけれどね。でも、僕はそうではなくて「ジャケットのように使ってほしい」と思って作っています。


  • 釣りはもとより、英国気質のキャンプやガーデニングファッションに人気の「ワックスドコットン2wayウエストコート」(ベストとエプロン)。プルオーバーながら両サイドがプルオープンになるので快適な着脱が可能だ

  • 中央のループにはサングラスや小物を装着可能。ワックスドコットン素材なので焚火の火の粉にも強い。

  • 内側に収納されたエプロンはドット釦を外すだけで簡単に使用できる。薪木や小枝を運ぶのに便利なハンドループ付き

  • コットンリネンの高密度スーパーブロードを使用したフィッシングシャツ。ハリ感が有り天然素材ならではの清涼感と経年変化が素敵。ドレスシャツに近いシルエットで街着としてもスタイリッシュに着こなせる

  • 小物装着可能なループがさり気なる付いている

  • ブラックウォッチのワックスドコットンは英国気質満載の素材。パーツで使用しているレザーは国産の鹿革。滑らかで使い込むほどに格別の風合いに仕上がる。日本の職人によるオールハンドメイド

  • オリジナルのクラウンエンブレム

  • アイルランドの老舗ハンドメイド帽子ブランド「HANNA HATS」。アイリッシュリネンを使用したスポーツキャップだ。今年からバイブリーコートで輸入を始め、Bibury Court x HANNA HATSのコラボも企画中だとか

  • Bibury Courtでメインで使用している1880年創業の英国老舗ファブリックメーカー「ブリティッシュミラレーン」。雨風に強く、棘などの切裂けにも強いクラシカルなアウトドア素材だ。独特なワックスを染み込ませた生地はその機能だけでなく年を重ねることで味わい深い経年変化を楽しめる

2023/6/26

つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03 1,980円(税込) A4変型判132ページ
【特集1】引き出しを増やしあらゆる状況に対応するために… グレに効く1000%ウキ活用術 【特集2】各地の傾向と対策、特選ポイントを公開 冬こそアツいデカバン石鯛 ねらったところへ仕掛けを飛ばし、潮をとらえてグレの口もとへサシエを届け、釣り…
フライフィッシングショップ ビギナーズ・マム
つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03 1,980円(税込) A4変型判132ページ
【特集1】引き出しを増やしあらゆる状況に対応するために… グレに効く1000%ウキ活用術 【特集2】各地の傾向と対策、特選ポイントを公開 冬こそアツいデカバン石鯛 ねらったところへ仕掛けを飛ばし、潮をとらえてグレの口もとへサシエを届け、釣り…
フライフィッシングショップ ビギナーズ・マム

最新号 2024年12月号 Early Autumn

【特集】マスのきもち

朱鞠内湖のイトウ、渓流のヤマメ、イワナ、忍野のニジマス、九頭竜川サクラマス本流のニジマス、中禅寺湖のブラウントラウトなど、それぞれのエキスパートたちに「マスのきもち」についてインタビュー。

色がわかるのか、釣られた記憶はいつ頃忘れるのか、など私たちのターゲットについての習性考察していただきました。

また、特別編として、プロタイヤーの備前貢さんにご自身の経験を、魚類の研究に携わる、棟方有宗さんと高橋宏司さんに科学的な見地から文章をいただいています。

みなさんの情熱が溢れてしまい、今号は16ページ増でお届けします。

「タイトループ」セクションでは国内のグラスロッド・メーカーへの工房を取材。製作者たちのこだわりをインタビューしています。


Amazon 楽天ブックス ヨドバシ.com

 

NOW LOADING