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Bibury Court

釣り上がるウエットフライ術

ナチュラルドリフトを実現する2本のドロッパー

安田龍司=解説
白泡の流れる流心、脇の巻き返しなど、渓流のさまざまなポイントで効果的にドリフト可能。もちろんフライを1ヵ所に留めておくような探り方もできる

表層と中層を同時に探りながら釣り上がる。本流サクラマスの名手が愛用する、流れの流速差を利用したウエットフライのオリジナル・テクニックを紹介。
この記事は2015年6月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、九頭竜川のサクラマスねらいの釣りをはじめとして、新潟や北海道の本流などの経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。

安田龍司さんのドロッパ―を2本使った渓流うウエットの実釣動画はこちら!
【安田式 釣り上がりのウエットフライ】

アップストリームの難しさを解決する条件

渓流でウエットフライの釣りを始めたころ、ダウン&アクロスの釣りでは期待するような効果が得られず、試行錯誤を繰り返した。特に日中や渇水期に苦戦したことを思い出す。フライパターンを変えたり、流し方を工夫したり、少しでも魚の多い河川に通ったりもした。

しかし多少の変化はあるものの、基本的には、魚の活性が高い時しかよい釣りはできなかったように思う。ある時、ウエットフライはなぜ「ダウン&アクロスの釣り下り」なのだろうか?という疑間を持ち、アップからサイドでねらう釣り上がりのスタイルに変更してみた。

できるだけナチュラルドリフトを維持するように心掛けると、ダウン&アクロスの釣りよりも明らかに魚との出会いが増えていったのだ。それでも納得できるレベルには程遠く、さらなる試行錯誤が必要となった。

間題点は4つ。まずは大型ウエットフライを扱うための太く短いリーダーではナチュラルドリフトが難しいこと。次にダウン&アクロスの場合と比較してアタリが取りにくいこと。そして大型フライに対応するための、#5~6のタックルでは魚へのインパクトが強すぎること。最後に、渇水期の日中は魚たちの反応が悪く、かなり難しいこと。

そこで、#4タックルで可能なウエットフライの釣りに変更することにし、今回紹介するような釣りに行き着いた。しかし、#4タックルにすることですべての問題が解決するわけではなく、ナチュラルドリフトの精度とアタリの感知については課題として残った。

だが後にリードフライとドロッパーを2本使う、合計3本のシステムに変更し、一番上のフライを水面または水面直下におくことで解決できた。またこれにより、後述する大きなメリットを手にいれることもできた。
夏場の山岳渓流などでも効果を発揮する安田式ドロッパ―システム。ドライフライでは難しい白泡の中などもポイントになる

ダウン&アクロスにおけるウエットフライの釣りでは、フライをくわえた魚が違和感を覚えて、すぐにフライを放さないように、スローアクションでソフトティップのロッドを用いることが多い。

一方、釣り上がりのスタイルでは、私の場合基本的にラインにテンションを掛けて、流れを横切らせるような操作をしないので、極端にスローなアクションのロッドでなくても問題ない。もちろんティップアクションのロッドは不向きで、カーブキャストなどがしやすくコントロール性の高いロッドが適しているだろう。

また、ナチュラルドリフト中は、ロッド、ライン、リーダーに掛かるテンションが弱いので、アタリがあれば、すぐに合わせる必要がある。そのため、感度の高いロッドであれば、アタリを感知しやすく有利であるといえる。
水面用ドロッパーとしてシステムの一番上に結ぶ「ホワイト&ジンジャー」。フライパターンやシステム例などは、動画「安田式 釣り上がりのウエットフライ」でも解説

キャスティングからドリフト

私が実践している釣り上がりのスタイルでは、アップからアップクロスヘのプレゼンテーションを基本としているが、その際、カーブキャストを多用する。目的はフライ先行で流すことに加え、3本のフライが流れる流速差を利用することにある。

カーブキャスト(逆U字形)でプレゼンテーションした3本のフライは、リードフライが最も下流に、一番上に結んだドロッパーが最も上流に着水する。その後リードフライと中央のフライは徐々に沈んでいくが、通常流速は深い層ほど遅くなる傾向にあるため、最初はそれぞれのフライがそれぞれの水深、流速に合わせてナチュラルに流れ始める(底石の大きい河川では流速、方向が頻繁に変化する場合がある)。

しかし一番上流に着水した水面用のドロッパーは沈まないため、3本のうち、最も速い表層の流速に乗って、2本のリードフライを追い越し、すぐに一番下流側を流れることになる。(図A)
①キャスト直後は水面用ドロッパーが上流側に落ちるので、リードフライ先行で流下し始める
②表層が最も流速が速いので、水面用ドロッパーが、水中のフライを追い越し始める
③水面用ドロッパーが水中のフライを追い越した状態。水中の2本が速く流れようとする水面のフライにブレーキをかけつつ、システム全体が流下する。このドリフト状態が最も魚の反応がよい


この段階から、水面用のドロッパーは下の2本のフライを下流水面方向へと引っ張り始めるのだが、同時に、水中のフライが水面のフライにブレーキを掛け、実際の流速よりも若干遅く流れるようになる。

この状態が最も釣れる流れ方で、これこそが3本のフライの流速差を利用したドリフト方法となる。さらに通常のナチュラルドリフトと組み合わせることで、さまざまな状況に対応できるようになる。
ドロッパーを2本結んだシステムで渓流を釣り上がる。水面に浮かぶ一番上のドロッパーと水中の2本のフライが互いに流下速度を抑え合い、理想のドリフトが可能になる

効果的なドリフトを行なうためには、ねらう流れの輻に合わせて、カーブキャストのカーブ幅を合わせる必要がある。具体的には、広い流れではカーブの幅を広く、狭い流れではカーブの幅を狭くする。そして、流速の速い流れほど、カーブの頂点をフライと同じレーンに首水させる必要がある。(図B)

また、これは慣れないと難しいが、水面のフライが水中のフライを追い越して流れ始める位置を、ねらう魚が定位している、わずかに上流の地点となるようにコントロールできれば理想的だ。

3本のフライの流速差を利用するドリフトに気づいてから、その精度を高めるようにすると、さらに水面用のフライで釣れる比率が高まり、同時に水中にあるリードフライとドロッパーで釣れる数も増えていった。

ちなみにこのシステムでは、落ち込み脇の反転流にフライを漂わせることも容易。#4ラインの軽さと適度な長さのリーダー、そして3本のフライそれぞれの抵抗により、メンディングをしても、接近してラインを持ち上げても、小さなスポットに長時間フライを留めておきやすい。白泡の下や、岩の下に潜む大型魚にも効果的である。

このように、釣り上がりつつも、さまざまなポイントを探ることが可能なのでプール、瀬、落ち込みなど渓流のあらゆる流れがウエットフライのステージになる。

ただし、最も上に結んだドロッパーは水面、または水面直下を流すことが基本なので、深いプールの底をねらうような場合には不向きだろう。

ウエットフライの弱点を克服するシステム

ウエットフライのダウン&アクロスの釣りでは、大型カディスなどのハッチがある時が、最もよい釣りをするチャンス。一方、ナチュラルドリフトの釣り上がりでは、極端に寒い時期を除けば、状況を選ばず、しかも増水後まだドライフライでは厳しいような水位と水色でも、絶好のチャンスとなることがある。

ただ、極度の渇水時は、システムの構造上、細くて長いリーダーを使うドライフライのほうが有利になることも多い。渓流の流れを三次元で捉えて探るウエットフライは難しい面もあるが、大型の魚と出会うチャンスは多い。
水中のフライにヒットしたイワナ。水中のフライがうまく流れていれば、水面のフライも効果的に流れていることになる。そうすれば、さまざまな層でアタリが得られるようになる

水中を流れるフライの動きについては、想像力を駆使する部分も多いので、釣っていて新たな発見も多いと思う。釣りの幅が広がることは、予想以上にメリットが大きく、私の場合、本流のサクラマスやニジマスの釣りにおいても大変有利に働いた。

最初はドロッパーが付いたシステムのキャスティングトラブルに悩むこともあるかもしれないが、興味のある方はぜひチャレンジしていただきたい。

最後に、河川によっては同時に複数のフックの使用を禁止しているところもあるので、ルールに従って楽しんでいただきたい。またバーブを潰すなど、魚たちへの配慮もお願いしたい。

2018/6/5

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