LOGIN
Bibury Court

情報収集と発信で、官と民をつなぐ

官民連携の可能性

安田龍司=聞き手 編集部=文と写真
flyfisher photo

はじめに

中村圭吾さんには福井河川国道事務所長をされていた時から河川環境などについていろいろこ相談をさせていただいているのだが、その豊富な知見知識には毎回感心するばかりだ。

今回の内容も国内はもとより、海外の事例など大変興味深いものであった。河川環境には治水、利水、流域経済、そして生態系など様々な要素が関係しており、さらに河川管理者も国と都道府県に分かれている。このため河川環境を市民レベルで保全改善することはハードルが高いと思われがちである。

しかし現在ではさまざまな目的と手法により多くの取り組みが行なわれており、リバーフロント研究所ではそれらの事例紹介だけでなく、官民連携の可能性についても考えられている。今回のインタビューが、釣り人だけでなく、河川環境に感心のある人々の行動に繋がれば幸いだ。(安田龍司)

 

 

研究と行政の二刀流

安田 中村さんはさまざまな役職を経験されているとのことですが、まずは職歴といいますか、これまでどのようなことをされてきたのか、お聞かせいただけますか。

中村 平成6年に大学を卒業したあと、今の国交省、当時の建設省に入省しました。研究所を希望したというわけではないのですけれど、たまたま最初の赴任先が土木研究所というところでした。当時は「多自然型川づくり」が始まって間もないタイミングで、それを研究する河川環境研究室というところに入りました。これは新しい分野で、あまり先人もいないのでのびのびと楽しくやっているうちに「なんか面白いな」と。スイスの連邦工科大に1年客員研究員で行かせていただいたりもしました。役所の人間ではあるのですが、河川環境分野の研究をわりと長くやっているという感じですね。あとは、国交本省の課長補佐という形で砂防計画課と、また河川計画課のほうも、トータルで4年くらい経験させていただいて、そのあと1 回、つくば市にあります国土技術政策総合研究所、国総研というところにも4 年ほどいました。その後福井河川国道事務所長、いわゆる国交省の福井支店ですかね。そこの支店長みたいな感じで事務所長をさせていただきました。その時に安田さんと面識を得させていただきましたね。河川環境を中心として研究分野が長いのですけれども、行政での現場や本省も経験させていただいています。研究と行政の両方を経験させていただいているというところが特徴かなと思います。

 

安田 まさに二刀流ですね。

中村 最近では、河川環境を軸にグリーンインフラとか、もう少し、環境が広がっていくような事案も含めていろいろなことをやっています。「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」という組織があるのですが、その技術部会の部会長なんかもやらせていただいていまして、河川にかかわらずまちづくりなど、総合的な分野で環境に関わることをいろいろとやっているという感じですね。そして昨年度から、公益財団法人リバーフロント研究所に来ています。こはシンクタンク的な研究所になりまして、河川環境を軸にまちづくりも含めて政策的な面から検討しています。たとえば流域で何か取り組むのに、公と民の連携する官民連携の方策を探ったりしています。資金の調達に関しても、普通は公共事業というと公の予算でやるのですけれども、それだけでなく、民間と資金をブレンドするようなやり方とかですね。今、世界でそういうことも増えてきているのです。官民連携をマンパワーだけではなくて、資金面でやっていく。そういうこともいろいろと検討しています。

 

 

公益財団法人リバーフロント研究所

安田 具体的な活動はどのようなものになるのでしょうか。

中村 たとえば海外ではこんな事例があるとか、国内でも面白い先進的事例を勉強して発信したり、情報共有をしたりということもやっています。河川だけでなく流域全体を、官民連携をしながら、安全で自然も豊かで、かつその流域自体が経済的にもにぎやかになるようなテーマを中心にやっているという感じですね。

 

安田 治水と環境、それから地域の経済。この3つを総合的に考えていきましょうということですね。

中村 はい。そういう意味では、グリーンインフラとはかなり近いです。去年検討したものでも、現場で官民が連携してやっている事例ってけっこうあるのです。安田さんがやっておられるようなNPO法人や企業と連携しているというのもあります。これにはやはりいろいるな形態がありまして、ある工場では企業とNPOで敷地内の水辺整備をした事例もあります。また、徳島のほうでは、酒造会社が水田ビオトープという、生き物がいっぱいいるような水田を作って、その水田の米でお酒を造って、それにプレミアムを付けて販売して、その収益の一部をNPOに渡して、それでコウノトリの保全に役立てる、といったような事例もあります。ちょっと複雑ですが、最近では、「ソーシャル・インパクト・ボンド」という新しい金融手法を使って、自分たちで魚道を作ったりもしています。そういう新しい事例を調べて、どんなパターンがあるかとか、お金の出入りとかを発信しています。

 

安田 そういう事例や取り組みなどは、一般の人たちがばらばらに立ち上げていたものを、リバーフロント研究所で、「あ、ここに面白い人たちがいる」という感じで見つけているということなのでしょうか。

中村 そうですね。一般の人というか、基本的に民間企業の取り組みが多いですけれど、そういうものをネット情報や、個人的な人脈などから、情報がけっこう入ってきます。また、そういうことをやっている企業って、同業他社も似たようなことをやっている場合も多いので芋づる式に……。

 

安田 なるほど(笑)。

中村 ネットだけだと、情報が限られてしまいますからね。

 

安田 いろんな取り組みを行なっていても、そのすべてがネットに上がっているわけでもないですしね。

中村 そうなんです。自分はこれまで河川環境について全般にやってきているので、いろいろな知り合いもいます。そういう人脈も活用しながら調べています。

 

安田 中村さんたちが調べられた事例などを、外部にアドバイスするようなこともされたりするのでしょうか。「あっちでこんなことをやっていたから、こっちでもうまくいくかもしれません」というような。

中村 はい。この間、北海道の十勝川で自然再生の委員会があって、ある事例の成果を発表させていただきました。そこで話した内容は今年のリバーフロント研究所の報告書としてまもなく出版される予定です。シンクタンクなのでそういう形で発信するのも仕事のひとつです。

 

 

まずは知ることが重要

安田 なるほど。その情報発信というのはどういう形態が多いのでしょうか。

中村 そうですね。報告書であったり、ウェブセミナーというのもあります。昨年は、イギリスでやっている「生物多様性ネットゲイン」という政策を調べて、報告書にまとめました。これに関しては、リバーフロント研究所のウェブセミナーで報告もしました。

 

安田 ウェブセミナーはアーカイブで、以前のセミナーもさかのぼって見ることができますね。

中村 そうですね。最近は外にも出すようにしているので、ネットでも見られるようにしています。

 

安田 私もウェブセミナーにときどき参加させていただきますが、大変参考になります。そこからヒントを得て、試しにやってみようということもあります。

中村 報告書はもちろん紙の資料として大事なのですけれど、ウェブセミナーはなるべく短めに、20分くらいでやったりしています。多自然川づくりのセミナーは、ふた月に1回くらいやっています。それも、みんな参加しやすいように夕方1時間だけでサッとやってサッと終わるという。

 

安田 ウェブセミナーは一般の人でも参加できますよね。

中村 全然大丈夫です。この分野は動画情報がまだ多くないので、そういうことをやることによってアーカイブを増やしていきたいと考えています。専門的な内容も多いのですが、今まで見たことのない方も、アーカイブでいいので見ていただきたいですね。

 

安田 そうですね。河川工事について、作る側の考えを知ることは大変重要だと思います。たとえば釣り人であったら、自分たちが通っている川で、昔はたくさん魚がいたけれど今は少なくなったとしたら、「それにはこんな問題がありそうだな」と思った時に参考にすることもできると思います。実際に私もすこく勉強させていただいております。

中村 セミナーも一般の方の参加はまだ少ないですからね。だいたいの参加者は、環境をやっている建設コンサルタントの人、あとは河川管理者、公の人ですね。

 

安田 やはりまずは知ることが大切だと思います。

中村 そうですね。「先端的なところではこんなこともやっているんだ」と知っていただけるだけでもかなり違うと思います。それをきっかけに、自分のところで問題があれば頑張ろうよと、役所の方を励ましてもらうのもありじゃないかなと思います。

 

安田 釣りをする人たちというのは、やはり川や魚が大好きなのですけれど、こういう言い方が正しいかどうかはわかりませんが、ある意味被害者意識があって、「護岸工事をするとか、堰堤を造る人とは話が通じない」と考えているところがあったりします。従来の古いタイプの治水目的の河川工事の場合、護岸をがっちりコンクリー卜で固めてしまって、生物の生息環境として適さないという事例は確かにあったと思います。でもそれは過去の話であって、現在はそうではなく、もちろん治水もするけれど、環境の保全改善も行なっているという事実を、知らない人が非常に多いと感じています。

中村 そもそも河川法という、河川管理に関するいちばん大事な法律があるのです。そこでは河川環境は、「配慮」ではなくて、「目的」なのですよね。治水も目的だし、利水も目的だし、「河川環境の整備と保全」といっていますけれど、これも目的です。ですから河川環境はそもそもの河川管理の目的なのです。それを、いかに徹底させていくかということが課題なのですよね。とはいえ、河川行政としては、やはり治水は人の命にかかわるので、治水と環境をはかりにかけるとどうしても治水偏重という部分が出てしまいます。特に渓流みたいなところだと、水の流れも強いですし。

 

安田 そうですよね。

中村 大きい石も転がってくるので、そこを守るにはつい硬い構造物になりがちです。もうちょっと中流のほうへいったら、やりようがあるのかもしれないですけれど。特に渓流は、技術的にもとても難しいのですけれど、その中でも、いろいろうまく石組みでやろうとか、なるべくコンクリートを入れないようにするとか、現地で発生した石をあまり取らないようにして、それをうまく使いながら、河岸を守っていこうという努力をしている例もあるのですよ。ただ、このように自然をうまく活用したような方法だと、実際は理論がまだちょっと確立していないところもあるのですよね。

 

 

ドイツの河川マイスター

中村 この前視察したドイツのバイエルン州には、「河川マイスター」という制度があるのです。川の技術職人なのですよね。ちゃんと先輩のもとについて、研修して、オンジョブで研修して、さらに試験を通って、新人、河川マイスターになってという。

 

flyfisher photo

ドイツ・バイエルン州ミュンヘンを流れるイザール川の自然石による多段式落差工(photo:Keigo Nakamura)

 

flyfisher photo

右/ドイツ・パイエルン州ハンマーズパッハ川(photo:Keigo Nakamura)

左/ドイツ・バイエルン州ロイザッハ川の自然石を使った堰(photo:Keigo Nakamura)

 

安田 すこいですね。ちゃんと修業する過程があるとは。

中村 そうですよね。日本でいう専門学校のようなところで、机上の勉強はしっかり2 年くらいやったうえで、日本でいうところの河川事務所で先輩河川マイスターに付いて、書類も現場の見方も、いろんなコーディネー卜の仕方とか、そういうのを15ヵ月間みっちり教えられて、さらに厳しいテストがあって、それを通って一応、新人河川マイスターとなります。彼らは、単に河川の治水だけではなくて、水質だとか環境だとか、幅広く勉強しているのですよね。だから自然環境のことも理解している感じです。バイエルン州で200~300人いるとか。

 

安田 そんなにいるのですか。それは心強いですね。

中村 そして結構よい川づくりをやっているのですよ。写真見てもらうと感動しますよ。これを話しだしたら、1時間半かかっちゃうのですけど(笑)。日本だって河川事務所に河川技術者、いっぱいいるじゃないですか。そういう意味では、一緒なのです。ただ、環境も景観もわかる人は少ないですね。専門性を極めるという技術に対する考え方が、ドイツと日本ではちょっと違うかもしれないですね。

 

安田 河川管理者の人は、河川工学の知識や技術は当然あるでしょうけれど、これからは躁境や生物の知識も求められてくるのでしょうね。こういうことに関しては、やはりドイツが最先端なのでしょうか。

中村 そうですね。ドイツ南部のバイエルン州、スイスあたりが進んでいると思います。ちなみに……、河川マイスターは昔からあるみたいです。その原型は17世紀と書いてありますよ。

 

スイス・ベルン州アーレ川。首都ベルン市とトゥーン市との間の30km 区間で洪水防水対策と再自然化を実施。1kmの長さ渡り川幅を30~50m広げ、分水路を作った(photo:Keigo Nakamura)

スイス・ベルン州アーレ川。首都ベルン市とトゥーン市との間の30km 区間で洪水防水対策と再自然化を実施。1kmの長さ渡り川幅を30~50m広げ、分水路を作った(photo:Keigo Nakamura)

 

安田 えぇーっ。

中村 EUは「これだけの川をちゃんとモニタリングして、これだけよくしていきましょう」という目標をしっかり立てているので、そこは日本は、ちょっとまだ弱いかな。日本もそういうことをしたいねという話なんです。先ほども少しお話ししましたが、たとえば河川法では、河川環境の整備と保全って、どれだけやるのか、ということは決めていないんですよ。

 

安田 なるほど。

中村たとえば、スイスも同じようなことは書いてあるのですけれど、「やりますよ」ということに基づいて、「具体的これだけやりましょう」ということも結構決めたりしているのですよね。

 

安田 具体的なのですね。

中村 スイスには水域保護法というものがありまして、「自然再生をちゃんとやりましょう」と明記されていて、国内の河川のうち、1万4000kmくらいが、結構悪い、よくない川だといわれていて、「そのうち4000kmを2090年までに再生します」ということを政府決定しているのです。

 

安田 具体性がすこいですね。必要な資金は国が出します、ということでしょうか?

中村 この、「必要な資金は国が出します」というのにも若干裏があって。電気料金に上乗せしているのです。

 

安田 電気料金ですか。

中村 はい。電気料金に自然再生のための資金を上乗せして、その電力会社が国に払っているということです。実質は増税しているのですね。でもそれは国民もOK。

 

安田 環境保護税みたいなものですね。

中村 そうです。森林保護税ならぬ、水域環境保護税みたいなものです。この法律の制定自体は1971 年なのですけれど、2011 年に改正される前に、国民のほうから、「こう変えるべきだ」「悪い川は全部再生すべきだ」と、国民発議での原案だったのです。で、政府が計算してみて、「全部の河川は無理だ」と(笑)。

 

安田 なるほど(笑)。

中村 で、まあ現実的なところで2090年まで4000kmを再生するという形に落ち着いたようです。

 

安田 でも、驚くのは国民の意識の高さですね。

中村 そうですね。そこが違うのです。スイスとかドイツ、特にドイツは南のバイエルンですね。非常に国民の意識が高いですね。

 

安田 素晴らしいですね。やはり日本でも環境を守るための法律や手法があるということをもっと広く、多くの人に知ってもらって、たとえば近隣で河川工事が始まるということになったら、その河川管理者に対して地域住民からも、「環境のためにこういうことをしてほしい」という要望が出るくらいまでにならないと、なかなか本質的なところまで到達できないような気がします。

中村 もっと地域で河川管理者を鍛えてもらって。だって河川法にそう書いてあるじゃない。あなた方は公務員でしょうと。その法律に従ってやるのでしようって。確かにそのように言われたらプレッシャーが掛かりますけれど、でもそのとおりなんですよね。なので、そこはできる限り、河川環境が保全されたり、よくなるような工法を取るべきだし、それが法律上の義務なので。安田技術的ノウハウやモニタリングデー夕が蓄積され工法が改善されていくと、治水にとってもメリットがあるでしょうし、環境をよくするということは、回りまわって治水のための予算削減効果もあるのではないでしょうか。

 

安田 技術的ノウハウやモニタリングデー夕が蓄積され工法が改善されていくと、治水にとってもメリットがあるでしょうし、環境をよくするということは、回りまわって治水のための予算削減効果もあるのではないでしょうか。

中村 しかも日本は人口減少社会じゃないですか。ちょっと乱暴に、ざっくりいうと、水が溢れてもいい土地が増えるので、そこは溢れさせて、そのぶん、治水は最小限というか川の中の工事は最小限にするということもできると思います。

 

安田 これからは税収が減る可能性もあるわけですから、治水や環境対策も考えていかないといけませんね。そうなると、このリバーフロント研究所の役割というのは、より重要になっていきますね。

中村 そうですね。公益財団法人なので官と民の中間というか、両者のつなぎ目の中間支援団体的な立ち位置ですから。まあそんなに組織は大きくないのですけれど(笑)。

 

 

小さな自然再生

安田 リバーフロント研究所でやられている「小さな自然再生」というプロジェクトに関してお伺いしたいのです。

中村河川環境って人間の身体にたとえると、小さな川がいわば毛細血管。その毛細血管が元気になることによって流域全体が元気になる、ということもあるのです。福井県の九頭竜川みたいな大河川の工事を一般の方に、というのは難しいですけれど毛細血管のところの、ちょっとある段差をもう少し簡易に魚道を作って繋ぐとか、ちょっと水際を複雑にするということくらいであれば、地元の市民レベルでちょっとずつやって、小さくてもいいから身近な水辺を自然再生していこうということが、この「小さな自然再生」というプロジェクトです。冊子も出したり、しっかりしたホームページも立ち上げて、いろいろな事例を紹介したりしています。「小さな自然再生」は情報発信も頑張っていると思います。

 

安田 ちょっと語弊があるかもしれないけれど、小規模だと水遊び感覚で楽しみながらやれることって、けっこうたくさんありますよね。

中村 そうなのですよ。だから参加している子どもたちとかは、遊んでいるんだか何だかっていう感じで楽しそうですよ。

 

flyfisher photo

小さな自然再生、茨城県霞ケ浦での事例。釣り人が中心となり、小魚の貴重な生息場である小さな水路と霞ケ浦本湖とを行き来できる魚の通り道を手づくりで工事(photo:Akira Wada)

 

 

安田 このプロジェクトは、地域の人々やNPO をはじめ、民間レベルで小規模のものだから、それぞれ個性的なやり方もあると思うのですけれど、その中に優れた技術もあるでしょうし、そういうことが「小さな自然再生」を通じて広がっていくということは身近な水辺の自然再生に対してすこくメリットがありそうですね。

中村 技術的なこと以外でも、いろんなノウハウってあるじゃないですか。人の組み方とか、コーディネートの仕方とか、現場で盛り上げる方法とか。そういうノウハウもだんだんとたまってきているので、そういうこともけっこう大事なのじゃないかなと思いますね。とはいえ、それほど特別なことはやっていないと思うので、現場を1 回見たら、そのあとはもう同じゃり方で拡大再生産が可能ですしね。

 

安田 この「小さな自然再生」は、民間の人、地域の人、あるいは釣り人とかでやっている例が多いと思うのですけれど、そこに企業なり、行政も加わっている場合もあるのですか。資金的な面も含めて。

中村 企業の人がそのメンバーに加わっていることは多いと思います。公務員はそういう地域の取り組みがあると市民の活動を見にいって、ついでに自分も一市民として参加している人は多いと思いますし、実際の活動のおぜん立ての部分では、現場の県庁だったり河川の事務所だったりが手伝うことは多いですね。資金的な面でお話すると、これは小さな自然再生とは異なる事例なのですが、私が福井県に赴任していた時に、市民の手による川の利活用のための「ナミノバ」というカヌーの練習場をつくるための工事をやったのです。それは市民による工事で、お金も全部クラウドファンディングで300 万円くらい集まって。地元の業者さんとかが、コンクリートブロックなどいろいろと協力してやってくれて。まったく市民だけによる、あれだけの工事って意外と全国でも珍しいと思います。一切公費は入っていないので。福井は地元愛の強い人も多いし、社長さんもけっこう多いので、ちょっとしたお金が自由になる人がわりといたこともありますし、もちろんプ旦プュースした人がよかったのだと思いますが。

 

安田 それはすごいですね。ということは、河川管理者は許可をするだけですか。

中村 そうです。県とあと関連だったら北陸電力だと思うのですけれど。そこが許可を出すだけだと思いますね。もちろん、見守ってはいましたが、今後ますます、企業も環境に対しての意識が高まるでしょうし、何よりも国際情勢がそうなってきていますから。ちよっとしたことであれば、企業もサポートしてくれる土壌というのは、今どんどん整っているので、そことノウハウを持っているNPO が組んで、公のほうは、それを許可するとか……。要はやはり官民連携なんです。これまでは河川管理というと、お金もやることも、全部公だというところから、だんだんとお金も、やる体制も、官民がブレンドするような時代になってきています。そのほうが現場も盛り上がるでしょうし。

 

安田 ということは、計画さえしっかりしていれば、たとえば直轄のところなどの許可は以前より出やすくなっている感じでしょうか

中村 そういう意味では、民のほうが、「こういうことをやりたい」と言ったら、公のほうも、「じゃ、ちょっと相談しましょう」という態度になってきていると思います。お金の調達についても個人で支援や投資してくれる方もけっこういらっしゃいますよ。「自分が出したお金でその地域がよくなるのだったら出します」という方々が。

 

安田 そうでしょうね。

中村 それが実はけっこう重要で、意欲のある地元の人が、「そういうことなら、自分がひと肌脱ぐ」と思ってくれるようなよいプログラムを組めば、「小さな自然再生」くらいの予算規模だとあっという間に集まると思います。先ほどの九頭竜川の「ナミノバ」の際は「300 万円ってこんな簡単に……?」って(笑)。超ハイペースであっという間に集まって感動しました。

 

安田 面白いお話ですね。こういう活動を始める際に、「ここを押さえておかないとなかなかうまくいかないよ」みたいなことはありますか。

中村 ある程度、活動母体はあったほうがよいですよね。たとえば安田さんが「なんかやりたいんだよね」つていらっしゃって、「われわれサクラマスレストレーションっていう団体で、これだけのサポーターがいて、こういう実績もありますよ」ということであれば、わりとやりやすいと思いますけれど、その活動母体も3 人くらいしかいなくて、「過去3 年何もやっていません」と言われると、なかなかちょっと……。ときどき、おひとりで、「家の前の水路を何とかしたいんで」っていう人もいたりするのです。「どうしたいのですか?」ってお聞きすると「どうしたいというのはわからない」。「仲間はいらっしゃいますか?」と聞けば、「いや、仲間もいないんだけれど」みたいにボンヤリしている感じだと、そこから支援するのは結構大変なのですが……。

 

安田 そういう事例もあるのですね。でも、そういう気持ちを持ってもらえるということ自体はよいことですよね

中村 そうなのです。だから、「そういうお話なら、こういう団体もあるから、そういうところにちょっと連絡とってみたらどうですか」と。各地に地元で動いている母体ってそれなりにあるのですよね。困った時は「リバフロサポー卜センター」に相談するのが一番早いですね(笑)。

 

安田 そういう部署もあるのですね。

中村 そうなんです。リバーフロント研究所の活動として、「もし、困ったことがあったら相談してください」というようなサポートもやっています。

 

安田 内水面の漁協さんが「こういうことをやりたい」と相談するのもありですよね。

中村 リバフロサポートセンターでは、団体でも個人でも特に制限はありません。人脈もあるのでそれを使って、役所と仲介したり、関連する団体を紹介したり、適切に指導をして現場がうまく動き出したこともあります。カウンセリングみたいなものでしょうかね。結局、相談しに来る人は、「なんとか解決したい」という思いがあるので、その実現のお手伝いをしたいと考えています。

 

 

 

 

2024/4/10

最新号 2024年6月号 Early Summer

【特集】拝見! ベストorバッグの中身

今号はエキスパートたちのベスト/バッグの中身を見させていただきました。みなさんそれぞれに工夫や思い入れが詰まっており、参考になるアイテムや収納法がきっといくつか見つかるはずです。

「タイトループ」セクションはアメリカン・フライタイイングの今をスコット・サンチェスさんに語っていただいております。ジグフックをドライに使う、小型化するフォームフライなど、最先端の情報を教えていただきました。

前号からお伝えしておりますが、今年度、小誌は創刊35周年を迎えております。読者の皆様とスポンサー企業様のおかげでここまで続けることができました。ありがとうございます!


Amazon 楽天ブックス ヨドバシ.com

 

NOW LOADING