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福井県での横断的連携による環境保全

農林、土木、水産、大学の横断的連携

安田龍司=聞き手 編集部=文と写真
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はじめに

今回は福井県で行なわれている、横断的連携による環境保全への取り組みについて、野尻さん、米津さん、橋本さんに大変お忙しい中お集まりいただき、お話を伺った。福井県では、土木、農業土木、内水面総合センター、福井県立大学(田原大輔教授)、とそれぞれ立場が異なる部局による横断的連携により、河川環境などの保全、改善が行なわれている。そのために工事計画やモニタリングなどの情報を共有して事前に協議を行ない、施工方法や期間、保全区域、改善方法などが検討され、現地視察による確認も欠かさない。河畔林保全、連続性改善、河床環境改善などが主な実施例であるが、これらは水生生物はもちろん、鳥類などにも効果があると考えられ、豊かな生態系へと繋がることが期待される。サクラマスレストレーションの活動では水生生物が中心になりがちであるが、このような取り組みに参加させていただくことで、生物だけではなく治水、利水など多面的に河川環境を考える大切さを再認識している。最後に日々の業務で大変お忙しいにも関わらず、さらに環境保全にも尽力していただいている皆様に、この場をお借りして感謝申し上げたい。

 

 

土木、農林、水産の担当が集う

安田 皆さん今日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうこざいます。まずは皆さんのプロフィ—ルなどを伺えますでしょうか。

野尻 私は福井県の土木技術職員として、福井県の発展、安心、安全を確保するため、県内各地でインフラ整備などを行なっています。具体的には道路や下水道など、県民生活や経済活動に必要な都市基盤を造ったり、河川、海岸そして砂防など自然災害から命や財産を守るための防災関連の事業に携わっております。今は奥越土木事務所で、主に土木工事の監督や関係機関との調整などを行なっています

米津 私は福井県奥越農林総合事務所に所属しています。仕事の内容は土木なのですが、土地改良事業といいまして、田んぼの基盤整備、用水路や排水路を造ったりしています。今回こ縁があったのは、川から農業用水を取水するための堰の改修の工事担当として携わらせていただきました。

橋本 私は福井県内水面総合センターに所属しています。出身は京都府の舞鶴市です。兄や親戚の影響を受け、小さい頃から魚や川、釣りが好きでした。ありがちなのですが、某釣りマンガにハマって読みまくって、そういう大学に行って、こういう仕事に就いたということになります(笑)。いちばん最初は水産試験場に配属されて海の仕事をしていました。試験場ではブリやスルメイカ、ズワイガニなどの資源調査を担当していました。現在所属している内水面総合センタ—は、内水面漁業の振興を目的とした調査・研究や、一般の方に対して内水面に関する知識の普及啓発を行なっている組織です。アユだけではなく、以前はサクラマスやアラレガコ、アジメドジョウを対象とした研究も実施していました。現在の私の主な仕事は、アユの資源調査になります。簡単にいいますと、アユの遡上が多いか少ないかなどを調査して、漁協に情報提供をするというようなことです。

 

新設された農業用取水堰堤

米津さんが話題にしている新設された農業用取水堰堤。遡上してきた魚を魚道に誘尊するように、堰堤の角度が工夫されている。米津さんが担当する分野ではここまで要求されることはないと想像するが、堰堤を作る側の方々にとっても環境への思いは同じ

 

魚道が機能している証拠

農業用取水堰堤の上流でサクラマスの産卵床を確認。魚道が機能している証拠だ

 

 

治水、利水と環境保全のバランス

安田 それではさっそくですが、河川工事についてお伺いしたいと思います。

野尻 大きな枠組みから話をさせてもらいますと、1つ目は治水です。災害の防止や軽減ですね。2 つ目は利水、農業、工業用水の適正な利用や流水が正常に働くようにするということです。以前はこの2 本柱を重点的に河川開発というものが行なわれてきましたが、河川の生態系の損失などが懸念されるようになり、河川法が平成9 年に改正されまして、環境保全という項目も加わり3 本柱になりました。環境の面でいうと「多自然川づくり」というガイドラインがありまして、それに則って優良事例などを参考にしながら奥越の川づくりを行なっているところです。

 

安田 河川工事の際には環境や生物にたいして配慮や対策をすることがあるかと思うのですが、事前に調査をしたり、情報共有などはされているのでしょうか。

野尻 環境情報図というものを作っておりまして、川の中で貴重種の生息場を把握して工事を実施しています。ただもっとローカルな状況は把握しかねるところもありますので、安田さんや福井県立大学の田原大輔先生、そして野鳥の会などに情報提供やご助言をいただきながら、河川工事のやり方や場所など工夫をさせてやらせてもらっています。

 

安田 工事の目的が治水であれば、それを最優先にすべきだと思いますが、保全区域などはやはり事前に検討して決めているのでしょうか。

野尻 そうですね。浸水被害の恐れのあるところは当然、治水工事が優先されます。ただし、環境配慮の工法を可能な限り選定したり、治水目標が達成される必要最小限の範囲にするなどの配慮は行なうようにしています。

 

サクラマスが産卵しやすい環境を少しでも維持できる

河川整備で樹木を伐採する際、防災上の安全性を確認してから左岸側の樹木数本残す。こうすることでサクラマスが産卵しやすい環境を少しでも維持できる。奥越土木事務所の配慮

 

安田 上流域・中流域・下流域で河床勾配は変化しますが、それぞれに適したエ法や配慮の仕方も変わってくるのでしょうか。

野尻 そうですね。上流から下流までを考えると、河道の形や流速・水深といった自然環境が変化し、その結果、生息する生物も異なるので、河川改修における配慮の仕方も変わります。たとえば、大河川下流域の低平地で、高水敷が広い河川で河道掘削を実施する場合は、工事によって通年で高水敷が冠水する頻度も変わってきます。それによりワンドや溜まりといった水際の環境が創出されますので、掘削後の高さをどう設定すべきなのか、というようなアプローチの仕方をしています。一方、上流域の河川では、高水敷幅は狭くなり、急流となる傾向があるので、みお筋を蛇行させて瀬や淵の構造を確保することを考えたりします。「多自然川づくり」では、河川全体の自然の営みを視野に入れ、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境や多様な河川風景を保全・創出することを目指しているため、個々の河川の特性や本来あるべき姿を把握し、それに適した工法や配慮の仕方を選ぶことが大切だと考えています

 

安田 なるほど、ありがとうこざいます。それでは米津さん、支川での農業用の取水堰は計画段階から、環境への配慮を検討されているのでしょうか。

米津 そうですね、事例としては、もともと河川の中に石積みの堰がありまして、それが老朽化したので県で改修工事をすることになりました。事業開始後は、堰本体の改修計画の設計に合わせて環境配慮をどうするか、特に魚道をどう造るかということでした。設計と同時に魚類の調査を行ない、堰の上流側、下流側にどういう魚類がいるのかを調査しました。また元々魚道があったのが壊れていましたが、どうやら遡上をしているということで、遡上調査も行なっています。そういう調査を2 年行ない、その結果をもとに、魚道の形状の選定に入りました。魚道を決定するにあたっては、各方面の関係者、土木や治水の方々、利水者となる農業、土地改良の方々、漁協の方々、学識経験者などの方々で構成された「環境協議会」を設置して、それぞれ立場の違う皆さんの意見をお聞きして魚道の設計に生かしています。工事が終わった後も、工事前とその後でどうなったかをモニタリング調査をしています。

 

安田 魚道など、環境や生物への配慮の必要性を理解していただくことも大切なことですね。

米津 そうですね。でもその地域の方々なので、将来にも魚がいる環境を残すことを提案し、さまざまな立場の方々からも了承いただけました

 

 

水産の調査

安田 なるほど、それはよいですね。では橋本さん、アユの調査について伺いたいのですが、どのような調査を行っているのでしょうか。

橋本 私が担当しているアユの調査は大きく3 つあります。まず春先に実施する遡上稚魚調査、秋から冬にかけて実施する降下仔魚調査、それと海域調査です。いずれの調査も九頭竜川と敦賀市の笙の川で行なっています。遡上稚魚調査は例年3 月中旬から6 月上旬まで実施します。週1 回、河口域に小型の定置網を24時間設置して、捕れたアユを数えたり、大きさを測ったり、耳石を解析して生まれた日を推定したりしています。次に降下仔魚調査ですが、アユの赤ちゃんが生まれて川を下って海に流れる時期、10月中旬頃から12月上旬頃まで各旬1 回実施します。1 回の調査につき、18時、20時、22時の3 回、九頭竜川では5 分、笙の川では2 分、川の中にプランクトンネットを設置してアユの仔魚を採集します。そして仔魚が流れる時期、数、大きさ、それから謄嚢(さいのう)の大きさなどを調べています。最後に海域調査ですが、これは10月から12月に月1 回、船舶を使用して河口や海域で実施します。口径80cm の稚魚ネットで表層を水平方向に5 分間曳いて仔魚を採集し、分布状況を調べます。同時にプランクトンネットでエサとなる生物の種類や量、また水温や塩分、潮流などを調べます。これらの調査は、アユの資源量や資源動向を把握することを目的にしています。他県でも同じだと思いますが、福井県内の内水面漁協は、釣り人にたくさん来てもらい、アユを釣ってもらい、遊漁券を買ってもらって収入を得るという経営がほとんどなので、いちばん気にされるのはやはりアユの資源量、つまり遡上量なのです。「今年は多いのか少ないのか、早いのか遅いのか」ということです。私が担当している調査は、「来年は多そうですよ」とか「来年はちょっとダメかもしれません」ということを予測し、その情報をなるべく早い時期に漁協に提供することも目的の1 つですが、遡上量を予測することはとてもむずかしく、特に日本海側では秋に海に下った仔魚が多ければ翌年の遡上が多いというわけではないのです。このような調査を継続してデータを集め、環境要因と遡上量との関連性を検討することによって、少しずつですが、次の年の遡上量を予測することが可能になってきました。遡上の多い年、少ない年の特徴もわかってきましこ

 

安田 降下仔魚調査は1回5分の調査ということですが、1 回で何尾くらい入っているものなのでしょう?また大きさはどのくらいでしょうか?

橋本 九頭竜川の場合、口径45cm のプランクトンネットを5 分間川に入れておくと、6~7mmの孵化仔魚が少ないときは数尾、多いときは2000~3000 尾入ります。

 

安田 それを数えるのですか……?

橋本 数えます……(笑)。アユの仔魚は透明なのですが、エタノ—ルに浸しておくと真っ白になります。川で採集してきたサンプルを計数用の皿に広げた時、仔魚で真っ白になったりすると「これを数えなければならないのか……」と気が遠くなります

 

安田 それは大変ですね。ところで近年、秋に渇水することが多いように思うのですが、流量が減少すると孵化仔魚の降下にも影響が出そうですね。

橋本 影響はあると思います。あまりに流量が少ないと、エサが豊富な海域に流れるまでに餓死してしまう仔魚がでてくる可能性があります。しかし雨の降る量は人間の力では調整できないことなので、こんなこと言ってよいのかわかりませんが、渇水時にはダムの放水量を少しだけ増やすとか、人工産卵場をもう少し下流に造るとか、何らかの取り組みが必要になってくるかもしれないですね。

 

安田 そうですね。それから降下仔魚の量と翌年の遡上量に相関関係があまり見えてこないということを以前伺いました。

橋本 はい。相関がないということは、海での生き残りがいちばん大きく効いてくるということです。相関はなくても、やはりたくさんの仔魚が海に下らないことには、海での生き残りも増えないわけですからね。ちゃんと産卵場を維持管理して、ちゃんと仔魚が海まで流れるようにするなど、正常な産卵行動が取れるような環境にするのがいちばん大事ですし、気をつけていかなければならないことだと思います。

 

 

サクラマスの産卵

安田 そうですね。サクラマスの調査研究についてはいかがでしょう

橋本 サクラマスに関しては、研究事業としては令和2年度で終了しています。九頭竜川はサクラマス釣り発祥の地として「サクラマスの聖地」と呼ばれていますが、サクラマスは一時「幻の魚」といわれるほど資源が減少しました。県では、安田さんや漁協の皆さんのカをお借りして、サクラマスの再生産を促進させようという取り組みを行なってきました。少し古い取り組みとしては、サクラマスが上れない既設の魚道に鉄管などで作った簡易魚道を設置して、サクラマスが遡上できるようにしたり、産卵場の礫が不足している場合は、礫が流失しないような人工産卵床を設置したりしました。私が直接関わった取り組みとしては、サクラマスの越夏場所、夏を越す場所ですね、それと産卵場となる場所の探索を3年間実施しました。越夏場所の探索には、サクラマスに小型の発信器を着けて放流し、その電波を受信するというバイオテレメトリーの技術を活用しました。サクラマスのお腹の中に電波を発信するセンサーを埋めて放流し、車に受信アンテナを立てて川沿いを走り、電波を追いかけます。受信した電波の強さや方向で、サクラマスの大まかな居場所がわかるという仕組みです。電波の強い場所では受信アンテナを持ちながら歩いて水辺に近づき、発信源をより詳細に探索したり、河川環境を確認したり、事前に作成した比蕎区分図などと比較したりしながらサクラマスの越夏場所を特定します。

 

安田 それは個体識別もできるのでしょうか?

橋本 発信器の周波数を変えることにより、個体識別も可能です。個体ごとに受信場所を定期的に記録していくと、移動状況や最終的に留まった場所、つまり越夏場所を特定することができます。越夏場所の多くは、淵や立木に接した岸よりの深い所、落差工の落ち込みなど、深く流れの穏やかな場所に形成されていました。産卵場調査では、ドロ—ンを活用することによって産卵場を特定することができましたし、産卵行動を取る親魚も確認できました。産卵場は、川幅が狭く水深が浅い所、草や立木などに覆われている所、大きな川では中州や河畔林のある細い分枝流のような所、川の中央では大きい岩の隙間にあるわずかな礫に形成されていました。これらの調査により、サクラマスの自然再生産を促進させるために守らなければならない環境条件を把握することができました。

 

安田 ドロ—ンで得たGPSデ—夕をスマホに落として活用できるようになったのは革新的と言っていいくらい、楽に調査できるようになりましたね。

橋本 それまでは目視で探していましたからね。

 

安田 「あるかもしれない」と延々3時間歩いても1個もないとか。そういう調査を長年やってきましたからね。

橋本 効率化するためにはすこくいい道具ですよね。

 

手作業で調整、補強する

 

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水害後の浚渫工事の際に、現地材料を利用し重機でバーブ工の基礎を置き、その後細部を手作業で調整、補強する

 

パーブエを計測

完成したパーブエを計測。洪水の流れを阻害することなく、流れを複雑化する。福井県では初めての試みだ

 

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産卵調査にはドローンを用いることで効率が飛躍的に向上。各種計測はドローンで得たGPS データをスマホで共有して行なう

 

 

知ってもらうことが重要

安田 皆さんこのようなお仕事をされている中で具体的にはどういったことを意識しているのでしょうか

野尻 土木工事ではどうしても濁水が出てしまうことがあるので、水産課や漁協、サクラマスレストレーションさんに工事の時期などを相談させてもらっています。また、九頭竜川ではアラレガコ(標準和名カマキリ)の生息場が国の天然記念物に指定されているので、文化庁や福井県立大学の田原先生と協議を重ねながら、治水工事とはいえ環境に負荷のかからないように進めています。必要に応じて文化庁の審議会に上げてもらって、その中で学識者の意見を頂戴して個別の工事の計画を作っていきます。

 

安田 工事のたびにそういう確認が必要になると、時間もかかりますね。

橋本 九頭竜川のアラレガコはほかの河川より大きいと言われていますが、「大きくなりうる環境が守られているから」という話を聞いたことがあります。それはこのような配慮があってのことなのでしょうね。

 

米津 今回の堰の改修の際、魚類の調査をしていまして、そこの隣に小学校がありました。社会科の授業の中で「こういう魚がいましたよ」ということをお話しさせていただいたのですが、昔の我々の子どものときの感覚と違っていまして、今の子って「危険だから川に入るな」と大人に言われてしまい、川の生き物のことを知らないのですよね。ですからこちらも「調査をしました。魚道を造りました」というだけでは何にもならない、地域に何も根付かないという反省もありまして、もっと地元へのアウトプットをしていかなくてはいけないなと思いました。行政として「調査をするだけ、工事をするだけ」ではなく「何のためにどういうことをしているのか」を知ってもらえるといいのかなと思います。

安田 そういうことを知ると、故郷というか地元に対する意識も変わってくるでしょうからね。

 

橋本 川に近い小学校が何も知らないというのは、ちょっと寂しいですね。

米津 残念ながらちょっと深くて流れも速かったのです。大人の立場、先生の立場からいうと「入ったらダメ」ということになっちゃいますよね

 

安田 私もサクラマスや河川環境について、学校の授業でお話させていただく機会が多いのですが「川ではこんな楽しい遊びがありますよ」とは絶対言わないようにしています(笑)。本当はそれを知ってほしいですし、そういうことができる環境を作ってあげられたらいいなあとは思うのですけれど。

野尻 多自然川づくりって自然環境や景観だけでなく、親しみやすい川づくりといった点からも、川幅に余裕があれば緩やかな傾斜にして、安全に川に入れるとか、見た目が気持ちいいということも重要だと思います。新しい水辺の活用の可能性を切り開くための官民一体の協働プロジェクトである「ミズベリング」なども含め、土木行政のほうではそういうことも推進しています。

橋本 水産関係でいうと、遊漁人口が減ってきていることもあり、いくつかの漁協では親子釣り大会を開催しています。子供のころから川に親しむという機会を与えてあげないと「川11危ない場所」という認識のみになってしまいますのでね。だから、米津さんがおっしやっていたようにアウトプットってとても大事だと思います。私たちもデータを集めて自己満足で終わるのではなく、調査結果を役立つ情報として使ってもらうところまで考えておかないといけないと思います。「こういう目的のために調査を実施しています」ともっとアピールするといいますか。調査結果に興味を持ってくれる人たちがいるとモチベーションにもなりますし、やっている意義もあるのかなと思います。調査中に一般の方から「何をしているのですか?」と聞かれることもあって、現場でいろいろ話をするのも楽しいんですよ。でも以前、降下仔魚調査で夜に橋の上から網を下ろしていたら、近所の方からの通報でパトカ—が3 台やってきて、お巡りさん6 人に囲まれて「何やってるんですか?」と(笑)。それ以降「調査中」というノボリを立てて「福井県」と書かれたビブスを着るようにしたのですが、その効果は絶大で、「お疲れ様です」と声を掛けてくれるようになりました。調査をやっていく中で「川にはいろんな生き物が住んでいるんだ、自分たちも川を利用している生き物の一種なんだ」と考えるようになりました。そういう視点で川を見てもらえると、いい環境が維持できるのかなと思ったりもします。

 

 

得手、不得手を補完しあえる関係を維持する

安田 釣り人の中には「河川工事11悪」みたいに思っている人も多かったと思います。だからこそ知ってほしいという思いがありました。今の橋本さんのお話のように、人間も生態系の一部なので、川を利用するにしても、遊びの場として活用するにしても、そういうことは常に考るていかなければいけないと思います。そういう点では、福井県の職員の方々は河川環境に関して、すこく連携が取れていて、柔軟に配慮をされているなと強く感じています。私が非常に嬉しく思ったことの1 つに、支川の工事で「この2 本の木だけはサクラマスの産卵にとって大事なので、残してください」とお願いしたら残してもらえたことがあります。「それ本当は取りたいのですけれど」と言われたのですが(笑)。去年はサクラマスの遡上が少なかったのですが、一昨年まではその周辺で産卵するようになっていましたので、あれは本当に嬉しかったですね。

橋本 先ほどの堰改修についても、いちばん最初に米津さんから連絡をもらったときのメモがあるのですが、令和元年8月26日に「皿川の農業用頭首工が老朽化のため改修することになった。ついては生物調査をするから、魚類調査の結果とかサクラマスの産卵床の場所を教えてほしい」という電話をもらったのです。実はそういう連絡をもらったことに驚いて「土木の方って、こちらのことを気にしてくださっているんだ」とすこく嬉しかった記憶があります。ですから部局を横断した連携体制がいい感じに機能してきている結果なのかなと思います。

米津 ありがとうこざいます(笑)。ただ、土木の観点からでは環境への配慮ってはっきりいってしまうと面例くさいのですよ(笑)。でも配慮してやらなくちゃいけないのは当然こちらも認識していますので、「知識がほしいな、助けてほしいな」と思っていたら専門家の方が情報提供をされていたので。

橋本 安田さんや田原先生がクッションというか、接着剤のような役割を担ってくれていることも大きいと思います。土木部局と水産部局だけでやると、たぶん県庁の悪い癖で縦割りの世界で終わっていたかもしれなかったですね。おふたりは私よりも河川環境について非常に多くの情報をお持ちですし、そういう方が土木部局に情報を持っていってくれますから、本当に助かっています。

野尻 そうですね、安田さんのフットワークは軽いですからね。あとは、もしかしたら我々も田舎で昔から川遊びが身近だったりしたこともあるかもしれませんね。河川整備の中で治水の面に限ると、形も変わらなくまっすぐで、木もなくて水路のような川というのが望ましいとされているのですが、いっぽう、自然環境の保全の面からでは、瀬と淵があって流れが蛇行していて、適度な植生もあるというのが望ましいとされます。完全に相反しているのですが、どの場所に重点をおくのか、どのようなやり方があるのかを今日のようにいろいろな専門性を持つ職員が集まり、得手、不得手を補完しあえるような関係性が保てれば、大丈夫かなと思います。

橋本 個人的には子供が川で気軽に遊べるようになるなど、すべての人が川の恩恵をもっと感じることができればなと思います。はじめに言いましたが、内水面総合センタ—には調査・研究のほかに、内水面に関する知識の普及啓発という役割もあります。そのような役割を活かして、一般の方々にもっと川を身近な存在として感じてもらえるようになるといいなと思います。川での体験、川への愛着、川に関する思い出でなどを大切にすると、河川工事の際、どうすれば魚にも人間にもよい工事ができるのかという考えに繋がると思います。

米津 農産の立場からでは、福井県はどんどん人口が減少しているのです。農家も減ってしまい、生産法人などのお米を作りやすい、きれいな田んぼが増えているのですね。そうするとその田んぼにはカエルやホタル、魚などの生き物が住みづらくなってきています。また管理のできない田んぼは、どんどん荒れてしまい、それが川にどう影響を与えるのか、という懸念はありますね。田んぼはダムのような役割も果たしていますから。

 

安田 大雨が降った時に、田んぼに水が溜まらなくなってくると、河川の水位の上昇が早くなったりするのでしょうか?

野尻 そうですね。田んぼの保水機能が喪失されれば、降った雨が短時間で河川に流出してしまい、水位の上昇が早くなることになりますね。また、放棄されて管理がされなくなると、土壌が緩んで崩れやすくなるような心配も出てきます。

 

安田 予想もしない所で斜面が崩れることもあり得るわけですね。

橋本 以前、福井県内水面漁連が、釣り人が本県を訪れることによる経済効果を試算したことがあるのですが、たとえば宿泊、コンビニでの買い物、飲食、ガソリンなどで億単位のお金が消費されるという結果が出ました。そういうことを考えると、内水面漁業の振興だけではなく、地域振興にも繋げていけるよう、やはりこの自然豊かな場所をきちんと維持管理していくことが我々の大切な役割なのではないかと思います。

 

 

 

 

2024/3/6

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