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陸生昆虫の季節を楽しむための序章

大型フライの有効性

中根淳一=文と写真

春の釣りを満喫できずに不完全燃焼だった今シーズン。
気が付けば夏本番……それならば、これからの釣りを楽しもう!
大きくて視認性がよく、浮力の高いテレストリアルフライは、スラックラインキャストや「食わせるため」のドリフト習得にも最適。その楽しみと最適なタックルについて、北陸の渓で里見栄正さんに釣りを楽しみながら語っていただいた。


この記事は2020年Mid Summer号に掲載された記事を再編集しています。

協力=シマノ

初春から初夏へひとまたぎ


今期は新型コロナウイルス感染拡大の懸念によって、4月上旬には政府による緊急事態宣言が発令。関東近郊では渓流釣りの最盛期ともいえる4〜5月が、外出の自粛要請によって空白の期間となってしまった。

ようやく県外への移動が全国的に緩和されたころには、水生昆虫のハッチも落ち着いてしまい、真夏のような陽気。それでもエリアを北上すれば、初夏の釣りを満喫できるはず。

関越自動車道を北上する車中、里見栄正さんに今回の行き先をたずねた。

「外出自粛が解除された影響なのか、どこも釣り人が多いですね。近隣の有名河川は入る余地もないので、足を伸ばして新潟まで行きましょう」

梅雨真っただ中。晴れ予報だった空も、水分をたらふく蓄えた雲が覆っている。

時おり小雨が路面を濡らして、周囲からは夏ならではの匂いが漂う。

この香りは子供のころの記憶を呼び覚ますのか、憂鬱を高揚感に変換してくれる効能があるようだ。

梅雨の合間にのぞく青空は清々しい。屋外で遊ぶ期間が削られた今年だからこそ、残りのシーズンを存分に楽しみたい

豪雪地帯ならではの、高床式家屋が立ち並ぶ集落には、広大な棚田が広がる。喧騒はもとよりウイルスなどにも無縁な風景に、安堵感が満たされ始めたころ、入渓地点に到着した。

支度を整える里見さんの手もとを覗き見る。

「今日はテレストリアルパターンで遊んでみましょう。時期的には水生昆虫から移行する端境期で、少し早いとは思うのですが、そろそろ魚たちは水面に落ちてくる陸生昆虫を意識し始めているはずです」

小さくて細身のフライとはあきらかに違う反応が期待できる、大きくてバルキーなフライたち

使用するロッドは 『シマノAsquith(アスキス)J762』。シリーズ中もっともトルクフルで、負荷に合わせてバットからティップに掛け、素直に曲がるパラボリック指向のアクション。

空気抵抗の大きいバルキーなテレストリアルフライでも、ストレスなくプレゼンテーションを続けられる。

「このロッドのライン番手指定は2〜3番ですが、今日は3番ラインを使用しています」


シーズンを通じて出番が多いであろう番手と長さの、シマノAsquith(アスキス)『J762』。シリーズ中もっともトルクを感じやすくパラボリックなアクションは、空気抵抗の大きいテレストリアルパターンも扱いやすい。大きなフライをキャストするイメージは「投げて飛ばす」というよりは「乗せて運ぶ」という感覚

釣り上がっていくと晴れ間が広がり陽が射してきた。

高水温期の晴天日セオリーどおり、日陰に重点をおきながら、さまざまな流れにフライを流す。この日の魚の着き場を探っているようす。

「曇っていたほうが広範囲に魚が出てくれるのですが……いろいろ探っていますが、反応がないですね」

これからの高水温期は流れ込む沢水などが、溶存酸素を供給するので気になるポイント

魚の反応は少なめ。到着間際に釣り人の姿を見かけたが、先行者などの影響よりも、捕食対象が移行する端境期だからか?

フライのサイズ感が実際のエサより大きいのでしょうか?

「この季節であれば、12番以上の大きいフライサイズで充分です。春先以外に私の使うフライは、皆さんよりも比較的大きいと思いますよ」

見やすさとアピールを強くしたいからでしょうか?

「そうですね。私からも魚からも見やすいというのは重要です。パラシュートフライのハックリングも、巻き上げからの巻き下げと回転数を多くしてしますが、ファイバーが交差することで網目状になって空間ができます。この部分に空気をはらんでくれるので、浮くというよりも風船のような空気の塊が、水面に乗っかっているイメージなのです。これくらい強い表面張力を得られると、見やすさと同時に小さなドラッグは回避してくれます」
里見さんのフライは浮力の持続時間がとても長い。途中でフロータントを塗布しているのをほとんど見たことがない

フライの色に関してはどうでしょう?

「季節が進むごとに暗色になります。春先はクリームなどの明色フライですが、夏は焦茶や黒、緑もよいです。極端にいえば黒だけでもよいですよ(笑)」

さまざまな場所を探っていると、流れの肩からフライが落ちる直前に反応があった。

アベレージよりも少し小さいようで、普段の里見さんであれば、すぐにリリースするのだが、お互いに何かを察したのか「撮っておきましょう」と近づく。

黒くてぽってりとしたテレストリアルフライをがっちりと咥えたイワナ

魚が捕食しやすいドリフト


その後も魚の反応はあるが、どうやらサイズが小さ過ぎてフライを咥えきれないようす。

空気抵抗の大きい、テレストリアルフライをキャストするための、工夫などはありますか?

「リーダーからティペットの水面形状をコントロールするには、フライの空気抵抗も加味します。ボサっとしたテレストリアルフライなどは空気抵抗が大きい分ターンしづらく、リーダー&ティペットにスラックを入れやすいはずです。反対に空気抵抗の少ないフライはターンしやすいので、それに合わせたキャスティングの調整が必要です」

流し方などはメイフライの時期と変わりますか?

「大きく変わることはありません。ヤマメとイワナを比較すると、着く場所が違ったとしても、食う場所はあまり変わらないのです。ただし、着水音はいくらか意識しています。フライが捕食ポイントを通り過ぎても見つけてくれますからね」

里見さんは数cm単位でドリフトするレーンを修正しながら、入念に探っていく。

ボサの際やオーバーハング下は陸生昆虫が落ちてきやすい場所

「ナチュラルドリフトが重要ではあるのですが、ナチュラル=流速と完全同調とは思っていません。スクールで皆さんのドリフトを見ていると、速い人が多いと感じます。私は若干遅く……というか、留まるという意識で流します。魚がエサを発見して食べるまでの時間を作るようにしているのです」

エキスパートの経験から得られるヒント

里見さんが「大型フライの有効性」をあらためて感じたのは40年ほど前にさかのぼる。

「米国に釣りに行った時のことなのですが、事前に大きなストーンフライ……いわゆるサーモンフライなどを巻いてこいと言われました。言われたとおりに大量に巻いたのですが、帰国してもたくさん残っていたのです。それをもったいないからと使ってみると、周囲が小さなフライを使っているような状況でも予想以上に釣れました。特に水深のあるプールで水面に置いておくと、深いところからも魚が浮上してきて釣れるんです。新しい発見でしたね」

最近はエルクヘア・カディスも見直しているという。

「近年はエルクヘア・カディスなんて、と軽視している人も多いのでは? 誰でも知っているほどポピュラーだからこそ、よい部分が凝縮されたフライなのだと思います。たとえばウイングを扇状に広げればセミにも見えます。長めのシャンクに緑系のドレッシングをすれば、バッタにも見える汎用性の高さは素晴らしい。ただし、ロングティペット&リーダーではキャスト時に回転しやすいので、ボディーハックルは短めがよいです。私は上部のハックルをカットしないのですが、このほうがエルクヘアと交差するハックルが網目状になって、空気を蓄えてくれると思っています。何よりフライは見やすく、ストレスフリーの釣りが楽しいはずです」


上のフライは小型のセミを模したシケーダーフライ。下はバッタにも見えるように、エルクヘア・カディスのバランスを若干変更して、全長を長めに巻かれたパターン。どちらも高浮力で見やすいフライとなっている

里見さんのフライの過去(上段)から現在(下段)への変遷


羽虫形状のパラシュートフライ。以前はディアヘアを束ねてテイル&ボディーとしてワイヤをリビングしていたが、現在はエアロドライウィングなどの化繊を使用



甲虫形状のフライも、以前はディアヘアを刈り込んでボディーにしていたが、現在はエアロドライウィングをループ状に巻き留めている


これからがテレストリアル本番


捕食対象の移行期なのか、最後まで状況に大きな変化はなく納竿。別の一手もあったかもしれないが「テレストリアルで遊ぼう」というお題を掲げて、終始フライパターンを変更せずに楽しんだゆえの結果なので充分。

これから季節が進めば状況も変化しますか?

「そうですね。7月に入って梅雨が明けるころには、陸生昆虫の本番になります。春先に比べてまとまった虫の流下もないので、真夏の渓魚はエサを待って常にスタンバイ状態です。流れてくるものへの警戒心も低いので、釣りやすくなるはずです」

春の最盛期がポッカリと抜けてしまった今シーズンだが、本誌が発売されるころには、夏本番の釣りを満喫できるはず。これからシーズン第2ラウンドを存分に楽しもう! 

釣果はそれほど多くなかったが、徹頭徹尾テレストリアルフライで遊んだ結果なので、里見さんも一つの結果として満足



2020/8/28

つり人社の刊行物
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瀬戸際の渓魚たち 増補版 西日本編 本体2,500円+税 A5判カラー256ページ
1998年刊行の幻の名著が2020年の視点も加筆されて、復刊です。 フィッシングライターとして現在も活躍する佐藤成史さんのライフワーク、人間の活動などにより生息場所を狭められる渓流魚たちを追いかけ写真に収めた貴重な記録。 インターネット前夜…
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最新号 2020年12月号 Mid Autumn

特集
共鳴するウエットフライ
エキスパートが実践していること

 今号の特集はウエットフライ。十人十色、という言葉がこれほどマッチするフライフィッシングはないかもしれません。エキスパートたちには「この釣りを始めたきっかけ」から、今実践しているテクニックまで、さまざまな質問をぶつけてみました。すると、実は似たような釣り方をしていることも少なくない、ということに気づかされました。
 先般22年ぶりの復刊となった、佐藤成史さん著『瀬戸際の渓魚たち』。Special Topicsと題しまして、阿武隈高地の天然イワナについて現状を取材してきました。日本列島形成の背景をもとに浮かび上がってきたのは、イワナたちの「山越え」という仮説。人類の営みと比べたら気の遠くなるような時間をかけて脈々と受け継がれてきたイワナたちの「血」。そんな歴史を感じることのできる幸福と、現状への警鐘があぶり出されています。
 巻末の長編特集は、来日も幾度となく果たし、「フライキャスティング」に大変革をもたらしたといってよい、メル・クリーガーさんを紹介しています。メルさんをよく知る5名に、知られざる側面を含めた彼の功績、人となりを語ってもらいました。
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