『Asquith』をつくった男たちに聞く。

ひとつの到達点 G.Loomis×SHIMANO

里見 栄正、安田 龍司=解説
shimano_01フライフィッシングだけでなくさまざまな釣り分野において、高い技術によって世界をリードするタックルを作るシマノ。そして卓越したキャスティング能力をロッド設計にも活かすスティーブ・レイジェフ率いるG.Loomis。そのコラボによって生まれたのが、渓流用シングルハンドと本流用ダブルハンドモデルで展開する『Asquith』(アスキス)シリーズである。
開発に携わった里見栄正さんと安田龍司さんが、「魚を釣るのが楽しくなる」ロッドについて語る。

この記事は2016年4月号に掲載されたものを再編集しています。

里見栄正=文

「繊細」にして「強靭」

『Asquith』(アスキス)の開発にあたっては、シマノ独自の「スパイラルX」という新しいX構造のブランクを採用することによって、ブレやネジレが抑えられることは当初から分かっていた。実際に使ってみると、曲がりの強度や耐衝撃強度も飛躍的にアップしたのである。しかし僕は、ただ単に頑丈で強く、ロングキャストを金科玉条とするような使い勝手の悪いロッドにはしたくなかった。

これは従来の『フリーストーン』シリーズにもいえることだが、スムーズなパワー伝達と最後まで落ちることのないトルクを保持するのが、僕の求めるロッドには不可欠なのである。しなやかな曲がりを、心地よいキャステイングフィールとフライコントロールにつなげるという部分は、是が非でも踏襲したいところだった。
shimano_03 里見栄正さんが監修した、低番手のシングルハンド・モデル。日本の渓流で使いやすいようにティペットのコントロール性能から、掛けた後の釣り味まで追及しているロッドだ。『J731』は小型のメイフライやカディス、ミッジなど、早春のマッチング・ザ・ハッチの釣りに使いやすい。3番ラインでも振りきれる対応幅の広さも特徴。『J762』は5~15mの距離なら、ほぼフォルスキャストなしで正確にねらえるという。ティペットのコントロール性能にも優れるタイプ。テストでは7Xで尺上もランディングしている。『J803』は広い流れや大ものねらいにも向く。ミッジングでも遠投性能が活きるモデルで、大型ニジマスにも対応できるだろう
Photo by Souichiro Ura

そして感度の点でも、新しいブランクは非常に優れた性能を発揮してくれた。繊細さを犠牲にすることなく、理想的なベンディングカーブをいとも簡単に実現してみせたのだ。「繊細」にして「強靭」。言うのは簡単だが、この相反する機能を併せ持つことがどんなに難しいことかは、ロッドの製作に関わったことのある人間でなくとも、容易に想像できるだろう。

だからかもしれないが「苦労した点は?」と問われでも、ほとんど思い出せないのである。ま、それはそれだけブランクの完成度が高かったという証左でもあるのだけれど……。
shimano_02 里見栄正さんとロッドについて語り合うスティーブ・レイジェフ。一昨年の12月にスティーブ・レイジェフが来日して、シマノのスタッフとコラボモデルについての打ち合わせを行なった

1500尾以上の渓魚を釣って

ほぽ1年半、日数にすると百数十日をテストロッドとともに釣りをしたことになる。これは初代『フリーストーン』デビュー時以来か、むしろそれ以上の時聞を費やした計算だ。

一般的な渓流域で最も出番の多いであろう5~15mといった距離を基準に、こちらの意図するキャストやプレゼンテーションと、どうしっかりとマッチングさせるかに重きを置いた。ロングティペットとトリックキャストへの対応能力はもちろん、このクラスとしては充分な遠投能力も備えたうえで、改善すべき点を洗い出していった。

このテスト期間中には、昨シーズンだけでも約1500尾のヤマメ、イワナを釣った。さらには数え切れないほど、大型のレインボーやブラウンとのやり取りも経験した。限界強度のテストでは60cmオーバー、最大80㎝を超えるコイを含め、100尾以上を掛けた。その間、もちろん一度の破損もなく、日の前で展開される小気味よいロッドの曲がりを眺めながらすごすことができた。
shimano_06 ルースニングの釣りから良型ニジマスまで、さまざまなテストを繰り返して完成型に近づけた自信作

ちなみに『アスキス』は20cmに満たないヤマメでさえ、美しい弧を描く。特有のローリングファイトにも弾かれることなく、柔軟なティップが追従したかと思えば、大型魚に対してはロッド全体で受け止める感じで対応できた。仮にバット部分をホールドするスタイルのあしらいをしても、折れるのではないか、といった心配はない。限度を超えて、弾性が失われるようなこともないのである。そもそも僕自身、魚の引きに付いて動くということをしないたちだ。魚の逸走を立ち位置を変えることなく抑え、ドラッグの調整やロッドのさばきなどで対応しながらでも、ランディングに必要以上に時間をかけるようなシーンはまったくなかった。

偶然ではあるが『アスキス』は、初代『フリーストーン』にたずさわったスタッフが担当することになった。ほぼ初年ぶりにタッグを組むことになったのだが、当時と変わらない情熱が僕の背中を押し続けてくれたことはたしかだ。何かを得るために何かを犠牲にすることがあってはならない、という一貫したポリシーは健在だと、おりに触れ強く感じたものだ。とにもかくにも面倒なやり取りのなかで、僕のわがままに付き合って、それをこのようなかたちにしてくれたスタッフには、ただただ感謝である。
shimano_04 shimano_05 ●J731 7フィート3インチ 適合ライン#1~2 価格:8万7,000円+税
●J762 7フィート6インチ 適合ライン#2~3 価格:8万8,000円+税
●J803 8フィート    適合ライン#3~4 価格:8万9,000円+税




安田龍司=文

柔軟に思えるが……

『アスキス』は、細くよく曲がるが粘り強く、高い反発力と捻じれ剛性を併せ持つブランクを備える。それによって、さまざまなキャステイングスタイルにおいて、優れた能力を発揮するロッドとなっている。

一見すると「軟らかいのでは?」と思えるそのアクションは、軽く振るだけでロッドを曲げることができる。高い反発力によって、非常に速いラインスピードを生み出す。この際に素早い振動収束と、ねじれに強い剛性により、ラインの直進性は高くなる。つまり、容易に遠投することが可能になるのだ。
shimano_08 本流用の高番手モデルは、安田龍司さんが監修している。『J1266』は、35m以上の距離を想定して設計。フローティングからシンキングまで扱え、湖でのドライフライ、ストリーマーの釣りにも向く。『J1366』は高感度で、繊細なナチュラルドリフトの釣りに威力を発揮する。細めのティペットと#14クラスの小型フライも扱いやすく、海のカラフトマスやアメマスにも対応できる。『J1408』は速いラインスピードを出すことができ、45mほどの距離もねらえる。大規模河川や海でも使いやすいだろう。『J1508』は40~45mほどの距離がねらえる。ナチュラルドリフトの釣りではリーチを活かして、ラインを送り込んで大型魚へのアプローチを有利にする
Photo by Souichiro Ura

また『アスキス』は感度が非常に高いため、ラインの乗りが分かりやすい。キャスティングのタイミングを取りやすいロッドなのだ。さらに細く軽いため、空気抵抗を抑え、最小限の力でキャスティングできるので疲労も少ない。

これはブランクの内層をカーボンテープで隙間なく螺旋状に巻き、その外側に縦繊維となるカーボンシートを巻き、さらにその外側を内層とは逆回転で隙聞なく螺旋状にカーボンテープを巻くという特殊な構造“スパイラルX”を持つためだ。レジンの少ないカーボン素材、そして特殊なティップ構造によって、このような性能を実現している。
shimano_07 スベイ、オーバーヘッドのどちらにも対応しやすいダブルハンド・ロッド

内層と外層のカーボンテープは、ねじれに強い剛性をアップするとともに、潰れに対する剛性も高めている。そのため低レジンカーボンの性能と合わせて、ロッドの軽量化と高い反発力の両立を可能にした。

曲げやすく反発力の高いアクションは、スペイ、オーバーヘッドなどキャスティングスタイルを選ばない。ラインの適合レンジも広くなるため、実釣の際にラインの選択肢が増え、さまざまな状況に対応することができる。

フライが川底に当たるのが分かる

このように優れたキャスティング性能を持つ『アスキス』だが、真価を発揮するのはやはり実釣時だ。最小限の力でキャスティングでき、必要であればいつでも遠投が可能であり、疲労が少ないことは前述のとおり。そしてよく曲がり粘り強く反発力が高いことに加え、感度がよいことは、実釣において大きなアドバンテージとなる。

よく曲がり、粘り強く、反発力が高いアクション。それはフッキング後の魚の動きをスムーズに吸収し、必要以上に暴れさせないことにつながる。高い反発力で魚の引きに対応するため、魚をコントロールしやすい。大型魚を早く、容易にキャッチすることができるわけだ。またよく曲がるため、細いティペットを使用できるのもメリット。困難な状況への対応も可能となる。
shimano_12 G・Loomisとのコラボは、今後どのような展開を見せるのか? 注目していきたい

ちなみにテスト中に釣ったすべてのサクラマスには、ローリングによるラインの傷がなかった。さらにフック周辺の傷が非常に小さく、バーブレスフックでも外れにくかったことも、『アスキス』の性能によるところが大きい。そして高感度はアタリの感知だけではなく、スイングやドリフト中の流速抵抗の変化を把握することや、根掛かり回避にも有効であり、欠かせない性能といえる。

魚を釣るのが楽しいロッド

『アスキス』のテストを始めた当初、改良が必要になったことは、「ラインスピードが速すぎる」、「飛びすぎる」ということだった。これは優れたブランク構造によるうれしい誤算だが、プロトタイプを製作するたびに若干パワーを落とし、実釣性能を高め、フェルールのテストも繰り返した。

テストの後半では感度のアップを目指したが、これはもともと感度のよいブランク構造と、特殊な構造のティップを組み合わせることで容易に実現できた。
shimano_11 2016年の2月1目、九頭竜川に立っていた安田さんの手にも、もちろん『Asquith』が握られていた
Photo by Souichiro Ura


テスト中、#6ロッドで余裕を持ってサケをキャッチしたり、30~40㎝のニジマスでもよく曲がるアクションで充分楽しむことができることを確認した。神経質になったサクラマスを、細いティペットと小さなバーブレスフックで釣ることもできた。

完成した『アスキス』は、高い遠投能力とキャスティング性能、実釣性能を持つと自負している。魚を釣って楽しく、魚に優しいというコンセプトを、高いレベルで実現したロッドとなった。
shimano_09 shimano_10 ●J1266 12フィート6インチ 適合ライン#6/300~380グレイン 価格:11万4,000円+税
●J1366 13フィート6インチ 適合ライン#6/350~430グレイン 価格:11万6,000円+税
●J1408 14フィート     適合ライン#8/400~500グレイン 価格:11万6,000円+税
●J1408 15フィート     適合ライン#8/450~550グレイン 価格:11万8,000円+税



Text by FlyFisher

『Asquith』フライリール
ランニングラインをかまないフルフレーム構造

昨年のシーズン中、小誌では何度か里見さん、安田さんの釣りを取材した。その際にはまだテスト段階だったが、このロッドの魅力は充分に伝わってきた。渓流用シングルハンド・モデルでは、早春のルースニングから秋の荒雄川まで。本流用、ダブルハンド・モデルは九頭竜川のサクラマス、そして前号で紹介したキャスティングの記事などなど……。

もともとシマノは、フライフィッシングだけでなくさまざまな釣り分野のタックルを作っており、そこで得たノウハウの蓄積を『アスキス』にも注ぎ込んでいる。“スパイラルX”や、ダブルハンド・モデルに使われている“マッスルカーボン”などにより、ねじれやブレに強い剛性を得ることにつながっている。

そしてもうひとつ、G・ルーミスとのコラボがスタートしたことも見逃せない。今回は里見さん、安田さんが全面的に監修を行なっているが、シマノの技術力とスティーブ・レイジェフの才能が融合して、これから新たなロッドが生み出される可能性もあるだろう。今後の展開にも注目したい。

また、シマノといえば忘れてはいけないのが、リールである。なにしろ自転車のギアでは、世界に冠たる高品質な製品を生み出しているのだ。同社のリールも高い評価を受けており、『アスキス』フライリールにもその技術が活かされている。軽量化と高剛性を高い次元で融合しており、ドラッグ部分は防水構造になっている。その結果、耐久性も高まっているのだ。

そして注目したいのが#7・8モデルに採用されている、インスプールタイプの“フルフレーム構造”。スプールの回転部分がラインを噛んでしまうトラブルを防いでくれる。ストレスから解放され、大ものとの勝負に集中できるはずだ。
dasda #7・8モデルは“フルレフレーム構造”によって、スプールとフレームの聞にラインが挟まるようなトラブルを解消している
●Asquithフライリール7・8 適合ラインWF#6~8F 価格5万円+税


今シーズンも、間もなく渓流シーズンは本格的に開幕する。『アスキス』で、魚を釣る本来の喜びを味わってほしい。安田さんが書いていたように、このロッドは「魚にも優しい」というコンセプトを持つ。日本の渓流魚ととことん遊びたいなら、ぜひ使ってみたい一本だ。
ca #3・4モデルにも防水構造になったドラッグが採用され、耐久性が増している
●Asquithフライリール3・4 適合ラインDT#3~4F/WF#3~5F 価格4万円+税


間合先 シマノ
0120・861130

2017/7/18

最新号 2017年12月号 Fall

特集は「川を読む」。秋田県の役内川を例に、まさに「ここに尺ヤマメがいた」というポイントをピックアップ。流れのようす、底石の入り方、水面の波立ちぐあいなどなど、良型が付く場所の特徴を解説します。 また伝説的ともいうべきリールの名品「ボンホフ」と、その製法を忠実に踏襲しようと試みた男の物語を収録。道具に対する釣り人の情熱と愛を感じる内容です。 そのほか、イワナが浮いてフライをくわえる瞬間までばっちり見えるような源流釣行、北海道のアメマス事情、またキューバやオーストラリアのソルトゲームなども掲載。渓流オフシーズンの今だからこそ、じっくり読みたい一冊です。
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