「流速」から読み解く付き場

ドライフライに適した流れを捜す

里見栄正=解説
ドライフライに適した流速(回転寿司と同じ速さの流れ)はあちらこちらに存在する

渓魚が釣れるのは主にエサの集まる流れ。ただし魚にとってのダイニングとリビングは必ずしも同じとは限らない。その日、どこにいてどこでエサを食べているのか、それを探るヒントは流速にある。
この記事は2013年7月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
さとみ・よしまさ
1955年生まれ。群馬県太田市在住。フライライン及びティペットコントロールを駆使したドライフライの釣りを得意としながらも、ニンフを使ったルースニングの釣りにも長ける。シーズン中は全国でスクールを行いつつ、川をめぐる日々。

”適水勢”は回転寿司のスピード


キャリア30年を超えるベテランの里見栄正さんが川を見てまず考えるのは、ドライフライを流せる水面があるかどうかであるという。

訪れた先の川のコンディションが、渓魚にとってエサを食べやすい水面の形や流速を持っていなければ、当然ドライフライの釣りは成立しないからだ。

それでは、里見さんが判断材料にしている“ドライフライを流せる水面”とは、どのようなものなのか。

「速すぎず遅すぎず、流速の数値化はちょっと難しいですが、回転寿司でお皿が回ってる速度くらい、といえば分かりやすいでしょうか」

渓魚が水面のエサを口にしやすい流速のことを、里見さんは「適水勢」と呼ぶ。適水勢、つまり回転寿司とほぼ同じ速度の流速は、大小の違いはあれど、川のあちこちに見られる。
適水勢とは?
渓魚が水面でフライを食べやすい流速のこと。その速度は回転寿司の流れるスピードが目安になる。実際の川の流れでは部分的にそうした流速が現われるので、ひとつの流れのなかで、ある一定区間のみ適した流速ができているケースが多い。その場合は、そこで魚が出るものと想定してフライを流していく。写真のような流れでは、真ん中あたりが適水勢と呼べる流速になっていた


たとえば水流が木や石といった何らかの障害物に当たって流速を弱めたところ、また流れ同士がぶつかってブレーキをかけている部分がそれである。こうした場所はたいてい複数の流れの筋によってできていることが多く、それだけにエサも集まりやすいといえる。

ほかより流速が少し遅いことが、渓魚にとっては水面のエサを見つけやすくし、かつ口にしやすい条件となっているようだ。
魚の付き場を挙げていったらきりがないが、ドライフライに出る魚がいるかどうかは絞りやすい。そのため、渓魚が水面で食べやすい流速を軸に考えるのが、ドライフライの釣り上がりで効果的に反応を得る近道といえそうだ

「極端に言ってしまえば、適水勢だけに注目してドライフライを流しても釣果はアップすると思います。でもそれだけでは思いどおりの釣り、という部分での面白さは実感できないので、それ以外にもプラスアルファの要素として、魚の付きそうな条件を付け加えています」

居間と食堂

里見さんの言う、適水勢とは、魚種によっても変わってくるものなのだろうか。

「ヤマメの川だから、イワナのいる区間だから……との理由でねらう場所を大きく変える人をたまに見かけますが、両種の付き場はほとんど同じです。若干ヤマメが速めの流れに対応できて、イワナがやや遅めを好む、といった少しの差しかありませんので、それほど極端に釣り分けるような意識は持っていません」

とはいえ流れの緩い反転流からは、イワナ。比較的速い流心付近ではヤマメ、というのがヒットポイントのセオリーであって、実際にそうした場所から魚を手にしたことのある人は多いはずだ。
流心脇は適水勢のレーンを見極める
流心脇の適水勢は細い流れの筋であることが多いため、フライだけではなくティペットのコントロールも求められるが、ヤマメの好ポイントでもある。写真のレーンAは回転寿司同様の速度でまさに適水勢。Bはアリが歩くよりも遅くフライもゆっくりと流下。Cではほとんど止まったかのような状態になる。もちろんここで釣れる確率が高いのはA。魚は流心の下に付いているはずなので、その場所から見つけやすく、食べやすい場所にフライを落とさなければならない


「渓魚の定位する場所とエサを食う場所というのは、常に同じとは限らないわけです。ポイントの形状によっては、リビングとダイニングがはっきり分かれているケースもあります。仮に反転流で出たイワナの場合は、そこに付いていた魚ですから、居間と食堂が一緒のワンルームに住んでいたと考えられますが、反転流ではヤマメもフライに反応します」

「その場合は流心(居間)にいたヤマメが反転流(食堂)のフライに気づいて食べに来た、といったケースだと思います。だからといってどこに投げても釣れる、というのでは決してありませんが、落としたフライに対して数m以上離れたところから猛スピードで反応してきたイワナも過去にはいました。これも適水勢にフライを落とし、きちんと流していたからこその結果だと思っています」
適水勢が複数発生しているケース
流れ全体にストップがかかったポイントでは、水量によっては至る所に適水勢が出現することも。そうした状況ではひとつずつ手前から流すのがベスト。実際に里見さんは右岸のポジションから順番どおりに探っていった


流速+底石の有無

次に里見さんがチェックするのは、底石の有無とスピードとは別の水面の形状である。適水勢にこれらを合わせ、魚がどこでフライを食べるのかを具体的にイメージしてキャスト態勢に入っていく。事前に魚の出る位置をイメージしておくことで、フライを落とす場所をより細かく決められる。

「石周りでエサを待っている渓魚は、だいたい石の前にいます。適水勢の近くに隠れ家になりそうな底石があれば、まず怪しいと思って間違いありません」

また水面の形状も重要となる。

「ねらうべき水面は波の集合体で、ほとんどがヨレた状態になっています。流れの中には湧き上がっている所もありますが、そうした場所はまず魚が出ないので、外すようにしています。逆に水面の波が中に入り込んでいくような場所がねらい目となるわけですが、その目安となるのは泡です。泡ができて、それが回転寿司と同じ速度で流れているような場所があれば、有望なポイントといえます」
湧き上がっている流れはNG
流れが石にぶつかり、水流が湧きあがるようなところ(Aのスポット)は、適水勢であったとしても、ドライフライには反応しにくい。よって①のドリフトコースだと後半は期待薄。流心の向こう側の②を重点的に流したほうが有望である


基本的には魚がいると予測した場所より数10cm上流にフライを落としていくが、水深が浅ければドリフト距離を短くして、深ければその距離を多めにとって流していく。

「時に適水勢の距離が数m続くような流れもありますが、そうしたところでは何回かに区切って流します。事前に反応のある場所を予測していない人は、こういう時に魚のいる場所にフライを落としてしまって、気づかぬうちにプレッシャーを与えている場合があります」
カーブする流れは内側をねらう
里見さんによれば、これまでの経験上、カーブした流れでは内側の流心脇が最も反応を得られるという。これはおそらくフライを見つけやすい中央にできたフラットな水面の役割が大きいのではないか……とのこと


ブラインドフィッシングでは、基本的に肩やヒラキといった「魚にとってダイニングとなる場所」をどんどんねらっていくことになるが、先行者がいる、あるいは魚がスレていたりすると、リビング(居間)から出てこない場合も少なくない。そうなると石周りをタイトにねらったり、より小さな適水勢も見逃さずに流したりすることが結果につながるという。
適水勢を見極められれば、ブラインドフィッシングでもより効率的にポイントの取捨選択ができるようになる

2017/8/7

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