LOGIN
ささきつりぐ

トレッキングで沢のもっと奥へ。

歩いて楽しむ丹沢の沢巡り

保科真穂=文

神奈川県西部に位置する丹沢山地は、首都近郊にあって、多くの人が訪れる登山、ハイキング、釣り、沢登りの一大フィールド。ただし、上流部は車での入山が規制されているため、ヤマメやイワナがいる沢筋へは「歩く」必要がある。そんな釣りを楽しんでいるフライフィッシャーのスタイルを紹介。
この記事は2011年4月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
保科 真穂(ほしな・まなお)
1964年生まれ。神奈川県小田原市在住。地元から近い丹沢や伊豆方面の川に通う一方、マッチング・ザ・ハッチの釣りを楽しむためアメリカ・モンタナにも遠征するサラリーマン。ビールさえあれば何時間の歩きもいとわない。

10代から始めたフライフィッシングだが、その過程で道具、装備、釣り場などは様変わりしてきた。しかし、この先はいったいどうなっているのか? そして何があるのか? という好奇心が原動力になることはいつも変わらない。

言い換えれば、より遠くには、より源流には、まだ見ぬ大ものや驚きの出会いがある気がする、というごく単純な思い入れだ。

さて、自宅の神奈川県西部から日帰り釣行できる行き先には、丹沢・伊豆・山梨そして南アルプスなどの渓流があるのだが、これらには車止めのある林道が多く、釣果的にも車止めより上流へ行くほうがよい傾向がある。

そして、車止めには当日の釣果を左右する情報が多数存在している。運よく先着の釣り人と話ができれば、当日の沢割交渉(誰がどの沢を釣るか)や、川の近況把握が可能だ。
都内からも近い丹沢山系の渓流だが、歩いてアプローチすれば、もっと楽しめる場所は多い。もちろんこれはほかの近郊エリアでも同じこと

運悪く先行された場合でも、車の数から先行者の人数が推測できるし、マフラーに手を当てればその温度で先行者との距離を想像することもできる。私はこれらの情報を基に、当日のプランを考えながら釣りをすることが多いのだが、その際は2時間程度の歩きが必要となるケースが多々ある。

プランニングの際、まず役に立つものに「山地図(登山者が利用する物、書店で入手可)」がある。登山道の案内があり、目的地までの距離と時間の算出も楽。また視点を変えれば思わぬ近道が見つけられることもある。
こちらは『山と高原地図』(昭文社)。登山道の時間配分の目安を知るためにも便利

次に格好だが、川通しに歩く時や高巻きをする時には、必ず両手が使える状態にしておきたい。私は4ピースのロッドと、これが収納できるデイパックを組み合わせるのを基本のスタイルにしている。

また、峠越えもこなせる装備で臨むのがおすすめだ。デイパックの中身は……

①必要最小限の釣り具(チェストパックへ収納し、沢に入ったら取り出す)
②レインギア
③山地図
④弁当
⑤ペットボトルの飲み物(帰りは天然水を持ち帰る→翌朝のコーヒーが楽しみ!)
⑥双眼鏡
⑦貴重品や水を嫌う物(ジップロックにまとめ収納)


私が実際に「歩き+釣り」のスタイルで山に入るのは、3月下旬〜5月末のシーズン前半と、9月から禁漁までのシーズン後半の2つの期間だ。イメージとしては、シーズン前半で一通り実績のあるエリアを釣り、後半で状況のよかった場所を再度訪れる。

終盤には魚も大きくなっているので、シーズンの締めくくりにグッドサイズと出会えるかもしれないという楽しみがあるが、ほかにも前後半に分けて山に入ると、春と秋とで移ろう自然の変化に気づく。
丹沢周辺では、3月下旬~4月にヤマザクラを見かけるとコカゲロウが舞い始める。その後は標高にもよるが、ミツバツツジ(写真。別名ミヤマツツジ、5月連休頃)、ヤマブキ(梅雨頃)なども姿を見せ、よい釣りができた時に見かけた花を覚えておくと翌シーズンに役に立つ

そして、その際はデイパックに忍ばせた双眼鏡が、寡黙になりがちな林道歩きを楽しいものにしてくれる。8〜10倍程度のものを持参するのがおすすめだ。

双眼鏡は初めて釣行する谷での巻道捜し、さらには深い谷や橋の上からのライズや魚捜しにも重宝する。もし裸眼で確認できず、双眼鏡でのみ魚が確認できたなら、迷わずそこへ行ってみたい。アクセス困難な場所は、すなわちパラダイスだ。
ヒレがうっすらとオレンジ色に染まった丹沢のヤマメ。有志による発眼卵放流で魚影が保たれている沢もあるので、釣れた魚はしっかりリリースしたい

ともあれ、歩き+釣りのベストシーズンはゴールデンウイーク頃のタイミング。この時期、関東周辺の川は本来の水量を取り戻し、大型種の水生昆虫やテレストリアルも活発に動き出すので渓流魚の活性も最高潮。

さらに気候のよさと日照時間の延長も手伝って、軽装でも長い時間フィールドと向きあえる。こうなると気になる枝沢や魚止めと思われる堰堤の上など、のぞきたくなる場所は限りないが、そんな時は川面だけに注目せず、日当たりのよい南斜面もチェックしたい。目的はもちろん山菜だ。時期によりセリ、タラノメ、ワラビ、ゼンマイなどが待っていてくれる。

私のよく行く西丹沢は、登山道と沢筋がリンクしている場所が多数存在する。ベストシーズンのおすすめプランは、目的の渓流を源流まで釣り上がり、そのまま尾根道までを登りつめて登山道を帰るスタイルだ。最後の登りはつらいものだが、帰りの安全を考えれば最良の選択だと思う。
この時(4月下旬)はウエーダーだったが、長時間歩くと決まっている時はウエットウエーディングのスタイルが基本。いずれにしてもデイパック+コンパクトなロッドで両手は自由にしておく

そして、尾根道から眺める巨木ブナ林の新緑は言葉を失うほどのスペクタクル。私はしばしの休憩をかね、落葉のベッドに寝ころびブナ林の木漏れ日のなか瞑想するのを楽しみにしている。

「歩き+釣り」のスタイルでは、自宅を出発してから帰宅するまでの7割程度を移動に費やす。この移動時間をいかに有意義に過ごせるかが、1日を充実させる大切なポイントだと思う。

2018/5/14

最新号 2024年6月号 Early Summer

【特集】拝見! ベストorバッグの中身

今号はエキスパートたちのベスト/バッグの中身を見させていただきました。みなさんそれぞれに工夫や思い入れが詰まっており、参考になるアイテムや収納法がきっといくつか見つかるはずです。

「タイトループ」セクションはアメリカン・フライタイイングの今をスコット・サンチェスさんに語っていただいております。ジグフックをドライに使う、小型化するフォームフライなど、最先端の情報を教えていただきました。

前号からお伝えしておりますが、今年度、小誌は創刊35周年を迎えております。読者の皆様とスポンサー企業様のおかげでここまで続けることができました。ありがとうございます!


Amazon 楽天ブックス ヨドバシ.com

 

NOW LOADING