LOGIN

僕がスペントを多用するようになった訳

強風時のライズが教えてくれたこと

遠藤岳雄=文

視認性があって、しっかりと浮かんでくれるカディスパターン。本流アマゴもよく反応してくれるのだが、条件によっては、それだけでは魚を手にできないこともある。強風時のスーパーハッチが教えてくれたのはフライの浮かせ方だった。
この記事は2014年12月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。春は本流のマッチング・ザ・ハッチ、夏は山岳渓流のイワナ釣りをメインに楽しんでおり、ニンフの釣りも得意。大ものにねらいを定めた状況判浙には定評がある。

強い風のなか、湧き立つ川面

「なんなんだよこいつら!?」

目の前の流れでは、飛沫というより、水柱といってよいほどの激しい水しぶきが、水面からいくつも上がっている。

「次はあいつだ……」
僕は心で呟きながら、無我夢中でライズ目掛けてフライをキャストしまくっていた。

実は前日も、僕はこの流れに立っていた。そこは、長さにして30mほどのガンガンの瀬が流れ込んできて、一気に川幅を広げていくといった本流の流れ。幅30m長さ50~60mの、プールというには流速が強く、深瀬というにはちょっと浅い……そんなフラットで広大な流れを形成しているポイントだった。

その日の夕刻、僕はそのポイント下流のヒラキでエルモンヒラタカゲロウのダンにライズする尺アマゴを手にしていた。西に傾きかけた春の陽光のなか、エルモンのダンを静かに、そしてゆっくりと次々に頬張っていたアマゴ。その光景は目にいつまでも焼き付いた。

そんな釣りの後、いつもであれば大満足の万々歳となるところ、僕はネットに横たわるアマゴを眺め、ひとり悦に浸りながらも頭の片隅だけは別の光景を思い出していた。
エルモンヒラタカゲロウにライズしていた尺を超える本流アマゴ。銀ピカの魚体はこれだけでも充分満足いくものだったが……

このアマゴを手にする数時間前、はるか遠方の土手に車を停め、身支度をしている僕の目はその一角に釘付けとなった。この広大なポイントの流れ込み。そこに遠目からでもはっきりと分かるライズがいくつも見えていたのだ。

時間的にみてエルモンではないはず。とすれば、この時期、時間帯からして……。

そう思うと居ても立ってもいられなくなり、夕刻までにのんびり食べようと買ってきたファーストフードのハンバーガーを置き去りに、そそくさと身支度を済ませ、土手から河原めがけて飛ぶように下った。

ところが、息を切らせてたどり着いた件のポイントは、すでに静まり返っていた。あれほど激しく上がっていたはずの飛沫も、その後一度も見ることはできなかった。

春の釣りではよくあることだが、現場に着いて着替えている時がハッチのピークだったのだ。明日もう少し早くここに来よう。そう決めて、夕刻のエルモンの釣りを堪能したのだ。

翌日、狂喜乱舞の瞬間が……

何も遮るもののない春の河原を吹き抜ける暴風はすさまじく、風で洗われた水面は逆流しながら流れ込みと激しくぶつかり、チャプンチャプンとあちこちで白波を立てている。

小砂利混じりの風は容赦なく背中に突き刺さり、帽子は手で押さえつけていなければすぐにでも飛んで行き、ベストの背中のDリングに付けた鑑札がバチバチと後頭部を直撃する。

それでも目の前の流れではやはり激しい水柱が立っていた。時おりできる大きな波の中、黒い影が急浮上してきて水面を割り、水中へ引き返す姿もはっきりと確認できる。

水面には大量のカディスが舞っているのが見え、強風に煽られながらも、ピョンピョンと水面を叩きながらコロコロと上流へ吹き流されていく。こんな状況の中、まさに目の前の流れではスーパーハッチが起こっていたのだ。

急いでロッドを継ぎ、ガイドにラインを通しながらも視界の片隅では激しいライズを追う。強風であらぬ方向に煽られるトップガイドから先のラインを強引に手繰り寄せ、震える手でフライを結んだ。ホワイトのCDCカディス#16。それが選択したフライだった。

バックキャストもままならないなか、ほとんどロールキャストの要領でラインを伸ばし、ライズに向けてフライを投げる。……が、強風に煽られフライを上手くキャストできない。

ライズはますます激しさを増してくる。こんな状況で平常心を保てるフライフィッシャーなどいるはずがない。

「ふざけんなよ、このヤロー!!」

空に向かって大声で叫ぶ。人間て、なんて無力なんだろうと思えてくる。が、叫ばずにはいられない……目の前では無数の飛沫が上がっているのだ。意を決し、逆波立つ流れを慎重にウエーディングし、川のほぼ中央まで歩み寄った。ここからならまさに”ど”アップストリーム。

ライズまでの距離は7mほどだ。ほとんどキャストというより、必要な分だけラインを空中に放り投げてやれば、下流からの風がフライをライズ地点まで一直線に運んでくれる。

しかし、ここにきて更なる問題が生じた。川の中央に立ってみると、光の反射で川面は真っ白く光り、追い討ちをかけるように、波立つ流れも手伝ってフライがほとんど見えない。

そこでフライボックスを引っ張り出し、先ほどのフライよりもさらに大きくフレアさせた、視認性のよいCDCカディス#14を結び直した。

が、この選択が大きな間違いであった。風に乗り、必要以上にターンオーバーしたティペットの先のフライがライズ地点に差し掛かる。逆波に負けじとゆっくりとこちら側(下流)へ流れてくるフライ。視認性を得たのはよいが、大きくフレアさせた分だけ風の抵抗をもろに受け、水面上であからさまに不自然な挙動を見せる。

ポッカリと浮かんだ姿は、その流れにあって、やはりどう見ても違和感があるのだ。

ヤバイ……と思ったその刹那。黒い影が浮上し、ド派手な飛沫とともにバッサリとフライをくわえた……かに見えたが、反射的にアワセを入れたロッドは虚しく空を切った。

「くっそー! 次だ、次」

心で叫びながら、違うライズに向け、同じフライを投じる。今度はフライが着水したと同時に激しく水面が割れ、すぐさまビュンとロッドを立てるが、またもやフライは宙を舞った。

「なんなんだよこいつら!?」

こうなると全身からはアドレナリン、脳からはドーパミンが溢れ出し、一種のフライフィッシング・ハイの状態に陥って、まともな思考ができなくなる。なぜここまでフライに出るのにフッキングしないのか……それすら考える余裕もなくなっていた。

(今度こそ……次はあいつだ)そう念じて投じたフライは、ことごとく激しい反応があっても、やはりフッキングしない。後になって冷静に考えれば、結局はフライにかかるドラッグがすべてであったのだ。

あのような強風下では、シルエットが大きく浮力の大きいパターンは、風や波の影響をもろに受け、水面を不自然に転がるように動いてしまう。それが、アマゴがフライを食い損ねる(=出ても乗らない)要因となっていたのだ。実際には1尾掛けるには掛けた……が、やはりそのような状態のフライでヒットさせた魚はフッキングが甘く、すぐにバレてしまった。

どれくらいの時間が経過したのだろうか。気がつけば狂喜乱舞の宴はとうに過ぎ、今は何も起こらない流れに向け、強風のなかフライをキャストし続ける、情けない自分の姿があった。
2本ともサイズは同じCDCカディス。上のものが強風下のライズを掛けられなかった1本。見やすさを重視している分、風の抵抗をもろに受けてしまった。下のフライがその後使いはじめたウイングをスペント型にしたCDCカディス。ライズねらいのフライは、やはりフッキング性能が第一

あの時、もっと冷静でいられたら、もっと自分に引き出しがあれば、素晴らしい釣りができたはず。1尾目のバイトを見た時点で、視認性を度外視しても水面下に絡むようなパターンを使えたのだろうか。あるいはスペントのように水面に張り付くパターンを使えただろうか。

そう悔やんでも後の祭りである。すべては自分のスキルが足りなかったということだ。あの日以来、僕の本流でのフライパターンは劇的に変わった。メイフライにしてもカディスにしても、最初に結ぶのはフッキング性能を第一に考えたスペントパターンになった。

そして、あの時と同じようなシーンでも、いくつかのアマゴを手にすることができるようにもなった。

「まだまだ修行が足りない。失敗から学ぶことは多いぞ!」
あの時のアマゴたちが、僕にそう教えてくれた。

2018/10/5

つり人社の刊行物
FlyFisher 30 Years
FlyFisher 30 Years 本体1,800円+税 AB判144P
AB判全カラー144P/創刊号の判形を再現! 表紙は、FlyFisher 創刊号(1988年)が目印! 過去へのバックキャストと、未来へのフォワードキャストでつなぐ 美しいループを皆様の元へ。 『FlyFisher』から30周年の感謝の気持…

最新号 2018年12月号 Fall

特集は「あの尺ヤマメを逃した理由」。
間違いなくドライフライをくわえたかに見えたのに、痛恨のすっぽ抜け……。誰もが一度はそんな経験をしているはずですが、その理由ははっきりしないことがほとんどです。今回はエキスパートたちが、これまで見聞きしてきたバラシの要因を考察。また、カメラがはっきりとらえたすっぽ抜けの瞬間を解析します。来シーズンに悔しい思いをしなくてすむために、じっくり読んでみてください。
そのほか、秋も楽しめる北海道の釣り場紹介も掲載。さらにぺゾンのバンブーロッドについても、たっぷり誌面を使って掘り下げています。
[ 詳細はこちらから ]

 

NOW LOADING