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育てる悦び。シルクラインの世界

渓流で実釣。

つるや釣具店=協力

前回ではシルクラインの扱い方、メンテナンス法などを紹介した。続いて今回は、渓流でのドライフライの実釣をレポート。最新の道具にはない味わいが、やはり天然素材にはあるようだ。
この記事は2018年<Spring>に掲載されたものを再編集しています。

自然に流しやすいのはなぜか?

『つるや釣具店』の山城良介さんに、シルクラインについてあれこれ聞いた前回の記事を少しおさらいしておくと、基本的にシルクラインは買ってすぐに使えるわけではない。

グリスアップといって、専用のオイルを塗り込む作業を行なう。乾燥した状態でオイルを塗り、また乾燥。一気に厚く塗っても意味がない。この作業を繰り返せば、それだけ使いやすいラインになる。ともあれフィールドに出る前に地道な作業を必要とするわけだ。

手の掛かるものほど愛しくなるのが人情というもの。シルクラインは、もちろん扱いにくい部分もあるが、それをいうならそもそもフライフィッシングは、実にまどろっこしい遊びである。多少の苦労や不便を乗り越えたほうが、1尾を手にする喜びは増すのだから……。
愛用の道具との釣り旅は、密度の濃い時間を与えてくれる

釣り場に着いた山城さんは、さっそくタックルをセット。まずは4年ほど”育てた”シルクラインをガイドに通す。ラインにクセはまったくなく、ちょっと素振りをするとスムーズに伸びる。この柔軟性は、使い込んだシルクラインならではだろう。

「こっちのフランス製のラインは、先端の細い部分が長いでしょ? ショートレンジのキャスティングにはコツがいるけど、このおかげでフライを自然に流しやすいと感じます」
釣りを終えると、山城さんはラインをリールから引き出して車内のスペースに置いた。暖かければ、帰宅するころには乾いているので、そこに右の専用オイルを塗ればよい。左は普通のラインクリーナー

ロングティペット・リーダーのシステムが、フライのナチュラルドリフトを助けてくれるのと似ているが、シルクラインはもちろんティペットほど細いわけではない。おそらくシルクラインはその柔軟性によって、フライを自然に流しやすくしてくれると思われる。

たとえば硬くて張りのあるラインだと、そもそもたるみができにくいし、どこかに水の抵抗を受ければそれが全体に伝わりやすい。

一方で、たとえばPEのようなコシのないラインなら、どこか一部が引っ張られても、それがフライにまで伝わるのは若干遅くなるはずだ。

とはいえ、柔らかいラインはデメリットがないわけではない。シルクラインはガイドなどに絡んでしまうと、ちょっとサオを振ったくらいでは、なかなかほどけない。視認性もよくないので、どの方向に回転して絡んでいるのかも分かりにくい。

そのようなトラブルは実際フィールドではよくあるが、これは扱いに慣れれば回避できるだろう。

使うのがうれしくなる道具

さて、北茨木の渓流に入った我々は、いきなりライズに遭遇。先行者もいたのでラッキーだったが、このチャンスに山城さんは、18番のアダムズを結び、続けて数尾をキャッチした。サイズはそれほど大きくなかったが、この川の平均サイズといったところだ。
春の北茨城の渓流。幸先のよい出だし

この日活躍してくれた18番アダムズ

釣りを観察していると、それほど長くないティペットにもかかわらず、たしかにフライが自然に流れる時間は長いように思えた。

そのあたりは単にラインの性能だけでなく、その置き方やメンディングのテクニックにもよるので、判断は難しい。だが長年使っている山城さんは、やはり違いを感じているという。

そして、これは自己満足の世界なのかもしれないが、やはり気に入った道具を使った釣り旅というのは楽しいはずだ。

「これ? 指物師に作ってもらったんですよ」
木製のフライボックスに見入っていると、山城さんがそう教えてくれた。そんな小物ひとつを取っても、そこにこだわりや愛着があれば、使うたびにちょっと心が温かくなる。

人より多く釣りたいわけではなく、ただ一日を豊かにすごしたいというのなら、ちょっとだけ手間のかかるシルクラインのような道具を、渓に持参するのも悪くない。
山城さんのボックス。まったく同じものがない物を持つ楽しみ。『つるや釣具店』に行くと、こんな道具たちとの一期一会がある

2018/12/26

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 今号の特集はウエットフライ。十人十色、という言葉がこれほどマッチするフライフィッシングはないかもしれません。エキスパートたちには「この釣りを始めたきっかけ」から、今実践しているテクニックまで、さまざまな質問をぶつけてみました。すると、実は似たような釣り方をしていることも少なくない、ということに気づかされました。
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