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釣り上がりのフライセレクト

替え時は、水深とライズと風

天海 崇=解説 FlyFisher=文・写真

ヤマメとイワナが混生する小渓流。この日の天海崇さんは最初こそパラシュートであったが、ここはと思う水深のあるポイントではカディスに結び替えた。さらにライズがあればクリップルに、風が吹けばアントというように、状況に合わせてフライチェンジを繰り返す。

この記事は2011年8月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
あまがい・たかし
1973 年生まれ。栃木県佐野市在住。渓流の釣り上がり、マッチング・ザ・ハッチの釣りを得意とする。栃木、群馬、新潟、福島の渓に詳しい。本流域のライズフィッシングにも熱を入れ、また北海道などへの遠征も楽しんでいる。

車止めのゲートから数10分でたどり着くダム上の小渓流。河原が広くロッドは振りやすいものの数100mおきに堰堤があるため、足で稼ぐことが求められる釣り場である。しばらくはヤマメ主体でイワナも混じる。

5月26日、午前8時40分。水温10℃、水質はクリア、天候は曇り。夕方には雨が降るとの予報である。渓を見た瞬間「水が少ないなぁ」と天海さんは呟いた。前日まで雨だったが、水源の山にはそれほど降っていなかったのだ。水位の低さからして渓魚たちの警戒心は高いことが予想できる。天海さんは普段メインに使っている#15フックのパラシュートを結び、ある程度水深があって、いかにもというポイントが出てきたら、そこで反応があるかを見極めるまで、ようす見がてら釣り上がることにした。
8:40 入渓
予想以上に水量が少なめ。まずはようす見で#15パラシュートを結ぶ


釣り上がり用パラシュート
●フック……TMC212Y#13
●スレッド……ユニスレッド8/0各色
●シャック……ズィーロン各色
●アブドメン……フェザントテイル
●リブ……コパーワイヤ
●ソラックス……シルクダブ各色
●ハックル……コックネック各色
●ポスト……エアロドライウィング FLオレンジ+ピンク
※これからの時期はヤマメを意識した釣り場でおもに使用する。また初めての釣り場でようすを見るのにも便利なフライ


釣り始めてみると魚の活性はそれほど低くなかった。ヒラキでヤマメがヒットし、数分後には平瀬の肩でも出た。どちらも20㎝に満たないサイズだったが、浅場でのヒットに先行者の不安はないと判断した天海さんは、それまでの小さなポイントをていねいにねらうアプローチから、核心部と思われるところだけを流していく方法に切り替えた。
8:45 ヤマメがヒット
浅い場所からのヤマメの反応に、先行者はおそらくいないと判断。5分後には肩でも同サイズのヤマメが釣れた


9:51 カディスにフライチェンジ
水深のあるポイントが現われたのを理由に、より存在感のあるシルエットを持つカディスにフライチェンジ


10:07 クリップルでヒットしたヤマメ
この日初めてのライズでヒットしたヤマメは、クリップルをくわえ込んだ


午前10時21分。岩盤にぶつかるようにしてできたプールでこの日2度目のライズを発見。シワの入った水面からフラットに変わるヒラキ近くで、ライズリングがひとつ広がった。天海さんはフライをクリップルに変更。釣り上がりでも使うが、特にライズの時は実績の高いパターンだ。ボディーが水面下に没するこのタイプは、魚の反応がよいだけでなく、吸い込みやすさからすっぽ抜けを防ぐ意味もある。
10:21 ライズ発見
最初のライズでヒットさせていたクリップルをここでも結ぶが、口を使わず直前でUターン。風が吹き、水面に波ができたのを機に、重みがあって風に強いアントに替えて見事にヒット


姿勢を低くし、ポイントの斜め下流10mまでにじり寄る。リールからラインを引き出し、フォルスキャスト2回でプレゼンテーションを決める。フライはライズポイントより50㎝ほど上流に静かに着水。ポイントまでの間に流速差はないため、メンディングせずにそのまま流す。

申し分ないアプローチに見えたが、水面近くに浮上したヤマメはフライの直前でUターンした。左右に動きながら捕食しているようだ。次はその動きをしっかり確認したのち、先ほどより少し対岸側に落とす。魚はフライに興味を示したが、口は使わなかった。再び魚の動きを観察することにした。
羽アリを中心に、16番前後の比較的小型のフライを詰め込んだボックス。釣り上がりとライズを兼用するクリップルも収まる

「おそらく今使っているフライより小さな虫を捕食していると思いますが、これ以上サイズを落とすと、フライを見失う恐れがありますので、先にシルエットを変えてみます」
ポイントを少し休ませる意味も含め、ティペットを交換。そのうち下流から強い風が吹き始めた。木々を揺らす風はだんだんと強くなり、しばらく止みそうにない。水面に波ができて多少警戒心が緩むいまがチャンス。そう思った天海さんは、再度クリップルを結び3度目のキャストを試みた。しかしフライが風に煽られ、ねらっていたレーンから外れてしまう。今度は少し重みのあるフライに交換。吊り下がりタイプのアントパラシュートだ。
パラシュートアント
●フック……TMC102Y#15
●スレッド……モノスレッド・S各色
●ボディー……スーパーファインダブ・ブラック、ミラージュティンセル
●ハックル……コックネック各色
●ポスト……エアロドライウィングFLオレンジ+ピンク
※これからの時期はパイロット的にも使えるが、ボディーが重いため、風が吹いた時にもコントロールが効くのが特徴


「いままでの経験では、ライズする魚にはクリップルが効果的でした。ですが風が強くコントロールの効かない状況下では投げやすさを優先します。風で波ができて渓魚の警戒心は緩んでいますから、多少サイズやシルエットが違っていても、目の前に流れてくれば、口を使ってくれると思います。こうした状況では、いかに正確にプレゼンテーションできるか、ということのほうが大切です」

ビシッと音がしそうなほど鋭くコンパクトなアワセが決まった。パーマークの上にうっすらとピンクを引いた魚体が揺れながらネットに吸い込まれていく。風が吹いて水面が波立つ、時合ともいえる一瞬を逃さず、風に影響を受けづらいフライを選択したことが、初夏の渇水した山地渓流で価値ある1尾を引き出した。
10:44 アントでヒット
陽が高くなり、メイフライの姿が見えなくなった。また風が出てきたことから、コントロールしやすいアントに替えて魚を引き出した


天海さんはヤマメにはパラシュート、イワナにはカディスというイメージでフライを大きく使い分けている。今回パラシュートを最初に結んだのも、渇水気味という状況もあるが、一番の理由はヤマメがメインの区間であったためである。釣り進んでいくうちに川に落差が出始め、イワナが好みそうなポイントが増えてくると、水深のあるプールや落ち込みを前に、パラシュートよりアピール度の高い、ボリュームを優先したカディスに替えていた。通常のカディスに加え、ボディーをピーコックハールにして陸生昆虫を意識したもの、またエアロドライウィングを付けた視認性を高めたものを準備している。
エルクヘア・カディス
●フック……TMC531#12
●スレッド……モノスレッド・S各色
●タグ……ミラージュティンセル
●ボディー……スーパーファインダブ
●ハックル……コックネック各色
●ウイング……エルクヘア・ナチュラル
※カディスはおもに山地渓流でのイワナを意識して使う。パターンとしてはこのほかピーコックハールをボディーにしたものも準備


11:00~12:00 反応が遠のく
いくつかの堰堤を越えながらの堰堤間を釣り上がるが、肩、ヒラキといったところから反応がなくなり、フライを前にUターンする姿もいくつか見られ、途中から先行者が入ったのかもしれないと予想。写真はその間に唯一釣れたヤマメ


また天海さんはクリップルを結ぶ場面が目立った。釣り上がりでも使っていたが、ライズ用の切り札としての出番が多かった。神経質な魚にも違和感を与えない繊細なシルエット、また魚が吸い込みやすい吊り下がりタイプといった点を踏まえ、ファーストキャストが重要なヤマメに対し、積極的に使っていた。
12:12 クリップルにフライチェンジ
風は収まってきたが、魚の反応はなし。天海さんはそれまでのアントからフライをクリップルに交換


クリップル
●フック……TMC3761#16
●スレッド……ユニスレッド・8/0各色
●シャック……ズィーロン各色
●アブドメン……フェザントテイル
●リブ……コパーワイヤ
●ソラックス……シルクダブ各色
●ハックル……コックネック各色
●インジケーター……エアロドライウィングFLオレンジ+ホワイト
※釣り上がりにも、ライズねらいにも使えるパターン。フラットな流れでの出番が多い


また風が吹くと、天海さんは重いフライに替える。ライズを前にした場合は特に、正確なプレゼンテーションが求められるものだ。この日はフライコントロールを重視してアントに結び替えていたが、水量しだいではビートルを使うこともあるという。前述のプールでは、水面に波が立つほどの強風、天海さんはクリップルからアントに替えて見事にヤマメを釣りあげた。
13:40 クリケットにフライチェンジ
河原に小型のバッタやコオロギを発見。それまでのアントからクリケットにフライを変更する


クリケットパラシュート
●フック……TMC102Y#13
●スレッド……モノスレッドS・バターイエロー
●アブドメン……ターキーバイオット
●ウイング……CDC・ゴールデンブラウン
●レッグ……グースバイオット・ブラウン
●ソラックス……シルクダブ・ブラウン
●ハックル……コックネック・ブラウン
●ポスト……エアロドライウィングFLオレンジ
※山地渓流では時にアントより効果を発揮するクリケット。魚種を問わず実績が高い


山地渓流でのイワナを意識したパターンを揃えたボックス。カディス、アントのほか、ホッパーやブナムシといった特定のシチューションにも対応できるパターンが揃う

トータル8時間の釣りとなったこの日、天海さんがフライを交換した回数は全部で8回だった。
「この時期はフライにこだわらなくてもよいというイメージを持っている人が多いかもしれませんが、人的プレッシャーの高い関東周辺の渓では特にその差は大きく出ると思います。結び替える理由はそれぞれですが、手持ちのフライをうまく使い分けると、釣果もさることながら、トラブルも減ってリズムよく釣りが楽しめます」
13:43 小雨が降り始め、再び風が強くなってくる
反応の少なさから釣り場を移動しようと思い始めた矢先、クリケットフライにヤマメがヒットした


15:40 イワナがヒット
ブッシュ下のポイントでカディスにヒット。一度はスッポ抜け。同じ魚かどうかは分からないものの、2回目のプレゼンテーションでフッキング


ロッド:7フィート7インチ#2
ライン:WT3F
基本のリーダーシステム:12フィート4Xのテーパーリーダーにティペットを4フィート6Xで合計16フィート
渇水および人的プレッシャーの高い渓:12フィート4X+3フィート5X+3フィート6.5~7Xで合計18フィート(カーブキャストやメンディングを多用するため)
ブッシュの被った小渓流:9フィート4X+3フィート5X+3フィート6.5~7Xで合計15フィート
※このほかホッパーなどの大型フライの時は、全長12フィートにして先端を4Xにする


交換したフライとその理由
パラシュート#15/渇水気味という状況と、まず、ようすを見るため

エルクヘア・カディス#12/水深のあるポイントが出てきたのでシルエットを変えて存在感を高める意味で

クリップル#16/ライズがあったため、信頼度抜群のフライに交換

エルクヘア・カディス#12/水深のあるポイントが増えてきたのでボリュームアップ

クリップル#16/プールでヤマメらしきライズを発見したため、繊細なタイプに変更

パラシュートアント#15/風が強いので重量のあるフライに変更

エルクヘア・カディス#12/風が収まったのと、イワナ好みのポイントが続くことから、ボリュームのあるものに

(その後釣り場を変更)エルクヘア・カディス#12/イワナメインのエリアであるためボリュームを重視

クリケットパラシュート#13/河原で小さなバッタを見かけたため

エルクヘア・カディス#12/水深のあるプールなので、ボリュームのあるフライにチェンジ






2017/7/21

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最新号 2024年3月号 Early Spring

【特集】創刊35周年、春の大感謝号

前号からお伝えしておりますが、今年度、小誌は創刊35周年を迎えております。読者の皆様とスポンサー企業様のおかげでここまで続けることができました。ありがとうございます!

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また、海外の情報を中心にお届けしていた東知憲さんが制作するセクション「タイトループ」も復活。今回はフライキャスティングにおけるテンションについて解説しています。
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