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レッドフィッシュの聖地・ルイジアナ

後編

FlyFisher編集部=写真と文
ホーマのマーシュ。雲の下はもうメキシコ湾だ

ブラインドフィシングで最初のレッドフィッシュを手にできた僕たちは、次なる目的地ホーマに向かう。水はそこも茶色。でも、最高のサイトフィッシングが待っていた。

この記事は2013年9月号に掲載されたものを再編集しています。

湿地帯に恵みあり

ルイジアナ州沿岸の湿地帯の経済的価値は、推定で年間400億ドル以上ともいわれているそうだ。豊富な海産物、天然ガス、石油はこの地域を支える重要な資源となっており、渡り鳥のルートなっている水辺には何百万羽という水鳥が飛来して大勢のバードウオッチャーが集まってくる。もちろん、釣り人も。

この地を訪れて強く感じたこと。それはここルイジアナが、アメリカの中でもとても「エキゾチック」な土地であるということ。大規模なプランテーションが栄え、貴族的で裕福な階層や文化が育ってきた歴史と、手つかずの自然や人の手が及ばないような自然が隣り合わせで存在している。ケイジャン料理を生み出した庶民たちは、イギリスへの忠誠を拒んで英領カナダから追放されたフランス系移民がこの地にたどりつき、厳しい自然環境の中でも土着の素材を積極的に取り入れて自分たちの料理を作り上げたという長い苦難の歴史を背負っている。

釣りで旅をする意味とは何だろう? ヒマラヤよりウラヤマ、必ずしも遠く離れた異国に出かけなくても、何かを目覚めさせてくれる発見に出会えるというのはひとつの真実だと思う。でも、たとえばここルイジアナで、小さな頃から小川や田んぼで捕まえては水槽で飼ってきたザリガニが、秘伝のシーズンニングでおいしく茹であげられた美味しさに目覚めてしまった自分は、そこで体験できる釣りの面白さと同時に、旅の始まりと終わりでなんだか「脱皮」したような気分を味わうことになった。

本命現わる

州内の西の主要都市、レイクチャールズでの釣りを終えた僕たちは、ニューオーリンズへ引き返す東へルートを取りながら、その手前にある別の町、ホーマ(Houma)に入った。インターステイトを下りて内陸をメキシコ湾側へ進んでいくと、やがて町の中に水路や川が多く目に付くようになる。ここもまた広大なデルタ地帯の一角なのだ。そこに新たなガイドがいるという。

翌朝6時、こぢんまりとした地元ホテルのロビーに定刻で迎えに来てくれたのは、州立大のフットボールチーム、紫がシンボルカラーのLSUタイガースのキャップを被った紳士風のキャプテン、「モンテイジャン」ことマーティーさんだった。夏はモンタナでトラウトフィッシングのガイドをし、それ以外の季節は地元のホーマでレッドフィッシュのガイドをしているという。もとは新聞社勤めで、好きだったレッドフィッシュの釣りのガイドをアルバイトでしているうちにウデを磨き、やがて独立したとのこと。ピックアップトラックのリアガラスには大きく、「GOT REDFISH?(レッドフィッシュを釣ったかい?)」のデカールが貼られていた。これはいいガイドに当たったのでは? そんな手ごたえがある。

こちらが多くを伝えずともぴったりの釣りを組み立ててくれたマーティーさん(右)

「君たちは数より大きいのが釣りたいんだよね?」

「そうです。しかも本命はサイトフィッシングです」

「了解。今はコンディション的にはタフなんだけれど、なるべく沖に近いエリアまで出てみよう。数はそれほどでもないんだけれど、出ればいいサイズしかいないよ」

船着き場から一気に沖方向を目差す。前回のレイクチャールズは内陸部の複雑に入り組んだ水路の中を釣っていた印象だったが、ここホーマでは比較的早い段階で背の低い草が続く湿地帯(マーシュ)の中でも開けたエリアに出た。水深はやはり浅くて1mもない感じ。相変わらず水は茶色いが、それでも水面に目を凝らし始めたキャプテンの表情は落ちついている。

「今魚がいたね。そのあたりをねらってみて」

最初の一尾をなかなか発見できない時間が続く中、ボートの近くに一瞬だがそれらしい魚影があったらしい。はっきりとこれだと目視はできなかったが、中根さんもうっすら見えたという魚影を確認して指示どおりにキャストしてリトリーブを掛ける。すると、しばらくして「来た!」の声。

ロッドが曲がり、確実にフッキングしたことが確認できたところで、「オーケー!」の歓声。この日一尾目となるその魚は、今回の旅では初となるいいサイズのブラックドラムだった。レッドフィッシュではないが、これはまったく問題ない。

これがブラックドラム。レッドフィッシュに比べるとずんぐりとしていて幅もある

近縁種にあたるレッドフィッシュとブラックドラムはどちらもがこの南部デルタの代表的なゲームフィッシュであり、個体同士はほぼ同じ水域で生活しているとされる。見ためはレッドのほうがスマートで、ブラックのほうが少しグロテスクなのだが、口先にあたる方向を予測し、キャストして一呼吸置いてからスッ、スッと誘うリトリーブでねらう釣りの組み立ては一緒なのだ。慣れてきたら魚影(レッドのほうがよりスリムで赤味がある)で判断し、ブラックはパスしてレッドに的を絞るといった展開になる。

風もなく太陽も出て天候に恵まれたこの日、一尾目のブラックドラムからしばらくは、ボートを滑らせて新しいワンドに入るたびに、数尾のレッドフィッシュやブラックドラムが見られる状況が続いた。

濁りは相変わらず強く、見つけた時にはすでにボートのすぐそばでキャスト前にスプークされる数も多かったが、それでも中根さんはほどなく本命のレッドもキャッチする。


マーティーさんが見つける前に魚を確認し、自分でキャスト&フッキングを決めることもあって、「ジュンはフィッシングマシーンだねぇ~(笑)」と感心されていたが、やはりそこはプロ。捕食行動をとっている魚のヒレが水面上に見えたり、うっすらとしたシルエットを水面下に見つけるときの距離は、我々より断然遠かった。

魚は全体でなく一部が見える(茶色い水面の中に〝なんとなく〞トーンの違う影らしきものが浮かんで見える)ことが多いのだが、そのような場合も、あるいはテイリング中の尾ビレが見える場合も、マーティーさんは魚の向きを見極めるのも格段に早い。あとはその鼻先に重いフライを確実にプレゼンテーションできるかどうかが勝負の分かれ目だ。両手で抱えるようなサイズの魚がゆったりと身を横たえているのを目にしたとき、そこに冷静なキャストを決めるのはけっして簡単ではない。

懸命に目を凝らしていると、たまにこんな砂煙が上がって「ここにいたのか」と驚かされる


キャプテンの手巻きフライ。スプーンフライにはティペットのヨレ防止のスイベルが付いていた。この日のおすすめはダンベルアイの付いたクラウザーミノー系

都会への帰還

ホーマでデルタの豊穣さをすっかり実感した僕たちは、その後、旅の玄関口であるニューオーリンズに戻った。ニューオーリンズはミシシッピ川沿いにフレンチクオーターと呼ばれる市街区があって、観光客の集まるメインエリアになっている。

本格的なジャズバーのほかにも街の中は多様なジャンルの生演奏を楽しむ機会に事欠かない。昼も夜も賑やかだ

数多くの郷土料理の中でも、特に美味だったもののひとつがジャンバラヤ。店ごとに少しずつ味付けや材料が違うが、こちらは魚介やソーセージがたっぷり入ったフレンチオクター内の老舗CAFÉ MAESTROの一皿。釣り上がりのビールとの相性もぴったり

その中はホテルから歩いて行ける距離に、レストラン、カフェ、ジャズバー、アートショップ、アメリカ水族館(メキシコ湾の魚を集めた特設コーナーもありかなりおすすめ)、そしてフライショップ「アップタウンアングラー」とあらゆる行き先がそろっていて、釣りのアフターも充実させたい身には楽しみが尽きない。ちなみに僕たちがフライショップに行ったときは二人のスタッフがいて、うちはレッドフィッシュのガイドもやっているから、次はぜひと言われパンフレットも見てみると、料金も相場からしてけっして高くなかった。街は観光エリアから大きく外れない限り、夜も安心して外を歩ける雰囲気がある。

ハリケーンの襲来、そしてメキシコ湾でのオイル流出事故という試練を乗り越え、今アメリカの中でもこのエリアは「旅をするなら南部」という大きなキャンペーンの盛り上がりの中にある。美味しい食事に数多くのアクティビティー、そして何より、レッドフィッシュという素晴らしいターゲット。

ホスピタリティーあふれるルイジアナは、訪れる誰をもきっと満足させてくれる。



レッドフィッシュの釣りについて(中根 淳一・パタゴニアフィッシングアンバサダー)

初めて訪れたのがミシシッピ川の下流域でしたが、今回は西部のレイクチャールズやホーマでも釣りをする機会がありました。各地域の違いは、正直なところエリアでの違いなのか、ガイドの好みなのかなど詳細な部分は分からないことも多いのですが、マーシュ(湿地)でのサイトフィッシングという部分は共通しています。

タックルは、釣れる魚の大きさやその時のコンディション(風など)で7~10番を使います。20ポンド以上の魚が釣れる可能性のあるシーズン以外は8~9番を中心に選択して、リールもロッドにあわせたディスクドラッグタイプがよいので、シーバスなどに使っているものを流用できると思います。

一番重要と感じるのがフライラインとリーダーです。ほとんどの場合はボールチェーンやダンベルアイが付いたフライを使いますので、近距離でも重いフライをストレスなくターンさせることができるテーパーデザインの製品を選ぶのがよいでしょう。リーダーに関しても同様に、フロロカーボンのヘビーバット仕様の市販品か自作するとよいと思います(私は市販品の01~03Xを使用)。

フライはガイドによっておすすめパターンがあり、レイクチャールズではスプーンフライ。ホーマでは重いダンベルアイの付いたクラウザー・ディープ・ミノーをすすめられました。ミシシッピのマーシュではレッドフィッシュ・スライダーで釣れましたから、これでなければ釣れないというよりは、エビっぽいシルエットやアピールができればよいのかと思います。ただし共通しているのはカラーで、パープルが入っている配色が効果的なようです。

タックル以外の装備で重要なのが偏光グラス。マーシュの水底は土色でレッドフィッシュの体色もこれに近いのですが、体の一部がオレンジ色なので赤系の色を強調するコパーカラーのレンズが適しています。もし天候が暗いようでしたらイエローカラーのレンズも予備に携行したほうがよいと思います。

レッドフィッシュは足もとでもバイトする魚ですから、アプローチはほとんどの場面で遠投は必要ないのですが、近・中距離のキャスティングには正確度が求められます。フライラインのフロントテーパーすらトップガイドから出ていないような近距離での重いフライのコントロールは、遠投することより難しく、最初は難儀するかもしれません。まずコースについてはストロークのトラッキングに注意して、思いどおりの方向にできるだけ素早く投げ分けられるようにしておくべきです。

また魚を目の前にすると、どうしてもフライを届ける意識が強くなり、ロッドストップが曖昧になりループの推進力が足らず、フライが届かない人が多いのですが、興奮していてもいつもどおりに投げられるように、練習を重ねておくとよいと思います。

2020/2/17

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最新号 2020年12月号 Mid Autumn

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