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WILD LIFE

夏の桂川、テレストリアルで挑む。

釣り人の少なくなったメジャー河川で……

伊東宏祐=解説
夏の桂川。ポイント捜しの注意点は日陰。太陽の位置とともに変化するので、それに合わせて、どんどん移動していく

5月を過ぎると、一気にハッチ量が減る関東近郊のライズフィールド。それでも釣り人の少なくなった人気河川で、シビアでワイルドな良型を追いかけてみては?
この記事は2013年8月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
伊東 宏祐(いとう・こうすけ)
1970年生まれ。神奈川県相模原市在住。ブラックバスのトップウォーター・フィッシングを経て、フライフィッシングへ。桂川は長年通っており、それよりも以前からは東北の渓流へも足を延ばしている。

盛期終了後のライズフィールド

3月からゴールデンウィーク前までのフィーバーは完全に終息し、5月を過ぎると桂川から釣り人の姿はどんどん消えていく。なぜ人が来なくなるかというと、答えは簡単、“釣れない”のだ。

春はヤマメをあっさり浮かせてしまう大型メイフライのハッチも多く、誰でも比較的簡単に反応を得られることが多い。初めてこの川に来て適当なポイントに入った人が、オオクマのハッチに当たり、尺ヤマメをゲット、なんてのもよく聞く話。

しかし、そんな桂川も5月を過ぎて夏になると状況は激変する。ハッチするカゲロウはどんどん小さくなり、梅雨で安定したコンディションは望めない。増水したかと思えば減水したり、水生昆虫たちも増水で一掃されたり、河川工事の影響で砂が川を埋め尽くしたり……。

それでも私が暑くても釣れなくても桂川に通うのは、やっぱり家から近いから! 本当は夏になったら毎週でも東北に行きたいけれど、そんな時間も体力もお小遣いもない。きれいな流れでゆったりライズを繰り返す東北ヤマメを思いながら、桂川で修行するといった感じだろうか(笑)。

それでも、家から近いのは最大のメリットで、同じ川に年間をとおして通うのは、勉強になり上達する一番の方法だと思う。
夏でも良型のヤマメがいなくなるわけではない。人知れずこっそりとテレストリアルを捕食しているのだ

暑くてツライ季節の桂川にも、多かれ少なかれチャンスは必ずあるもの。川、ヤマメ、水生昆虫、陸生昆虫、天候などをよく観察すれば何かしらの糸口が見つかるはずだ。

春に成魚放流されたヤマメも、栄養豊富な桂川では夏には立派なワイルドヤマメに変身し、銀ピカの遡上ヤマメも夏から姿を見せ始めるだろう。たくさんは釣れないけれど、やっと釣れた1尾の感動は大きいんだ!

では私のお粗末な経験から、夏の桂川の釣りをちょっとご紹介したい。

夏はやっぱりテレストリアル?!

桂川は湧水が多く、春先から多くの水生昆虫のハッチがあり、繊細なライズフィッシングが楽しめる川だ。しかし夏になるとそんなハッチも激減し、波紋なんかまったく見つからない。

万が一ライズを見つけたとしても超ド散発&激スレ。アントが流下する確率はかなり高いけれど、神出鬼没で、なかなか目視できないから予想が立てづらい。となると釣れるヤマメを歩いて捜すしかないのだ!

とある夏の日のこと。ヤマメを捜しながら河原を歩いていると、オーバーハングした木の陰でライズリングが広がった。とはいえ、「バシャ」とか「ガバッ」とか「モクン」とかそんな目立つものではない。ビギナーであればまず気が付かない、通っている人でもよ〜く見ていないと見逃すぐらい、微妙で小さなライズだ。

水位は雨で増水したあとで、平水に戻りつつある水量。川底は大雨に洗われ、ハッチがありそうな雰囲気はない。しばらく観察するとかなり不定期で散発のライズがある。いざねらうにはタイミングが取りづらいが、チャレンジしてみた。
夏場の桂ヤマメ。季節が進むにつれて釣りは難しくなるが、ヤマメは成長し続け、素晴らしいプロポーションを見せてくれる

流下はとくに目立ったものが見当たらなかったが、ヤマメの姿は確認できたのでコカゲロウDD、ダニーマ、アントの各サイズをローテーションしながら、ライズのタイミングを見計らって流してみた……が、まったく反応なし、というか激スレ。

フライを流すと嫌がって下がってしまう。ティペットを細くしたいが、私のテクニックでは0.3号(8X)が限界だ。頭を悩ませ次のフライを考えていると、木から落ちた何かをヤマメがスッと吸い込んだのが見えた。これだ!と思い、ピーコックを巻いて頭にCDCを付けただけの、#20の半沈みフライに替えてみた。

1投目、ドラッグがかかってスルー。1分後に再びライズし、すかさず2投目……長い距離を流したら見切られてスルー。こんなテンポで数投無視されたが、フライをヤマメの斜め前方20cmにポトリと落としたら、何の躊躇もなくスポッと吸い込んだ!

増水で磨き上げられた夏ヤマメは泣き尺の29cm。ストマックを見てみると、アント、小さなカゲロウのDDとシャック、毛虫、ビートル……、腹が減っているからなんでも食べるといった感じの内容物だ。
以前、夏の桂川で釣ったヤマメのストマック。この時はヒラタパターンでヒットさせることができたが、そのストマックから出てきた2匹のビートルがかなり気になった

おそらくヤマメはエサを食べたいが、充分な流下がないのであろう。流下量が少ないから散発のライズになり、それもまとまったハッチがないから不定期なタイミングになるのだ。

かなりの強者らしく普段見慣れているだろうメイフライパターンは完全に無視だった。テレストリアルパターンに見慣れていないのと、目の前に落ちた反射でつい食べてしまったのだろう。

なるほどぉ~と思ったが、桂川では年に1回あるかないかのパターンだ(笑)。でもこういう経験があるのとないのとでは、後々の釣りに大きな差があるように思う……たぶん……いや絶対。

このパターンで重要なのは、オーバーハングと日陰。桂川だけに限らず夏のシェードは一級ポイント。日陰+よい流れ+障害物(オーバーハングや倒木、大岩など)ともなれば完璧である。
実際に29cmのヤマメがテレストリアルパターンでヒットしたプール。対岸の日陰のような場所では、陸生昆虫の落下も多い。ちなみにこの場所は、工事により現在は渓相が変わってしまっている

私はあらかじめ陰ができる場所をいくつか覚えておき、太陽の位置で刻々と変わる日陰を追いかけて、朝から夕まで各ポイントを探っている。

移動する時は、下は上野原、上は西桂までと、気になる箇所は全てチェックする。ちなみに曇天、雨天の場合に明確な日陰ができていなくても、かなり効果は高いと思う。

持っておきたい小さめテレストリアル

桂川に来る釣り人はカゲロウやアントパターンはたくさん持っているが、それ以外のテレストリアルを使う人はほとんどいないと思う。

ヤマメのストマックを年間通じて見ても、結構な確率でテレストリアルは入っているが、みんなメイフライのほうに気を取られていることが多い。メイフライは、実際にハッチが少ないとはいえ、時間や種類など予想を立てやすいという背景もあると思う。

テレストリアルはみんながあまり使わないフライだから釣れるような気がするが、流下はまったく予想ができない。それでも、水面に落ちそうな場所や状況を考えれば結構流れているもの。たとえばオーバーハングの下やバンク際、倒木の下流側、しかも風の強い日は特に確率が高い。

ちなみに私の場合、#18〜22のスペントビートルや半沈ビートルに実績がある。桂川では、一般的な渓で使うような#10のピーパラを1投しようものなら、ヤマメは即スプークです(笑)。
スペントビートル
●フック……TMC212Y #17~21
●スレッド……8/0ブラック
●ポスト……CDCホワイト
●ウイング……レーヨンの編み紐
●ボディー……ピーコックアイ
レーヨンの編み紐をカットしたウイングをフックに対して十字型に取り付ける。このほか、ウイングを除いた水面ぶら下がるパターンも合わせて使用している


はねあり
●フック……TMC212Y #17~23
●スレッド……8/0ブラック
●ポスト……CDCホワイト
●ウイング……レーヨンの編み紐
●ボディー……スレッド
夏季にはやはり多く捕食されているアント。ライズが起こるタイミングは読めないが、かなりの確率でストマックの中に見ることができる


状況が変わりやすいこの季節、インターネットや人から聞いた情報だけでは全くあてならないことが多い。実際に現場に行ってその時の状況をよく観察することが釣果を上げる一番の近道。ここに書いたようなことだけでなく、川では日々いろんなことが起きている。そういう発見を楽しみながら釣りすることが、この暑い季節をより面白くしてくれるはずだ。

2018/6/25

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