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岩井渓一郎、64歳、フライ歴46年

「これは本当に飽きることがありませんね」

FlyFisher編集部=写真と文

《Profile》
いわい・けいいちろう
1953年生まれ。東京都世田谷区在住。かつて日本の渓流フライフィッシングを大きく変えた「ロングティペット・リーダー」、「ルースニング」を広めた立役者。故・西山徹さんは「彼の行動力は当時、病的だった」と語った。その後、バスとシーバスを釣るための「イワイミノー」とその釣り方を発表。またしても変革をもたらした。














フライ歴は46年


ーー 改めまして、フライ歴はどれくらいなりますか?

最初にフライロッド買ったのが18歳の時で、今64歳だから……、フライ歴は64引く18、年というところです(笑)。

ーー 岩井さんといえば、ロングティペットとイワイミノーという大きなテクニックがあります。

ロングティペットもイワイミノーも原点は一緒なんです。両方とも、それまでフライフィッシングでは釣れないよ、と言われていたものにチャレンジしているわけです。

釣れないよって言われると、フライフィッシングをやっている者としては悔しいじゃないですか。でも、「そんなことないよ、エサ釣りよりも、ルアーよりも、フライのほうが釣れるよ」というふうにしたかったわけです。

それにはどうしたらいいかを考えた結果が、渓流用のロングティペットであり、バスのイワイミノーなんです。ロングティペットだったら対象魚はヤマメで、イワイミノーだったらシーバスとかバスです。



リーダーが長いからフッキングしないと思っていた


ーー まずロングティペットはどういうきっかけで生まれたのでしょうか?

大学1年生の時にね、とりあえずフライタックルを買ってみたんです。最初はちんぷんかんぷんで、当時のフライフィッシングの知識としては、「まぁ、こういうもんがあるんだよ」という程度でした。

本格的やりだしたのは、それから2、3年経ってからでしたね。その後「つりマガジン」の編集者になって淡水を担当するようになるのですが、渓流釣りの名人みたいな人たちは「フライじゃヤマメやイワナは釣れないよ」ってこぞって言うんです。僕が23歳とかそのくらいだったと思うんですけど。

テンカラの人は「ヤマメは毛バリをくわえて偽物だと感じて吐き出すまでに0.2秒だ」って必ず言うわけですよ。ヤマメが毛バリをくわえるのを見てから合わせるのでは遅いよ、と。

しかも、フライロッドはテンカラのサオと比べれば短いじゃないですか。そんな短いロッドと長いラインではとても釣れるわけがないって言うわけ。それだと0.2秒で合わせができないって言うわけです。

自分で実際やってみると確かにそうなんですよ。ヤマメは速いんです。その頃はフライにスレてないし、もちろん魚もいっぱいいたから、まぁ実家の裏とかその辺の川であっても結構魚は出たんです。でも確かにフッキングしないんですよね。

当時売ってたリーダーは6フィートとか9フィートがほとんどでした。それをとりあえず分からないからそのままフライを直結してやってたわけでしょう。ヤマメは出るけど、それこそ間違って10回に1回釣れるというくらいでした。ひどい時は10回フライに出ても、1尾も釣れないというレベル。

もともとイギリスとかでフライフィッシング始まったところは、釣りをしていたのは日本の渓流みたいに石が入ってる場所じゃなくて、フラットな川だったと思うんです、きっと。ところが日本の渓流のヤマメっていうのは状況が違いますよね。

その時はドラッグとかそういうのは全然頭にないから、やっぱりヤマメっていうのはくわえてすぐに吐き出していると、僕も思っているわけ。確かに偽物のフライならあっという間に吐き出すよね、という感覚だったんです。あの頃は。だから逆に6フィートで長いから合わないのかなあと思って、それこそ1mくらいのリーダーにしたりとか、今と逆のことをやってたんです。

ヤマメはフライを一瞬で吐き出すのか?


ところがある時、当時24歳くらいだったんじゃないかな。湯沢のあたりのドライブインの、入口のところに小さい生簀があって、ヤマメをたくさん飼っていたんです。50尾とか100尾とか。それを塩焼きにして出したりしたんでしょうけど。

確か魚野川で釣りした途中で、お昼を食べようとそこに寄ったんです。当然生簀にヤマメすごいいっぱいいるよーと覗くわけじゃないですか。その時ベスト着たままだったので、使ったフライがね、5、6本胸のパッチついたままだったんです。だったら当然ねぇ……(笑)、ヤマメに向かって投げたくなりますよね、フライを。

実際にやってみたらヤマメがもう、わーっと池のコイみたいに、すぐにフライを食べちゃったわけ。当然僕の感覚としてはあっという間に吐き出すよ、思ってるじゃないですか。でもくわえたヤマメを見ていると、モグモグモグとやって全然吐き出さないんですよね(笑)。5秒とかそれくらいモゴモゴやっていて、そのうちペッと吐き出したんです。すると今度はその吐き出した水の中にあるフライを、別のヤマメがパカッと食べちゃって、そしたらそのまま飲み込んじゃったんですよね。

それで、あっと思って。当然またやりますよね(笑)。結局パッチについていたフライをみんな飲み込んじゃうんです。これは何だと。その時初めて、フライを偽物だと感じて吐き出すというのは間違っているって気づいたんです。

そこで、なぜヤマメはフライを一瞬で吐き出すのかなぁと考えたわけです。僕が普段使っているフライと、今飲み込んだフライの差って何かなぁと。そしたら簡単なんですよね、イトがついてるかどうかなんです。飲み込んじゃうフライにはイトがついていない。ところが、テンカラとかフライにはイトがついてる。

イトの抵抗がなければ遅アワセができるってことじゃないですか。イトをゼロにしてしまったら魚は釣れないから、細く長くすればいいんじゃないかっていうふうに考えるようになったんです。





















ーー 最初はどれくらいの長さだったのですか?

9フィートのリーダーにやっぱり2mくらいはつけてましたね。それまではティペットを足すという感覚がなかったんです。フライを交換するとリーダーが短くなるじゃないですか。それが短くなったら継ぎ足す、ということだったんです。

今みたいにロングティペットにするために最初からティペットを結ぶということはなかったんです。その時はリーダーにティペットを1m、2m、3mくらいといろいろ試行錯誤しました。

ティペットを長くすれば、キャスティングはうまくいかないけれども、やっぱりヒット率は格段に上がったんです。長くしただけで、いきなりいい時は10回出て5、6尾釣れるわけです。それまではヤマメが100%バシャッて出てきたのが、ゆっくりパクッとフライをくわえるようになりました。今考えればそれは当たり前のことですけどね。

でも当時はこれはやっぱり凄いなぁと思って、僕が編集者だった時に執筆者だった、里見栄正さんや、トラッタの宮本直美さんにも教えて一緒にやるようになってきた、という感じです。

やはり練習は必要


ーー でも、ロングティペットは扱いが大変じゃないですか。最初からうまくできたのですか?

いやいや、できないできない。でもそれは慣れですから。でも好きだったからですかね、そういうトラブルは苦にならなかったんですよね。

だって考えてみてください。新体操をやっている女の子があんな長いリボンをくるくるくるってやれるわけです。それは練習でできるようになるわけです。だから僕も公園で練習しましたよ。

うちのカミさんがね、当時結婚して10年だったから僕が40歳くらいの頃ですね、何を間違ったか「ちょっとフライやろうかなぁ」なんて言い出したことがあるんです。まぁ当然いいよって言うじゃないですか。

そこでどうしたかというと、まず公園に連れていって、とりあえずロッドの持ち方、振り方、止め方といった基本だけ教えて、あとは自分が立つ位置に印つけておいて、そこから5m、7m、10 mと離れたところに目印を置いて、そこにヤーンが落ちるようになるまでやれと言ってたんです。もちろんティペットは最初から長くしました。リーダー・ティペットは全長で18フィート。でもカミさんにはそれが長いのか短いのかわからないですよね。そもそもそういうものだって思っているわけです。

そしたらそれから3ヵ月、娘を学校に送り出してからほとんど毎日3時間くらいやったんです練習を。

で、それができるようになったので、長野県の千曲川に連れていきました。そこで彼女は生まれて初めて渓流でフライフィッシングをやって、イワナを釣ったんです。

千曲川ではライズを見つけて釣るじゃないですか。ライズは僕が見つけてあげて、そうすれば魚がいる位置がわかります。で、あそこにフォルスキャスト3回でフライを魚の50cm前に落とせって言ったら、彼女はできたんです。そうすればフライはちゃんと流れるから魚はパクッと食べてしまうんですね。

そこでいきなり尺近いの掛けちゃったんですけど、今度はどうやって取り込んでいいのかわからない(笑)。それは公園で練習できないですから。でもまぁその後慣れてきて、結局10尾くらい釣れたんです。

なんでそんなに釣れたかっていうと、ねらった場所に3回のフォルスキャストでフライを落とせたからです。それができれば、生まれて初めてフライフィッシングをやっても16番のCDCダンが見えるんですよね。

だからキャスティングはキャスティングでやっぱり練習が必要です。フライフィッシングだけは、釣りばっかり行っていてもうまくならないと思います。









40歳になったらすべて辞めてフライフィッシングだけでご飯を食べたい


ーー ピークの時はどれくらい釣りをしていたのでしょう?

一番行っていた時っていうのは「つりマガジン」の雑誌の編集を仕事としてやってから8年間くらいですかね。

月刊誌の仕事は1ヵ月のうちで1週間仕事すればいい。その頃って今じゃ考えられないけど、雑誌はほっといても売れたんです。

「つりマガジン」の仕事っていうのは、まず原稿を依頼するじゃないですか。すると原稿が集まるまで2週間くらい何もやることないわけです。その間に取材に行ったりするんですけど、取材といっても釣りですからね(笑)。

当時は雑誌の編集なんていい加減だから、大体昼出社でしたからね。だから山梨の桂川が釣れていたら、平日は朝、桂川に行って、帰ってきてから出社していました。

もう時効だからアレですけど、今度は会社行ってタイムカードを押して「ちょっと打ち合わせに行ってきます」と言って、そのまままた桂川戻ったりとか(笑)。 そういう生活が8年間続いたっていう感じですね。

その後出版社を辞めて、普通のサラリーマンになったんですが、平日は仕事じゃないですか。その頃は週末にスクールやったり取材を受けたりとかっていう生活でしたね。これもまた8年くらいそういう感じでした。だからその間はシーズン中は休みが1日もなくって、しかも有給使ってビデオ作ったりとかしてました。

僕は25歳の時、40歳になったらすべて辞めてフライフィッシングだけでご飯を食べたいと思ったんです。で、その時考えたのは、そのためにはフライフィッシャーの数が増えなければダメだということなんです。

ではフライフィッシャーが増えるためにはどうしたらいいか。当時はエサ釣りとテンカラで渓流釣り人口はいっぱいいたので、あのくらいフライフィッシャーがいれば多分生活できるんじゃないかと。

そこでフライフィッシングはヤマメとイワナが渓流のエサ釣りよりも釣れるとなれば、みんなやるんじゃないかと思ったんです。だからロングティペットを頑張ってやったというのもあるんですよね。

結局、世の中の流れとかあって、41歳で会社辞めて、今年で64歳。フライフィッシング以外の仕事をいっさいやらないで、ショップもガイドもやらず、スクールとロイヤリティーでね、ここまでやってこれました。

ーー その間でさまざまなものを生み出しましたね。

これは気づけば誰でもできことだと思います。結局経験則だから特別なことではなく、簡単な話です。だけど、普通の人はいろんなことに気づくほど釣りに行けないというのがあるかもしれません。

たとえば、4月は1年に1回しかないじゃないですか、当たり前ですけど(笑)。ということは4月のフライフィッシングは10年やっても10回しかできないってことです。しかもその4月も月1回しか釣りに行けない人は、10年間で10回しか行けないわけじゃないですか。ところが僕は4月だけでも普通で10回くらい、多い時はもっと行っていたわけじゃないですか。そうすると普通の人の10倍くらいいろんなことが気づけるんですよね。

イワイミノーの誕生


ーー イワイミノーの場合はどうでしたか?


あれは自分の趣味というか、フライフィッシングの中の遊びでたまたまバスをやってみたのが最初です。

まぁ大学生の頃もやっていたんですけど、当時はマドラーミノーとかポッパーとかのフライがメインで、そこそこ釣れていました。

しばらく全然バスはやっていなかったのですが、ビデオの下見を兼ねて秋田へ行った帰りに、桧原湖でバスが釣れるというからちょっと寄ったことがあるんです。そしたら全然釣れないんです(笑)。

昔のポッパーでも、10cmとか15cmくらいのは釣れるんです。ところがルアーの子はもっと大きいの釣っているわけじゃないですか。 バスがボイルしてるんですが、全然釣れないんですよ。あの小魚を食べているバスを釣りたいなと思って試行錯誤しました。

最初は小魚を食べているんだから、小魚に似たフライを作ればいいと思っていろいろ作ってたんですけど、なかなか結果が出ないんです。

まずダメなのは空気抵抗。バスが出ればいいというだけではなく、僕は8番タックルとかを使うわけではないから、まずは4番でも普通に投げられるということを課題にしました。

ただラッキーだったのは、僕の実家から車で5、6分のところでバスがうじゃうじゃいたんですね。そこで1週間に7日テストできたんです。会社行ってるわけじゃないので、朝の5時から夕方の5時までずっとやれるという環境だったので、フライを作って持っていって試して、ダメでまた家帰って、の繰り返しでした。

ーー最初からあの形ではなかったのですね。

マイラーチューブを使うことは結構早い段階から見えていましたが、その中身は苦労したんです。フローティングヤーン詰めたりとかしていました。

渋谷の東急ハンズへ行って、使えそうなものは大体全部買って使いましたね。今でも使っているバックアップ材も、お店の中を行ったり来たりして、たまたま見つけたんです。

ひょいと店の天井を見たら、バックアップ材が段ボールから10cmくらいペロっと出たんです。何かわからないんですけど店員さんに「すいません。ちょっと見せてください」って言って見せてもらって、これだと思いました。それが直径6mmのものだったんです。それを手に入れたら後はカットの方法でした。これもいろいろとテストして今の形になりました。


ただ、最初は引っ張って使うものとして作ってたんです。ストリーマーのようにリトリーブして引っ張るのではなくて、ロッドでスッと引っ張るってことですけどね。

それでリアクションバイトを期待してたんですけど、結局普通のドライフライのように、水面でほっといても魚が出ました。最初はそれをねらってなかったんですが、スモールマウスとラージマウスはフライを止めている時に出ます。引っ張るのは魚にフライを気づかせるためなんです。

そして、たまたまガイドの本山博之さんが、スモールマウスバスに効くルアーはシーバスにも効くから、多分イワイミノーも同じなのではないかって言ってくれて。

その頃シーバスを釣るという頭も全然なかったんです。それで本山さんに東京湾のボートをチャーターしてもらって。ボートのキャプテンには「あと1ヵ月早かったら釣れたかも知れませんね」なんて言われて(笑)。

当時、シーバスをフライフィッシングで釣るのは夜、というのが常識だったじゃないですか。日中に、しかも魚が水面に出るなんて、思いもしなかったですからね。

でもとりあえずやってみたら、1投目から釣れて、みんなでびっくりしました。

フライフィッシングとは




ーー そこまで釣りをして、今でも相当な頻度で川に立たれています。岩井さんにとってフライフィッシングの魅力とはなんですか?

僕にとってフライフィッシングの面白さは、魚が食べるところが見えるということです。ヤマメでもイワナでもバスでも、僕の釣り方は全部見えるわけです。シーバスもやっぱり食べるところが見える。これは本当に飽きることがありませんね。

あとはフライタイイングそのものも面白いですしね。釣りよりタイイングが好きかもしれないくらいです。今だってテレビ見てるんだったら、フライ巻いていたほうがいいですし(笑)。フライを巻くこと自体が好きだから、別に必要に迫られて慌てて巻くといこともありません。

常にフライボックスが満タンじゃないと嫌なんですよ。スカスカが嫌いなんです。





2017/9/11

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