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ライズを見て解く大ものねらい

秋の道東に泳ぐレインボートラウト

八鍬宏之=解説
単発のライズには決してすぐに手を出さない。まずはその動向を観察する

1尾を手にした多くのフライフィッシャーが、力強さと抜群のコンディションに息を飲む北海道・道東のニジマス。中でもゴーマル、ロクマルを超えるような魚をドライでねらう時は、「見える」状況を分析する力が不可欠になる。
この記事は2013年1月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
八鍬 宏之(やくわ・ひろゆき)
1969年生まれ。北海道函館市在住。毎年10月になると自身が理想のライズフィッシング・フィールドと感じている道東の川へ出かける。積み重ねた経験を生かし、道外のゲストをガイドする機会も多い。

世界的にも魅力的な釣り場

北海道・道東エリアは、世界的にみても大型のトラウトを育む屈指のフィールドと常々思っている。その中でも日高山脈を水源とする各河川は、ワイルドレインボーの好釣り場であり、サイズでいう”ゴーマル”や”ロクマル”、時には”ナナマル”といった魚が当たり前のように話題に上る。

このエリアの一大本流である十勝川は、数々の支流群に支えられ、幅広いフライフィッシングのスタイルで攻略できる河川として人気がある。そのことは、年々広く知られるようになってきていると感じる。

今回は、私自身が秋から初冬にかけて必ず追い求めている、十勝川水系や日高山脈の川で、ドライフライの「ライズ&サイトフィッシング」に絞って、大ものを攻略する釣りをなるべく分かりやすく解説してみたい。

夏から秋の魚の行動パターンと3つのポイント

サイトで大ものをねらうにあたって、最初にこの季節の魚の動きを押さえておきたい。まず、夏になると大型のレインボ—は極端な気象の変化や特別な昆虫類の流下がない眼り、水面付近での捕食行動をとる機会が極めて少なくなる。

まれに山岳渓流ではこの状況が覆される場面もあるのだが、主なフィールドでは基本的にライズの釣りがしにくい。

しかし、初夏から晩夏にかけて潜水艦のごとく沈んでいた大型レインボーが、紅葉が始まる初秋になるとしだいに水面付近の昆虫類を意識するようになり、日中でも表層に定位してライズを繰り返すようになってくる。

するとようやく大胆な行動も見せるようになるのだが、「ライズ&サイトフィッシング」のすべてはここからシーズンのスタートを迎える。
夏の終わりから足早に訪れる冬の前までの1ヵ月半。限られた短い季節にその釣りはできる

そして、この時期に十勝水系で大型のレインボーの潜むポイントはおもに3つに絞られる。1つめは水深がそれなりにある中規模以上のプール。具体的には最低でも1.5m以上の深場があるところだ。

2つめは一定の水深と緩い流れを兼ね備えた長い瀬。この時も最深部は水深が1.5m以上あるような流れが対象になる。

そして3つめがダム湖のバックウオーターや岬周辺のワンド。中でも風などで水流が起きる場所である。

これらは「50cm前後」のサイズに限定した話で、さらに60cm以上のサイズに的を絞るなら、最初の2つのポイントでは最深部の水深が2m以上あるところでないと厳しいと感じている。

これまでの経験上、”ロクマル”は水深が最低でも2m以上あるポイントでしか遣遇したことがないからだ。これについてはかなりの確証を持っており、条件を満たしていないポイントでは60cmアップは極めて難しいと断言してもよいかもしれない。
存在感のある尾ビレと重みのあるボディー。釣り人を翻弄する魚体

ライズフォームを解く3つの方程式

晩秋、道東の河川で流下するのは、フックサイズで#12~20のメイフライ、#10~22の陸生昆虫など。メイフライではヒラタカゲロウ類やコカゲロウ類のダンやスピナー、テレストリアルではアント、ハエ、小型のアシナガアブ類、ツノゼミ(アワフキ)、テントウムシ、カメムシ、小型のビートルなどが具体的な種類になる。

そのうえで、この釣りでは実際のところ、ライズを確認できるが魚影までは見えない「半サイトフィッシング」といえるケースと、ライズと魚影をともに確認しながら釣りができる「完全なサイトフィッシング」の両方のケースが発生する。
澄み切った十勝・日高の水。そこに泳ぐのは美しい魚体をしたニジマスたち

まずは見つけたライズが大型魚のものであると判断できることは必要だ。そのうえで、ライズフォームから捕食されている昆虫の種類やサイズにもある程度の予測が立てられると、大ものを攻略できるチャンスは大きく広がる。

もちろん、現場の状況だけですべてを判断するというのは実際にはなかなか難しい。それでも一定のパターンを頭に入れておくことで効果的なフライを選び、少ないアプローチで魚の警戒心を引き起こす前に釣りを成功させやすくなる。

以下は「大もののライズ」であることを示す3つの前提条件と、それぞれの場合に魚が食べているものを予測する際の基本的な考え方をまとめたものだ。

<水面に魚の頭だけが出る>
捕食物に応じて無音、もしくはパッコンという種類の音を立てるような大もののライズでは、魚の頭だけが水面から出る。そのような場合は捕食物の流下量が少ないケースが多く、さらにその捕食物は中サイズである場合が多い。

なお、このケースはクルージングしている魚が深い位置から捕食に出ているプールやダム湖でよく見られ、魚の姿までは目視しにくい。捕食物は主にカメムシやテントウムシ、ビートルやメイフライなどが当てはまるが、いずれにしても釣りあげるにはクルージングコースをしっかり見極める必要が出てくる。

<水面に頭と背ビレが出る>
このようなライズでは、よいサイズの魚が水面付近で動きの鈍い捕食物を捕らえていることが多い。捕食物の流下量は多量とまではいかないがそれなりにまとまっている場合が多く、サイズ的には小さいか中くらいという感覚になる。

この時は水面付近をうろついているので、釣り人のポジションしだいでは完全なサイトフィッシングが可能だ。おもにプールや長い瀬、フラット、ダム湖周辺に多く見られるが、このパターンに遭遇した場合、そう簡単にライズが止むことがないので、だいたいにおいて楽しい釣りが約束される。

頭は水面を割らないが、背ビレと尾ピレは水面上に出る
大型の魚が水面や水面直下で動きの鈍い捕食物を捕らえているとこのようなライズになる。これは捕食物の流下量が多い時によく起きるケースで、捕食物のサイズは小さいことが多い。

また、いわゆる「姿の見える大型魚が浮いている状態」のパターンなので、指先が震るる<らいの緊張を味わえる。おもに流速が緩い長い瀬やフラット、ダム湖周辺で起こるジョーズ・ライズだ。難を言えば捕食対象物がマイクロテレストリアル(#20前後)のケースが大半を占めるため、ティペットを細くせざるを得ないこと。

また、この時はライズした魚が泳ぎ去る速度が速い傾向があるため、次に浮上する場所を予測してフライをキャストすることも忘れたくない。いずれにしてもポジションしだいでは完全なサイトフィッシングになるので、その楽しさを存分に堪能することができる。
見えることで磨かれる戦略がある。サイトフィッシングの醍醐味を味わうなら、秋の道東は間違いなく訪れるべきフィールドのひとつだ

出会いを逃さないために

クルージングライズの場合、まずはライズが単発に起こるものなのか、それなりの頻度で繰り返されるものなのかをしっかりと観察する必要かある。無闇にキャストするとその魚をねらうどころか驚かせてしまい、チャンスを逃すことになってしまう。

その際はどのような対処方法を取るのがベターかというと、単発のライズは簡単にはねらえないのでキャストは絶対に行なわず、一定の周期でライズが起きるまでじっくり待つ。その余裕が好結果をもたらすと思う。

あとはライズの周期やクルージングのコースが読める時は、その時の捕食物と思われるフライをきっちりターンオーバーさせてキャストし、魚が頭を向けて泳いで来るだろう方向に落とすこと。

万が一、スルーされても慌てないで、水面に浮いているフライから魚が遠ざかった所でピックアップし、次のチャンスをうかがう。この時、魚の進行方向にティペットから先に入ってしまうと、その時点で失敗となるばかりか、結んでいるフライも違うものに一度替えなければ魚に悟られてしまう可能性が高くなる。
ゲストが手にした1尾。本州から海を越えて来たくなる理由がここにある

そして大切なのは正確なプレゼンテーション。魚がしっかりと見えている場合も、魚への近づき方が重要になる場合が少なくない。たとえライズ頻度か高くても、すべてのエリアがクリアーウオーターなのでアプローチは慎重に。

プールや長い瀬ではダウン&アクロスでねらえるポジションが有利になるので、なるべくそのポジションを取ることを考える。

フラットやダム湖ではライズの進行方向に回り込んで魚の頭側にフライをプレゼンテーションするのが鉄則。極端に流速が変化していない限り、フライ先行でライズにフライを送り込むことが可能だろう。

もちろんアップ&アクロスでなければポジションを確保できない場合はどうしても難しくなるが、その際はできる範囲で長いリーダーシステムを使い、カーブキャストなので対応する。

日が短くなる初秋から初冬までの1ヵ月半、森や山は初秋の頃のグリーンからイエロー、オレンジからレッド、そして最後は灰色なモノトーンヘとめまぐるしく変わる。
静かなダム湖でのひととき。このあと、幸逼な出会いが待っていた

その移ろいに心が洗われることがある一方で、シーズンによってはまったく釣りにならないような厳しい気象の変化が訪れることもあるのがこの季節の道東だ。また、出会える大ものの数もけっして多いわけではなく、私自身、苦い経験をしたこともたびたびある。

それでなぜそこに向かうのかを自問自答すれば、北海道が誇れるワイルドが健在だからという一言に尽きる。その価値ある一尾に出会ってしまったら、どんなフライフィッシャーでも、もうこの世界から抜け出すことはできないはず。

2018/10/24

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