「半沈」パターンヘの信頼。
テレストリアルの個人的テッパンスタイル
岩月正弘=解説
メイフライのイマージャーやフローティングニンフのように、ドライフライのボディ一部分を水面下で見せるパターンは、テレストリアルでも有効。東北の渓流で試行錯誤を繰り返したアントパターンは、今では「いざという時の1本」に成長した。
この記事は2017年8月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
岩月 正弘(いわつき・まさひろ)
1964年生まれ。愛知県豊川市在住。解禁初期は長良川や寒狭川などのマッチング・ザ・ハッチの釣りに通うが、初夏以降の時期は山岳渓流や東北地方の渓へも足を運ぶ。特に岩手県の渓流には毎年遠征している。
岩月 正弘(いわつき・まさひろ)
1964年生まれ。愛知県豊川市在住。解禁初期は長良川や寒狭川などのマッチング・ザ・ハッチの釣りに通うが、初夏以降の時期は山岳渓流や東北地方の渓へも足を運ぶ。特に岩手県の渓流には毎年遠征している。
水に落ちたアリを見て……
20年ほど前、いつものように岐阜県の高原川水系の渓流で釣りを楽しんでいた。河原の大きな岩に腰掛けて休んでいると、手にムネアカオオアリが這ってきて、何気に観察する機会を得た。気をつけて見てみると、周辺の河原にも何匹か歩いている。アントパターンはボディーをフォームで模し、ソラックスにハックルを巻いたものしか用意していない……というより、それまではコガネムシ以外のテレストリアルには、注目していなかったのだ。
水面に落ちた個体も観察していると、ムネアカオオアリは腹部を水中に落とした状態でもがいているようだった。たまたま目にしたものが、そのように流れていたのだと思うが、この半沈み状態を模すために、カーブドシャンク・フックにパラシュートポストを立てるスタイルを採用することにした。
アリもぽっかりと浮いてしまうよりも、半沈みにしたほうがより自然に魚にアピールできると考えたのだ。

●フック……TMC212Y #13
●スレッド…… 12/0ブラック
●ポスト……エアロドライウィング・FL ピンク
●ボディー……ピーコックハール、ナイロンフロス・レッド
●ハックル……コックネック・ブラック
ロイヤルコーチマンのようなポディー構成だが、エルクへア・カディスを見切るような夏のシビアなイワナ、ヤマメに効く1本
フックは信頼している『TMC2488』(現在は『212Y』)を使い、腹部にピーコックハール、胸部の赤い部分にはナイロンフロスを巻いた。通常の釣り上がり用のパイロットフライとしては、以前からエルクヘア・カディスを使用しているが、アントはそうしたよく浮くパターンを見切る場合にティペットに結ぶようにした。
そしてそんな時に流す「半沈アント」は自分でも驚くほどの効果を上げてくれ、切り札パターンとして、いざという時に重宝するようになった。
東北の渓で違いを実感
その後しばらくすると、フックのベンドカーブ付近にピーコックを玉状に巻いた「プードル」というパターンが紹介されて、そのフライを巻くための専用フックも発売された。有名なパターンでは「イワイイワナ」もある。テレストリアルを水面下で見せるというテーマを考えて川を歩いている人は、やはり少なくないのだと感じた。完成したフライを、水を張ったコップに浮かべるだけでは分からないことが多い。フライをティペットに結び、魚に答えを出してもらうことがフライパターンを進化させると信じて、毎年通う岩手県の川でテレストリアルパターンを試すことが多くなった。
6月になるとメイフライのハッチは一段落し、ブラインドでの釣りがメインになってくる。たまに単発で見られるライズは、水面に落下したオドリバエを捕食しているようだった。
そんなわけでオドリバエを模したフライと、「半沈ムネアカオオアリ」のパターンを比べながら釣り上がってみた。もちろん河原や林道を歩く時にはムネアカオオアリの姿をチェックすることも忘れない。
結果は上々だった。東北でもムネアカオオアリは、僕の住む中部地方の渓流と同じように見られ、水生昆虫の羽化が少ない夏場には、やはり貴重な捕食対象になっているらしい。おかげで、僕は普通のテレストリアルパターンを結んで一緒に釣り歩いた友人たちが驚くような釣果を得ることができた。

そしてある年5月末の岩手釣行でも、ヤマセの影警が強い厳しい状況のなか、なんとか魚の姿を見せてくれたパターンとなった。一見するとロイヤルコーチマンの変形バージョンのようであるが、ピーコックハールは濡れると適度に黒くなり、太陽光線のもとではよいぐあいに輝いてくれる。

●フック……TMC212Y #13
●スレッド……クリーム12/0
●ポスト……エアロドライウィング・FLグリーン
●リブ…・・・ゴールドワイヤ・ファイン
●ボディー……ダビング材各種・グリーン
●ハックル……コックネック・グリズリーダイドオリーブ
半沈アントの効果をもとに、ブナムシも半沈みパターンにしたものを愛用。こうしたフライには、『TMC212Y』がとても使いやすい
同じ岩手の釣りで、以前13番の半沈みアントを使っていて、大きなイワナにティペットを切られてしまったことがあったが、それ以来半沈み系テレストリアルへのこだわりが強くなった。
さらにフライを進化させるべくさまざまな試行錯誤を繰り返しているが、ブナムシなどのパターンもやはり半沈形がよいと思っている。今年の夏も、各地の渓で「テレストリアルの浮き方」を観察してみたいと思う。
2018/8/9