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ささきつりぐ

古き革袋に新しき酒を入れる

スコット社ジム・バーチ氏インタビュー

東知憲=聞き手 勝俣雅晴=写真


「斬新な思想や内容には新しい枠組みが必要だ」
古の賢人はそう説いた。
ではプロセスが加速し、新しさの奔流に自らを発見する現代人も、
製品を入れる新規な革袋のコレクションを
揃え続ける必要があるのか?
マス釣りの中心的な要素は、30年前のままではないのだろうか?
あえてリリース時の名称を採用することにした
グラファイトロッド、新生「G」シリーズの素顔とは。
スコット社長/デザイナー、ジム・バーチへのインタビュー。


時間に磨かれた道具


「ロングセラー」と聞いて連想される工業製品。カルピス、正露丸、ケロッグのコーンフレーク、フォルクスワーゲン・ビートルなどはいまだに生産が継続され、誰もが認める長寿商品である。

目をフライフィッシングの世界に転じると、リールの領域ではハーディー・パーフェクトとフルーガー・メダリストか。超高性能が求められているわけではないイト巻きなので、もっとロングセラーがあってもよいと思うが、とりあえずはこの2つしか浮かばない。フライロッドに至ってはほとんど存在しないといって間違いはなさそうだが、唯一の例外といえるのがスコットのGシリーズである。創業者ハリー・ウィルソンによるオリジナルが発表された1976年からカルト的なフォロワーを持ち、シェリダン・アンダーソンの愛竿としても知られたスペシャリティ・ロッドの集合体。

そして2018年、現在のG2からGへとシリーズ名を戻し、設計も一新してデビューする。現社長のジミー・バーチは、創業者の天才を間近に見て、薫陶を受けてきた直系。サンフランシスコでの大学時代からアルバイトをし、ハリーの考え方とノウハウを吸収してきたことで、30年が経った現在でもスコットはバリューと美学が当時のままに保たれている、稀有なロッドメーカーとして生き残っている。

左が創業者ハリー・ウィルソン。右が現社長/ロッドデザイナー、ジム・バーチ


実際のところ彼は、ハリーが設計した画期的なスプリングクリーク・ロッドG904のブランクを、導入したての機械で製造した、まさにその本人。Gのストーリーの中に存在し続け、その発展を見守り、トラウトロッドの未来を語るのにふさわしい人物だ。

彼はこのたび北海道に足を運び、最終のフィールドテストを行なった。7月にフロリダで開催される全米ディーラーショーに先駆けた、日本人向けの内輪のお披露目でもある。彼が成田から帰国する前のタイミングを計り、インタビューを行なった。以下は、そのまとめである。

GからG2、そしてGへ


FF ミディアムアクションのトラウトロッドとして日本でも人気の高いG2シリーズがリニューアルされるとうかがいましたけれど、どんなところが変わるのですか?

ジム・バーチ(以下JB) スコットが製造し、全世界で好評を受けているファーストアクション・ロッド、すなわち淡水用のラディアン、海水用のメリディアンで使用している素材の組み合わせと重ね方を、軟らかいロッドにも使ってみようと思ったのです。

名前も、「Gシリーズ」に戻しました。日本でも依然人気がある、オリジナルGの現代的なアップデートです。


FF ほう!

JB それを実現するために、フェルールの再設計からはじめました。我々は中空インターナル・フェルールの考案者で、いまでも使用しているのはスコットだけだと思いますけれど、基本的な考え方は創業者ハリー・ウィルソンのものに基づいています。

それを、現代的テクノロジーと設計技術により、いかに軽量化し、最適化するかというのが課題でした。

上はオリジナルのG、下はG2


FF では、新Gは旧GやG2と比べてもっと軽くなるというわけですか?

JB アクションも軽快になりますが、G2より深く曲がります。オリジナルのGはトップヘビーで、フェルールも重めなので少し鈍重な振り感がしますね。それに、ロッドをストップさせた後のバイブレーションもやや気になる人がいるでしょう。そのほとんどを解決し、かつ軽量軽快な仕上がりになっています。

FF ストップ後の余分な振動がなく、抜けがいいとループの上も下側も整ってきますね。

JB そのとおりです。深く曲がるロッドは、復元スピードも遅いのが普通ですが、それを速く復元させるのは相当な設計上の工夫が要ります。

今回はスコットが新規に認定したプロ、下山巌さんと千葉貴彦さん、それにスコットのバンブーロッドを作ってもらっている十勝鱒竿の橋本直紀さんたちと一緒に北海道を釣ったのですが、彼らのリアクションは一様に「G2より手もとから曲がる……ラインスピードはむしろ速い……復元がクリーンだ……そして何より正確度がすばらしい」とのコメントをもらっています。いっさい設計意図などは話さず、たんにロッドを手渡して使ってもらっただけなので、意図どおりの感想があがってきてうれしかったですね。

札幌のフライショップ「ドリーバーデン」の店主、下山巌さん。ガイドサービスも積極的に行なっている


名寄のフィッシングガイド千葉貴彦さん。ガイドサービス&プロショップ「Wild Life」を運営


十勝鱒竿」を製作する橋本直紀さん。スコット社のバンブーロッド『SCシリーズ』も手掛ける


下山さんも千葉さんもガイドなので、私が釣る順番になったら「ハイあそこの合わせ目、次はこのポケット」というぐあいに指示をくれるんですが、フライをつまんでポイントの真上から落とすように釣っていけます。設計した自分でもいい気持ちでしたよ。

米国内でも各地で試験を繰り返したのですが、やりかたはむしろブラインドテスト。モデル名も何も書かず、そっけないグリップとシート、ラッピングはブラック。それでもほぼ全員のテスターが、今回と同じようなフィードバックをくれて、すばらしいと言ってくれました。日本には、実際に生産する仕上げにしたロッドをはじめて持ってきましたが。





FF ロッドが最後のストロークでちょっとでも横ブレすると、プレゼンテーションの正確度は損なわれてしまいますから、本当に面の出た振り方ができるというわけですね。


JB ほぼ「直感的」といってよい使い勝手です。それは「誰にとっても扱いやすい」という性能となっていますが、それでいてオリジナルのGシリーズの哲学はきれいに踏襲されています。

ラインを水面から剥がしてピックアップする時には、グリップの中からロッドが曲がる感触が伝わってくるでしょう。Gシリーズはおそらく、現行品として世界で一番長い歴史を持つモデルなんじゃあないですかね。

1976年からずっと続いていますから、40年以上です。パーツもクラス最高のものを惜しげなく採用していて、ケチってはいません。
Gシリーズの各パーツは最高のものを使用


継続は力なり。


FF それくらい歴史のある製品に対しては、続けてゆく責任のようなものも出てきますね。

JB そうなんですよ。技術的にはテープの跡を削り落として色を付けることもできるし、手のかかるフィニッシュトコルクを廃止することも可能なんですけど、昔日のGシリーズとの整合性を考えると、どうしてもできませんでした。勝俣雅晴さんからぶん殴られると思いましたし。

グリップの先端をコーティングする、フィニッシュトコルクも健在


それに、フライフィッシングと伝統は切っても切れない関係にあります。ブランクの製造法は少し変わってきましたが、それ以外は実質上100年前とまったく変わりません。グリップとリールシートを手作業で取り付け、ガイドをスレッドで巻き、コーティングし、ロッドにしなければならないのです。

FF 実際のところ、旧Gと新GをつなぐG2の世代は何年間続いたんですか?

JB 12年だったかな。

FF それも長いですね。でも、なんでG3にしなかったのかな。

JB フォード・マスタング、あるでしょう。1960年代にアイアコッカが生み出して、いままで切れ目なく製造されてきました。現行のモデルはオリジナルからはるかに進化しているけれど、モデルの名称、理念とデザイン面のキューは踏襲している。そんなぐあいですから、この新世代ロッドもただの「G」に戻したんです。

FF ハリー・ウィルソンが最初にGシリーズを発表した時のコンセプトとはどのようなものだったんですか?

JB ハリーの「ピカッ!」というアイディアの産物でした。会社の立ち上げは、グラスのパックロッドのスペシャリストだったんです。5ピースの7・5フィート4番とか5番とかが、シエラやティートンに踏み込んでいくバックパッカーたちに圧倒的に支持された。

最初に実用的なグラファイト・フライロッドを世に送ったのは、当時のトップメーカーだったフェンウィックですが、そのラインアップは短めの、ミッドウエイトロッドが中心でした。たとえば7フィート半や8フィートの5番とか6番です。そこにハリーはニッチを見出した。この新素材なら、9フィートの4番が作れるはずだと考えたのです。そこで常連だったゴールデンゲート・クラブに行って、仲間たちに自分の考えを話した。


FF そして笑われたと。

JB そうなんです。そんなサオ、使えるわけないじゃないかって。でも彼は自分の信念に基づいてデザイン作業を行ない、1976年に銘竿と呼ばれるG904を生み出したんです。ハットクリーク、ヘンリーズフォーク、デピューズといったスプリングクリークのテクニカル・ドライフライ・フィッシングは、このロッドの出現で変わったんです。この同じ考え方は、西海岸スティールヘッド・ロッドにも適用されました。グラスと比べればキレのある9フィート半や10フィートの8番、9番といったモデルが生産されるようになったのです。

統一していえることは、「目的駆動型のロッドである」ということですね。あらかじめ釣りの文脈が設定されていて、その中で遭遇する課題をクリアできるモデルを設計するという考え方。


FF その考え方はいまでも踏襲されているから、各モデルの幅は狭いわけですね。

JB はい。1つのロッドモデルに、ライトからヘビーまでのフルラインアップはありません。用途別に細かくモデルが設定されています。

新生G誕生前夜


FF 話を戻しますが、オリジナルのGからG2に移行する時、またG2から新Gに移行するにあたって、どのような改良を組み込んだのですか?

JB G2の開発にあたっては、ロッドを軽くして振り感を軽快に、現代的にしたいと思いました。質量がロッドを曲げるのではなく、キャスターの入力をうまく考慮したテーパーとプロフィールがロッドを曲げるという考えです。ただ、デザインの過程で安定性は少し犠牲になっていたかもしれません。

そこで新Gの設計にあたっては、さらに軽く、より大きく曲がるけれども、ずっと安定していてねじれの発生しにくいデザインを目指しました。


FF 10年に1回の仕事、たいへんそうですね。

JB 構想開始から5年、具体的にプロトタイプの製作を開始してからまる3年かかっています。

FF その作業はユーザーからのリクエストだったのですか、それともあなたがやるべきと考えた自発的なものだったんでしょうか?

JB ロッドの素材も製造技術も、フライラインも釣り方も確実に変わってきていますから、ロッドデザインも変わり続けないと取り残されます。このリニューアルは、Gシリーズをテクニカル・トラウトフィッシングの最先端に戻すために必要な作業でした。

FF では具体的に、どのような新機軸がGシリーズに盛り込まれたのか、説明してくださいますか?
JB 3つあります。まず、中空インターナル・フェルールの再設計です。旧型よりも20%軽量で、ずっとよく曲がって突っ張らず、セクションごとに硬さを調整してあります。ティップのフェルールはよく曲がる必要があり、逆にバットは強度を保持しておかなければなりません。別の言い方をすれば、フェルールはロッドブランクの各部分と完全に一体化して機能するようになったということです。

現在のロッドのほとんどがスリップオーバーを採用する中、インターナル・フェルールを貫き、かつ進化させ続ける


次に、素材とパターンの重ね方の進化。素材は4種類、レジンシステムは2種類を活用し、繊維の方向性も工夫しています。これは過去10年間に、ラディアンメリディアンを設計したことで蓄積されたノウハウです。

フェルールにもARC補強を入れてありますから折れにくいです。

最後に、ブランクにはマルチスロープ・テーパーを付けてあり、テーパーの比率は3ヵ所で変化させてあります。

「もはや、新素材がフライロッドの性能を飛躍的に進化させることはないでしょう。現在手に入る素材を、小さな調整の積み重ねによって最高に活用するしか、進化の方向性はないと思われるのです」


FF 細かな調整ですね。

JB 結果として、きわめて複雑な素材、パターン、テーパーの組み合わせを活用した精密なロッドとなりました。ブランクを作っているところを見学されれば、パターンのレイアップがきわめて複雑なことがすぐに分かってもらえると思います。アクションと強度のため、変わった形のパターンを部分的に多数活用していますから。クールですよ。

FF いまだにインターナル・フェルールにはこだわったんですね。

JB そうです。フェルールにはテーパーがついていますから、それだけで1本のロッドと同じ手間がかかります。すなわち、Gのブランク1本には、数本ぶんの手間がかかっているわけです。

ミディアムの完成度


FF 新Gは、G2と同じくらいのモデル数があるのですか?

JB いいえ、まずは少ないモデル数からスタートします。伝統的なGのレングスにはこだわりますから、7フィート7インチ、8フィート4インチ、8フィート8インチという長さ設定はキープします。新機軸として加わるのは775です。小河川で大きな魚を相手にする、短く強めの「リー・ウルフ・スタイル」ロッドといえます。

FF G706/3というのが、オリジナルのリー・ウルフ・スペシャルでしたね。

JB リーは変わった人間で、そのロッドでパーミットやアトランティック・サーモンを釣るというので6番にしたのですが、現代的なコンテクストでは5番指定が最も常識的だと思いました。それ以来、いろんな「スペシャル」も作りましたね。ニーズがあって作られた専門モデルです。

たとえば「ファーザーギル・スペシャル」。アスペンにいたニンフフィッシャー用のモデルでした。「アウトリガー・テクニック」は彼の考案で、スコットはその専用モデルを作っていたのです。また、カヌーからマングローブの根元にフライを投げ込むための「チコ・スペシャル」。パワフルな「バックカントリー・スペシャル」や「ウォームウオーター・スペシャル」。それに、長い歴史がある「ジャパンスペシャル」ですね。

FF それにはグラファイトもグラスもありますね。

JB ジャパンスペシャルのアクションは、小さめの魚を長めのリーダーで釣るための、より深く曲がる設定です。

FF 新Gにも、ジャパンスペシャルは設定されるのですか?

JB まずはスタンダードモデルを使ってみてもらいたいです。もし、専用モデルが必要なら検討しましょう。しかしG2よりもベンディングは深くなっていますから、これで大丈夫、スペシャルはいらないと言われる可能性もありますね。


Scott G Series プロモーション Movie 2017

FF 今回北海道にテストに来られたのは、この市場がGにとって重要だからですか?

JB 日本は、熱狂的な人たちが多いです。オリジナルのGシリーズのこともよく理解してもらっていますし、勝俣さんと私の関係も20年以上にわたります。新Gは、7月にフロリダで行なわれる全米フライタックル・ディーラーショーでお披露目をするのですが、日本の皆さんにはフライングでお知らせしたいと思いました。

業界全体の話をすると、ミディアムアクションのロッドを作るのはリスキーなんです。極端ではないですからファンファーレをもってご披露というわけにはいきませんし、実際のところいいデザインを作るのはとても難しい。ライバル会社のミディアムアクション・モデルは注目して見ていますが、あまり努力して作っているようには見えません。



FF だいたいのロッドメーカーはトップエンド・モデルにファーストよりのアクション設定を与えていますが、それもミディアムアクションが「凡庸」とみなされる一因かもしれませんね。

JB しかしスコットにとって、ハリー・ウィルソンの時代からミディアムアクションのトラウトロッドは最大の柱の1つです。日本のアングラーはスコットの過去とバックボーンをよく分かってくれていて、彼らの意見は傾聴に値するのです。いまだにオリジナルのGやG2を使っている人も多いので、簡単に比較してもらえます。素晴らしい批評家がこれだけ集まっている国はありませんよ!

FF このモデルの投入で、何を変えたいと思っていますか。

JB より多くの人に、よく設計されたミディアムアクションのロッドのよさを分かってほしいと思います。アワセ切れはしにくいし、ショートキャストは最高に楽しいし、一体感があって魚の動きを感じることができますから。

FF 創業者ハリー・ウィルソンは、このロッドを気に入ってくれるでしょうか?



JB そう信じますね。彼はすばらしいキャスターだったし、ロッドがラインを飛ばすという基本をよく分かっていた人だから、よく曲がってラインを弾き出す感覚のある新Gは絶対に好きだったと思います。

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2017/11/29

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