オーストリア アルペントラウトの釣り
オストチロルの山岳エリアを釣り巡る
森下泰一郎=レポート ドラウ川支流のMöll。こちらは6月に訪れた時のようすウィーンやザルツブルグなど、ヨーロッパでもメジャーな観光地が集まるオーストリア。そこは市街地から少し足を延ばせば、豊かな自然に囲まれたトラウトフィールドが広がる国でもある。今回は、隣国ドイツに住み、オーストリア・オストチロルの釣りを楽しんでいる日本人フライフィッシャーから、現地のFF事情をレポート。
《Profile》
森下 泰一郎(もりした・たいいちろう)
1963年生まれ。現在ドイツ・ミュンヘン在住。現地に住みながらヨーロッパ地方のトラウトフィッシングを楽しむ。最近ではオーストリアの山岳エリア、オストチロルのトラウトフィッシングに通う。
森下 泰一郎(もりした・たいいちろう)
1963年生まれ。現在ドイツ・ミュンヘン在住。現地に住みながらヨーロッパ地方のトラウトフィッシングを楽しむ。最近ではオーストリアの山岳エリア、オストチロルのトラウトフィッシングに通う。
オストチロル、リエンツへ
ドイツ、ミュンヘンからクルマで南にアウトバーンを走り国境を通過すると、片道3時間で目的地のオストチロル(Osttirol)の街、リエンツ(Lienz)にたどり着く。リエンツはオストチロルの中心地で、夏は避暑地、冬はウインタースポーツのベースとして賑わうリゾート地。北側にはオーストリア最高峰のグロスグロックナー山(3798 m)がそびえ、パステルツェ氷河を望む。
オーストリア最高峰のグロスグロックナー山。麓に横たわるのは、パステルツェ氷河
このオストチロルの高原色豊かな景観と美しいトラウトに魅了され、私は週末にタックルを積んでクルマを走らせるようになった。
イタリアの南チロルを水源とするKleine Drauと、ヨーロッパアルプス、パステルツェ氷河を水源とするIselがリエンツで合流して、水量豊富なGross-Drau(ドラウ川)本流となっている。東欧10ヵ国を流れて黒海に注ぐドナウ川水系の河川であり、ライセンス購入と一定のレギュレーションによって、ドラウ本流やその周辺の渓流で釣りができる。
4月のドラウ川本流
ドラウ川の渓相は大石が点在するところや砂利、岩盤などさまざまであるが、チロル州によって自然渓相を残した一定の治水管理と側道の整備が行なわれているために、ビートへのアクセスは容易である。
ビートライセンスは、リエンツの2つの指定ホテル(Grand Hotel LienzとFerienhotel Moarhof)の宿泊とセットで予約が可能。
当日、ホテルでライセンス(チロル釣り協会への登録と、ビートライセンス)を購入して、釣り終了時には、そのライセンス返却と釣獲記録の提出が義務付けられている。
それぞれのビートでライセンス数に限りがあるため、釣り場が混雑することはない。(本流、渓流、それぞれのビートに関しては、Osttirol Fly fishingのホームページでも確認できる)
釣りをするためには、チロル釣り協会への登録とライセンス購入が必要。そして釣りを終えたら釣獲記録を提出する
アルペントラウト
釣りの対象となる「アルペントラウト」はレインボートラウト、ブラウントラウト、グレイリング、アルプスイワナ(ホッキョクイワナ)であり、数は少ないが、ドナウ川から遡上するというドナウサーモン(ドナウイトウ、地元では“Huchen”)も釣獲が許されている。ドラウ川のレインボートラウト。コンディションのよいワイルドな魚体が泳ぐ
ドラウ川には、地元の釣り人の他、隣国であるドイツをはじめスイスやフランス、イタリアからもフライフィッシングを楽しむ人が訪れ、すれ違いで交わす挨拶言葉の違いも面白い。
それぞれのお国柄なのか、釣り下る人や釣り上がる人、ずっと同じ場所で釣りする人など、そのスタイルもさまざまでとても興味深い。
河畔ではこんな光景もしばしば見られる。ヨーロッパの釣り場にいることを実感
ドラウ川の魅力
さほど奥に入らない支流(Möll、Gail)であっても、サイトフィッシングで美しいグレイリングやブラウントラウトに出会うことができる。これも乱獲されないビートライセンス制の魅力といえるだろう。ドラウ本流の水温は、春先4月と秋10月の日中で2〜5℃、5月の昼間でようやく10℃まで上がるようになる。晩秋の釣行は浅場の水が凍りつき、厚手のアンダーウェアを着用して膝下ウエーディングであっても、足先からぐっと冷たさが伝わり痺れてくる。
ドラウ川のブラウントラウト。ドライフライのサイトフィッシングでも楽しめる相手
とにかく魚よりも冷水との戦いになるが、氷河の融水に慣れ切っているトラウトたちは平然と泳ぎまわり、極めて活性が高くフライへの反応もよい。
水生昆虫のハッチは少なくサイズも小さいためか、フィッシュイーターが多いように感じる。通常グレイリングは、テレストリアルやニンフパターンで釣ることが多いが、レインボーねらいで投げ込んだ激しい流れの中でストリーマーを丸呑みされたこともある。
40cmを超える本流のグレイリングは、リールからラインを引き出して流心に潜り、その派手なジャンプはレインボーにも引けを取らない。魚の姿を見るまではレインボーだと思い込んだほど、ドラウ本流のグレイリングのファイトは、その姿からは想像できないほど強い。
こちらは、派手なファイトで楽しませてくれるグレイリング
いまだ出会ったことがないが、ここにはドナウサーモンも生息しており、ドラウ本流のNikolsdorfで28.5kgの巨大なサイズも釣られている。生息域の環境破壊によって年々数を減らしているドナウサーモンとグレイリングは、絶やさぬようリリースを望みたい。
こちらはPeter Ortnerさんの友人が釣った28.5㎏のドナウサーモン(ドナウイトウ)。ドナウ川から遡上してきて、ドラウ川にも入ってくる
どのポイントも入れ食いになるほどにはならないが、飽きの来ない程度にロッドをしっかり曲げてくれるのは嬉しい。いずれもヨーロッパアルプス氷河の融水で磨かれたトラウトたちは、どれも素晴らしいコンディションである。
ドラウ川本流、Nikolsdorfの流れ。このエリアにもドナウサーモンが遡上してくる
タックルについて
比較的ヨーロッパ中南部ではシングルハンド規模のビートが多い中で、ドラウ本流の川幅は平均40mあり、ライトツーハンド・ロッドやスイッチロッドのタックルが楽しめるところにも私は魅力を感じている。背後に張り出した樹木も多く、ショートバックストロークでロッドテンションを活かしたコンパクトなD ループのキャストとなるのだが、12フィート前後のロッドであればポイントとの適度な間合いもとれて手返しのよい釣りができるため、私はシューティングヘッドでライトツーハンド・ロッドを使っている。
12フィート前後のライトツーハンド・ロッドは、ドラウ川流域で汎用性が高い
ドラウ本流は川底に大石が点在していてる複雑な流れのポイントや押しが強いビートがあるため、私は短いシンキングとシンクティップのシューティングヘッドをメインに使い、ロッドはティップ感度がよく、ショートレングスでもスローテーパーでトルクのあるものを愛用している。
流れに馴染ませてフライをドリフト、あるいはスロースイング、リトリーブの釣りが多いが、岸際の膝下程度の流れまでフライを追ってバイトしてくる魚もいるので、最後まで気が抜けない。
ドラウレインボー。氷河の雪代に磨かれたマスたちの引きは強烈
釣り人が少なく追い込まれていないからであろうか、日本の本流を泳ぐトラウトよりも好奇心が旺盛なようで、浅場の足元までフライを品定めに来て、見切って戻るケースが何度かあった。
岸際が狭い急深でアケアガリが間近に迫るポイントでは、ラインを剥がす時の水切り音を抑えた静かなキャスティングと、ポイントへのアプローチには気を遣わなければならない。
ティペットは2号をベースに、1.5~2.5号を使用。細いほうがフライの動きや水馴染みはよいのだろうが、ドラウ本流の流れとトラウトのファイトを考えると無闇にティペットサイズを落としたくはない。
フライは、小さいサイズのものでも存在感と動きを意識したパターンが効くようである。コンスタントに反応がよいものとしては、小サイズのソフトハックル、ウエット、ニンフを使うことに分があるようだが、魚に見切られるのも早く、目先を変えるために、ストリーマー”Kleiner Fisch”のバリエーションはフライボックスに欠かせなくなった。特に秋に使うストリーマーのプライオリティーは高い。
Kleiner Fisch
●シャンク……ウォディントンシャンク20mm
●フック……オスプレイ、ダブル#10
●スレッド……8/0ブラック
●ボディー……シャンクのベンドアイを戻して、ユニマイラーパールを巻き、ソフトワイヤーでメルティヤーン・ホワイトのヤーン部分をボディー上部に固定
●サイド……ゴールデンフェザント・ボディーフェザー
●ウイング……フラッシャブー・パール、スードゥーヘアー(チャートリュース、ホワイト)
●トッピング……ピーコックハール
●アイ……ジャングルコック
ウォディントンシャンクを縦に使うことで水馴染みを良くし、サイドからの存在感も強調している
ドラウ川は、釣行のたびにビートやポイントごとのアプローチ、フライパターン、ラインシステムを変えることで、新たなトラウトとの出会いが期待できるポテンシャルの高い川だと思う。
ドラウ川の本支流で使用するウエットフライたち
釣りに行くなら、どのタイミング?
4月中旬から11 月末までの解禁期間なのだが、3000m級の山々が蓄える積雪は多く、雪代によるニゴリの状態が続くために春夏の釣行は天気のほか、チロル州河川観測所のオンラインデータをチェックしてからアクセスするのがおすすめ。(「Hydro-Online」Lienz/Isel、Lienz/Falkensteinsteg)春先の解禁4月の釣行は気温が低く、雪代影響の少ない午前中が勝負であるが、天候も目まぐるしく変わるためにコンディションが読みにくい。
急な天候悪化や雪代影響を受けにくい支流のビート(Möll、Gail)に向けて、#4あたりのシングルハンド・ロッドも用意しておくと安心。
ドラウ川支流のMöllの流れ。4月。
気温が下がって雪代影響がなくなる9月末から雪の降り始める11月末までは、天候と水量も落ち着いて比較的安定した日が多くなってくる。春先の川岸は高原色豊かな花が咲きはじめて、徐々に緑豊かな季節となるが、11月になると一気に色づき落葉し、やがてモノトーンな冬の訪れを迎える。
10月のオストチロルの山並みを望む。ヨーロッパアルプスらしい急峻な山容が特徴的
オーストリアといえば、ウィーンやザルツブルグがメジャーな観光地であるが、日本からであれば、南ドイツ、ミュンヘンのオクトーバーフェスト、ロマンティック街道ノイシュバンシュタイン城の観光ついでに、少し足を延ばして、自然美溢れるチロル地方のアルペントラウトフィッシングを満喫するのもよいのではないだろうか。
私にとって、豊かな自然に囲まれたオストチロルのプライベートなフライフィッシングは、静かに心癒される至福のひとときとなっている。
最後に、このオストチロルのアルペントラウトフィッシングに導いていただいた富樫和男さんと Peter Ortnerさんに、心から感謝申し上げたい。Vielen Dank!
2018/8/1