ライトラインで里川へ
釣り味だけにとどまらない『アスキス J731』の魅力
中根 淳一=写真と文
近年、1~2番という低番手をメインタックルとして常用する人も増えている。細いラインによる水面へのインパクト減やドラッグ回避など、利点が多いようにも感じるが・・・・・・実際のところはどうなのだろう?
早春の群馬県吾妻川水系で、里見栄正さんが使うアスキス『J731』の魅力と、低番手の釣りの楽しみ方を教えていただいた。
協力=シマノ
この記事は2020年Early Summer号に掲載されたものを再編集しています。
日本の渓魚に最適な番手とは
グラファイトロッドの進化は、渓流でのトラウト用フライロッドの主流となる「番手」でも確認ができる。
ガラス繊維を素材としたファイバーグラスロッドから、炭素繊維のグラファイトロッドへの変換期には5番。
その後は、しばらく7フィート半ほどの4番が主流だったと記憶しているが、90年代ころからは現在にいたるまで、3番ロッドが選択肢の基準になるだろうか。


そんな低番手化への移行は、製造技術向上の賜物だが、渓魚を楽しむための「歓迎」として、さらなる高性能でライトな方向へ歩みを進めている。
タックルがライト化する恩恵としてのひとつは「引き味」。
20㎝にも満たないヤマメやイワナを釣るのであれば、より低番手のほうが楽しいだろう。
さらに細いフライラインによる「水面へのインパクト減」と「ドラッグの回避」なども期待できる。反面、ラインの低質量から風に弱い、フライラインの選択肢が少ないなども囁かれるが、コンディションさえ合えば利点のほうが上回ることも多いはず。
今回はライトなタックルを携えて早春の里川で、その楽しみ方を里見栄正さんに案内していただいた。

吾妻川水系の支流へ向う道すがら、里見さんが車窓から気にしているのは桜の開花状況。
前週は咲いていなかったという桜も、花見ができるほどは薄桃色の花をつけている。桜の開花を目安に渓流釣りのスケジュールを組み立てている人も多いことだろう。それでも前日には雪が降ったようで、路側帯の日陰には多くの雪が残っている。

「昨日はかなりの雪が降ったようですね?」
「吹雪だったようです。今冬は雪が少ない暖冬といわれていますが、季節の移り変わりは遅れているように感じます。例年ならば春らしい銀ピカのヤマメと出会えるはずなのですが、いまだにサビが残る魚も釣れます」
どうやらコンディションは決してよくないらしい。
子供のころ夏休みになれば川遊びをしていたという地域だけに、勝手知ったる足取りで渓に降りて行く。
「あまり状況はよくないのですが、この川は先週来た時にいくらか反応がありました」

『シマノAsquith(アスキス)』シリーズでも最低番手の1〜2番指定という『J731』で釣り続けていくが、時おり首を傾げている。
「魚はいると思うのですが、隠れてしまってエサを摂っていないようですね。虫が出てくれれば水面を意識するので、状況は変わると思うのですが・・・・・・」
それでも考えられるさまざまな流れへフライを落としていくと、ピシャっという小さな水飛沫とともにフライが消えた。

「イワナみたいな釣りですね」
巻き返しや流心脇、肩のような緩い流れでしかヤマメの反応がないらしい。
里見さんは微笑みながら、早春に出会えた貴重な1尾を、慈しむようにその手に収めた。
「1〜2番ロッドというと、ドラッグの回避が真っ先に考えられますが、私はあまり気にしていません。それよりも国内の渓魚サイズを考えて、このロッドを手にすることが多いですね。特に春先は今日のように魚たちの活性も低いことがあったり、平均的なサイズも小さい。だからこそ1尾ごとを大切に釣りたいと思っているのです」


桜が咲いているかと思えば、川岸の斜面に雪が残るような、気候が不安定な季節でも、魚たちとの出会いを最大限に楽しむための選択が『J731』。
「スパイラルXを採用しているアスキスは、魚の引きにストレスなく追従してくれるので、小さな魚のとのやり取りも楽しい。それでいて、カーボン本来の粘りも素直に発揮してくれるので、大きな魚が掛かっても不安はありませんね。このロッドは1〜2番の指定ですが、3番ラインでも問題なく使えますから、早春の繊細な釣りから、盛期の山岳渓流まで幅広く使えると思います」

里見さんが投じるフライは、リーダー&ティペットに適切なスラックを描きながら着水していく。
時おり水生昆虫の飛翔があってライズも確認できるが、そこでの反応は少ない。しかし、流れへの視点を切り替えたのが功を奏して、飽きない程度に美しいヤマメたちが釣れる。

時おりフライを交換する里見さんの手もとを覗き見ると、意外と大きなサイズ。
「淵などのゆったりとした流れで、フライをじっくり観察されるようなシチュエーション以外は、14〜16番サイズがメインです。解禁間もないので魚たちも大らかですし、まずフライの存在に気付いてもらうことのほうが重要に感じます。大きめのほうがストレスも少ないですし、12番でよい! と言う人もいるくらいですから(笑)」

魚との出会いを大切にしたい
穏やかな春の日差しの中、軽やかに歩を進めていくが、川原に目を向けると大きな流れが通った破壊の爪痕が残っている。
「気持ちがよい天気ですが、川の流れは昨年の台風で随分と変わってしまいました。砂が流れ込んで、魚が居着けるような深場も埋まっています。この状態ですと回復するには時間が掛かるでしょうね」

四季の節目が魅力的な日本の気候も温暖化の影響なのか、曖昧になり崩れかけている。
夏から秋に大量の雨が降ったと思えば、冬には雪が少ないなど。
幼少のころから当地に通い続けている里見さんの目には、数10年前から現在への変化がどう映っているのだろう。
「この地域は昔から町並みなどに大きな変化がないのですが、台風など異常気象の影響は受けています。残念なことですが・・・・・・1尾との出会いを大切に釣りを続けていきたいですね」
最終的には自然環境の変化を確認するような1日だった。しかし、その変化を体感できる釣り人だからこそ、魚の大小にこだわらず、1尾ごとの出会いを記憶に刻んでいきたい。


当日里見さんが使用したフライパターン






2020/5/14