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ウエットウエーディングの流儀

Foxfireが近年特に強化しているのはウエットウエーディングアイテムの開発だ

文=松下洋平 写真=浦壮一郎

機能と哲学を盛り込みたい

flyfisher photo

フライフィッシングは季節をとことん楽しむ遊びだ。釣り場やタックル選びはもとより、服装選びで季節を楽しんでおられる方も、他種の釣り人より多いのではなかろうか。釣り場に合わせて服を選ぶ、それはもちろん快適さや機能性の側面もあるが、釣り場やシーズンの雰囲気に合うデザインやカラーを選ぶのも、フライフィッシングという趣味における神髄のひとつだと思う。

だがその選択の自由はもっばら上半身に限られる。なぜなら多くのフィールドでは水に浸からねば釣りが成立せず、基本的にはウエーダーを履かざるを得ないからだ。余談だが、もしウエーダーが存在しなかったら、フライフィッシングのここまでの広まりはなかったのではないかと個人的には思っている。利便性や快適性という点からだけではない。ウエーダーはフライフィッシングの「核心的な何か」を表している気がする。その昔、渓流やアユの釣り人のタイツ&足袋の沢スタイルに対して、西洋由来でテクノロジーを具現化したウエーダースタイルは、私にとってはフライフィッシングのアイデンテイティとしてを誇らしげに見えた。そして、水に浸かりながらも濡れないというあの不思議な感覚は、自然と文明との共存のあり方の身体的理解だとさえ思える。

しかし、である。どんなにウエーダーの履き心地や性能がよくなってきたとはいえ、この10数年に変化した日本の夏の異常な高気温は、ウエーダーの着用を我々に躊躇させる。不快である以上に、もはや熱中症のリスクを高めかねない。ならば潔く、目前の「流れに浸かりたい」という身体の自然な求めに応じるとしようではないか。ただし、保温性や安全性をしっかり担保し、フライフィッシングならではの洗練された「機能」や「哲学」が盛り込まれたウエットウエーディング・アイテムを身にまとって。

 

 

感覚を研ぎ澄ますきっかけとして

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都内在住の私は普段は関東近郊の渓流への釣行が多く、フィールドの標高もそれほど高くないため、6月初頭にはウエットウエーディングに完全に切り替えている。冷静に計算してみると、渓流シーズンの3~9月までの7ヵ月のうち、6~9月の4ヵ月間は、もっばらウエットウエーディングのスタイリングだ。もちろん地域差やフィールドの種類にもよると思うが、ウエーダーを履かない期間は意外と長いのだ。また、ウエットウエーディングの関連アイテムは軽快性と耐久性という、相反する性能の「落としどころ」見極めが難しいので、Foxfire ではテスト期間をなるべく長くとり、さまざまな状況でのテストを重ねるようにしている

 

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Foxfireプロモーション担当・松下のスタイリング。下半身はスリークウォーターパンツに、クロロプレン素材のロングソックスの組み合わせ。パンツの膝部にはアメフト用のニーパッドを挿入している。バッグの肩紐にショルダーボーチを装着した。上半身は「着る防虫」スコーロン素材のアイテムを着用

 

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後ろ姿。バックやポーチはリバースカウトシリーズからだ

 

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Foxfire企画開発担当・田上のスタイリング。ショートパンツにウエーディングゲーター、ショートソックスの組み合わせ。上半身はスコーロン素材のアイテムだ。ベストはリバースカウトシリーズから

 

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後ろ姿。リバースカウトシリーズのバックパックはチャコールとカーキの2色だ。ポーチと合わせるのもよいが、ベストと合わせても使いやすい

 

このスタイルのメリットは「涼しさ」だけではない。足取りの軽さ、可動域の確保、転倒や沈溺時の安全性など、日本の渓流フィールドではその恩恵は計り知れないものがある。また意外なメリットとして、人間が本来持っている「感覚」を研ぎ澄まさせ、それが釣果や安全に繋がることがある。たとえば僅かな水渦の変化を足から感じとることで、天候の移り変わりや状況の変化にすばやく気づけたりすることもあるだろう。また急激な水温の上昇は、上流域での降雨によるものである可能性もあり、「濁り」に先行する増水の予兆でもある。

とウンチクはいろいろとあるのだが、何よりウエットウエーディングのスタイルはやっぱり夏らしく、日本らしい。そしてスタイリングとして自由で、楽しい。今ではいわゆるUL(Ultra Light)の潮流にのって、海外においてもウエットウエーディングのスタイルが日本から輸入されているらしいが、先進国民としての優越感も勝手に感じながら、さらなる改良や工夫をあれこれ加える楽しみがある。そして、この点に関しては我々メーカーだけでなく、日本の一般ユーザー皆さんも創意工夫を試みられていて、参考になるところも多い。

Foxfireが足掛け5年かけて開発したのが、今年発売となったウエットウエーディング専用パンツシリーズだ。一見マウンテニアリングパンツのようだが、素材やパターンが釣りに最適化されている。さらにヒザ前部へ「ニーパッド」を挿入できる仕様になっている(ショートパンツ除く)。通常ヒザやスネの保護には、ロングタイプのゲーターを履くが、ゲーターは歩行とともにズレ落ちてきてしまうことが多くあった。またズレ落ちないようにきつく装着すると、今度は曲げ伸ばしが窮屈になってしまう。そこでアメリカンフットボールの競技パンツから着想を得て商品化したのが、このパンツである。

またやはり新製品であるウエットウエーディングタイツは、耐久撥水加工生地により肌面に水がまとわり付かず、保温性が保たれるので、ウエットウエーディング可能シーズンが広がった感がある。また膝前にクロロプレン素材が当てがわれており、ロングゲーターやロングソックスとの摩擦作用により、それらのズレ落ちがかなり低減される。

 

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パンツもタイツも、どちらも目に見えての特徴は少ないのだが、釣りの快適さが格段に上がるギミックが詰め込まれている。アウトドア系衣料索材の進化スピードはすさまじく、また上述のように試していきたいアイデアも沢山ある。スタイリングの自由度はこれから増々広がるだろう。これからも釣行テストを重ねながら、日本のフィールド環境に合うスタイルを、フライフィッシャー皆さんへ提案し続けていきたいと考えている。

 

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時々強いられる「ジャンプ」。120%成功を見込める範囲でやるが、それでも失敗の可能性もゼロではない。失敗時のそのあとを考えると、ウエーダー着用時はまずやらないウエットウエーディング限定の技

 

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夏の釣りは、距離で釣果を稼ぐ。だから、最短ルートに行くにこしたことはない。水圧を直に感じられるウエットウエーディングでは、安全性を探りながらの遡行が容易

 

 

 

 

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