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アカサカ釣具

大ものと対峙するための選択肢

低番手で大ものをキャッチする楽しみ

中根淳一=文と写真

釣れるであろう魚の大きさや使うフライのサイズ、風などの天候条件、釣り場の規模など、毎度釣行前に頭を悩ませるのがタックルの選択。ヤマメやイワナなどの渓魚であれば3 番前後、大きなニジマスであれば5 番前後、海であれば6~8 番などと基準はあるにしても、国内外の道具が多様化している現在「何番」と、ひとくくりしてもよいのだろうか? 20㎝のヤマメから75㎝のブラウントラウトまで、すべてDT3番ラインで楽しむ里見栄正さんと、「ハコスチ」を釣りながら低番手で大ものをキャッチする手段やその有効性、さらに楽しみを教えていただいた。

この記事は2021年Early Spring号に掲載された記事を再編集しています。

協力=シマノ

タックル選択の基準

大型のニジマスが釣れる海外や北海道への釣行を考えたとき、何番タックルを選択するだろう。

8.5~9ftの5番を基準にして、地域によっては6番も必要というのが一般的な認識なのかもしれない。

しかし、サオの性能が飛躍的に向上した近年、5〜6番のフライロッドが本当に必要なのだろうか? 

そのヒントを得るために12月上旬、群馬県多野郡上野村へ里見栄正さんと出かけた。


上野村の北側には利根川第2次水系の神流川が流れ、シーズン中はヤマメやアユ釣りで賑わう。

さらに、禁漁後10月頃からは冬季釣り場として「ハコスチ」を放流。ほぼ1年を通じてFFを楽しめる環境が整っている。

この日、里見栄正さんが手にしたのは、水面下フライ用にシマノ『Asquith J803』と、ドライフライ用に『Asquith J731』の2本。J803をメインで使いながら、ライズがあればJ731に持ち替えて楽しもうという計画。

釣り支度中の里見さんに、大きな魚を相手に、低番手で釣りをするメリットをお聞きする。

「チャレンジ精神というと大袈裟ですが……繊細なタックルで大きな魚を釣りたいという気持ちは、常にあると思います。状況に合わせたタックル選択や、魚のダメージに対する配慮は必要ですが、いつも渓流で使っている馴染みのある道具は、操作も安定して扱いやすい。何よりも、3番以下となれば道具全体が軽いので、一日中釣りをしても疲労が軽減できます」

ドライフライ用にアスキスJ731、水面下フライ用にJ803の2タックルを準備し、どちらにもDT3番ラインを合わせている。J803はシリーズ中もっともパワーがあり、試用期間も含めて里見さんは数多くの大ものを釣ってきた

魚を引き寄せるときに、3番ロッドでパワー不足を感じることはないですか?

「慣れもあるとは思いますが、ほとんど不自由を感じたことはありません。現在のサオはどのメーカーも頑丈に作っていますから、折れる心配も少ないはずです。それならば、低番手で魚との駆け引きや、引き味を楽しみたいですね」

シャフトへのキズや継ぎ目が緩んでいない限り、ロッドの取り扱いを誤らなければ、魚を掛けたことが直接原因で折れることはほとんどない。

どうにもならないと感じたならば、ロッドに負荷をかけなければよい(サオを曲げなければ、あとはイトの強度に頼ることになるが)。


「衝撃への頑丈さはアスキスすべて共通ですが、この8ft3番はシリーズ中でもっともパワフルにデザインされています。低番手の繊細さを残しながらも、川幅の広い場所で、大きな魚を釣ることも想定しているんです。もちろんバットにもパワーがありますから、大きなフライも操りやすい。
〝どんな大ものにも対応できるロッド〞がコンセプトですから、ニュージーランドでは最大75㎝のブラウントラウトをはじめ、60〜80㎝のコイも3ケタは釣って試しました。60㎝ほどのトラウトであれば、3番ということも忘れるくらい、何の苦労もなくキャッチできます」

これだけサオを湾曲させても写真で見る限り、まだバットには余力が残っているようだ

アスキスに採用されているスパイラルXの恩恵は、ネジレ剛性以外にも、多方向への曲がり追従性がある。引きが強いといわれるハコスチを相手に、どのようなパフォーマンスを発揮してくれるのか楽しみ。

釣って楽しいハコスチ


容姿の美しい箱島系ニジマスとスティールヘッド(降海型ニジマス)を交配して、生み出された群馬県特産魚の「ハコスチ」

川岸に立つと体側に朱色の帯が際立つニジマスが多く見える。

上野村漁協が冬期釣り場に放流しているのは、「ハコスチ」と呼ばれる群馬の特産魚。

ハコスチは群馬県水産試験場が、釣りの対象に特化した遊漁用ニジマスとして開発。

姿形が美しく、飼育しやすい箱島系(箱島養鱒センター)のニジマスと、泳力が強いスティールヘッドの血統を交配。3番ロッドの可能性を体感するには最適なターゲットだろう。

開始直後はライズへ向けてドライフライで挑んだが、急な冷え込みでどうにも活性が低い

散発的ではあるが、川面には小さなライズリングが広がる。

J731を手にした里見さんは、さっそくドライフライで釣り始めたが、反応はいまひとつ。

急な冷え込みが影響しているようで、水面のエサを活発に捕食しているわけでないようす。素早く水面下に視点を切り替えて、インジケーターを付けたJ803に持ち替える。

インジケーターを先行でナチュラルドリフトしながらも、時おりフライへ上下のアクションを加えているようだ。

すぐに視点を変えて水面下へアプローチ。ラインを寄せてフライをリフト後にナチュラルフォール

「低水温で活性が低いこともありますが、放流して間もない魚は、まだ自然の流れに馴染んでいない可能性があります。どうやら沈下するフライに反応がよいので、魚が溜まっている位置で、リフトした後にナチュラルフォールしています」

ほどなくして、パターンを読み解いた里見さんの合わせる回数が増え、次々と魚を掛け始めた。

この日の魚の付き場や活性などのパターンを掴むと、休む間もまくサオが曲がり始めた

撮影しながらやり取りを見ていると、バット部に手を添えて、かなり鋭角にサオを曲げている。

太くて強力な海用ロッドであればグリップ上を掴むこともあるが、細い3番のバットを持って鋭角に曲げると、そこを支点に折れやすい。

ロッドのバット部を握ってファイト。通常はあまりおすすめできないが……強靭さと多方向への曲がり追従性に優れているアスキスなればこそだろう

「すべてのサオでやってよいわけではないですよ(笑)。アスキスの丈夫さと、どの方向にも素直に曲がる追従性の高さがあるからできるのです。
 大型魚をキャッチするコツは、下流側へロッドを倒して岸に誘導します。こうすれば魚も暴れ難いんです。逆側へ倒すと魚は上流へ走り続けて、何番を使ってもすぐに寄ってきません」

ハコスチの強さは評判どおりで、肉厚な体躯から繰り出されるパワーはしつこいくらい。

それでも手慣れたやり取りに観念したのか、岸に近づいたところで優しくネットイン。

スティールヘッドの血統ゆえか、確かに純粋な陸封型のニジマスよりも、引きが強いような印象

この日に里見さんが使ったフライボックス。低活性で放流間もない魚も多かったのか、アトラクター系のパターンに反応がよかった

「このサオは〝折れない〞という信頼があってこそ、これだけ曲げられるのですが、ロッドが折れなければティペットやリーダーが切れます。でも、最近はイトも強くなっているので、ハリが伸びるケースのほうが多いですね。それだけこの3番は力強いのです。
ファイト時間が長引いて、魚へのダメージを気にする人も多いのですが、私の体感的にランディングまでの時間は5、6番とほとんど変わりません」

谷間の流れに温かな陽が当たると、ユスリカなど水生昆虫の活動も活発になってきた

大型魚と対峙するための予習復習にも最適

シーズンオフも足繁く冬季釣り場や、管理釣り場へ出かける里見さん。その利点や楽しみについてお聞きした。

「個人的には単純に大きな魚を釣るのが楽しいということです。北海道に行ったとしても、毎回大ものと出会えるわけではないのです。たとえばこの冬季釣り場であれば、アベレージで40㎝以上のニジマスが釣れますし、60㎝を越えるような魚の引きも楽しめます。オフシーズンなく、釣への欲求を満たせるのも嬉しいですね」

ここまで寄せてランディングかと思いきや、さらにしつこく走り続ける。「まだだよ~」という余裕の表情にさえ感じる

冬季釣り場の多くはキャッチ&リリース。魚はできるだけ水から出さずに、自ら泳いでいくまでは優しく保持してあげよう

フライロッドをバットまで絞り込み、リールファイトが必要と感じさせる魚との遭遇は、年間をとおしても決して多くないはず。

そんな大ものとの駆け引きを堪能できるのだから、冬季釣り場へ通い詰める里見さんが夢中になるのも納得。

今回訪れた上野村冬季釣り場は、全区間キャッチ&リリースで2月21日まで開設(2021年1月上旬時点)。

クラブハウス的な上野村ふれあい館も居心地がよいので、家族連れでも楽しめるだろう(小学生以下は遊漁無料)。

これからは釣り人も少なくなり静かに楽しめる季節。真冬の積雪があってもドライフライで釣れるというのだから、雪景色の中でミッジングに没頭するのも楽しそうだ。

魚の着き場や捕食のパターンを掴んでからは、次々とハコスチとのファイトを堪能していた里見さん

▼上野村 冬季釣り場(全区間C&R)

【期間】(2021年1月上旬時点)
2020年10月23日~2021年2月21日(火曜定休)

【時間】
9:00~16:00(11月末までは17:00)

【料金】
大人:2,000円(一般)/1,500円(年券所持者)
女性:1,500円(一般)/1,000円(年券所持者)
中学生:300円(一般)/300円(年券所持者)
小学生以下:無料

【受付場所】
上野村漁業協同組合
群馬県多野郡上野村大字楢原316-1(上野村ふれあい館内)
TEL:0274-59-3155





2021/2/17

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最新号 2024年12月号 Early Autumn

【特集】マスのきもち

朱鞠内湖のイトウ、渓流のヤマメ、イワナ、忍野のニジマス、九頭竜川サクラマス本流のニジマス、中禅寺湖のブラウントラウトなど、それぞれのエキスパートたちに「マスのきもち」についてインタビュー。

色がわかるのか、釣られた記憶はいつ頃忘れるのか、など私たちのターゲットについての習性考察していただきました。

また、特別編として、プロタイヤーの備前貢さんにご自身の経験を、魚類の研究に携わる、棟方有宗さんと高橋宏司さんに科学的な見地から文章をいただいています。

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