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ヤマメとイワナをねらうストラテジー

流心をねらうか、緩い流れを探るか

谷地田 正志=解説
長雨が一段落した8月上旬。米代川水系の魚たちは、増水の収まった川で活発にフライを追った

秋田県の米代川をホームリバーにする谷地川正志さんのもとには、毎シーズン多くのゲストが訪れる。ヤマメの川、イワナの川、あるいはその両者が混生する川。何を知り、どんなことを実践できればより多くのヤマメとイワナをねらいどおりに釣れると考えるのか。そのエッセンスを解説してもらった。
この記事は2009年10月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
やちた・まさし
1957年生まれ。秋田県大館市在住。シーズン中は地元の米代川や秋田県北の川でフィッシングガイドも行っている。岩井渓一郎さんの取材を現地で案内したことをきっかけに、ロングティペット・リーダーの釣りに傾倒する。得意とするのは魚を見つけてからねらうサイトフィッシング。

ヤマメはイワナより強い?

――まずは谷地田さんが感じる、ヤマメとイワナの一番の違いを教えてください。
魚の性格から釣り方まで、違いはもちろん色々とありますが、まず率直な部分では「ヤマメのほうがイワナより強い」ということでしょうか。

私がおもにガイドする秋田県北部には、ヤマメのみがいる川、イワナのみがいる川のほかに、両種が混生する川が多くあるのですが、たとえば同じ区間に両方の魚がいる川では、明らかにヤマメのほうが魚として「強い」傾向があります。

――「強い」と言いますと?
たとえば混生域における魚の付き場で考えた場合、その場所の流心か、あるいはその流心の両サイドにはヤマメが付きます。

そしてヤマメに追いやられるような形で、そのポイントの隅っこのほう、たとえば泡がたまっている場所とか、反転流などの緩い流れ、あるいはポイント全体のずっと尻のほうに、イワナが入るんです。ヤマメとイワナが同じ流れにいるということはほとんどありません。

――イワナはヤマメに追い出されるわけですか?
そうですね。よく言われるように、イワナはもともと緩い流れが好きという部分もあるのですが、それでも本来であればエサが最初に流れて来るよいところ、たとえば、流心脇の少し流れがたるんだようなところにも行きたいとは思っているんです。
ねらった場所から次々に魚を引き出す谷地田さん。長いフィッシングキャリアで鍛えた目で、釣る前の段階で魚を見つけておくことも多い。「ヤマメはしきりに動いているので見つけやすいですね。イワナは最初に胸ビレの白い緑取りに気づくことが多くて、すると全体が浮かび上がるように見えてきます」

イワナしかいない川であれば、イワナもヤマメが付くような速い流心に近い所や、その両サイドに入ることがありますよ。でもそこにヤマメがいると、ほとんどの場合は入れない。大きなプールを観察しているとよく分かるのですが、基本的にはヤマメがいいところに定位していて、そこにクルージングしてきたイワナが近づくと、ヤマメはすぐにイワナを追い払います。

サイズが同じくらいであれば、まずイワナが負けますね。例外的に、イワナもサイズがヤマメより明らかに大きければ、たとえば40cmくらいの大ものとかになると、ヤマメを差し置いて流心脇の流れの一番上流にドカッと入っていることはある。そういう場面は今までに何度か見たことはあります。

――好む流れの違いだけではなく、ナワバリ争いでヤマメが勝つ場合が多いということですか。
そうですね。あとは米代川の周辺に多い中流域にヤマメとイワナが混生している川ですと、ヤマメのほうが年ごとに多くなっていく傾向があるようにも感じています。特に魚が自然繁殖していたり、川に大きな高低差や段差がなかったりする川ではそうですね。
イワナはある程度まで近づいてねらえるが、それでも最低で13-15ヤードはポイントから離れる。また、ロングティペットも伸び切って着水してしまえばすぐにドラッグが掛かるので、追い風の時はわざと手前の水面にティペットを突っ込ませ、その先にたるみを作ってフライを落とすか、リーチキャストを活用する

ヤマメとイワナ、行動の違い

――ほかにはどんな部分が違いますか?
フライフィッシングとの関連でいえば、やはりエサを取るスピードが違います。ヤマメは基本的に流心にいて、そこに流れて来るエサを素早く取ります。あとは、流れて来たエサやフライを追いかけて、そのまま肩から下の瀬に落ちてしまうこともある。

さらに、ヤマメは流心やその脇にいる間も、常に上下左右に動いて泳いでいます。それに対して、イワナはなるべく「楽をしてエサを食べたい」というか、できるだけ泳がずに、じーっと黙っていられるような場所にいて、そこに流れ込んで来たエサを見つけて食べる。また、食べ方もゆっくり吸い込むように食べます。

そして、エサを食べたら元にいた場所に戻りますね。だから、泡がたまる場所、一見しただけでは流れがあるのかどうか分からないような場所というのは、イワナが好むポイントになりやすい。
警戒心が強いヤマメにはドラッグフリーが必須だが、ねらうべき場所は予測しやすい

あとはヤマメにしろ、イワナにしろ、その場所でいい魚が付くポイントというのはだいたい決まってくるわけですが、そこから1尾釣られてしまった時に、イワナはそのすぐあとに、同じようなサイズの魚がその場所に入ることがあるんです。

しかしヤマメは不思議とそれがない。ヤマメの場合は、あるポイントで大きいのを釣ってしまうと、そこでまた同じようなサイズの魚が釣れるということはそんなにありません。あったとしても、3日後に行ってみて、ワンサイズ、ツーサイズ落ちたのが入っているということがほとんど。

でもイワナは、5分とか10分で、すぐに別のいいサイズの魚が入ることが珍しくない。なので、良型のイワナを釣ったあとは、すぐに「次の魚が入ってこないかな?」としばらくそのポイントを見るようにしています。

――ひとつの場所への定住性という面ではどうでしょう?
イワナは産卵に向けて、増水のたびにより上流へ上がろうとする傾同がとても強いですね。大雨のあとに大きな滝などに行くと、ひとめで短期間に遡上してきたと分かる大きなイワナが、さらに上流に上がろうとして列をなしています。

そういう魚は、たとえば下流にダムがあると、そこにいる間はお腹が真っ白だからすぐに分かるんですよ。ほかにも、これは自分で見たのではなく、営林署のおじいさんから聞いた話ですが、雨が流れる林道を、イワナがニョロニョロと這い上がっていくようすをみたことがあるといいます。

釣った魚を浅瀬に寄せると、ヤマメは立っていられずにバタバタと跳ねますが、イワナは這い回れますよね。そういう体型も関係しているのかもしれません。

付き場とアプローチ

――ヤマメとイワナ、谷地田さん自身はどちらがより難しい魚だと感じていますか?
これにはいろいろな要素があるのですが、たとえばより臆病なのはヤマメのほうです。また、ドラッグが掛かったフライに出ないという点も、ヤマメのほうがよりシビアでしょう。

ヤマメを釣る場合、まずは近づいてしまうとだめ。だからより釣りたいと思ったら、意識的に人より遠くからねらうか、あるいはキャストする位置を変えるなどの工夫をすると効果があります。キャストする位置というのは、たとえば右利きの人であれば、通常右岸(上流を向いて左側の岸)から釣るほうが楽なわけですが、そこをあえて左岸に立って釣ると魚に警戒されづらいようです。

また、フォルスキャストでラインの影が水面に落ちるだけで逃げるのも、どちらかといえばヤマメですね。メジャーリングのためのフォルスキャストを、最後のプレゼンテーションキャストと別のところで行なうこともあります。

ただ魚がどこにいるかという、ポイント捜しの点ではヤマメのほうが単純ですね。これはもう流心とその両サイドをねらっていけばいい。もちろん流心を釣る前に、瀬の終わりにある肩だとか、その周りにあるヒラキはきちんと探らなければいけませんが、それでも魚の付き場自体は、ビギナーの人であっても単純に絞り込めると思います。

それに対して、イワナは少しくらいフライにドラッグが掛かっても追って来てくれるし、その点は明らかに釣りやすい。ただし、イワナを釣るためには、慣れていないと「こんなところに魚が付くの?」と思えるような場所、イワナが好む場所というのをしっかり理解できていないといけないんです。そうでないと、魚のいないところにばかりフライを落とすことになる。
釣るべき場所のバリエーションが豊富なイワナ。スレた大ものは厄介だが、ドリフトには寛容な反応を示す

あとは、警戒心はヤマメのほうが強いと言いましたが、頭がよくなってきたイワナは、ヤマメよりも釣りが難しくなるとは感じています。最初から警戒心が強いか、あるいは、何度かキャッチ&リリースされて学習したイワナというのは、本当に難しい相手なんです。

それまで平然と泳いでいたのが、フライが流れてきただけでスーッと底のほうに沈んでしまったり、キャスティングポジションに立っただけでふっといなくなったり……。

あるいは、ジーッというリールからラインを出す音とか、林道で車のドアをドスンと閉める音が響いただけで、嫌がって消えてしまうこともあります。これまで何十年も釣りをしてきましたが、そういう経験はイワナのほうがずっと多い。

でも天気や水温など、どこかで魚のスイッチが入ると、「なんでこんなに簡単に食うの?」というくらい、そういうイワナが簡単に釣れることもあるんです(笑)

付く場所でいうと、イワナというのは、基本的には速い流れにはあまり付きません。一見すると速い流れであっても、何かブレーキの掛かるようなちょっとした変化があったりします。泡がたまっている場所、速い流れが壁や石にぶつかっている場所、流れが大きく曲がって、しだいに緩くなっているところ……そうした流れの筋の両サイド、そして真ん中にいます。

また、流れが反転しているところだと、頭が上流ではなく下流側に向いている時もあるし、流れの緩いポイントの中であっちこっちに向きを変えている時もある。すると、フライを魚のしっぽの上に落としても釣れません。

イワナはとにかく緩い流れ、ゴミが流れて来る筋、泡が流れて来る筋、泡だまり、反転流、岩盤の脇、石と石のあるコーナーのスポット、そういうところを意識的にねらっていくことが必要です。

基本的にタックルは同じ

――使用するタックルについて教えてください。ヤマメをねらう時とイワナをねらう時で、意識して変えている部分はありますか?
ティペットの細さが若干変わります。基本的なシステムはどちらを釣る時も同じですよ。ロッドは8フィート3インチの3番ロッドがメインで、リーダーとティペットの全長は18フィート程度。そのうえで、ヤマメの場合は細めのティペットを選択しています。

ティペットは、やはり細いほうがドラッグは掛かりづらい。具体的には、ヤマメの場合は6.5~7Xを使っています。イワナなら6Xで充分で、反応がよければ5.5Xでもいい。

ただしプールを釣る場合は、イワナねらいであってもティペットのサイズは落とします。実際に水面の穏やかなプールでフライをキャストしてみると、5.5Xのティペットの影というのは相当太いですからね。

それが魚の上に行ってしまえば、なかなか釣れません。ティペットの影を気にするのはイワナであってもヤマメでもあっても同じです。波や雨があれば、ティペットは多少太くても大丈夫です。
真夏の渓流で活躍したのは、おもにパラシュートバターンに番いたアントなどのテレストリアルフライだったが、CDCを使ったカディスも特に大きなプールで効果的だった。「みんながパラシュートフライを使っているような川では、特に水面が穏やかなところにいるイワナはフライをよく見切ります。そんな時は、CDCカディスを使うといいですね。CDCカディスを使う時は、魚がフライを見つけたあとに、ロッドをゆするようにして若干フライを動かしてみるのも効果がありますよ」

ヤマメは臆病ですから、うまくフライを流せたのに無視されたという時以外、一度ミスキャストして怯えさせてしまうと、次にキャストした時にはほとんど出ない。特に一度フッキングさせて釣り損なったヤマメは、その日のうちにもう一度ねらってもまずダメですね。だからティペットの選択もドラッグの回避を優先します。

イワナは、その魚の性格にもよりますが、フックが口に掛かってからバレても、30分もすればまたフライに反応する場合がある。そこが愛らしくもあるのですが(笑)、とはいえ、イワナもワンキャストでねらうのと、ツーキャストでねらうのとでは、魚に掛けるプレッシャーが大きく違ってきます。

だから、確実に釣りたいとなれば、とにかくワンキャストでねらうようにするのはヤマメと同じです。

緩い流れと速い流れをどう釣るか

――流心に付くヤマメと、緩い流れのイワナで、基本的なねらい方はありますか?
どちらの魚をねらう場合も、一番考えているのはフライラインとティペットを落とす位置です。流心を釣る時は、まず手前側の水面を、外から内に向かって徐々にレーンをずらして釣っていき、それを終えたら、流心の向こう側の水面を釣ります。

流心の向こう側を釣る時は、リーダーを流心の上に置くようにして、U字に曲げたその先のティペットを流心の向こう側に落とす。あとはリーダー部分を上流側にメンディングして、ティペットおよびフライを流心の向こう側でナチュラルドリフトさせます。

メンディングで動かす部分を流心の上に置き、できるだけ魚に警戒されないようにしたいからですね。その際フライを流すレーンは、手前側を釣る時とは逆に、流心から徐々に外側にずらしていきます。

なお、これはブラインドで釣り上がっている場合の話であって、魚が見つけられれば、直接そのレーンをねらえばいいわけです。

イワナが好む緩い流れのポイント、たとえば反転流を釣る時に大切なのは、フライを直接泡の中には入れないことです。そうしてしまうと、フライが見えなくなりやすい。フライは泡のある場所ではなく、そこに入っていく流れに乗せて送っていく。

それを目で追っていれば、たとえ泡の中でフライが見えなくなっても、そのあとフライが入った場所が波で盛り上がったのか、魚が出て盛り上がったのか、見えるようなります。見るべきところを集中して見ていられると、フライがそこに入った時に、スーッと魚が出てきたのが分かります。

2017/9/18

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