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『T-MADE』のリールの拘り

想いとこだわりについて聞いた

金子孝行=案内 編集部=写真
flyfisher photo

作りたいものと作れるものの違いを知った

金子さんがリールを作り始めたきっかけを教えてください。

工業高校出身なので、旋盤の基本的な扱い方は知っていましたが、仕事は長年クルマのガラス修理などを行なっていて、設計や金属加工からは遠い内容でした。フライフィッシングは26、27歳頃から始めて、いろいろ道具をそろえていくうちに、ひとつの疑問を抱くようになりました。ロッドは最先端のカーボンが次々に取り入れられるのに、リールはどれもパッとしないというか、デザインや内部のドラッグシステムは一部を除いて進歩が止まっているように感じていました。収集癖があるわけではないですが、当時はサオ10本にリールが30〜40台というぐあいで、どちらかというとリールへの関心が強かったです。最初は市販のリールを改造しようと思ったのですが、あらためて見るとその余地がほぼないので、これはいちから作るしかないと思いました

 

当時よく使っていたのはどこのリールでしたか。

エーベル、アイランダー、オービスあたりが好きで何台も持っていました。最初にハマったのがオイカワのドライフライ。その後、渓流から海まで幅広く楽しむようになり、フライリールもあっという間に増えていきました

 

最初に作ったのはどんなリールですか。

ホームセンターで金属板やネジを買ってきて、金ノコで切ってヤスリで削って、どうにか作り終えました。私はエーベルやアイランダーのようなリールが作りたかったのですが、でき上がったのはほど遠いものでした。ただ、不思議とリール作りをやめようとは思いませんでした。ちょうどその頃、悪戦苦闘する私の話を聞いた釣り仲間の先輩が、旋盤の使い方を教えてくれました。その方は設計と金属加工のプロで、夜なら工場の機械を使っていいよと言ってくれました。当時の私は19時頃まで仕事をしていて、終業後から22時頃まで毎日のように通って、いろいろ教わりながら作業させてもらいました。同時にCADを使った設計も教わりました。ここでしっかり基本を学べたのが後々大きかったです。それというのも「作りたいもの」と「作れるもの」にはギャップがあるのです。そのギャップの要因は技術不足だったり、設計が未熟だったり、そもそも物理的に難しかったりとざまざまですが、アマチュアにとっては工作機械の有無が一番大きな差といえるでしょう。私が金ノコとヤスリでいくら頑張っても、エーベルやアイランダーのようなリールはコンピュータ制御の工作機械を使わないと作れないのです。私が作れるのは、プレートとピラーを組み合わせたクラシックタイプのリールだと理解してからは、そのなかで何ができるかを考えるようになりました。

 

flyfisher photo

金子さんが初めて旋盤で作ったのが右側のリール。中央は練習で作ったブラス製。左側はレイズドピラーの外周部分をあえて切り離さずに、デザインのアクセントとして用いたモデル。いずれも自分で使うために作ったリールたちだ

 

flyfisher photo

「一次加工を外部に依頼していても、細かい部分は結局自分でやることが多いです」と話す

 

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回転部分がとくにスムーズに動くよう、組み立ては調整しながら行なう

 

 

クラシックタイプのリールも好きになったのでしょうか。

あらためて見直すと、不思議とカッコよく見えるんですよね(笑)。長く愛されているデザインなのだから、当然なのかしれません。クルマにたとえると昔のオースチンやローバーのミニと今のBMWのミニのように、長年愛されてきた意匠を継承しつつ、現在の素材や技術に置き換えていければ……という思いが私のなかに生まれました。確かに手作業で削ったリールは、愛着と達成感はありましたが、お世辞にも回転がスムーズとはいえないし、誰かに使ってもらうには忍びないものでした。いっぽうで設計を学び、工作機械で作ったリールは、試作を重ねるごとに完成度が上がっていきました

 

現代的な素材への置き換えとは、具体的にどういったものでしょうか

私が主に使う素材はアルミとステンレス、そしてドライカーボンです。20代前半から30代にかけて自動車レースを経験したことで、ホイールのデザインや最新の素材に興味がありました。性能がよいものはデザイン的に優れているものが多かった。平たくいうと機能美という言葉になりますが、ただ性能がすごい、ただカッコよいではなく、機能と見た目が両立してこそ本物なのだと思うようになりました。先述したように歴史や雰囲気よりも機能と見た目が第一なので、バーミンガムタイプであってもアルミやドライカーボンを使って、極力軽く作りたいと思ってしまいます(笑)。もちろんブラスやハードラバーといったノスタルジーを感じさせる素材が好まれる理由もわかります。でもそれはきっと誰かが作るし、私がやらなくてもよいと思っています

 

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ドライカーボンをプレートに使ったバーミンガムタイプ。大幅な軽量化と剛性を両立している

 

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ギヤを切り出した板材。これも外部の専門工場に依頼している

 

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レーザーでカットすると同時に焼き入れもできるため、一石二鳥なのだそうだ

 

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クリックドラッグに使うコマ。これも専門業者に依頼することで、精度を大幅に上げて、単価を大きく下げられた部品

 

 

アリ・ハートさんのデザインとの共通性

デザインありきで作られたわけではないんですね。

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2024/6/11

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