白川元さんのキャスティング練習方法
思い切ってロッドを倒す、バックキャストのドリフトを体感して身に付いたフルラインキャストのコツ習得の道
解説=白川元※この記事はFLY FISHER No.193を再編集したものです
深夜練習が生んだ偶然
東京都内のプロショップでフライコーナーを担当していた白川元さんはキャスティングインストラクターとして、お店に来るお客様にアドバイスする機会が多かった。そんな白川さん自身が初めてぶつかった大きな壁は、「どうしてもフルラインが出ない」というものだった。
昔、フライ好き、キャスティング好きの仲間同士、機会を見つけては休みごとに集まって練習を行なっていたという白川さん。その時に使っていたのは8番タックル。いわゆる高番手に入るロッドで、フルラインが出ないはずがないという意識はあったのだが、いくら練習を繰り返してもラインを飛ばせる感触が得られなかった。
きっかけは、その頃に1人で行なっていた夜の東京お台場公園での練習。まだできたばかりで照明も人も少ない暗い公園で、いつものようにフォルスキャストを始めたその日。ある瞬間から、「スルスルスルッ」と後方に伸びていくラインの重みを、ロッドをとおしてはっきりと感じることができたという。その感触に合わせ、自然にラインを送り、そこからタイミングを計ってシュートをしてみたところ、それまでずっと悩んでいたのがウソのように、フルラインが意外なほど簡単に飛んでいった。「そこからうまく行く時のキャストの感触というものが掴めるようになりました。灯りのない中でキャストすることで、視覚に頼りすぎずラインの重みを感じとることができたんですね」。その後、引き続きキャスティング練習を続けていく中で、白川さんはその時に体感できた一連の動作が「バックキャストにおけるドリフト」になっていると気づいたという。
フライキャスティングにおいては、ラインを動かしてきたあとの急停止、ストップの大切さがよく指摘される。これは、推進力があるタイトループを作るうえで欠かせない要素だ。だが、そこから一定距離以上のロングキャストをしたいと思った時には、その距離に応じてストロークの幅自体も広げる必要がある。その際は、空中に保持するラインの量を増やすと同時に、ストロークの幅も稼ぐために、明確なストップのあとに若干自分の腕をラインが伸びていく方向に送るようにする、いわゆるドリフトの動きが必要になる。
「今は違いますが、自分がうまくロングキャストができずに悩んでいた頃には、ストップに比べてドリフトの必要性を指摘してくれるテキストやビデオはほとんどありませんでした。ドリフトとは、単純に言えばストップのあとにキャスティングのアーク(またはストローク)を広げる動作であり、特にロングキャストにおいては必須のテクニックということになるんですが、自分はそれができていなかった」
「なんでそれができなかったのかというと、たとえばロッドは後ろに倒し過ぎてはいけない、という思いの呪縛があったんです。キャスティングの初心者が、ある程度の距離をまず投げられるようになるためには、ロッドを後ろに倒しすぎない、という注意が有効だと思います。ただ、その人がある程度上達してきて、もう近距離は充分に投げられて、次にオープンスタンスを取り入れたロングキャストをしようと思ったら、その時に実際は、必要に応じてロッドを倒す必要が出てきますよね。そのことに気づくきっかけが、当時の自分はうまく得られていなかった」
もちろん、実際にフルラインをキャストするには、タイミングのよいホールやしっかり面を作るまっすぐな腕の動きなど、必要とされる動きがほかにもいくつかある。ただ、それらの要素に比べても、特にバックキャストにおけるドリフトの重要性については、昔の自分を含めはっきりとアドバイスをもらえる機会が少なかったと白川さん。現在、ほかの人のキャスティングを見る時も、このドリフトに関する指摘は、上達のきっかけにしてもらえることが多いそう
キャストの連続写真
①バックキャストのストップ
※以下の本誌からもご覧いただけます
書影をクリックすると電子書籍を取り扱っているサイト(Fujisan)へジャンプします。FLY FISHER No.193 発売日2009年12月22日
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2023/7/7