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渋谷直人が語る釣り場での所作論

魚の警戒心を回避するギリギリの距離感が8m くらいだと思う

解説=渋谷直人
flyfisher photo

ポイントヘの近寄り方

フライフィッシングの利点が遠くから釣ることができる、と思っている方は、おそらく釣りの本質をあまり理解していない。

海や湖沼でさえ遠くに投げられれば釣れるわけではない。川でも止水でも、かなり浅いところに魚は捕食にくるし、捕食スイッチが入っていればいるほどその傾向が強いと思う。つまり魚を釣るためには単純な飛距離ではなく、魚がいる場所にフライを届けるという意識が必要だし、魚は意外に近いところにいることも覚えておいて損はないだろう。

川でドライフライで釣るなら、近すぎて逆に難しくならない程度で、最接近するのが理想である。もちろん魚に気づかれないことは重要だが、大きな本流ほど魚は逃げずにライズを続けるし、渇水の小渓流ほど遠くからでも逃げられるのが基本だ。

まずはライズしている魚がどこまで近づけば逃げるのかを確認してみるとよい。頻繁にライズを繰り返す魚ほど簡単には逃げないはずだ。しかし、そこから釣りを始めることがまずは最初の関門である。近くに行ってロッドを振るわけだから、その動きがまずは魚に視界に入るかもしれない。その警戒心を回避するギリギリの距離感が8mくらいだと思う。もちろん状況に応じては変わるが、大まかに捉えておくと悩まないと思う

そして、それをクリアした先にはラインの先端が魚の視界に入ることになる。さらには落ちたフライやティペットが悪さすれば一撃で魚は逃げてしまう。これらの事象は見えていればこそ判断できるが、魚が見えないほど遠くからならフライを投じたあとにどうなっているかこちらはわからない。そもそもいなかったのか、キャストして姿を消したのかがわからなければ、何が悪くて釣れなかったのかがわからない。

このような事例は川の大小にかかわらず、魚を見つけてアプローチしてからフライを投じてみる実験をすれば簡単に理解できると思う。遠くからキャストして釣りたい気持ちも、そちらのほうがゲーム性とスリルが高まるのも当然わかる。しかしそれは、見えない相手に刀を振り回しているようなものだとも思えるのだ。

ギリギリに立ち込んでも、ライズしている魚がまだ遠い、とか物理的にロングキャストが必要な場合を除いては、できる限り近づくための手段を考えたほうが圧倒的に有利だ。

僕が実感している現場での距離感は10m以内が理想であるが、逆に5m以内はロングティペットを使用しているためラインの質量が足りずコントロールやフッキングなどが難しくなる。だいたい15mくらいまでを射程閥と考えるが、それ以上の距離になるとコントロールしてのドリフトが不可能になると思う。

 

 

本流も同じ

本流の場合、せっかく大ものがライズしているのを見つけることができたなら、まずは波や音を立てずサオも後ろ気味に倒して、可能なら10m以内に近づくことから釣りが始まる。魚の動きを見ながらゆっくりじっくり進めば10m以内に入ることは難しいことではなく、さらにはバックキャストも含めてドリフトしたい形をイメージして角度も考慮しつつさらに近づいたほが有利になる。魚の真下からなら5mまで行っても逃げないが、逆に上流から近づくと射程圏に入らずともライズが止まることもある。

ライズポイントの上流を横切って渡るのはかなりの距離があってもリスクがあると思って間違いない。僕が経験した感じでは、よほど夢中でライズしていない限り、上流部を横切ることは警戒スイッチを入れてしまう。下流側で渡れる場所を探すか、一回上がって橋を渡って対岸を降りてくるくらいの慎重さがほしい。ただ、ハッチのタイミングなど時閻が制限されることが多く、僕自身も無理して渡って失敗したと思うことがいまだに少なくない。

総論的にまとめるなら、8m以内を目標にサイド側からのアプローチが一番魚を見続けやすい。しかしサイドからダウンに、角度が上流側からのアプローチになるにつれて、そして流れが弱ければ弱いほど近づける距離は離れる。渓流で考えるならアップ&アクロスが無難で、フォルスキャストなど余計な行動はせずに近づかなければならない。

運よく思っている距離まで近づけたなら、そこから下流側にロッドを下げながらティップからラインを出してしまうことが先決だ。フライは手元に納めておきつつ、ポイントと別方向にラインを伸ばしながらロッドを軽く振ってみる。この際も魚を常に観察することを怠ってはいけない。この段階までくれば、フォルスキャストを最低回数にしてメジャーリングして一気に勝負に出るべきである。プールなど大ものがいる可能性が高いポイントでは、常に見つけることと近づくことを優先したほうがよいことは経験上はっきりしてい

 

 

ラインのさばき方

フライが着水したなら最初に取るべき行動は、ロッドを持っている手でラインを掴むことである。僕の場合、具体的にはロッドを握る手の中指になる。キャストの際にはラインの長さを一気に出す必要などから、ロッドを持つ手でラインを保持することはないが、キャストが終わるとすぐに保持しないとすべての動作が後手に回ってしまう。そして、その後のメンディングや流れてくるラインを手繰る(リトリーブする)動作など、すべての操作は食わせて合わせることまでを連動して考えておくことが重要だ。

ハンドツイストで弛みを取るスタイルもあるが、まずはフライの着水と同時にロッドを握る手でラインを持つことを癖にしてしまおう。

ロッドを持つ手の中指でラインを保持し、その後ろからストリッピングすることが最も速い。さらにはフライが落ちた瞬間から魚が出る可能性が生まれるので、常にフッキングを意識していなければならない。だからこそロッドを持つ手でのストリッピングが必要なのだ。

アップストリーム気味なら完全に手繰ることが優先で、メンディングはそれと同時か後になる。フライの着水後に手元のラインを出さなくてよいのがロングティペットの釣りである。逆にダウンストリーム気味なら、ラインを出すことはなくても、フライの着水後に大きくラインやリーダーを上流にメンディングしてからその余分を流し込む。それでも足りない場合はラインを送り込むことになる。

再三繰り返しているが、ロングティペットの釣りは、プレゼンテーション時からティペットの弛みを作ることが重要だ。大きく弛みを作った状態でフッキングさせるのだから、ラインはすぐに手繰り、弛みの量をコントロールできることが重要だ。

 

 

フッキングの考え方

早いとか遅いとか、食ってないとか弾かれたとか、さまざまな表現があるが、実際は釣り人側の問題だと思う。しっかりとスラックが入ったティペットで食いたいフライを流せば、魚は飲み込むくらいの勢いで食ってくる。

※この続きは、月額700円+税で有料メンバー登録するとご覧いただけます。

2024/8/27

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