ティペットに潜むバラシの理由
里見栄正さんが、「ティペットのケア」にフォーカスした「バラシの理由」を解説します。
里見栄正=文、FlyFisher編集部=写真 ベストの中には多くのメーカーのティペットが入っている。ナイロンが中心だが、フロロカーボンも忘れない。ほとんどの場合、フライとティペットはクリンチノット、リーダーとティペットはブラッドノットで接続しており、この結び方で特に強度に不安を持ったことはない《Profile》
里見 栄正(さとみ・よしまさ)1955年生まれ。群馬県太田市在住。出版物、テレビメディアなどを中心に活躍しており、フライフィッシングスクール、ロッドデザイン、リール製作にも携わっている。現在FFを中心に生活が回っている状態で、渓流の釣りを好む傍ら、秋にはスティールヘッド釣行を予定している。
この記事は2014年12月号に掲載されたものを再編集しています。
里見 栄正(さとみ・よしまさ)1955年生まれ。群馬県太田市在住。出版物、テレビメディアなどを中心に活躍しており、フライフィッシングスクール、ロッドデザイン、リール製作にも携わっている。現在FFを中心に生活が回っている状態で、渓流の釣りを好む傍ら、秋にはスティールヘッド釣行を予定している。
リーダー・ティペットの状態など、自分の横着で大ものを逃してましった時の悔しさは、なんともやるせない。「あの時ちょっとチェックしておけば」といったあとの祭りは、調子よく釣れている時に限ってやってくる・・・・・・。
フッキングまで持ち込んでも・・・・・・
悔しい思いをした記憶は数えきれないほどある。しかし、結果として掛けるまでには至らなかったというケースに関しては、それがいかに大ものであれ、意外に執着はない。せいぜい同じポイントに立つ機会があった時に「デカいのがいたっけなァ」とぼんやり思い出す程度だ。その反面、掛けはしたがバラしたとなると話は違ってくる。一瞬わずかな抵抗を感じたとか、アワセ切れしたような場合、あまり傷口は深くないので、”悔しさ”の大小はフッキングしていた長さ、ということなのかもしれない。だが、厳密にはちょっと違う。
ある程度魚の所有権を主張できるくらい長い時間ロッドを曲げ続けていたとしても、フックが外れてしまうことはごく普通にある。要はその原因がどこにあるかということだ。
そこには相手が賢かった、フッキングが浅かった、薄皮一枚で口切れを起こした・・・・・・などなど想像はできても、やはり曖昧さは拭えない。自分のミスなのかも定かではないといった認識が強いのか、結局のところ「運が悪かった」というところに落ち着いてしまうのだ。個々のケースを厳密に分析してみれば、「アワセのタイミングはこうあるべきだった」、「魚の誘導をこうしておけばバレなかったかもしれない」とは言えても、すべてが結果論であって、運のせいにもできてしまうぶん、悔しいという気持ちがそれほど強くは残らないということなのだろう。
一方、事前にチェックさえしておけば、こんなことにはならなかったはずだといえるようなケースでは悔しさ100倍である。偶然や不可抗力によるものについてはおとがめなしでも、自分に責任がある場合は悔やんでも悔やみきれない思いが残る。私の場合、そのほとんどがタックルに関わるものだ。
もう10年以上前になるが、苦労して掛けたスティールヘッドの逸走を、普段ならある程度強引に止めてやり取りするところを、大型だったため慎重になりすぎた。動きに任せてバッキングまで出させてようすを見ようとした瞬間、ロッドに強い衝撃が走り、ラインが宙に舞った。スムーズにバッキングラインまで出していくと計算していた僕には何が何だか・・・・・・。この時はスティールの強い引きに耐えられるよう、フライラインとバッキングのジョイントにわざわざケブラーの編みイトを使っていたのだ。そしてその結びコブがやや大きかったためにトップガイドに詰まり、ラインの出が急激に止まって0Xティペットがひとたまりもなくブレイク。千載一遇のチャンスを逃したのであった。まァ、こんなことは一生のうちで何度あるかといったところだが、もっと些細なことでミスを犯すことはちょいちょい経験することではある。次のエピソードもそんな経験のひとつだ。
細かいチェックが明暗を分けることも・・・・・・
5月に入ったばかりの流れに夕刻が近づいていた。僕は午前中釣った区間にある堰堤の下にいた。その流れは一等地ともいえる大場所。以前にも大ものの実績があり、夕方にもう一度釣ろうと決めていたポイントでもある。堰堤から激しく落下した流れは、流れ出しに向かって開いていく中央の筋と、護岸にぶつかって1つにまとまる太く均一な流速を持つ筋に分かれていた。キャストをはじめると、流れ出し手前のカケアガリ周辺の水面からは、すぐに反応があった。ほんの数分で型のよいイワナを何尾かリリースすると、今度は護岸に沿った筋でヤマメらしきライズがはじまり、僕はそれを手前からひとつずつていねいに拾っていった。
午前中に比べると、ヒットするヤマメは二回りほどサイズアップした感じで、ロッドの曲がりが心地よい。ライズの主をほぼ釣り切り、残すは落ち込み近くの、流れが脇の護岸に当たって方向を変えるその一点だ。
ティペットに大きなスラックを入れ、動きのある水面の上で、しばしフライが留まるよう念じて静かにフライを置く。ほぼ思惑どおりのプレゼンテーションが決まり、フライが流れの動きと同化する直前、大きく水面が盛り上がった。軽くロッドを立てると、フライに出た時の何倍ものスピードで、ヤマメはいったんプールの底に向かい、独特のローリングでガクガクとロッドを震わせる。この時点でかなりの型だと分かる抵抗だ。
僕はラインを出すことも弛めることもせず、寄せの体勢に入った。暗くなりかけた水中でひときわ白さを際立たせるヤマメは、優に尺を超え、幅も広い。その時の僕は満面の笑顔だったに違いない。ネットに手をかけ腰を落とす。イト鳴りがした。・・・・・・が、次の瞬間フッとロッドが軽くなった。いや、それまで緊張に包まれていた空気全体が軽くなったようでもあった。
「バレたか?・・・・・・」
目の前にだらしなく揺れるティペットの先端は、クリクリのコイル状になっていた。フライの結び目が解け、抜けてしまった証しである。悔しさがこみ上げてくるのはこんなケースだ。原因が完全に自分側にあるからだ。
緩んでいたのか、または酷使された状態で劣化が進み、ノットの途中が切れたのか判然とはしないが、ヤマメは消え、静かな水面だけが残った。このヤマメの前に10尾以上の魚を掛けているのだから、ティペットを新しいものに替えないまでも、フライくらいは結び直してもよかったと思ったところで、あとの祭りだ。
渓流ドライフライの場合、ティペットを曲げたり、スラックを入れたりするプレゼンテーションがほとんどなので、岩などに触れる機会も多く、時にはフライそのものに絡まってしまうことも・・・・・・
日本の渓流では、先のスティールヘッドとは違い、ほとんどはティペットの扱い、それもどの程度しっかりケアできているかが、明暗を分けることが多い。結び目しかり、ウインドノットにささくれやザラつきなどしかり。ワンキャストごとのチェックは無理でも、ちょっと注意していれば気づくことだ。しかし、これが意外に無神経だったり横着だったりする。
またティペットのケアではないが、ロングティペット全盛の現在、これがフライに絡むことも多い。気づかないで釣っていると、フライの姿勢もおかしくなっていて、その結果反応が悪かったり、支点が変わってフッキングしなかったりする。またハリ掛かりはするものの、それが外れてしまう方向に働いて、バレにつながるということもよくある。特に僕の場合、まっすぐにループを伸ばしてキャストすることのほうが少ないせいか、バラシが連続するケースはだいたいこれだ。
それでも最低限、ポイントを移動する時に確認はしているのだが、大場所などでしばらく粘る場合、往々にしてティペットのチェックを怠りがちではある。最近のティペットは7Xもあれば40cmクラスなら充分対応できるだけの強度は持っているのだから、悔しい思いをする前に、目を配っておくことが肝要だ。とは言いながら、まだ時々あるんだよなァ、これが・・・・・・。
里見ティペット私観
2024/4/8