ポケットウオーター、どう釣るか?

山岳渓流のドライフライ・フィッシング

稲田 秀彦、加藤 俊寿=解説
genryu-03 魚に悟られずポイントまで近づける場合は、フライラインをできるだけ水面に付けず、水流の抵抗の少ないティペット部分だけを水面に置いてフライを流すのもテクニックのひとつ

人的プレッシャーの多いフィールドに比べて、源流域の魚は流れるフライに対して、より素直に反応してくれるだろう。それでも、尺を優に超えた魚にフライの真下でUターンされるような光景は見たくない。そんな悔しい思いをせずに、山岳渓流でよい釣りをするためのヒントを紹介。

この記事は2014年9月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
いなだ・ひでひこ
長野県安曇野市在住。早春のマッチング・ザ・ハッチの釣りから本流ウエットまで、幅広い釣りに親しんでいるが、夏場は自宅からも近い北アルプス周辺の山岳渓流に積極的に足を運ぶ。1つのポイントの中でも、魚の付き場ごとに区間を分けてフライを流す釣りを実践
かとう・としずみ
静岡県袋井市在住。シーズン中は南・中央アルプスの渓にヤマトイワナを求めて釣行する機会が多い。バックパッキングで源流へ訪れる機会も多く、無数にあるポイントの中でも良型の潜む場所を効率的に探る、テンポのよいブラインドフィッシングが得意

山岳渓流といえば、落差のある流れを思い浮かべる人は多いだろう。もちろん時にはラインをのびのびと繰って釣りたいフラットな流れもあるものの、やはり代表的なポイントは「落ち込み」といってよい。

一口に落ち込みといっても、その大きさは大小さまざま。もちろんポイントからできるだけ離れて釣るのがセオリーだが、時には渓相の都合からどうしても近づいて探らざるを得ないようなシチュエーションも多い。こういった落差が連続する川では大岩を一段上がったらすぐ目の前に水面があり、運がよければそこに良型イワナが定位しているのが見えたり……もしくはサッと走られてりまったり……なんてシチュエーションを経験した人も多いだろう。とはいえ自分の立っている位置からでは満足にフライを流す水面が見えないような場合、そのすぐ下まで近づいてねらわざるを得ない。

実際にはなんてことのない流れでも、釣りにくいポイントにこそ大ものが潜んでいたりするもの。そんな場所でも自分の存在を悟られず、プレッシャーも与えることなく、ナチュラルドリフトを決めなければならない。ここではそんなポイントをドライフライで効率的に探るテクニックを、北アルプスや南アルプスの山岳渓流にも足を運ぶ稲田秀彦さん、加藤俊寿さんに聞いてみた。

ポイントを区切ってフライを流す

「落ち込みを釣る場合、いきなりポケットのどまん中にフライを落とすのではなく、小さく場所を区切って順番に流すように心掛けています」と稲田さんは話す。具体的には1つの落ち込みでも、肩(緩やかな流れの場合はヒラキ)→白泡の切れ目→反転流という順にフライを投じていく。肩の部分は流れがすぼまって流れるエサが集まりやすい。白泡の下は水深もあり流下物が最初に落ち込む。そして反転流は流心から外れたエサが溜まる場所と、それぞれ渓魚の好む要素がある。

まず肩の部分。ここをねらう時には手前の落ち口にフライライン、またはリーダーが引っ張られないように注意すること。アップでねらう場合、ロッドティップを上げて不要なラインが水面に付かないようにするとドラッグを回避しやすいが、キャスト時にティペットが逆U字の形になるように落とすことで、さらに余裕を持って流しきることができる。この時U字の部分ができるだけほかのポイントにかからないよう、コンパクトに落とすのがベストだ。

genryu-02 時には横に回り込んでねらったほうがナチュラルに流しやすい場所もある。流しにくいと思ったら、まずは自分の立つ位置を考えてみよう

次にねらう白泡の切れ目は、肩にフライを落とす時と同様、ナチュラルドリフトが鉄則。白泡の切れ目から肩までの距離が長い場合は、その間のレーンをしっかりと流し切ることが大切。ちなみに落ち込みの規模がある程度大きい場合、白泡の中にフライを入れて流れに揉まれるままにして、水中の反応を探るというのも手。水中に入るリーダーが急に引き込まれたり、時にはロッドにダイレクトにアタリが伝わったりすることも。こういったシーンでは当然派手なインジケータを取り付けたフライは避けたいところだ。

そして最後にねらうのが落ち込みの脇にできる反転流。この流れは岸際をなめるように回りながら流心に戻るような形になっているが、最も重要なのはその際ぎりぎりの流れ。「つい巻いているポケットのまん中にフライを置いておきたくなりますが、岸際のしっかりと回るように流れている箇所にフライを入れることが重要です」と稲田さんは言う。反転流の中でもフライがしっかりと動く(上流に向かって流れていく)ように流せば、エサを待っている魚の興味も引きやすい。その際、リーダー・ティペットを送るような形でメンディングを入れれば、より奥までフライがナチュラルに流れてくれる。稲田さんの経験上、最も大ものの実績があるのは巻いた流れが再び流心に合流する地点だという。良型ほど奥の奥に付いている場合が多いのだ。

01よく見かけるポイントだが、特に水深のある場所や岩盤際、さらにはえぐれた岩が組み合わさっている落ち込みも多く、魚の潜んでいる確率も第1級

稲田さんが使っているリーダーシステムは、ある程度ロッドを振れるスペースが確保されている場所であれば、全長15フィート前後(リーダー9フィート+ティペット5~6フィート)。一方谷が狭く、フライラインをそれほど伸ばして探れないようなフィールドでは全長13~14フィート(リーダー7~8フィート+ティペット5フィート前後)のものを使用。コンパクトなループでU字キャストや弛みを作りやすく、ポイントに近づかざるをえない場合、反転流など小さなスポットでもメンディングを入れやすい。また落差のある渓では、リーダーが長すぎると移動中に手もとのフライラインの重みでガイド内に引き込まれてしまうことが多くなるため、短めの設定が扱いやすい。

まずは魚に察知されないこと

「どんな場合でもまずは魚を走らせずに釣ることを意識しています」と話すのは加藤さん。1つの落ち込みで、肩(ヒラキ)の部分をねらって、次に奥の反転流や落ち込み部分をねらう時には思わず立つ位置を変えそうになる。しかし奥のポイントをねらう時も手前の流れを釣ったポジションからキャストするという。

手前のポイントを充分探ったと思っていても、フライに魚が反応しなかっただけで、流れに魚が付いたままであることは多い。そんな状況で奥の流れをねらおうと1歩踏み出した時、足もとの岩に隠れていた魚が奥へ走ってしまった……なんてことは避けたい。

genryu-04 落差のある流れでは、自分の立っている位置より水面が高い場合もある。写真のようなシチュエーションでは、岩の上に立ってしまえば、たちまち魚に走られてしまうのがオチ。水面が見える、ロッドが振れるぎりぎりの位置でねらうのがベストだ

この場合、もちろん手前の流れに付いている魚をねらう際にも、気配を悟られないようなストーキングが必要になる。
「たとえ山岳渓流でも、ある程度釣り人が入っているような場所では、ちょっとキャストする時立つ位置を変えてみるだけで、魚の反応が大きく変わってくることがあります」と加藤さん。

たとえば、加藤さんは右利きで、右岸が歩けるにもかかわらず、ほとんどの場合左岸からバックハンド・キャストを用いて釣り上がるという。
「今まで右岸からねらって、いくらキャストしても反応のなかった場所でも、アプローチを変えてみるとあっさりヒットしたこともありました。皆がねらう場所とは違った地点に立ってキャストするだけでも、魚に警戒心を持たせずに釣りやすくなる場合もあると思います」

genryu-01+ 山岳地帯ではこんな落ち込みだらけの流れが多い。迷うことなくテンポよく探っていきたい


また、魚に少しでもプレッシャーを与えないためにフォルスキャストは極力少なくしているという。ポイントに近づいた状態でメジャーリングしながらラインを伸ばせば、ポイントの上をフライラインが通過していることになり、これも気づかぬうちに釣れる魚を減らしてしまっている原因。

これは目の前のポイントだけにいえることではない。落差のある渓でも、最低限2つ3つ先のポイントも見ていれば、立つ位置やねらい方など、あらかじめ魚に気づかれずに行動しやすくなる。

また、せり出した岩からの落ち込みで、その裏にさらに水面がある場合はぜひねらってみたい。こんな場所こそエサでもルアーでも探れないポイント。直接プレゼンテーションしようとはせずに、脇にできている反転流にフライを乗せて、ラインを送りながら落ち込みの裏に流し込んでいくように探ると反応を得やすい。

そんな加藤さんは山岳渓流といえども長めのリーダーシステムを使用。基本的には12フィートのリーダー(4X)にティペットを1段階ずつ細くしながら6フィート(5X)、2フィート(6X)を結び、全長20フィートで使用している。

不要なフライラインを出さず釣るリーダーフィッシングを多用する加藤さんだが、これはリーダーだけでもしっかりとターンさせ、ティペットだけでもしっかりと弛みをコントロールするためのシステム。このため、使うフライは投射性が第一。特にエルクヘアなどシンセティック素材に比べて多少重めの素材を使用したパターンが扱いやすく、リーダーだけを使った小さなストロークでもピンポイントにフライを打ち込みやすいのだ。もちろん20フィートの全長は大場所でもその長所を充分に発揮してくれる。
genryu-05 天竜川水系の支流でヒットしたアマゴ。落ち込みの下のヒラキに付いているかと思いきや、水が落ちている最奥のポイントから飛び出て来た

滝壺はここに注目!

渓を歩いていて大ものが付いていそうな滝壺を見かけることは多いが、ドライフライでねらう場合は、その形状に注意しなければならない。水が落ちている最も水深のある部分はもちろん確実に魚が入っている場所ではあるが、ドライフライのポイントとしては向いていないと加藤さんは話す。なぜならそんな場所に付いている魚はあまり水面を意識していないことが多いから。

逆に魚が表層の流下物を意識している場合は、その下流にあるカケアガリやヒラキに定位していることがほとんど。そういった理由から滝下の流れが緩やかになっていなかったり、深い落ち込みからすぐ下流に落ち込みができていたりするような場所では、フィーディングレーンも短く、魚がドライフライには反応しにくい。そのため滝下にヒラキ、カケアガリなどが形成されていないようなところでは、そこからさらに一段下ったところにある浅い流れに注目したい。表層のエサを食べたい魚であれば、深みから抜け出してむしろこういった流れに出てきているはずだ。

滝を見つけたら、その雰囲気から思わず近寄ってみたくなるが、本当においしいのはその下の流れ。特に表層で勝負したいなら、手前の流れこそ慎重に探ってみたい。

2017/7/18

最新号 2017年12月号 Fall

特集は「川を読む」。秋田県の役内川を例に、まさに「ここに尺ヤマメがいた」というポイントをピックアップ。流れのようす、底石の入り方、水面の波立ちぐあいなどなど、良型が付く場所の特徴を解説します。 また伝説的ともいうべきリールの名品「ボンホフ」と、その製法を忠実に踏襲しようと試みた男の物語を収録。道具に対する釣り人の情熱と愛を感じる内容です。 そのほか、イワナが浮いてフライをくわえる瞬間までばっちり見えるような源流釣行、北海道のアメマス事情、またキューバやオーストラリアのソルトゲームなども掲載。渓流オフシーズンの今だからこそ、じっくり読みたい一冊です。
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