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渚の一喜一憂

三重県・七里御浜でナブラを追いかける

宮川敏彦=文/鈴木寿=写真
ナブラと平行して移動する。手返しのよいタックルがものを言う

サーフからねらう冬の青もの。ナブラが起きればお祭り状態だが、ベイトの回遊がなければひたすら沈黙……。波の高さや釣果情報などを頼りに、「今日は必ず!」と渚へ繰り出すフライフィッシャーがいる。
この記事は2012年2月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
宮川 敏彦(みやがわ・としひこ)
1965年生まれ。愛知県名古屋市在住。中学生の頃に管理釣り場でフライフィッシングと出会い、渓流、本流、ソルト、とジャンルを問わずに旬の釣りを追いかけている。最近では11~12月になると、長時間の運転も厭わず、サーフからのフライフィッシングの可能性を開拓中。

砂浜というフライフィッシング・フィールド

「サーフから青ものがねらえる所があるらしい」。そんな噂を聞いたのはそれから少し経った頃だった。各地の情報が集まるにつれ分かってきたこと。それは日本海、太平洋を問わず外洋に近接したサーフでは青ものが接岸するタイミングがあり、その時期には釣果も上がっていること。ただ、その大半はルアーフィッシングでの話だった。

とはいえ、ここまで聞いて黙っていられる性分でもなく、どうしてもフライで釣ってみたくなった。中でも最も有力だったのが三重県最南端に位置する七里御浜。熊野灘に面するこの浜は、日本の渚百選にも数えられる全長20㎞を超える玉砂利の美浜だ。
朝焼けの渚でキャストを繰り返す。朝イチが勝負の釣りだけに、日の出前から気合が入る

修験の地であることを強く感じるこの地域では、海も山もその姿をもって我々を圧倒して止まない。ナブラはキャストの射程距離を保ったまま移動している。過去には秒読みするほどの間に消えてしまったこともあった。

そんな不安が過った次の瞬間、目の前の水面が弾けた。波頭の向こうで逃げ惑うベイトたちを追って飛沫が交錯する光景は刺激的。タイミングを見計らってピックアップ、バックキャスト、シュートを繰り返す。着水はナブラ脇のベストポジション。
波打ち際まで青ものの群れに追われたベイトのイワシ。この小魚がターゲットの回遊のカギを握っているといっても過言ではない

フライとラインが馴染むのを待ってから一気にツーハンド・リトリーブを始める。寄せ波で緩みかけるテンションを維持するように高速でリトリーブすると、ロッドティップから伝わるテンションが不自然に変化する。反射的にロッドを煽って合わせると、大きく曲がったロッドから伸びたラインは波の懐へ引き込まれていく。
ナブラの主が時にはこんな魚であることも。メッキは果敢にフライにアタックしてくるので、これはこれでまた面白い

水面よりも水中をねらう

青ものねらいでは回遊の有無がキモだ。シーンは10〜12月にかけてが中心。この時期が近づくと情報収集は欠かせない。大雑把なところでは夕方のニュースなどにある”豊漁”の報道がよい例。

「あぁ、あっち方面はそろそろかなぁ〜」といった情報からこちらのスイッチも入る。近隣の釣果情報をインターネットで検索するのも手の抜けない作業だ。そして、目星を付けたサーフへ向かう前には必ず気象予報のチェックで、特に大切なのは波高の予報である。

周りはルアー釣りファンばかりで、メタルジグを遠投するその間に立って、大波を前に茫然となる。これでは二度と来たくない気持ちになっても仕方ない。広大なサーフという圧倒的に不利な条件下なだけに、少しでも有利な状況を選択するのが釣果への近道となる。
渚を釣る場合にはラインスラックが入りやすいため、ひたすらリトリーブしてフライを動かさねばならない。手返しのよいキャストが一瞬のチャンスをとらえる

ナブラの位置は、寄ったとしても波頭の際までという場合が多く、これが曲者。ほとんどのサーフでは、釣りにならない波打ち際の距離が非常に長いのだ。30mキャストしても波頭ぎりぎりの距離という場所が多く、波が大きくなれば当然その距離も伸びていく。

事前に波浪予報をしっかりチェックするのはそんな理由から。釣りが可能なのは静穏から1.5mくらいまでだろう。うねりがある日もあまり適していない。
回遊がなければ釣りにならないのも青ものねらい。そんな時はおとなしく昼寝でもするのが一番……

ナブラをとらえるタックルシステム

ロッドは12〜13フィート#8のツーハンドが最適。飛距離を犠牲にしない程度の長さが望ましい。時にはナブラを追って走り回ることもあるので、長過ぎ、重過ぎは機動力を落としてしまうことになる。

ラインはシューティングヘッドのインターミディエイトを使用。私の場合リオ社のアウトバンドショートWF-10を使用しており、接合部のストレスがなく、キャスト時の手返しのよさも重宝している。

ナブラをねらう場面でフォルスキャストの数が増えるのは命取り。どれだけ素早くその場所へフライを送り込めるかで結果が決まるのだ。ベイトが散れば当然チェイスしていた魚たちも潜ってしまう。

リーダーはフロロカーボンのティペット0X。フライはサーフキャンディーやクラウザーミノーなどの#2〜4を使用する。ベイトフィッシュとなるトウゴロウイワシに合せて全長10㎝前後で用意している。ここでフライに問われる機能は、沈下性、ウイングの絡み難さ、そして耐久性。慌ただしいナブラに翻弄される状況ではフライも酷使される。
マッチング・ザ・ベイト。10cm前後のイワシを模したフライ。素早くキャストでき、速く沈み、高速でリトリーブしてトラブルの少ないのが条件

フライは着水後高速でリトリーブ!

キャストする位置は進行してくるナブラ前方のやや奥。水面に反応があると、どうしても着水直後から速引きしたくなるのが心理だが、焦りは禁物。実際のチェイスはベイトの泳ぐ下層で起こっている場合が多く、逃げようとしたベイトを追って最終的に水面を割る。

これが我々の目に映る光景となっていると解釈できる。つまり、二呼吸ほどの間合いを取ってフライとラインを沈める作業が必要となるわけである。

リトリーブは両手で目一杯速く。潮、波、風とラインにスラックが入る要素の多いサーフという環境では、リトリーブは相当忙しい動作になる。これは友人のエピソードだが、高速ツーハンド・リトリーブを後ろで見ていた人から「そんな所でなに太鼓を叩いているんだ?」と言われたとか……。

いよいよ、数回の突っ走りをかわしてランディング! 魚体は寄せ波に乗せて引き寄せ、引き波で波打ち際に残すのがコツ。しかし分かっていてもタイミングを取るのは難しいものである。ためらいながらでは上手くいかないので、やや強引に寄せると足もとにはグリーンバックのきれいなツバス(ブリの幼魚)が横たわった。
まさに「青もの」といったつややかな魚体。キャスティングレンジ内の水面をかきまわしながら回遊するさまを目のあたりにする時は、この釣りで最も高揚する瞬間

しかし喜びも束の間、フライをチェックして即座に次のキャストへ移る。高速でリトリーブ、すぐに押さえ込まれるロッドティップ。

もし回遊に当たれば、こんなことが自分の周囲至る所で繰り広げられる。しかしその逆が多いのも事実。そんな状況にこの釣りを〝ギャンブル〞と称す所以があるのだろう。私自身3年目での初コンタクトで、シーズンを重ねるごとに少しずつ見えてきた部分もある。

さらに突き詰めてゆけば、釣れる確率はもっと高くなる、今はそんな確信も持っている。ギャンブルの一言では済まない、自然の中に隠されたキーがきっとあるはずだ。そして何より週末が待ち遠しくなる場所がまた一つ増えたのは嬉しい悲鳴。オフシーズンにはサーフでナブラをねらって一喜一憂してみるのも悪くない。

2018/11/15

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