松本利幸さんの宮古島フライ
2023年1月20日発売のFlyFisher MAGAZINE早春号p.034-39にて紹介されているパターンの補足写真です。
松本利幸=解説
松本さんのメインボックス群
こちらはストック用
ミナミクロダイとトレバリー用のフライ
―― まずは、フライパターン全体についてお聞かせください。
松本 オニヒラアジとミナミクロダイに関しては、フックサイズでいうと、一番使っているのは管付伊勢尼の10号です。あと、がまかつボーンフィッシュの4番と6番、それにがまかつのSC15の4番と6番。フライの全長は4~5cmが多いのでしょうか。
宮古島のミナミンクロダイは全体的にサイズが大きい印象。口元には黒いフライが
―― まずミナミクロダイに関してはいかがですか。
松本 全部ではないですが、トレバリーと共通でも釣れるものはありますね。色はタン系と、あとはオリーブ系、黒系のクラブともシュリンプともとれるような、ちょっとあいまいなシルエットのパターンが多いですかね。ボディーを少しバルキーにしてよく動くテイル材と、ラバーレッグをお好みでちょっと付けて。アイはだいたい軽いものが中心です。水深の浅いところが多いので。膝くらいの水深になると、ちょっと重めの32分の5オンス。8分の1オンスとか、そのくらいのを使いますけれど、それ以外はほとんどボールチェーンの3mmくらいの小さいものを使っています。重さだとだいたい0.17gくらいですかね。
―― そういえば、アイの重さは実際に測っていらっしゃるのですよね。
松本 はい。同じサイズ表記でも素材やデザインによって重さが違いますから。
―― クロダイに特化するとどういうタイプを使われるのですか。
松本 そうですね、テイルにラビットファーやスードゥーヘアとか、ちょっと柔らかい素材のものを付けて、ラバーレッグを後ろに4本くらいチョンチョンと出したところに、エンリコのブラシです。よく使うのがタランチュラ。細いゴムが入ったやつですね。UV素材のブラシ。それを結構好んで使っています。楽にきれいに均一に巻けるので。それを、グルグルグルッと巻いたら、下側をカットして必ずきれいにキールになるように体裁を整えて。
「チンボカディージョ」。ボカディージョとはスペイン風のサンドイッチのこと
「チンボカディージョ」のカラーバリエーション
松本 で、必ずウイードガードを取り付けます。フロロの10号を使っていますけれど。
―― 10号。太いですね。
松本 結構太いと思われるかもしれません。魚をかけるにはたぶん細いほうがいいと思うのですが、ただ、魚が追っている最中にスタックするのがとても嫌で。それを避けるほうを逆に優先しているくらいで。かかるときは、もう小さいメッキでも、10号のフロロでもかかりますから。
これくらいのサイズのトレバリーでもしっかりとフッキング
黒も多用する
―― では、トレバリー用のフライに関してはいかがですか。
松本 もちろんミナミクロダイにも使うことがあるのですけれど、オニヒラアジが浅瀬にさしてくるときに意識しているのは、小魚も食べているし、カニ類もどちらも食べているということなのですが、特に反応がいいのが黒っぽいフライなんです。多分ですね、フトユビシャコという、大きいシャコが結構いるんですね。あれは褐色から緑から黒からいろんな色のがいるんですけれど、黒は目立つだろうというところで黒を使ったら、やっぱり反応がいいですね。もちろんタンのような色でも釣れるんですけれど、黒だと発見してくれやすいというのもあって。パイロット的に黒を使うことが多いですね。
フラットで捕獲したフトユビシャコ。さまざまな色が見られるが、これは黒い個体
上のフトユビシャコをリリース。水中ではこのように見える
―― サイズとしては……。
松本 7~8cmあるようなシャコを意識した大きさです。で、さらにシャコのキビキビした動きを演出するために、アイは結構重めを使っています。0.35gくらい。あれはサイズはいくつくらいになるのかな。多分、32分の5よりも全然重たいですね。
―― ちなみにゴマモンガラ用フライはどうですか。
松本 ゴマモンガラは、まだ実績が少ないので、まだ模索中なんです。でもほじっているところを観察するとクラブ系がいいんじゃないかと思っています。でも黒い、トレバリーに使っていたフライも食いましたし。うまいタイミングでいいところに入れば、そんなにパターンを選ばないのかもしれないなとは感じています。
ゴマモンガラのテイリングにも遭遇したが、残念ながら手にすることはできず
MMYクラブ
―― 名前の由来は……。
松本 宮古空港のコードですね(笑)。MMY。
―― これはクロダイ用ですか。
松本 はい
―― テイルに縞模様が入っていますが、効果はいかがですか?
松本 まあ……、見た目重視というところはありますね。どこまで魚に効いているかというのはちょっと、私にも(笑)
―― 黄色いテイルのものがありますね。
松本 クロダイの研究をしている方がいて、いろんな色にオキアミを染めて、食い方を見たと。そうしたら黄色が一番よかったっていう論文があるんです。それで黄色はいいんじゃないかって、結構使ってみたんですけれど、黄色だから釣れたのか、薄っぽいタンに近い色だから釣れたのかというのはちょっと、はっきりとはわからないです。でも実際よく釣れるので、この色を使っていますね。あとは定番のオリーブと黒も使っています。
「MMYクラブ」の黄色バージョン
―― アイは黒いですね。
松本 そうですね。ヒカリモノを入れたことで嫌われることもあるかなって。実際はそれが駄目なのかいいのか断言はできないんですけれど、でも光沢のないものを使っておけば、とりあえず無難なのかな、と考えています。
―― フックは管付伊勢尼ですか?
松本 やっぱり伊勢尼は丈夫なので、トレバリーでも安心してやり取りできます。ヒネリをまっすぐに戻して使っています。フライらしさもありますけれど、やはりバランスを崩しにくいと思います。
ズミクラブ
―― ズミクラブ、これはツメが特徴的ですね。「ズミ」ってこの辺りの言葉で「最高」という意味だそうですね。
松本 はい(笑)。カニツメ、ツメをうしろに大きく長く伸ばして、ザーッと泳ぐカニってすごいたくさんいるんですね。真っ白なやつから褐色、茶色、緑、黒っぽいのまで。結構なスピードでサーッと泳いでいくんですよね。ミナミクロダイも、オニヒラアジも相当食っているようです。
―― ツメが一般的なものより長い気が……。ツメは自作ですか?
松本 ええ。ここを長くしたのは、強調するためというのはありますね。動きがよく出て。でも実際のカニのバランス的にも、シルエットとしても、こんなイメージで泳いでいますね。観察しているカニの種類が違うこともあるかもしれませんが。でも、ベイトフィッシュが、バーッと逃げた時にこれを早引きしたら、やっぱり釣れましたので(笑)。それが60cmオーバーのオニヒラでした。あと、一応絡みにくくするために根本はUVで固めています。
片手をひらひらさせてカニが逃げる!
ガラウオーヘッド&クイチャーマンティス
「ガラウオーヘッド」は黒のみ
―― これは黒一択なんですか。
松本 黒一択ですね。ボディーのちょっとバルキーさで水押しを強く出して、アイをちょっとうしろに付けています。これは根がかりを避けるためで、アイを先端に付けると、やっぱりちょっと根がかりしやすくなるんですけれど、ここに付けることによって、引っ張った時にサッと浮き上がるので根がかりしづらいんです。
―― なるほど。かといって、全部そうはしないんですね。
松本 そうですね。たとえばこの、クイチャーマンティスなんかはアイをできるだけ重くして、上下動の激しい、キビキビした動きを演出したいので。
「クイチャーマンティス」も黒を多用
「クイチャーマンティス」別カラーバージョン
―― これは何用なんでしたっけ。
松本 クロダイとトレバリー両方ですね。これは本当、いろんなのが釣れていまして。今まで釣ったやつは、オニヒラアジ、ミナミクロダイは当然なんですけれど、GT、それからムネアカクチビ、ゴマモンガラ、マトフエダイですとか。
―― このフライもメインは黒いですね。
松本 理由は、やっぱりアトラクター的要素と、あと、さっき言ったフトユビシャコを意識しているであろうシャローフラットの魚にアピールする感じですね。あとはやっぱり魚に対して、遠くからでも目立つのだと思います。逆に、黒いフライをサーッと見に来て、バーッともう驚いたように逃げ帰るやつがたまにいるんですが(笑)。そういったときは、もうまるっきり反対色の薄い色に。タンとか薄めのオリーブとか、ナチュラル系の色に替えますね。
―― ちなみにクイチャーとはどういう意味ですか?
松本 宮古の踊りです。沖縄本島にあるエイサーと同じような。踊るように魚を誘う。
―― これは新旧あるのですね。
松本 そうですね。新しいほうは、より、作り込んだ感じですね。この、体の真ん中ほどにね、本物はちょっとオレンジ色が見えたりするんですよ。それがあるからどうだということではないんですけれど、よりリアルな。旧タイプはもっとファジーな感じですね。テイルはEPファイバーですが、先端をバッサリ縦に切っているのも、シャコの形っぽくしてあります。でもちょっとかっこ悪いので新しいほうはシュッとさせてあります(笑)。
こちらが旧型の「クイチャーマンティス」
―― なるほど(笑)。さきほど軽く水押し、とおっしゃいましたけれど、やっぱりそれは意識されている。
松本 していますね。淡水やっているころから、「水押しって重要なんじゃないかな」と思って。ルアーでもそうですけれど。フライの不利さって、やっぱり水押しの弱さかなと感じることはありましたね。ルアーに圧倒的な釣果を見せつけられたときなんかは。常に水押しが必要なのかどうかというと、そうでもないとは思うのですけれど。ただあまりバルキーにしても、しっかり刈り込まないと浮いちゃうことがあるので。
クリムゾンアイ・スライダー&ペリドットアイ・スライダー
「クリムゾンアイ・スライダー」
「ペリドットアイ・スライダー」
―― これもシャコを意識しているのでしょうか?
松本 シャコも意識しつつ、引き方によってはエビカニにも見えるように。これはEPファイバーをマジックツールでまとめて、ダビングループに入れてボディーを巻いています。
―― このアイは?
松本 アイは自作です。レイドザップを使っています。最初に丸く固めて、こアイの先端もちょっと1回黒く塗って、もう1回レイドザップを垂らして。目玉も、黒目も入れるようにしています。
―― アイは気分ですか。
松本 はい(笑)。正直、魚を釣るだけだったらいらないかもしれません。でもあったほうが釣り人の気分が上がりますし……。でも、アイがあったほうが釣れるような気がするときも、やっぱりあります。
MSCソルト
全方位をカバーする「MSCソルト」
―― このMSCソルト。ネーミングが秀逸ですね。
松本 Mはミノー、Sはシュリンプ、Cはクラブです(笑)。リトリーブの方法によって演出を変えています。
―― いろんな引っ張り方で、MにもSにもCにも見えるという(笑)。
松本 フラットを歩いていて、これを付けて投げるときというのは、ミノーイーターのトレバリーが入ってくる可能性がありそうな場合です。
―― それは結構頻繁にあるような……。
松本 パパパーッと小魚が散っているのを頻繁に見るときは、これを付けておいて。で、通常、クロダイとかをねらいながら、そういう場面に来たら速引きで対応できるように。
―― タックルは2本持ったりしないんですか。
松本 します。2本持つときは、だいたい7番か8番を手で持って、10番を背中に。10番にはデカいミノーかポッパー。それはやっぱりGT対応ですね。でも10番に持ち替えて歩いていると、大抵、GTは現れない(笑)。
―― だけど、こちらが目撃してから持ち替えるのでは遅いですしね。
松本 だから、ガイドのときはいいんですよ。お客様の高番手のサオを僕が持って。で、現れたら、こっちでもうラインを出しておいてパッて渡せるので。だからいいサイズのGTは自分で釣るより、お客様に釣っていただくほうが、もしかしたら早いかなと思っています。
FlyFisher2023年3月号 Early Spring
【特集1】南の島のフラットフィッシング
【特集2】水生昆虫小宇宙2023(おもに)メイフライ編
ここ数年、急速に広がっている日本のフラットフィッシング。 南のフィールドが開拓され、これまでメジャーだったクロダイとトレバリーに加えて、さまざまな対象魚が注目されています。 フィッシングガイドの数が増加していることも、この釣りをさらに楽しみやすくしてくれています。 まだまだ試行錯誤が続きますが、今号では、現時点でのメソッドやフライパターンなども紹介します。 また、「水生昆虫小宇宙2023」として水生昆虫研究家/写真家の刈田敏三さんによる解禁当初に注目すべきメイフライを解説していただいています。刈田さんがこれまでずっと提言しているように、私たちが見るべきは「ハッチ」ではなく「ドリフター」です。これらの虫がどのような形態で流下してくるかのサンプル写真が並びます。 さらに、さりげな添えられた刈田さんのフライパターンは長年研究を重ねてきた年輪とすごみが感じられます。
2023/2/9