マテリアル量で考える、フライの浮き方
食い渋る魚ほど、ドレッシングに注意
鈴木寿=解説
プレッシャーの高い川で魚がフライを食い渋る時、その浮き方を見ている場合も多い。同じ形状のフライでも、パーツに変化を付けることによって魚の反応は変わってくる。マテリアルの量で調整する、より魚に違和感を与えないフライの作り方。
この記事は2015年12月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
鈴木 寿(すずき・ひさし)
1958年生まれ。愛知県名古屋市でプ口ショップ「ワチェッ卜」を営む。インストラクターとしてキャスティングスクールの講師を務めるかたわら、春は長良川、夏は山岳渓流のイワナねらいに足繁く通っている。
●ワチェット watchett.net
鈴木 寿(すずき・ひさし)
1958年生まれ。愛知県名古屋市でプ口ショップ「ワチェッ卜」を営む。インストラクターとしてキャスティングスクールの講師を務めるかたわら、春は長良川、夏は山岳渓流のイワナねらいに足繁く通っている。
●ワチェット watchett.net
注目するのは自然な浮かび方
Uターンされたり無視されたり……普段使っているフライの反応がいまひとつ悪い場合、入渓者の多い川で魚がスレている場合、鈴木寿さんはフライの浮き方に注目するようにしている。特にメイフライなどの水生昆虫は、風船などのように、不自然にぽっかりと水に浮くことはない。水面上にある場合は、水面に張り付くような、繊細な浮き方をしていることが多い。そういった点に注目してみれば、警戒心の強い魚たちは、フライの浮かび方に敏感なのではないかと考えている。
実際、定位している良型の渓魚を見つけた時、フォームを使ったパターンや、ハックルを分厚く巻いて空気を抱かせたパターンなどでは反応が悪かったこともしばしば。
それらのパターンはやはり本物の虫に比べて不自然に浮かんでいるせいか、ドレッシングの薄い繊細なパターンに結び替えてみると、素直に反応してくることも珍しくなかったという。

もちろん、フライがドラッグフリーでちゃんと流れていることが大前提になる。春先のライズフィッシングでCDCが有効になるのも、こういった理由が大きいと鈴木さんは話す。魚にとってストレスなくフライが浮かんでいること。それが気難しい魚を手にするためのフライパターンに欠かせない要素であるという。
最小限のボリュームで浮かせる
では、魚が違和感を覚えないフライとは、どのようなものなのだろうか。「まず、フライが浮かんで流れてくるだけの最小限のボリューム(マテリアル量)であるということです。もちろんこれには、視認性を保って、流れに揉まれにくいという条件も含まれます。そのため、フラットな水面であれば思い切って薄いドレッシングのパターン、ラフな流れであれば、そこでぎりぎり沈まないだけのマテリアルを留めたフライを使います」

魚がフライを吟味しているような場面では、瀬であれ、プールであれ、それぞれの場所でぎりぎり浮かぶだけの「状況に見合った最低限のボリューム感を持ったフライ」が効果的になる。もちろんフロータント剤は使用するが、鈴木さんはジェルや粉末タイプよりも軽い状態を保てるというスプレータイプを軽く吹き付けるようにしているという。
そのため、フライボックスにはドレッシングの量を変えた複数のタイプを用意しているが、フライサイズはその時ハッチしている虫に合わせるという基本は忠実に守っている。
この時注意したいのは、フックサイズとフライサイズは同じではないということ。それまで使っていたフライで反応がなければ、ボリュームを抑えてよりナチュラルに浮いてくれるパターンを選択するが、より軽くするためにフックサイズも小さいもの、細軸のものを用意しておくこともあるという。
この時もフライサイズは虫に合わせる必要があるため、たとえば#14から#16にフックサイズを下げても、マテリアルの量は#14のままにする。これにより、同じフライサイズでも、その場面でより効果的な見せ方ができるのだ。
もちろん、魚の活性が高く、テンポの速いブラインドフィッシングであれば、メンテナンスも少ない、よく浮きよく見えるフライが使いやすいが、ここぞという場所、相手には無駄なマテリアルを排したパターンを使いたい。
ボリュームはハックルとウイングで調整
鈴木さんが普段の釣りで、警戒心の強い魚に対して結ぶことが多いというのが、ソフティー・ダン。薄めのヘンハックルと控えめに留めたCDCで浮力を保っているので、より実際のダンに近い繊細な浮き方をさせることができる。もちろん、かなりライトなドレッシングなので、比較的フラットな流れに向いている。
●フック……TMC112Y #13
●スレッド……8/0オリーブ
●テイル……レモン・ウッドダック
●ボディー……グースバイオット・サルファー
●ハックル……ヘンハックル・サンディーダン
●ウイング……CDCフェザー・ライトカーキ
ハックル、ウイングともに薄めのドレッシング・パターン。フラットな水面向きで、より本物の虫のように浮かぶことをイメージして巻いている。警戒心の強い相手にも実績があり、より繊細な場面に適した仕様
一方、同じ形状のダンパターンでもラフな水面では、ヘアウイング・ダンを使用している。こちらは、若干ハックル量を増やし、CDCの上にディアヘアを乗せている。このディアはブリーチカラーを使うことにより視認性も確保。
ヘアウイング・ダンで釣り上がっていて見切る魚が出てきた場合に、ソフティー・ダンに替えて反応を得たことも多いという。このように、ポイントやプレッシャーに適したボリュームを使い分けて魚の反応を探っているが、基本的にボリュームはウイングの量(素材)とハックルで調整している。

●フック……TMC112Y #13
●スレッド……8/0 オリーブ
●テイル……コックハックル・ダークダン
●ボディー……グースバイオット・オリーブ
●ハックル……コックネック・グリズリーダイドオリーブ
●アンダーウイング……CDCフェザー・ダークダン
●オーバーウイング……コースタルディア・ブリーチ
ブラインドフィッシングでも使いやすい、ヘアウイング仕様。CDCのみのウイングに比べて浮力があり、水切れがよいので、狭い河川のテンポのよい釣りにも便利。これでダメな時は、ソフティー・ダンを結ぶ
ここで紹介しているフライは、その水面での姿勢も重要なので、ハックルは若干左右に分けるように巻き、フライの姿勢を保つスタビライザー的な役割も持たせている。
ちなみに、ウイングにディアヘアを用いる場合は、より高い浮力を確保したい場面だけではない。ディアヘアはCDCよりもマテリアルの水切れがよい。
そのためバックスペースの取れない渓流や、木々に覆われた狭い流れなどでは、充分なフォルスキャストをしてフライの水気を切ることができないため、少量のヘアウイングを用いたパターンのほうが扱いやすいのだ。
このように、同じダンを模したパターンでも、そのボリュームや素材を少しだけ変化させることによって、ここぞという場面にも対応できるフライを作ることができる。
2018/6/11