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【ケイムラ】エサ生物と紫外線の関係性

UVマテリアルについて大手釣りエサメーカーで研究開発をしている方に聞いた

長岡寛= 解説 佐々木岳大= 取材協力 編集部= 文と写真

UVマテリアル自体が発光するわけではない

フライではここ数年でUV効果をうたったマテリアルが増えており、ブラックライトを当てると、どれも青白く光ります。これは何でできているのでしょう。

「フライではUVマテリアルと呼ぶのですね。同じように青白く光る素材や塗料のことをエサ釣りやルアーでは、ケイムラと呼んでいます。ケイムラとは蛍光紫を略したネーミングで、ブラックライトを照射すると青白く光る加工がされたもの、代表的なものではサビキ仕掛けやルアーのジグに多く見られます。 このケイムラがいったい何かというと、蛍光顔料もしくは蛍光染料の一種です(顔料とは塗料やインクの原料。似たものに染料があるが、顔料が表面に付着して着色するのに対し、染料は内部に浸透して着色する)。この蛍光顔料を素材に混ぜ込むことで、その素材でできた製品が青白く光って見えるようになります」

 

flyfisher photo

 

光って見えるというのは?

「蛍光顔料には、照射された光とは異なる波長の光を反射する特徴があります。ですので、それ自体が青白く光って見えますが、実際には反射した光を見ているわけです。蛍光顔料は何も特殊なものではなく、一般的に白い衣料に用いられる染料には、蛍光増白剤(蛍光剤とも呼ぶ。白さが際立って見える)が使われています。白いTシャツにブラックライトを当てると、青白く光って見えるのはそのためです。この蛍光増白剤は衣類だけでなく、さまざまな製品に使われています。釣り具においても蛍光増白剤を使った素材はもちろん、切り身やオキアミを漬け込むことで、ブラックライトに反応するエサになります。私が蛍光顔料と釣りの関係性について初めて知ったのは、今から30年以上前。横浜にあるビッグサオトメという沖釣りのサオ・仕掛け工房の早乙女浩二さんから「ある漂白剤でサバの切り身やイカヅノを漬け込むとすごく釣れる」という話を聞きました。その漂白剤は今はもう売っていないのですが、当時私も試してみて確かに釣果に差が出ると感じました」

 

ペンやシールでよく目にする蛍光グリーンや蛍光オレンジとは違うのでしょうか。

「基本的には同じですが、その前に蛍光の原理についてお話ししましょう。まず光が物体に当たると反射します。その反射の具合で表面にツヤがあるように見えたり、逆に光を吸収して暗く見えたりします。蛍光というのは、当たった光と異なる波長の光を反射する特徴があるのです。簡単にいうと青い光が当たっているのに、緑色の光を反射していれば蛍光になります。蛍光グリーンや蛍光オレンジは通常の同じ色よりも浮き上がって見えるでしょう。つまり反射した光の波長が変わっているのです。人間が見える光線の波長は、およそ380~780nm(ナノメートル)の範囲です。可視光線の範囲内では紫が一番波長が短かく、赤が一番長い。もちろんこの範囲外の波長の光があって、それを反射している光もたくさんある。つまり、人間が感知できない紫外線の境界付近の光を可視化できるというのが、蛍光の本質です」

 

それが魚が釣れる釣れないという話と、どう関係するのでしょう。

「見えないものが見える例をあげると、ブラックライトを身の回りのものに照射すると、蛍光顔料を含んでいるものが青白く反射します(光って見える)。たとえば可視光線の範囲で白く見えている壁があったとします。その壁に同色の蛍光塗料を塗った小さな丸いシールを貼り、壁から3mほど離れるとどこにシールがあるかは分かりにくくなりますよね。貼った本人以外はシールがあることすら気づかないかもしれません。しかし、ブラックライトを照射すると小さな丸いシールだけが、波長の異なる光を反射するので見つけやすくなります。実は自然界にも蛍光物質は存在していて、代表的なものは甲殻類や節足動物の外骨格や外皮に含まれるキチン質という物質は、硬い構造をしているため、そのなかに含まれている蛍光物質を反射しやすいと考えられます。カニやエビを捕食している魚からすれば、食べ物を見つける際に、何かしらの手がかりにしていても不思議ではありません。またビタミンB群に含まれるリボフラビンも蛍光的な作用をすることが知られています。ちなみにリボフラビンは昔から養殖魚の飼料として用いられており、養殖ゴイの飼料にリボフラビンを添加すると、食いがよくなったという研究結果がいくつも報告されています。キチン質とリボフラビンがどのような経緯で含まれるようになったかは定かではありませんが、結果として、異なる波長の光を反射するのは事実です。ここまでの話を整理すると、自然界にある蛍光作用のある物質として、よく知られるのははキチン質やビタミンBの一種であるリボフラビンなど。人工的に作り出したものが蛍光顔料および、それを含んだ塗料や染料ということになります。そして、我々が気になるのは魚が蛍光物質の反射光を感知しているかどうかですよね。自然界においてブラックライトに相当する光線は紫外線です。そして紫外線の反射光によって模様が浮き出たり、保護色になったりするのかもしれません。これについては次にお話しします」

 

flyfisher photo

明るい場所から暗い場所にあるものを見ようとすると、あまりよく見えない。逆に暗い場所から明るい場所にあるものはよく見える。これは明暗の差に影響されるからで、水中においても同じと考えられる

 

 

昔から魚は光るものを好む?

「少し話が変わりますが、蛍光と混同されやすい蓄光についても解説しておきましょう。文字どおり、光を蓄えて発光するのが蓄光です。蛍光は光の反射のみで、発光しません。どちらも古くから釣り具に多く用いられていて、光るものが釣果に影響を与えるというのは、たくさんの釣り人によって導き出されたひとつの答えでしょう。ここでようやくですが、魚釣りでなぜ光るといいのかという問いにお答えすると、視覚に訴えやすいからだと私は考えています。たとえば我々が外出時に食事をしようと考えたとき、まわりを見回してレストランやファストフードの看板を見つけると、あそこに行けば食事ができると知っています。もしくはクルマに乗っていて、コンビニやスーパーの看板を見たら、たとえそれが数百m先であっても、あそこには食料品があるとすぐに連想できるでしょう。つまり視覚から情報を得ているわけです。もちろん嗅覚によっても食料を探すことはできますが、視覚と比べるとかなり限定的になってしまいます。魚においても同じことがいえるのです。渓流を例にとると視覚でエサを見つける頻度が大変高いです。もちろん渓流魚にも嗅覚はありますが、匂いでエサを感知するよりも目で見たほうが効率がよいのでしょう。流速が1秒間で30cmというような世界ですから、匂いを感じているヒマがないというべきでしょう。また主食になる昆虫類は小さく動きが速いものが多いのも、視覚で追う理由になります。蛍光というのは、反射する光の波長を変化させるものなので、視覚で追う性質がある魚からすれば、目につきすいのかもしれません」

 

 

flyfisher photo

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魚の色覚についてのお話になりますね。

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2024/6/13

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