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迷わないブラインドフィッシング

あいつが釣れなかった理由06

加藤 俊寿=文、FlyFisher編集部=写真
1つのポイントの中でも虫のハッチやエサの流下などで、その日最も大きい魚の付いている地点は変わってくるが、もちろん意外な場所から魚が飛び出してくることもしばしば。ここぞという場所では、たとえミスキャストでも、一応流し切ってみたり、乱暴なピックアップを避けたりなどの配慮が必要だ

《Profile》
加藤 俊寿(かとう・としずみ)1966年生まれ。静岡県袋井市在住。中央、南アルプス周辺の木曽川、天竜川水系の釣り場に詳しく、源流域のヤマトイワナをねらった釣りも好む。特に効率よくポイントを探りながら釣り上がるブラインドフィッシングの釣りが得意
この記事は2014年12月号に掲載されたものを再編集しています。

季節、天候、時間帯などによって魚の付き場は変わってくるが、それでも1投ごとに確信を込めてフライを流したい。予想外の展開に戸惑わないよう、常に先を読んだ行動が明暗を分けることも・・・・・・

慣れている場所だからこそ・・・・・・

 毎日、好きなだけ釣りができたらどんなに幸せだろう。しかし現実はそうもいかず、家族サービスの合間に、少しだけでもサオを出せないか・・・・・・などと頭を悩ませることもしばしばだ。

 GW明けの5月7日、家族サービスの日。毎度のように分刻みのスケジュールで釣行時間を捻出したが、予定していた2時間の釣りは、予定が長引いて1時間となってしまった。そのため、いつもは2時間ほどかけて探る区間を半分の時間で釣り上がることにする。戻る距離を考えれば、サオが振れる時間は正味50分といったところか。

 つまずくようにウエーディングシューズを履き、ロッドにラインを通しながら作戦を練る。通い慣れた南アルプスの渓だけに魚の付き場所は把握しているつもりだ(これが仇となった・・・・・・)。リーダーにティペットを結び、ボックスからフライを取り出そうとしたその時、目の前のポイントで飛沫が上がった。ライズ? プレッシャーの高い渓だけにライズを見るのは久しぶりのことだった。

 釣りはじめたのは午後2時半。時計を確認しながら、「3時半には車に戻るから」と約束したのを思い出す。

 渓流の釣りを好むフライフィッシャーには、次から次へと現われるポイントに心を躍らせながら釣り上がっていくタイプと、ゆったりとした湧水などの流れを好み、ライズする魚をねらうタイプの釣り人がいる。「攻撃型」と「待ち伏せ型」。この言葉が釣りに適しているのかは分からないが、私のスタイルをたとえるならば「超攻撃型」(笑)。膝下ほどのポイントは流して2回。水深のある大ものが潜んでいそうなポイントであっても、3回ほどのドリフトで魚が反応しなければ次のポイントに移動する。トラブル回避、魚へのプレッシャーも考えて、フォルスキャストはほとんどの場合2回以内に収めている。

 この日もフライを流す時間が限られていたこともあり、良型の魚が付きそうな水深のあるポイントに絞ってフライを流していく。釣り人が多くプレッシャーの高い川ではあるが、#16ほどのメイフライのハッチも見られ、大きなポイントではライズもあった。魚は流下してくるダンを捕食しているようで、水面直下に定位している。

 いつもはシビアな釣りを強いられることが多いが、短時間の釣行の日に限って次から次へと魚が釣れる。もう少しのんびり釣りができたら、もっとこの状況を楽しめるのに・・・・・・。しかし、本来ならサオなど出せない家族サービスの日。少ない時間とはいえ、魚の感触を楽しめているだけでも感謝しなければいけない。

 そうしているうちに、いつもの大ものが泳ぐ一級ポイントのプールに差しかかった。まずは下流から姿を確認するが、ヒラキや流心には姿が見えない。ここにいないはずはないのだが・・・・・・。ポイントが大きいので、とりあえず場を荒らさないよう、核心から少し外れたポイントにフライを投げてみる。水深は股下ほど。ゆらゆらとフライが流れはじめるが、視線はフライではなく、やはりこのプールで実績も多い流心の中の魚影を捜してしまう。どこにいる? あの白泡が消えるあたりか・・・・・・。意識と視線は完全にフライとは別の方向に向いていた。

 その時、視界の隅にあったフライが消える。出た! とっさにロッドをはね上げる。しかし「ゴン」という感触を残して、ティップから力ないラインが垂れ下がる。アワセ切れ・・・・・・。フライをくわえた尺はありそうなアマゴがまだその場で暴れている。想定していなかっただけに、とっさにビックリアワセをしてしまった。肘から後方に腕を伸ばすようにアワセを入れれば、ラインブレイクする確率は少ないが、手首を返すように合わせれば、ティップの移動距離が長くなり、ラインに極端な負荷が掛かってアワセ切れが起こりやすくなる。

 改めて水面を見てみると、ダンがいつもの出る流心ではなく、今日何気なく投げた股下ほどの水深の場所に溜まっていた。いつもこのポイントを通過するのは午前中。この日は午後の釣りだったことに気を配っていなかったのだ(普段はハッチしたダンが流心を流下していた)。しかも、いつもはドリフト中のフライから目を離してしまうことなどないのに、急いで釣った結果が、これである。

油断した時に限って大ものが飛び出した・・・・・・なんて話はよく聞くもの。ポイントが次々と現われるブラインドフィッシングの釣りでは、せめて2つ3つ上のポイントだけでも、釣り上がるコースを決めておきたい。どんなキャストでも、常に魚が出ることを想定しておこう

 その日の釣行タイミングで、自分のねらおうとしているポイントで一番大きな魚が付く場所はどこだろう? 立っている位置から見た上流の範囲で、一番有望そうなポイントはどこか? 通い慣れた川であればあまり気にすることはないが、久々に出掛ける流れや初めて訪れる渓であれば、常にどこから魚が出るかを予測し、最低でも2つ3つ上流のポイントを見ながら釣り上がるコースを決めるようにしている。そうすれば、ある程度長い区間を釣り上がる場合でも、魚にプレッシャーをかけない距離、ドリフトさせやすいポジションなどに迷うこともなく、スムーズにフライを落としていける。想定していなかった好ポイントといきなり対峙した場合、最も効果的にねらえるタイミングをすでに逃してしまっている・・・・・・なんて場合は多い。

 今回は特に知っている渓だからこその思い込み、さらに限られた時間でのオーバーペースの釣り上がりが敗因。もちろんラインブレイクなど、あの魚を釣り上げることができなかった要因は他にもあると思う。それでも一番大切なことは、たとえポイント中で最も有望なレーンではなくとも、意識的にねらったドリフトで魚を引き出すということ。そのためにポイントを先読みする癖が役立ってくるのだ。流しているフライから目を離すなど・・・・・・もってのほかだ(笑)。

2020/2/14

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