平岩豊嗣が解釈するHS/HL
ハイスピードハイライン投法について長年他者に指導してきた方に話を聞いた
平岩豊嗣・東知憲=解説 編集部=写真この記事はFlyFisher No.310を再編集したものです。
バックキャストのコツ
バックキャストはロスなくロッドを曲げることが大切
ハイラインのキャストはストロークのスタート時からロッドを立て、曲げ始めることがとても重要。ここに掲載しているのはバックキャストのシークエンスだが、フォワードからバックの切り返しタイミングで効率よくロッドを曲げるために、フォワードループが伸びている間からほんの少しロッドを立て始めている。これを平岩さんは「ポーズの間にワインディングチェックが上方へ半円を描く」と表現する。
1:フォワードのストップ後、ループが前方に伸びていくポーズの状態。ホールを戻しながらロッドをほんの少し前に送り出しつつ立てる(ワインデイングチェックで半円を描く)
2:ホールが終わり、バックキャストをスタートさせる瞬間。1 に比べるとロッドが若干立っている。この段階でロッドティップにはすでに負荷がかかっている。その後はリールの位置が後ろの上方へ円弧状に動かすようにする
フォアードキャストのコツ
ストローク前半にグリップを立てきる
フォワードストロークではスタート時からリストを閉じる。この時にキチッとラインの荷重を掛けてからスタートすることは非常に大切。これはハイライン投法で一番重要なこと。逆にバックキャストはスタートと当時にリストを開き始め、すぐに負前をかける。3つのステップで構成されている動作だ。
1:フォワードキャストが始まる。ラインハンドもまだグリップの位置にある。動き出しと同時にリストを閉じ始めロッドを立てていく
2:ストローク前半でほぼリストを閉じ終える。この段階でワインデイングチェックはほぼ真上を向いている。ここからさらに手首を閉じていく
3:手首を閉じきってフォワードストロークがほぼ終了
バックからフォアードに移行するタイミングのコツ
前後のフォルスキャストをパワーロスなく切り返すのは難しい。平岩さんはこのタイミングをラインが伸びきったことを腕で感じてからでは遅すぎるので、ホールを戻し終わったタイミングと考えるのがよい、という。
1:バックストロークが終了し、ホールを戻している途中の写真
2:ホールを戻しきってラインハンドが止まった状態。ここがフォワードヘの切り返し点。ラインハンドはしっかり戻っても、ロッドハンドはまったく動いていない。これはループの状態を正確に把握し、パワー伝達のロスを防ぐために非常に重要だ
顔の前で振れば、自分がフライを落としたい場所と、自分の目線上にラインを発射できる。このラインの高さ=ハイラインなら左右どちらからの風でも正確にプレテーションできる。もちろんまっすぐに振ることも非常に重要だ
平岩さんが使用するのは、カプラスの各シリーズやジーニアス・スーパーパラボリックHS/HL‘‘ スピードスター’’など。いずれも戻りの速いパラポリックアクションが持ち味。平岩さんの考える「ハイスピード」とはロッドの性能に由来し、すなわち、HS/HLはこれらのタイプのサオを使用して、ハイラインを投げるキャスト
平岩さんのフォルスキャストはロッドティップの上をループのアッパーレグが通過していく。これはただのスタイルではなく実釣から求められたテクニックであると同時に、ドライフライなどの主に近距離をねらうキャスト方法である、とも強調する。近距離でポイントヘ正確にフライをプレゼンテーションするには、身体の正面でまっすぐにキャストすることが理想。しかし、ラインの軌道が低いとフライがキャスターに当たってしまうために、ハイラインが必要だ、という考えだ
テクニックとは関係ない「ハイスピード」
今日は、私たちのためにお時間をありがとうございます。まずは、どんなフラィキャスティングが平岩さんの理想とされるものですか、というところからうかがっていきたいと思います。とうぜん、芝生ではなく川、釣りに密着したキャスティングだとは思っていますが……。
雑誌とかビデオとかを見ると、横から写してあって、ループが細いだろうとか、スラックもなくてきれいだろうとかっていうことを強調した画像があふれているじゃないですか?しかし私の考えるキャスティングって、ここにきちんと落として流せば、魚が食ってくれるだろうというところからスタートしています。自分が意図したところに、思った形で落とすコントロールっていうのが一番大事ですよ。だから、そういうことができるキャスティングをすべきだと思う。その後で美しいループ、ということじゃないですか。
具体的にはどんなイメージで?
落としたい場所と自分の目を結んだ線を想定します。自分のフォルスキャストのラインをこの線と完全に一致させてやることです。距離は距離でまた別の方法でつかまえればいい。とりあえずキャスティングをするときには、目線とフォルスキャストのラインを一致させるというのが一番大事だと思うんですよ。そういう大事なことをクリアするには、どういうキャスティングがいいかっていうと、顔の前で振るのが一番いいわけです。でもテクニックがないと、フライも顔の近くを行き来してしまうので、危険な振り方になっちゃう。だから、うんと高いところを悠々と行き来するキャスティングをすればいい。つまり、ハイライン投法というのが役に立つのじゃなかろうかと考えています。
なるほど、「ハイライン投法」ですね。平岩さんが生徒さんをお教えされるときは、普通私たちがペアとして考えている「ハイスピード」っていうのは強調なさらない?
言わないです。
ハイスピード・ハイラインって一応セットで流通するけれども、ハイラインのほうを優先されるというイメージなんですね。
ハイスピードっていうのは、ロッドのことを言うんですよ。曲がったロッドがスパッと復元する、この速さを言っているわけで、キャスターのテクニックとは直接的に関係はない。ところがハイラインはまさにキャスターの技量次第の話で、専用設計をしたサオで所定の投げ方をしないと期待したレベルまでは行かないっていう現実はあります。昔々、そこまで知らなかったころの私は、当時最新鋭と言われたアメリカのサオをいくつか買ったんです。ところが、フォルスキャストのラインがみんな低い。いくら頑張っても高くならない。何で?と思っていろいろ聞いたら、先っぽを戻りも速くした強いロッドでないと、ラインは上がらないよという話を聞いたわけです。
買い求めになったアメリカのサオはティップが軟らかくて、だんだんにバットが硬くなってくる、いわゆるプログレッシブアクションという感じの味付けだったんでしょうね。
そうそう。3本買ったんだけど、そういうふうだったから、みんな誰かにあげちゃった。
それと比べて、平岩さんが愛用されているようなカプラス、竹であればペゾンやジーニアスのサオはティップが比較的強い。
そんなサオを使ってうまく投げると、フォルスキャストのラインが上がるのは間違いないです。リストダウンしたときに、いわゆるパラボリックっていうサオは、先っぽが強いからこういう曲がり方をするんだよ(編集部注:そのように言いながらジェスチャー
そうですね。
先っぽがパンと復元するサオだと、ラインを最初から力強く高く持っていってくれるというかね。そういうのがあるんじゃないかなと思う。物理的なことは私にはわからなくて、振ってみた感覚でしかしゃべっていないんですが
なるほど。
そうすると高くなる。高くなれば顔の前でも平気だよ、ということですね。さっきも言ったように、きちっとしたテクニックが身につく前にそういうことをすると、危険ですよとは言っておきたいけれど。弓道、ダーツ、ビリヤードだとかいろんなスポーツはみんなそうやって目線に合わせているので、フライもそうすべきだと思うんです。
平岩さんの考えられる「ハイスピード・ハイライン」用タックルは、ティップがガチっとしていて、バットがきちんと調整されていてちゃんと曲がる、言い換えればパラボリックなベンドをするサオがよい、と?
ティップを強くして、かつ下が曲がらないとガチガチの棒になっちゃうから、それはまずいです。復元するパワーをキャスティングに使いたいということになると、その前にきちんとどこかが曲がっていないと駄目ですからね
動き出しはリストから
具体的なテクニック的にはどうですか。パラボリックなサオを使い、おっしゃるように高い位置でラインをクリアさせるためには、たぶん何点かコツがあると思うんですけれど、その中で最大のコツはやっぱり、最初にリストをキュッて起こして、ロッドティップを持ち上げてやることでしょうか?
そういうこと。そういうことですね。キャスティングのスタート時点で、持ち上げるという動作が絶対に必要。それから押してやる。押し込んでいくっていうかな。そのときにロッドが復元しちゃうと困るから、フォワードキャストに入る時であれば、まずリストダウンしてから、そのスピードをちょっと上回る程度に前に移動させていくっていうかね。
なるほどなるほど。
フォワードキャストでは、リストダウンで向きを変えたティップを前に押し込む。バックキャストでは、リストのオープンで向きを変えたティップを後ろに押し込む。そうすると、途中でティップがへんな形で復元しないような気がするんですよ。
そうですか。
あくまで「気がする」なんですけれど。ちょっとでも、ちょっとでもティップが復元して位置が上がってしまうと、どっかでテイリングが起きるんです。
ループの上の形が、ぼわっとなりますよね。
そういう箇所を絶対に作らないように、一連の滑らかな動作で、するっと押してやる。きちんとビデオで撮影して、ロッド先端のスピードが今時速100kmですとか、そういうことがきちんとわかれば、もっと細かく説明できると思うけど、それはできないので、あくまでも感覚の話であることをご容赦くださいね。でもどんな振り方をしても、多分みんなそういう感覚っていうのはどこかにあると思いますよ。
いえいえ、結局そこだと思いますよね。
だから、さっきも言ったようにキャストを横から見て、「わあっ素晴らしいですね。ループが細いですね。スラック何もないですね」という褒められ方をしても、私は嬉しくないんです。「ラインの位置が高いですね」って言われたい。
なるほど。切り返し、切り返しでバックからフォワード、フォワードからバックに向きが変わるじゃないですか。そのタイミングっていうか、どのへんが目安です?最近、いろんな人に聞いているんですけれども。
キャスティングを一生懸命覚えていたころは、手の感覚に頼っていました。たとえばバックキャストして、ラインがターンし終わると、ロッドティップを後ろにキュって引っ張ってくれるでしょう。でも、このタイミングで行なってしまうと、ロッドティップが安定しないんですよね
そうですね。伸びて曲がってまた戻る感じでしょう。
よいタイミングをとらえて、すこし早めにスタートするというのはすごい大事なことだと思う。でも、バックキャストなんていちいち見ていないですよね。
見ていないです。
手の感触で「お、来た」っていうのでやると、絶対遅れちゃうんですよ。「もうそろそろ来るかな、来るかな、よしピッタリだ」っていうのじゃ、川ではなんにもできない。思わずライズしたのを見たら、もう頭がパニックになってね。そこで大事なのは、ホールした手の戻し方なんですよ。戻し終わるともう、ラインがもう後ろに行けないんだよね。
あっそれは確かに。ラインを止めると、そこで急にループは展開を早めますね。
いわば強制的にターンさせられるんですよ。ラインがターンオーバーするタイミングを自分で作れるようになる。出ているラインが短いときと長いときでは当然、タイミングも違うわけですが。長いときには延々と伸びていくから、時間がかかるんですね。でも、そういうときと短いときの、このホールのタイミングをどうするか。出ているラインが短ければ、チョン、チョンと短く引く。長ければ、相応に長く引く。
伸びていこうとしている時、ラインハンドがラインを送っているとループの展開を遅らせる効果があり、ラインハンドを止めたら急に展開を始めるっていうのは、今言われるまで、意識したことはあまりなかったですね。
戻しているラインハンドを止めたときが、ラインがターンしようとするよいタイミングだっていう感覚でやると、とてもラクに行けると思いますよ。
すごくいい話ですね。
そうすると、ロッドはたくさんきれいに曲がってくれるということ。その状態が作れれば、あとは軽く動かして止めるだけでドンッてループができる。単純に強く振れば、ロッドはもちろん曲がるけれど、そんなことをしていたら、5分もやったら疲れちゃうんです。
そうですね。でも、ハイスピード・ハイラインってそんな感じの誤解を受けていた経緯はあると思います
川へ行って疲れないようにするなら、できるだけ力は使わないようにしないと。
ありがとうございます。なるほど。
バックからフォワードに移行するときの話は、そういうことです。フォワードからバックのスタートは、意外と難しい。私も「ターンするのが見えるからいいじゃん」って思ってやっていた。でも群馬の設楽和広さんが「そんなのじゃあ、勢いがあるバックループはできないよ」って教えてくれたの。
なるほど。
設楽さんっていう人とは、沢田賢一郎さんが主催したカナダのスティールヘッドツアーで知り合ったんです。帰りの飛行機の中で彼が、キャスティングのことで誰も聞いたことのないようなことを言うから「何なんだ」と思って、気になっていたので、1回詳しく説明を聞いてみようかと思って群馬まで行ったんです。そこで見せてくれたキャスティングはそれまで見たこともなかったから、「ちょっと普通と違うな、彼について練習してみよう」と思ってやみつきになっちゃった。で、彼がどうやって教えてくれたかっていうと、「フォワードキャストでストップした位置のままタイミングを待っていると、なかなかわかりづらい。ちょっと上げてみな」って言われたんです。ちょっと前に出しながら上へ上げる。
えっ?どういうことですか?
たとえば、いまフォワードキャストが終わりましたと。ラインが伸びていくポーズの間に、ワインディングチェックがこういう円を描けばいいというわけで
なるほど。ワインディングチェックに、上に向かう半円を描かせろと。面白いですね。
これができると、ラインの感覚がよく分かる。教わったのが、今から34~35年前ですけれど、本当によくわかるなと思ってね。グーンと来る重さの乗りがすごくよくわかる。
そのタイミングって、ホールの手は戻し終わり、ループは展開しかかっているけれどまだ伸び切っていない、という段階ですよね。
そうです。でもこの持ち上げる動作は、大げさにやり過ぎるとうしろのラインが下がっちゃうんですよ。バックキャストのスタートが高くなり過ぎるから。
確かに。確かに。やり過ぎは注意しないといけませんね。コンスタントテンション・キャストだ。
前方に向かっていくラインがサオを押さえこんでくれるっていう感覚を覚えたら、あんまり大げさな動作は要らないんです。でもやっばり、後ろでターンするときよりも、前でターンするときのテンション感は、あんまり手に来ないんだよね。
なんなんでしょうね、あれ。細かい動きの話になりますが、バックキャストに入る前にロッドをすこし持ち上げてやる話。そのとき、サオの角度も少し立ってくる感じはありますか。
ちょっと立っちゃう。仕方がないですよ。でも、ティップの位置はあまり動かないイメージで、もとの位置に残っているんだよね。ラインが前方に引っ張ってくれるから。
サオのミッドからバットだけギュって曲がってくる感じ、パラボリックならではの動きですね。僕がフライキャスティングの基礎を指導するときは、基本はこう曲げて、ポンと止めますと。すると負荷が抜けてロッドがまっすぐになりますから、ラインがターンするのを待って、そこからまた振り始めますと。この繰り返し運動は、じつはロッドティップの軌跡をものすごく不安定にさせる可能性があるわけです。それを今おっしやったように、ロッドの負荷が抜けてしまう前に、キャスター側の動作でクッとあげておくというのは、サオ先が曲がった状態から次のキャストが始まるから、軌跡がへこむ可能性がなくなって安定するような気がするんですよね。
そうですよ。曲がろうとするティップは下がろうともするので。
そうですね。
キャストが始まる前に、あらかじめ下げておきたい。そうすれば不安定な上下運動はしない。下がっちゃう余地を与えないのが大事だと思うのね。
よくわかります。
東さんたちの投げ方とは違うかもしれないけれども、私たちはやっぱりスタートと同時に曲げちゃうことを意識するんです。最初からポンと曲げておいて、そのまま一気にサオを垂直くらいまで持ってきて、それから先はあまり力を入れていない。できた曲がりを逃がさない程度のスピード感で動かしてやる。そうするとテイリングは起きないし、パワフルなループが飛び出していきます。
やりたいことは皆さん一緒で、ようは自分のプレゼンテーションのイメージでサオの好みが分かれてくるじゃないですか。僕がやっていることも、皆さんがやっていることとも、ティップだけを注目していたらまったく同じですよ。
それはあるね。でもちょっと違うのは、私たちがやっているハイラインのキャスティングでは、ラインの落下はあまりないと思う。
そうだと思いますね。高い位置で腕を維持されていることと、コンスタント・テンションのおかげで、ラインがコントロールを失ってしまう瞬間がないと思いました。
そういう違いは若干あるかもです。ようするにサオを振るっていうのは、どこで振るにしてもまっすぐを意識してやればいいと。それができればラインはパーンと伸びていく。あとは、ロッドティップが横方向に動く軌跡も、できればまっすぐ行ってほしい。実際は腕を回り込ませて振る人って多いんですよ。
多いですね。とても多いですね。
ロッドはまっすぐ立てる。まっすぐ立っていることを確認するにはどうするかって言ったら、たとえばサッカーグラウンドの白線の上に右足を置いて、こうキャスティングして、バックキャストを地面に落とすと、この線の近くに来ているかをチェックする。厳密に線の上に落とせと言われたらできないかも知れないけども、わりと近くへ落ちている
黎明期のフライとHS/HL
ラインスピードに関してはどうですか。現実範囲内で、状況が許す限りスローにはしたいとはおっしやっていましたよね。
そう。スピードを上げると、ちょっとの動きでも、クッとあっちこっちいったりしちゃうんだよね。
僕は誤解していましたね。ハイスピード・ハイラインって、速いラインをビューって投げるんだろうと思っていました(笑)。
ハイスピードとハイラインの、「ハイ」を一緒に考えちゃうとそうなるんですよ。「曲がったサオがスパッと復元するっていうことが、ラインの位置を上げる一つの重要な要素だよ」ということです。だから繰り返しになりますが「ハイスピード」というのは、ロッドの先端の復元スピードのことを言っているんです。つまり、ぐにゃぐにゃしたようなサオだと、ラインの位置は上がらない。ハイスピードロッドを使うとハイラインができますっていう。
なるほど。ハイスピードロッドによるハイラインということですね
シャルル・リッツがもうちょっと細かく説明しておいてくれたなら、今の人たちが悩まずにすんだと思うんです。あの言葉だけを聞くと、やっばり誤解する人が多いんじゃないですかね。もうひとつ言うと、リッツがキャスティングに興味をもったころは、振り方でリストを使うとかなんとかという意識はあったのかなあ。私がフライを始めた頃、東京の高田弘之さんのところに遊びに行ったんです。電話で話したら、「サオいつばいあるから見にこい」っていうので。あの人はそういうサオをいっぱい買っていて、束で持っていたけれど、そんなサオを振って止めると、ずーっと揺れているの。そんなサオは体力のあるフランス人でも振れないっていうんで、リッツはペゾンに短いサオを作りなさいとアドバイスしたらしい。短くて軽いサオのために、リストをこういうふうに使ったほうがいいっていうようなことを提唱もしたみたい。昔々、リッツがキャスティングをする8ミリ映画を見たことがあるけれども、私がさっき言ったみたいに、リストは動き始めに使うんですってことは、なにもやっていない。でも、しゃきっとしたサオでうまくリストを使うことによって、高いラインも出るんじゃなかろうかと考えたというのを、高田さんの先輩にあたる米地南嶺さんっていう人が教えてくれた。この米地南嶺さんっていう人は、スイスヘ釣りに行ったら、釣り場でリッツと知り合いになったんですって。
そうでしたか。
「泊めてやる、おれんとこ遊びに来い」って言うから、ついて行ったら豪華なリッツホテルだったっていう。すごい立派な酒を持ってきてくれたりして歓待されて、そのときに、「これはおれがつくったサオだ」ってことを教えてくれたらしいですよ。
なるほど。米地南嶺さんというお名前は、戦後のスポーツフィッシングを語るときによく出くわします。釣りジャーナリストの先駆で、古くからフライフィッシングに親しみ、たしか昭和40年くらいにはすでにキャスティングのデモンストレーションなどをなさっています。たしかハーディーも、米地さんの努力で日本に代理店ができたんじゃなかったですかね。
その米地さんが、私にキャスティングも漠然と教えてくれたんですよ。そして沢田さんは、リッツに教わったことをわかりやすく理論化していったと思うんです。
米地南嶺さん、お仕事は何をなさっていた方ですか。通訳ではないですよ
あの人は、最初に読売新聞に入ったの。それで読売新聞を出て、いろんなことをやって、最後に『釣りと釣り場』っていう新聞を発行したんです。その新聞が、私の勤務先である化学品会社の釣りイト部門に来ておって。その新聞をたまに見ると、ほとんどフライのことが書いてある。読んでも中身は、全然解釈できなかったのですが、ある時ご本人が会社へ来たんですよ。そうやって知り合って、年に2~3回一緒に釣りに行きました。「平岩さんね、エサ付けて釣っちゃあ魚がかわいそうよ、フライやりなさい」と言われ続けて、ちょうど40歳くらいで始めたんです
いや、うらやましい。
さっきから私、キャスティングのことをえらそうに言っていますが、そういうことを言えばいうほど、みんなが引いていっちゃう。そんな難しいの?って。
そのイメージは、あるかもしれないですね。
だからあまり詳しくは言わないようにしています。「まっすぐ振ればいいよ」だけは言うけれど、それ以上のことは、もっとうまくなりたいとかっていうそういう意志を示した人にだけ。でもフライって、キャスティングの世界とサカナ釣りの世界とをあわせ持った、多面的な釣りじゃないですか。みんな、練習しだしたら手が痛くなるまで振るっていうのは、やっぱり、「すごいね、上手ですね。美しいですね」って言ってほしいからやるんですよ。美しいループで魚が釣れれば最高。私も、こんなに豊かなフライフィッシングを始めてよかったなと思いますね。海でエサ釣りしたいとかってそういう気になれないですよ、時間がないですから。
2024/12/3