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ささきつりぐ

幅1mの光明。

濁った本流、想定外の体験談

遠藤岳雄=文
舞台はこんな泥ニゴリに近い本流……

太い本流の流れでも、増水時にはかえって魚の付き場をピンポイントで絞れることもある。一筋の澄んだ水がもたらしてくれたニゴリの中の尺アマゴ。
この記事は2016年8月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。春は本流のマッチング・ザ・ハッチ、夏は山岳渓流のイワナ釣りをメインに楽しんでおり、ニンフの釣りも得意。大ものにねらいを定めた状況判浙には定評がある。

アマゴの行方は?

その日、あきらめの悪い僕は、増水で濁った本流を恨めしく眺めながら、広大な河原を去りきれずにいた。そのシーズンはアマゴの当たり年で、目の前の流れには数多くのアマゴがストックされていることは分かっていたからだ。

それだけに、多少の増水やニゴリはむしろ好都合……という淡い期待を胸にやって来たのだが、それは目の前のカフェオレ色の流れとともに、はかなくも砕け散った。いつも顔を出していた石は増水のために水没し、その石の間を縫うように幾筋も走っていたバブルラインも、厚い流れとともに消え去っていた。

どちらも平水時にはアマゴが頻繁にライズを繰り返していたポイントだった。

(あのアマゴたちは、いったいどこに行ったのだろう?)そんな素朴な疑間が湧き上がってきたところで、ふとあることを思い出した。そこから200mほど上流に、支流が合流していたはず……。
濁流という雰囲気に近い増水時の本流。こんな時は岸際の澄んだ流れを捜してみる。使用するフライに関しては、ドライフライの場合、増水時には多少大きめのパターンを使用し、フライの存在をアピールするようにする。また、ウエットフライも効果的で、#4~8の派手なフライがおすすめ。ボディーにヘロンやマラブーといった、動きの大きなマテリアルを使ったフライを多用している

見出した一筋のレーン

(もしかしたら、魚たちはニゴリを嫌い、支流に入り込んでいるのかも……)

そう仮定し、濁った本流を右手に見ながら、僕は河原を上流へ向けて歩き出した。50mほど進んだろうか。そこで初めて、濁った流れのある変化に気がついた。

その先にある支流からは澄んだ水が流入しているのだろう。今立っている足もとから前方150mくらいの区間だけ、本流の流れの際の部分に、幅1mほどの澄んだ水の帯ができていた。

浅いところでは数センチほどの深さしかなく、砂礫と底石がはっきりと確認できる。緩やかな場所では、大きなコイが群れをなして背ビレを出して泳ぎ、こちらの存在に気づくや否や、ものすごい勢いで濁った本流へ走っていく……。

そんな細長いレーンだった。しかし、よくよく見てみると所々に深い箇所があり、本流の岸際ながら、適当な大きさの石が顔を出している。その石が肩やヨレといった魚の付きそうな流れを形成していた。

(コイが集まっているくらいだから、ひょっとして?)

半信半疑ながらも、あわよくば……という思いも手伝って、とりあえず#10のパラシュートを5xティペットに結び、前方の水面に出ている石の前に投げてみることにした。ねらうポイントは、川輻50m近い濁った本流の岸際にできた、ほんの1mの澄んだレーンの中央に出ている石……つまり、岸から50cmのところ。

平水時であれば、ウエーディングのために、バシャバシャと歩いている場所だ。そこにアップクロスでフライを落とす。フライから50cmほどのティペットだけが水面に乗り、残りはフライラインも含めて、全て河原に落とすようなイメージ。

はたから見ていたら、ものすごく滑稽に見えるシチュエーションだが、気になってしまったものはしょうがない。

フライを投じてみて初めて分かったことだが、何か流れがおかしい……。もちろん流れは下流に向かっているのだが、支流からの澄んだレーンが本流の流れに押し出されるように、まるで海岸に押し寄せる波のような形で、岸方向への流れもできているようだ。

つまりフライは、いったん下流に流れて、すぐに岸際に寄せられ、また下ってくる。まさにドンブラコ、ドンブラコ……のイメージで、恥ずかしいくらい、ゆっくりと流れ下ってくる。

そして、石の手前まで流れ下ってきたところで、事件が起きた。ガボッ……。唐突にフライが消えたのだ。反射的にロッドを立てると、強烈な躍動感とともに、大きな銀色の魚体が反転しながら、本流へ疾走していくのが見えた。

そこからはもう大捕物。増水で濁った本流を縦横無尽に逃げ狂うアマゴを、なかば強引に引き寄せ、ようやく顔を出したところをすかさずネットにねじ込む。

やっと触れることができた魚体は、32cmの本流銀ピカアマゴ。そして、それを眺めながら呆然とする僕……。本当にこんな奴があんなところにいたのか? そう思ったのが正直なところで、アマゴのサイズもさることながら、釣れたシチュエーションヘの驚きのほうが断然大きかった。
文字どおり一筋の光明から出てきた尺アマゴ。本流らしい幅のある魚体はうれしいが、それよりもあんな流れの中に入っているとは……

さらに予想外の展開は続く。その後同じレーンの100mほどの区間で、5尾の魚がフライに反応し、うち尺アマゴを含む2尾をランディングできたのだ。

察するに、このエリアにストックされていたアマゴたちは本流のニゴリを嫌い、浅くても清冽な流れに入り込んできて、増水が収まるまで留まっているつもりだったのだろう。

怪我の功名とはよく言ったもので、まさにこの日の釣りが僕の”増水観“を変えてくれた。当然、それからは本流のニゴリをみてすぐに舌打ちするようなことはなくなったのである。

2018/7/26

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