ぼってり×スペント
魚が食べたくなる形?
遠藤岳雄=文
激戦区とも呼べる湧水河川や山岳渓流でも、意外な威力を発揮したのがファットボディーのスペントパターン。定番パターンにスレた魚にこそ使ってみたい、存在感たっぷりのドライフライ。
この記事は2015年10月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県沼津市在住。春は本流のマッチング・ザ・ハッチ、夏は山岳渓流のイワナ釣りをメインに楽しむ。『FlyFisher』誌で「尺まで届け!」を連載(FlyFisher ONLINEでも再掲中)、ライズ、ブラインドの釣りに限らず、大ものにねらいを定めた状況判断には定評がある。
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県沼津市在住。春は本流のマッチング・ザ・ハッチ、夏は山岳渓流のイワナ釣りをメインに楽しむ。『FlyFisher』誌で「尺まで届け!」を連載(FlyFisher ONLINEでも再掲中)、ライズ、ブラインドの釣りに限らず、大ものにねらいを定めた状況判断には定評がある。
意外なほどの好反応を示す時がある
私が渓流で使うサイズの大きなドライフライといえば、オオクマやエルモン、それにモンカゲロウといったメイフライやヒゲナガカワトビケラなどの虫をイミテートしたものが挙げられる。これらのフライは、1日のうちでもハッチのあるタイミング、もしくは朝夕のマヅメ時など、マッチング・ザ・ハッチの釣りで限定的に結ぶパターンといえる。しかし、私のフライボックスには、シーズン中これらのフライとは一線を画す性質のビッグ・ドライフライが入っている。そのフライ「ぼてスペ」は、ぼってりしたボディーに十字型に取り付けたウイングが特徴。この形状のシルエットは、なぜか猛烈に魚にアピールする時があるのだ。
サイズは最大で#10。私の通うフィールドでは、魚の平均サイズはだいたい7~9寸といったところなので、#10より大きくなると、フライに反応はするがフッキング率が極端に悪くなる。

●フック……TMC100 #10
●スレッド……8/0各色
●ボディー……フライダブ・クリーム
●ウイング……CDCナチュラル

以前、山梨県の桂川で、モクンモクンと極小の何かを捕食していたヤマメに対し、何を投げても無視され続け、最後の悪あがきにとボックスの片隅にあったこのフライを投げてみたところ、一発で釣れてしまったことがある。それがきっかけで、以降は「お守り」のようにこのパターンを切り札としてボックスに忍ばせている。
そんな「ぼてスペ」だが、ちょうどこれからの時期、山岳渓流でもこのフライが活躍してくれる場面がある。山岳渓流では基本的には釣り上がりがメインとなり、ヒラキや淵などに浮いているアマゴやイワナに出くわすことが多い。この表層でゆらゆらと定位している魚……一見簡単に釣れそうに見えて、実は意外に難しいという経験をした人は私だけではないだろう。
山岳渓流といえども、エサやルアー釣りファン、そして我々フライフィッシャーが連日のように押しかける人気河川では、「のんびり気持ちよくおおらかに……」なんて思っているのは釣り人側の勝手な解釈。目の前に浮いている魚たちもそう違いないと安易にフライを投げ込むと、次の瞬間にはスッとどこかへすっ飛んで消えてしまったり、フワッとフライを見にくるものの、プイっとツレナイ顔で戻っていったりする輩は案外多いのだ。
私の知るエキスパートは、こんな状況に出くわすとティペットのサイズを7Xに、そしてフライサイズを#18に落として釣っているのだから、山奥の渓流とはいえ、昨今の釣り事情を考えると、そうやすやすとは釣れてはくれないらしい。しかし、そんなシチュエーションにおいても、このフライが活躍してくれた場面が何度かあるのだ。
それは前述のエキスパートと一緒に釣り上がっていた時のこと。目の前のヒラキに良型のアマゴがユラユラと浮いていた。この渓をよく知るその人は、ティペットとフライのサイズを落としてねらうよう助言してきた。しかし面倒臭がりの私は、それまで使っていた5Xのティペットの先に、「ぼてスペ」を結んでみた。

●フック……TMC100 #10
●スレッド……8/0各色
●ボディー……ビーコックハール
●ウイング……CDCナチュラル

アマゴの30cmほど上流ヘポトッと落ちたフライがゆっくりと流れ下ってくると、フワッとアマゴが浮上してきた。パクッとやるのかと思いきや、そのままフライを吟味するようについてきて、下の落ち込みに落ちる寸前のところでスッとくわえた。
この程度の話ならよくあることだが、この日は同じような状況の魚に出くわした時、ブラインド用のフライと交互に試してみた。すると、釣り上がりで使用していたパラシュートパターンに比べ、明らかに魚の反応が違うのだ。
「ぼてスペ」を見つけた魚たちは、「なんだこれは?」というように、しばらくフライを見ながら流れを下り、最後には「え~い、食っちゃえ!」という感じでパクッとやるのだ。これには同行のエキスパートも目を丸くして苦笑していた。

もちろん、連日のように投げ込まれてくるパラシュートの似たようなシルエットから魚の目線を変える……という効果もあるだろう。しかし、どうもこのボテッとしたボディーに十字型に取り付けたウイング形状は、魚たちの目から見ても怪しい魅力があるように思えてならない。
それならば、最初から結んで釣り上がればいいじゃんーとの声も聞こえてきそうだが、それは違う。それでは”切り札“にならないのだ。釣れるも八卦、釣れぬも八卦……。切り札とは、運も含めてここぞという場面で使ってこその面白さがあると思っている。
2018/5/1