技術を吹き込む
これまでで変わったこと、そして、変えないこと。
里見栄正=解説、編集部=文、中根 淳一=写真
技術を吹き込む
これまでリリースされたシマノ社の、特に渓流用低番手ロッドはすべて里見栄正さんが納得するまで練り込んだものだ。この関係はなんと、ほぼ30年も続いている。これまでで変わったこと、そして、変えないこと。
里見栄正=解説
Comments by Yoshimasa Satomi
編集部=文
Text by FlyFisher
中根 淳一=写真
Photography by Junichi Nakane
ノウハウはなかった
Comments by Yoshimasa Satomi
編集部=文
Text by FlyFisher
中根 淳一=写真
Photography by Junichi Nakane
― 里見さんがシマノ社のロッド開発に関わるようになってどれくらいになるのでしょうか?
里見 そうですね……、30年近いと思います。ある時、シマノさんの社員さんに「シマノでもフライロッドを作りたい」という話があるのだと声をかけていただいて。その担当者さんの勢いにすごいものがあって、その熱が伝わってきちゃったんですよね。で、こちらもやるしかないかな、という感じでした。でも最初、シマノにはとにかくノウハウがないと。それまでフライロッドはちょこっとやったことはあったみたいなんですが、当時はノウハウがゼロに等しかったと思います。マーケティングも含めて、どういうふうにやっていくか、ということからスタートしたんです。
― 今となっては想像しにくいですが(笑)。
里見 でも、その話があってからたったの数ヵ月でもうサンプルがいくつか上がってきたんです。今でもそうですけど、シマノさんのリアクションって速いんですよ(笑)。で、それをとりあえず使ってみてくれと。でも本当に使い物にならなかった。川に投げちゃいたいくらい(笑)。
― それも想像しにくいです。
里見 でもそこからはすごかったですよ。どう言っても宣伝みたく聞こえちゃうと思いますけど(笑)、さすがシマノって感じでした。あの頃は8フィート3インチ3番というスペックが一番の売れ筋で、それと、8フィート3番をとにかくきちんとしたものを作ってくれと、細かく注文だしたんです。そうしたら、早い段階で僕がお願いしたものと同じくらいのものがあがってきた。当時はアスキスではなく「フリーストーン」というシリーズでしたが、あれは2ピースで、最終的には確かティップが4種類、バットが4種類作ってこられて。どの組み合わせもかなりいいものができていたのですが、そこからどの組み合わせがベストか、ということを探りました。
―16とおりを試すわけですね。
里見 テストは担当の方と一緒に釣り場に行っていたのですが、その時彼が僕に黙ってティップとバットを入れ替えて、どういう組み合わせだったか僕に当てさせるんですよ。こういうロッドのテスト方法もあるんだな、と思っていたのですが後から聞いたら、「あれは里見さんのテストだったんです」って(笑)。でも、自分で言うのものなんだけど、全部当たっていたみたいで。
― テストに合格されたと(笑)。
里見 よかったです(笑)。結局最初のモデルは製品になるまで、スタートから2〜3年かかりました。とにかくいいものを作りたいってシマノさんもそうとう頑張っていたのですが、ご存知のとおり、フライの世界はちょっと違いますよ、ということは伝えていたんです。やはり海外ブランドが圧倒的でしたから。正直シマノさんのよさを僕がユーザーさんに伝えられるかわかりませんと。でも、最初の製品は僕もとても納得いくものだったし、素晴らしいものができたと素直に思えるものでした。そんなサオは売れない
― 初代フリーストーンはブランクの細さも話題になりました。
里見 バットでも直径6㎜くらいだったと思います。実際に見ると本当に頼りないわけですよ(笑)。弱い感じだし、めちゃくちゃ曲がるし。あの時代は「3番なのにこんなに飛ぶ」ということも売り文句になる感じでしたから、小売店さんからそれほど受け入れられなかったんです。そんなヘナヘナなサオでは売れないとか、機能しないとか言われて。だけどこっちはそんなことぜんぜん思っていないので、各地の取引先の方々に集まっていただいて、どうしてこういうサオなのか、ということを僕が何度も説明しました。
― 最初から受け入れられたわけではなかったのですね。
里見 そうなんです。僕はもともと曲がるサオがほしかったんです。普通はただ弱くすれば曲がるんだけど、そのほかの機能的な部分が失われるじゃないですか。でもシマノさんの持っている技術でかなりカバーできたと思います。あらゆるジャンルのサオのノウハウがあるので、こういうサオがほしい、とちゃんと伝われば驚くほどの精度とスピードでリアクションしてくれるんです。
― 求めるアクションとは具体的にどのようなものですか?
里見 自分がキャストする時に、どれくらいの力で振ったらどう飛んでいくのか、ちゃんとわかることがひとつ。ロッドはもちろん手元で操作するんですけど、その手の動きをどれだけ素直にティップまで増幅してくれるか、とでもいいましょうか。 あとは、魚を掛けてからのやりとりの感覚。曲がるほど楽しい、ということですかね。みんな魚が掛かったとき、自分のサオの曲がりを確認するの好きじゃないですか(笑)? それがしなやかに曲がっていれば、ああいいなあって(笑)。あとは実際、スクールなどで多くのフライフィッシャーと接していると、90%くらいの方が手首だけで投げている感じなんです。本当はそうじゃないんだけど、腕を本当に微かに動かすだけでもちゃんと曲がってくれるサオのほうがみなさんにとって使いやすいということなのかな、というのもあります。これらをざっくり言えば、しなやかなティップを持ち、魚が掛かればバットから曲がる、でもしっかりしているといったところでしょうか。
― 曲がるけどしっかりしているというのは相反する要素にも思えます。
里見 繊細かつ強靭、ということだと思いますけど、そこはシマノさんの技術です。彼らがもともと持っていた技術を引き出して、フライロッドに吹き込めた、というのはとても嬉しく感じました。とにかく僕のことをある程度は信頼してくれて、僕が納得しなければ製品は出さないとまでいってくれたくらいだったので、こっちも一生懸命やらざるを得ないし、実際は楽しい時間でもありました。
ユーザーへの責任感
里見 そうですね……、30年近いと思います。ある時、シマノさんの社員さんに「シマノでもフライロッドを作りたい」という話があるのだと声をかけていただいて。その担当者さんの勢いにすごいものがあって、その熱が伝わってきちゃったんですよね。で、こちらもやるしかないかな、という感じでした。でも最初、シマノにはとにかくノウハウがないと。それまでフライロッドはちょこっとやったことはあったみたいなんですが、当時はノウハウがゼロに等しかったと思います。マーケティングも含めて、どういうふうにやっていくか、ということからスタートしたんです。
― 今となっては想像しにくいですが(笑)。
里見 でも、その話があってからたったの数ヵ月でもうサンプルがいくつか上がってきたんです。今でもそうですけど、シマノさんのリアクションって速いんですよ(笑)。で、それをとりあえず使ってみてくれと。でも本当に使い物にならなかった。川に投げちゃいたいくらい(笑)。
― それも想像しにくいです。
里見 でもそこからはすごかったですよ。どう言っても宣伝みたく聞こえちゃうと思いますけど(笑)、さすがシマノって感じでした。あの頃は8フィート3インチ3番というスペックが一番の売れ筋で、それと、8フィート3番をとにかくきちんとしたものを作ってくれと、細かく注文だしたんです。そうしたら、早い段階で僕がお願いしたものと同じくらいのものがあがってきた。当時はアスキスではなく「フリーストーン」というシリーズでしたが、あれは2ピースで、最終的には確かティップが4種類、バットが4種類作ってこられて。どの組み合わせもかなりいいものができていたのですが、そこからどの組み合わせがベストか、ということを探りました。
―16とおりを試すわけですね。
里見 テストは担当の方と一緒に釣り場に行っていたのですが、その時彼が僕に黙ってティップとバットを入れ替えて、どういう組み合わせだったか僕に当てさせるんですよ。こういうロッドのテスト方法もあるんだな、と思っていたのですが後から聞いたら、「あれは里見さんのテストだったんです」って(笑)。でも、自分で言うのものなんだけど、全部当たっていたみたいで。
― テストに合格されたと(笑)。
里見 よかったです(笑)。結局最初のモデルは製品になるまで、スタートから2〜3年かかりました。とにかくいいものを作りたいってシマノさんもそうとう頑張っていたのですが、ご存知のとおり、フライの世界はちょっと違いますよ、ということは伝えていたんです。やはり海外ブランドが圧倒的でしたから。正直シマノさんのよさを僕がユーザーさんに伝えられるかわかりませんと。でも、最初の製品は僕もとても納得いくものだったし、素晴らしいものができたと素直に思えるものでした。そんなサオは売れない
― 初代フリーストーンはブランクの細さも話題になりました。
里見 バットでも直径6㎜くらいだったと思います。実際に見ると本当に頼りないわけですよ(笑)。弱い感じだし、めちゃくちゃ曲がるし。あの時代は「3番なのにこんなに飛ぶ」ということも売り文句になる感じでしたから、小売店さんからそれほど受け入れられなかったんです。そんなヘナヘナなサオでは売れないとか、機能しないとか言われて。だけどこっちはそんなことぜんぜん思っていないので、各地の取引先の方々に集まっていただいて、どうしてこういうサオなのか、ということを僕が何度も説明しました。
― 最初から受け入れられたわけではなかったのですね。
里見 そうなんです。僕はもともと曲がるサオがほしかったんです。普通はただ弱くすれば曲がるんだけど、そのほかの機能的な部分が失われるじゃないですか。でもシマノさんの持っている技術でかなりカバーできたと思います。あらゆるジャンルのサオのノウハウがあるので、こういうサオがほしい、とちゃんと伝われば驚くほどの精度とスピードでリアクションしてくれるんです。
― 求めるアクションとは具体的にどのようなものですか?
里見 自分がキャストする時に、どれくらいの力で振ったらどう飛んでいくのか、ちゃんとわかることがひとつ。ロッドはもちろん手元で操作するんですけど、その手の動きをどれだけ素直にティップまで増幅してくれるか、とでもいいましょうか。 あとは、魚を掛けてからのやりとりの感覚。曲がるほど楽しい、ということですかね。みんな魚が掛かったとき、自分のサオの曲がりを確認するの好きじゃないですか(笑)? それがしなやかに曲がっていれば、ああいいなあって(笑)。あとは実際、スクールなどで多くのフライフィッシャーと接していると、90%くらいの方が手首だけで投げている感じなんです。本当はそうじゃないんだけど、腕を本当に微かに動かすだけでもちゃんと曲がってくれるサオのほうがみなさんにとって使いやすいということなのかな、というのもあります。これらをざっくり言えば、しなやかなティップを持ち、魚が掛かればバットから曲がる、でもしっかりしているといったところでしょうか。
― 曲がるけどしっかりしているというのは相反する要素にも思えます。
里見 繊細かつ強靭、ということだと思いますけど、そこはシマノさんの技術です。彼らがもともと持っていた技術を引き出して、フライロッドに吹き込めた、というのはとても嬉しく感じました。とにかく僕のことをある程度は信頼してくれて、僕が納得しなければ製品は出さないとまでいってくれたくらいだったので、こっちも一生懸命やらざるを得ないし、実際は楽しい時間でもありました。
里見 基本的なコンセプトは変わっていないんです。それぞれ作った時はベストだと思えるのですが、しばらく時間が経つと、ここはよかったというところと、ちょっと直したいってところがでてくるんです。やっぱり100%満足っていうことはなくて、素材や技術の進歩とともに、そこを直していっているという感覚ですね。世の中の流れに対応するということもあります。最近は7フィート6インチが人気だ、とか。やはりユーザーさんに求められているものを作りたいですから。 基本の味付けは変わっていないけど、本質的な機能や絶対にクリアしなきゃいけないこと、たとえば丈夫さとか、曲がったものがまっすぐ戻る、といった機能の部分は世代を重ねて大きく進化しています。現行のアスキスのブランクは本当にねじれないんですよ。シマノさんのブランクの特徴でもあるエックス構造、あの技術とフライロッドと相性が本当によいんだと思います。シマノさんのロッドの技術者さんの中には、サオ作りはフライロッドが基本だっていう人もいるんです。いいフライロッドを作れれば、ほかのジャンルのサオもいいものが作れるようになるんだと。
― それは面白いですね。
里見 シマノさん側もノウハウが蓄積されているので、テスト期間はだんだん短くなっていますが、アスキスに関しては1シーズン半くらいかけました。渓流魚は2000尾弱掛けて、ランディングしています。コイでもテストしていて、60〜85㎝のコイを100尾くらい掛けています。
― 手は抜けませんからね。
里見 ユーザーさんに対しての責任があるし、僕が納得できるまで待っていてくれますし。スタートの時からそうですが、毎回、毎回、僕にやらせてくれるのはこれが最後かもしれない、と思ってるんです。もしこれが最後だったら、このサオをこれから一生使っていくんだと(笑)。だから開発には当然力が入ります。実際の製品が上がってきて、最初に使ったとき、そうそう、僕がほしかったのはこういうサオだったんだよ、って毎回感じています(笑)。
2022/9/27